281 / 363
太っちょのポンちゃん 社会人編5
ポンちゃんと、キャビンアテンダント 7(★)
しおりを挟む
※別サイトとは内容が異なります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目の前で起こっていた光景が目に焼き付いて、バクバクと胸が早鐘のようだ。
頭が真っ白になる。私以外の人と抱き合っている所を目にしてしまったショックや、忘れられている事実を悲しむ気持ちを意識する間も無いくらい動転してしまっている。
どうしよう、私……どうしたらいい?!
「あ!お取込み中スイマセン!私帰りますね?トイレ貸していただいて有難うございましたー!」
……なんて?ナシナシ却下!
泣きながら「酷い!本田さん!私の存在を忘れて―――私だって本田さんが好きなのに……!」
……これ、誰?
「本田さんたら、好きなんだから~!うふふ私も混ぜてくださ~~い!」
これはあり得ない……!絶対!!
うん―――撤退しよう。
速やかに。それしかない。
心を決めた私の行動は早かった。
足音を忍ばせソロリソロリと部屋の扉に近付き、音を立てないよう細心の注意を払って取っ手を手に取り扉を開けた。慎重に体が潜り込める幅まで扉を押して、体を滑り込ませようとした時は思わず安堵の溜息が漏れそうになったくらいだ。
が、その時部屋の奥から聞こえて来た声に、息を飲む。
「待って!私シャワー浴びたい……汗かいたから」
「別に大丈夫だよ?」
「大丈夫じゃないもん」
や、やば……!
私は忍者のようにするりと廊下へ飛び出し、素早く扉を閉めた……!
「はぁ、はぁ、はぁ……」
廊下に背中をビタッと付けてドクドクすごい音を立てる胸を落ち着かせた。
「あーもう。……はぁ……」
それからフーッと溜息を吐いて体勢を整え、何事も無かったかのようにその場を去ったのだった。
今私は、同じホテル内の違う棟にある私の部屋にいる。ポスンとベッドに腰を下ろして肩を落とす。視線の先にはテーブルの上に置き去りにされたペンが転がっていて……それが独りぼっちの私に重なって見えた。
「凄いモン見ちゃったな……」
本田さんのプライベート中のプライベートを覗き見してしまった。
罪悪感とか嫉妬心とかそう言うの、置き去りにしちゃうくらい吃驚してしまって涙も出ないよ。
私の想像より……小説に侵食された妄想より―――現実の本田さんはずっと……生身の男の人だった。
全然違った。想像とも、いつもの彼とも。
今日私史上最高に本田さんに近付くことが出来た。本来ならこれだけでご飯三杯はいけるってぐらい喜ばしいことだったのに。
彼の素の笑顔を目にして―――制服の彼とは違う魅力に、胸をときめかせた。こんなに近寄れた!って浮かれて。他のCAを出し抜いて、私だけが彼のプライベートに踏み込めたような気がしたのに……それは錯覚だったようだ。
「あーあ、これって失恋なのかなぁ」
現実感が全くない。果たしてあれは現実だったのだろうか?彼が私の失態に噴き出してくだけた笑顔を見せてくれた時のトキメキ―――彼と部屋の前で話した宝物のように思えた時間が、遠く感じる。
「でもさ新婚のくせに、女の人引っぱり込んでイチャイチャしちゃうってどうなの?!」
ふと思いついた気持ちを口にすると、徐々にふつふつと苛立ちが湧き上がって来た。
なんかガッカリだなぁ……自分がその相手になれたら、なんて妄想している時は最高にトキめいたけど、実際その光景を客観的に見ちゃったら引いちゃうというか……嫉妬するより何より、本当にガッカリした。
見た目は勿論文句なしにカッコイイんだけど。
それだけじゃなくて、誠実そうな人だから、私は素敵だと感じたんだ。
勿論、この感情が自分の行動と矛盾しているのは承知の上だ。でも今完全なる部外者になってみて、改めてそれを思い出したのだ。
