平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎

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後日談 黛家の妊婦さん1

(140)翔太と一緒4

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ちょっとした小話。
妊娠中期六ヶ月くらいのイメージです。 


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夫である黛が不在となる土曜日、七海は再び翔太を預かった。お腹が膨らんで少々機動力には難ありの状態ではあるが、せっかくの平和な安定期である。既に翔太の時に子供が生まれた後の喧噪と混沌を経験している七海は、それまでに時間が許せば翔太との時間を出来るだけ持ちたいと考えていた。義父も夫も仕事で不在の寂しい休日を翔太とゆっくり過ごすつもりだった。

午後は唯と待合わせして、三人で美味しい物を食べながらお茶をする予定だ。
彼女は結婚後旅行会社を辞めたのだが、パートタイムで本田家の不動産事務所に勤めている。不動産事務所の定休日は火曜日なのだが、まだ見習いみたいなもので簡単な雑務しかしておらず多少融通が利くらしい。

七海と翔太は近所のショッピングセンターにある本屋と家電製品の複合店舗にやって来た。唯との待ち合わせ時間まで、ここで暇つぶしをするつもりだった。広い店内には子供用の絵本や児童書のコーナーがあり椅子に座ってゆっくり本を選ぶことも出来るし、子供用の玩具ショップも併設されている。同じ階にレストランやカフェもあるし、子供連れで出掛けるには便利な場所だとネットでも取り上げられていた。

まずは玩具ショップに足を運ぶ。違う店舗ではあるが就学前の翔太とも何度か足を運んでいて、翔太も大好きなお店だ。海外の知育玩具をたくさん扱っていて、直接遊んで試せるし体験イベントも豊富で子供も大人も幾らでも時間を潰せるような場所だ。実際このお店で取り扱っている玩具を幾つか翔太は持っている。

磁石でくっ付くタイプのカラフルな三角形や四角形のブロックが子供用のテーブルに並べてあり、好きなように遊べるようになっていた。実家にも幾つかあった筈だが、半円や丸い形など、七海には見慣れない形のブロックも並んでいる。

「こんなのもあるんだね!新商品かな」
「ひろ君のウチにもあった」
「ひろ君?もしかして小学校の友達?」
「うん、レコブロックもいっぱいあった」
「へー」

お腹が膨らんできた七海には少し窮屈ではあるが隣の子供用の椅子に座り、翔太に倣ってブロックをピタピタ貼り付けながら話しかける。翔太は集中しているのか、おざなりに返事を返した。
彼のブロックに対する集中力はすさまじかった。このため、結局唯との待ち合わせの時間になるまで、七海が声を掛けても生返事が返ってくるだけでその場所で最後まで時間を潰す事となった。「絵本は?」「……んー?いま、これやってる」と言った具合に。






「いたっ……いててて」

お腹の痛みに、思わず声を上げて七海は膝を付く。

「ななみ?!」

未練がましく玩具コーナーを振り返っていた翔太が、目を丸くして駆け寄って来る。待ち合わせ時間ギリギリに漸くその場を離れる気になってくれた翔太を連れて本屋を出た所だった。七海がお腹を抱えてうずくまったのを目にして、大層驚いたらしい。

「ななみ?だいじょうぶ?!あっあそこにイス。あそこ、座ろう!」

七海の背中を優しく擦り、空いているベンチを指さした。

さっきまで声掛けすら無視するくらい玩具に夢中になっていたお子ちゃまだったのに、と七海は痛むお腹を擦りながら笑ってしまった。どうやら少しずつ彼も成長しているらしい。
引き攣った痛みが落ち着いた所で、翔太に寄り添われながらベンチへ移動する。ゆっくり腰を下ろすと心配そうに見下ろす瞳と目が合った。
立ち竦んだままの翔太の手を引いて、七海は彼を隣に座らせる。すると翔太は暗い表情で呟いた。

「オレのせい?」
「ん?」
「ななみの言うこと、聞かなかったから……」

何度か声を掛けたが、翔太はなかなかブロックから離れられなかった。我儘を言った自分が悪いのかもしれないと、彼は考えたらしい。七海はフフッと笑って首を振った。

「違うよ、この子がお腹を蹴ったの」
「え……けるの?おなかの中から?」
「そう。お腹の中の子供にはね、もう手も足もあるんだ。普段はお腹の中にあるプールでぷかぷか浮かんで眠ったり欠伸したりしているんだけど―――偶に手を動かしたり足を延ばしたりするの。で、今はそのキックが強すぎたみたい。お腹の皮がビヨーンって伸ばされて痛くなっちゃった」

お腹を擦る手をびよーんと前に伸ばす仕草をすると、翔太は目を丸くした。

「キックするんだ……」

感心したように頷くその表情は、以前顔を合わせた時よりずっと思慮深げに見えた。七海は弟の成長に目を細める。

「だからね、元気に育っている証拠だから大丈夫なんだよ。翔太だってお母さんのお腹、キックしていたんだよ?私見たもん、翔太がお腹の中からお母さんのお腹を蹴った時、お腹のここの所の皮膚がボコボコ盛り上がったの!」
「……ホント?」
「ホントホント。『元気な子だね』ってお母さんも笑ってたよ」

すると安心したように翔太はニコリと笑った。けれども直ぐに真顔になって尋ねて来る。

「でも―――イタいよね?」
「あ、うん。ちょっとはね。でもきっと翔太と一緒に遊ぶの、この子も楽しかったんじゃないかな?いつもよりキックに力が入っていたから」

そう言って七海が微笑むと、翔太は不思議そうに首を傾げる。

「見えないのに、わかるの?オレのこと」
「うん、分かるよ。もう耳が聞こえるんだって。だからきっと『翔太くん、もっとあそぼー!』って言ってるんだと思う」

七海が大仰にアクションを交えて話すと、翔太の眉間がぱぁあっと明るくなった。そして七海のお腹に手を伸ばし、まるで小さな子供の頭を撫でるようにポンポン擦ると、顔を寄せて言い聞かせるように囁いた。



「遊んでやるから、痛くしないでね。お母さん、泣いちゃうよ……!」
「うっ……」



翔太の男前な優しさに、ズキュン!と胸を突かれた七海は―――思わず、感動で本当に泣きそうになってしまったのだった。



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翔太はちょっとだけお兄ちゃんっぽくなりました。
お読みいただき、誠に有難うございました!

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