奥様を大事にしているんだろうな、真面目そうだし優しそうだし。なんて羨ましく思ってだから私がその場所に入り込めたら、そんな素敵な本田さんに愛されたらどんなに幸せだろうって想像していたんだ。
もし自分があの部屋にいる彼女の立場だったら、きっとそんな風に醒めた考えは浮かばなかったかもしれない。要するにだからこれは嫉妬とか羨ましいとかそう言う気持ちなのかもしれない。要するに自分が選ばれなかったことに私は腹を立てているのか?『二番目で良い』とか『待てる』とか妄想上の私は言っていただろうに。
と言うことは、奥様と私の二人だけと関係(ってこれもただの妄想なんだけど)するのなら、私は彼を『誠実な人』と考えた、と言うことなのだろうか?『それなら許せる、理解できる』って納得したのだろうか。
そしてもし、奥様と私。それからその他に一人……ないしは二人、他に彼女がいたとしたら。きっと彼の事を『不誠実だ』とか、その行動を『私に対する裏切りだ』とか思ってしまうような気がする。
でもやっぱり……例えば私の妄想が叶ったとして、奥様の他は私だけと付き合ってくれるのだとしても、暫くその関係が続いたら……ある時フッと我に返るんじゃないだろうか。本田さんの部屋にいるあの彼女も、今は幸せいっぱいでそんな暗い考えは頭の外に追い出している状態なのかもしれないけど、いつか虚しさに苛まれる時がくるのかもしれない。
誰もが羨むようなパイロットで、真面目で優しくて背が高くて、飛び切りイケメンで制服姿がキリッとカッコ良くて。そんな彼に選ばれて愛される自分を夢見ていた。
だけど彼は私にとっては唯一の彼で。でもその彼にとって自分は唯一じゃないって事をやがて自覚して愕然とするのだろう。複数の女性と付き合える人にとって、私は失っても構わない、替えの利く女達の一人なんだって。
テーブルの上に放置されたままのペンを手に取って、私は勢いを付けてポスンと背中からベッドに飛び込んだ。
良い感じで沈み込むクッションを背中一杯に感じて―――ああ、あの二人もこんな風に―――なんて思い出し掛けて、首を振る。
「これ、どうしよっかな」
一人呟いたあとペンをそのまま、壁に向かって放り投げた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次話、『ポンちゃんと、キャビンアテンダント』最終話となります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目の前で起こっていた光景が目に焼き付いて、バクバクと胸が早鐘のようだ。
頭が真っ白になる。私以外の人と抱き合っている所を目にしてしまったショックや、忘れられている事実を悲しむ気持ちを意識する間も無いくらい動転してしまっている。
どうしよう、私……どうしたらいい?!
「あ!お取込み中スイマセン!私帰りますね?トイレ貸していただいて有難うございましたー!」
……なんて?ナシナシ却下!
泣きながら「酷い!本田さん!私の存在を忘れて―――私だって本田さんが好きなのに……!」
……これ、誰?
「本田さんたら、好きなんだから~!うふふ私も混ぜてくださ~~い!」
これはあり得ない……!絶対!!
うん―――撤退しよう。
速やかに。それしかない。
心を決めた私の行動は早かった。
足音を忍ばせソロリソロリと部屋の扉に近付き、音を立てないよう細心の注意を払って取っ手を手に取り扉を開けた。慎重に体が潜り込める幅まで扉を押して、体を滑り込ませようとした時は思わず安堵の溜息が漏れそうになったくらいだ。
が、その時部屋の奥から聞こえて来た声に、息を飲む。
「待って!私シャワー浴びたい……汗かいたから」
「別に大丈夫だよ?」
「大丈夫じゃないもん」
や、やば……!
私は忍者のようにするりと廊下へ飛び出し、素早く扉を閉めた……!
「はぁ、はぁ、はぁ……」
廊下に背中をビタッと付けてドクドクすごい音を立てる胸を落ち着かせた。
「あーもう。……はぁ……」
それからフーッと溜息を吐いて体勢を整え、何事も無かったかのようにその場を去ったのだった。
今私は、同じホテル内の違う棟にある私の部屋にいる。ポスンとベッドに腰を下ろして肩を落とす。視線の先にはテーブルの上に置き去りにされたペンが転がっていて……それが独りぼっちの私に重なって見えた。
「凄いモン見ちゃったな……」
本田さんのプライベート中のプライベートを覗き見してしまった。
罪悪感とか嫉妬心とかそう言うの、置き去りにしちゃうくらい吃驚してしまって涙も出ないよ。
私の想像より……小説に侵食された妄想より―――現実の本田さんはずっと……生身の男の人だった。
全然違った。想像とも、いつもの彼とも。
今日私史上最高に本田さんに近付くことが出来た。本来ならこれだけでご飯三杯はいけるってぐらい喜ばしいことだったのに。
彼の素の笑顔を目にして―――制服の彼とは違う魅力に、胸をときめかせた。こんなに近寄れた!って浮かれて。他のCAを出し抜いて、私だけが彼のプライベートに踏み込めたような気がしたのに……それは錯覚だったようだ。
「あーあ、これって失恋なのかなぁ」
現実感が全くない。果たしてあれは現実だったのだろうか?彼が私の失態に噴き出してくだけた笑顔を見せてくれた時のトキメキ―――彼と部屋の前で話した宝物のように思えた時間が、遠く感じる。
「でもさ新婚のくせに、女の人引っぱり込んでイチャイチャしちゃうってどうなの?!」
ふと思いついた気持ちを口にすると、徐々にふつふつと苛立ちが湧き上がって来た。
なんかガッカリだなぁ……自分がその相手になれたら、なんて妄想している時は最高にトキめいたけど、実際その光景を客観的に見ちゃったら引いちゃうというか……嫉妬するより何より、本当にガッカリした。
見た目は勿論文句なしにカッコイイんだけど。
それだけじゃなくて、誠実そうな人だから、私は素敵だと感じたんだ。
勿論、この感情が自分の行動と矛盾しているのは承知の上だ。でも今完全なる部外者になってみて、改めてそれを思い出したのだ。
奥様を大事にしているんだろうな、真面目そうだし優しそうだし。なんて羨ましく思ってだから私がその場所に入り込めたら、そんな素敵な本田さんに愛されたらどんなに幸せだろうって想像していたんだ。
もし自分があの部屋にいる彼女の立場だったら、きっとそんな風に醒めた考えは浮かばなかったかもしれない。要するにだからこれは嫉妬とか羨ましいとかそう言う気持ちなのかもしれない。要するに自分が選ばれなかったことに私は腹を立てているのか?『二番目で良い』とか『待てる』とか妄想上の私は言っていただろうに。
と言うことは、奥様と私の二人だけと関係(ってこれもただの妄想なんだけど)するのなら、私は彼を『誠実な人』と考えた、と言うことなのだろうか?『それなら許せる、理解できる』って納得したのだろうか。
そしてもし、奥様と私。それからその他に一人……ないしは二人、他に彼女がいたとしたら。きっと彼の事を『不誠実だ』とか、その行動を『私に対する裏切りだ』とか思ってしまうような気がする。
でもやっぱり……例えば私の妄想が叶ったとして、奥様の他は私だけと付き合ってくれるのだとしても、暫くその関係が続いたら……ある時フッと我に返るんじゃないだろうか。本田さんの部屋にいるあの彼女も、今は幸せいっぱいでそんな暗い考えは頭の外に追い出している状態なのかもしれないけど、いつか虚しさに苛まれる時がくるのかもしれない。
誰もが羨むようなパイロットで、真面目で優しくて背が高くて、飛び切りイケメンで制服姿がキリッとカッコ良くて。そんな彼に選ばれて愛される自分を夢見ていた。
だけど彼は私にとっては唯一の彼で。でもその彼にとって自分は唯一じゃないって事をやがて自覚して愕然とするのだろう。複数の女性と付き合える人にとって、私は失っても構わない、替えの利く女達の一人なんだって。
テーブルの上に放置されたままのペンを手に取って、私は勢いを付けてポスンと背中からベッドに飛び込んだ。
良い感じで沈み込むクッションを背中一杯に感じて―――ああ、あの二人もこんな風に―――なんて思い出し掛けて、首を振る。
「これ、どうしよっかな」
一人呟いたあとペンをそのまま、壁に向かって放り投げた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次話、『ポンちゃんと、キャビンアテンダント』最終話となります。
20
お気に入りに追加
1,356
あなたにおすすめの小説
捕獲されました。
ねがえり太郎
恋愛
何故こんな事に。忘年会の帰り道、私は捕獲されてしまった。
※注:ヒーローがキモイかもしれません。駄目そうな方は回れ右でお願いします。甘さは全体的にうすめです。
※念のためR15指定を追加します。全年齢対象のなろう版と表現を変更する話は★表示とします。
※本編完結済。2019.2.28おまけ話追加済。
モブ令嬢は白旗など掲げない
セイラ
恋愛
私はとある異世界に転生した。
その世界は生前の乙女ゲーム。私の位置は攻略対象の義姉であり、モブ令嬢だった。
しかしこのモブ令嬢に幸せな終わりはない。悪役令嬢にこき使われ、挙げ句の果てに使い捨てなのだ。私は破滅に進みたくなどない。
こうなれば自ら防ぐのみ!様々な問題に首を突っ込んでしまうが、周りに勘違いをされ周りに人が集まってしまう。
そんな転生の物語です。
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!
奏音 美都
恋愛
ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。
そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。
あぁ、なんてことでしょう……
こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる