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番外編 裏側のお話
(123)小日向さんの女難
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七海の職場の後輩、計画的小悪魔系女子、小日向さんの災難話その2です。
※揉め事苦手だなーと思う方は回避してください。
こちらを読まなくても今後のメイン展開に支障は無いように書く予定です。
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小日向は混乱していた。
「貴女が小日向さんですか?―――お兄ちゃんの事でお話があるんです」
正統派美少女が、小日向を思いつめた表情で見上げている。
黒髪がサラサラしていて、シャンプーのCMを見ているような気分になってしまう。丁寧に作り込んだフワフワした容貌の茶髪の小日向とはまるで正反対。素材の良さだけで、目が潰れそうなくらい眩しく感じてしまう。『みずみずしい』―――とはまさにこういう事を言うのだろうか。
何となく彼女の言う『お兄ちゃん』に予想が付いたが、敢えて小日向はニッコリと微笑んで惚けてみる。もう妙な恋愛ドラマの悪役にまつり上げられるのは、ゴメンだった。
「どなたかとお間違いじゃないでしょうか?私先を急ぐので、失礼しますね」
そう言ってスッと目の前に立ちはだかる制服姿の美少女の脇を通り過ぎようとした。するとガシっと腕を掴まれて思わずつんのめってしまう。
「待って……!」
切ない様な必死な声に、心底血の気が引いてしまう。
悪いのは清楚で純真そうなこの女子高生ではなくて、婚約者がいる立場で遊びまわるあの『下種野郎』なのだ。
しかし全く関係無い自分がまた悪役にされ水をぶっかけれられてしまうのは―――高い焼肉を奢って貰おうが、高級なワンピースで弁償して貰おうが、高学歴高収入、悔いっぱぐれの無い資格を持つ素敵な真面目男子を何人紹介して貰おうが、もう勘弁して貰いたかった。この間の一件の後、その足で百貨店に行き、遠野持ちで購入した大好きなブランドのワンピースに着替え高級焼肉を奢らせた。その上で匂いを取るためのクリーニング代も払わせた。それから既に半ばセッティングが終了していた合コンは幹事役として一応参加し義務を果たした。
その後小日向は、遠野からメッセージが入ろうと、メールが来ようと着信が入ろうと―――ひたすら無視をし続けているのだ。
もう面倒事に巻き込まれたくない。
心底、そう思っている。
なのに何なんだ、これは。
あの下種を思い浮かべると小日向の胸の内には―――怒りしか湧いてこない。
彼女は溜息を吐き皮膚一枚の下に怒りを沸々たぎらせて、腕にしがみつく美少女に向き直った。
「貴女はもしかして―――遠野さんの婚約者さん?申し訳ないけど私、あんな男にまっっったく興味も感心も持ち合わせてないから!だから牽制する必要なんか全然ありませんので!」
「……素敵……」
キラキラ輝く瞳には、何故か全くと言って良いほど嫌悪感は滲んでいない。
小日向は彼女の化粧もしていないのにサクランボのように朱い美味しそうな唇から―――予想と掛け離れた言葉が零れ落ちるのを聞いて、眉を顰めた。
聞き間違いだ、きっとそうに違いない。彼女はそう判断して、美少女がガッチリと抱え込んだ自分の腕を引き抜こうとした。
するとますます強く、拘束されてしまう。
「ちょっ……離して……」
「何て素敵なのかしら!ああ、私の理想そのものだわっ……!」
「は?」
「あのお兄ちゃんを、ゴミ屑のように語る冷たい目……素敵です!やっぱり私が見込んだ通り、お兄ちゃんは貴女にしか託せません……!」
(お兄ちゃんは……貴女にしか……)
あまりの突拍子無さに、思わずボンヤリと心の中で彼女の台詞を繰り返す。
「は?え?……えええ!!!」
「『お姉さま』って……お呼びして良いですか?」
ポッと頬を染めて恥じ入る美少女は大変可愛らしい。
しかし。
彼女の恐ろしい提案に―――小日向は恐怖した。
バッッッと、今度こそ渾身の力を込めて腕を引き抜き―――ズザザッと飛びのいて、瞳を潤ませる美少女から距離をとった。
「あっ……!お姉さまっ!」
ゾゾゾ……と、背筋を何かが這い上がる。小日向は真っ青になって叫んだ。
「やめてっ!『お姉さま』じゃないから!遠野なんて、あんな下種野郎!!!託されても困るから……!!」
大混乱しつつも、ほとんど脊髄反射でそれだけキッパリと言い切り。
クルリと反転し、追い縋ろうとする女子高生を躱して小日向は駆け出した。
「お姉さまぁー…!」
(だから『違う』っつーの!!!)
そのまま振り返らずに、小日向は走って逃げた。
元陸上部の小日向は、脚には自信がある。
何かあの美少女の中で大変な誤解が生じている……そんな恐ろしい予感(悪寒)が体を包み込んだが、その悪寒を振り切るように目指す改札まで、小日向は一気に走り通したのだった。
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小日向ちゃんの災難その2でした。
その3もあるかも……?いや、やっぱりないかも(笑)
お読みいただき有難うございました。
※揉め事苦手だなーと思う方は回避してください。
こちらを読まなくても今後のメイン展開に支障は無いように書く予定です。
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小日向は混乱していた。
「貴女が小日向さんですか?―――お兄ちゃんの事でお話があるんです」
正統派美少女が、小日向を思いつめた表情で見上げている。
黒髪がサラサラしていて、シャンプーのCMを見ているような気分になってしまう。丁寧に作り込んだフワフワした容貌の茶髪の小日向とはまるで正反対。素材の良さだけで、目が潰れそうなくらい眩しく感じてしまう。『みずみずしい』―――とはまさにこういう事を言うのだろうか。
何となく彼女の言う『お兄ちゃん』に予想が付いたが、敢えて小日向はニッコリと微笑んで惚けてみる。もう妙な恋愛ドラマの悪役にまつり上げられるのは、ゴメンだった。
「どなたかとお間違いじゃないでしょうか?私先を急ぐので、失礼しますね」
そう言ってスッと目の前に立ちはだかる制服姿の美少女の脇を通り過ぎようとした。するとガシっと腕を掴まれて思わずつんのめってしまう。
「待って……!」
切ない様な必死な声に、心底血の気が引いてしまう。
悪いのは清楚で純真そうなこの女子高生ではなくて、婚約者がいる立場で遊びまわるあの『下種野郎』なのだ。
しかし全く関係無い自分がまた悪役にされ水をぶっかけれられてしまうのは―――高い焼肉を奢って貰おうが、高級なワンピースで弁償して貰おうが、高学歴高収入、悔いっぱぐれの無い資格を持つ素敵な真面目男子を何人紹介して貰おうが、もう勘弁して貰いたかった。この間の一件の後、その足で百貨店に行き、遠野持ちで購入した大好きなブランドのワンピースに着替え高級焼肉を奢らせた。その上で匂いを取るためのクリーニング代も払わせた。それから既に半ばセッティングが終了していた合コンは幹事役として一応参加し義務を果たした。
その後小日向は、遠野からメッセージが入ろうと、メールが来ようと着信が入ろうと―――ひたすら無視をし続けているのだ。
もう面倒事に巻き込まれたくない。
心底、そう思っている。
なのに何なんだ、これは。
あの下種を思い浮かべると小日向の胸の内には―――怒りしか湧いてこない。
彼女は溜息を吐き皮膚一枚の下に怒りを沸々たぎらせて、腕にしがみつく美少女に向き直った。
「貴女はもしかして―――遠野さんの婚約者さん?申し訳ないけど私、あんな男にまっっったく興味も感心も持ち合わせてないから!だから牽制する必要なんか全然ありませんので!」
「……素敵……」
キラキラ輝く瞳には、何故か全くと言って良いほど嫌悪感は滲んでいない。
小日向は彼女の化粧もしていないのにサクランボのように朱い美味しそうな唇から―――予想と掛け離れた言葉が零れ落ちるのを聞いて、眉を顰めた。
聞き間違いだ、きっとそうに違いない。彼女はそう判断して、美少女がガッチリと抱え込んだ自分の腕を引き抜こうとした。
するとますます強く、拘束されてしまう。
「ちょっ……離して……」
「何て素敵なのかしら!ああ、私の理想そのものだわっ……!」
「は?」
「あのお兄ちゃんを、ゴミ屑のように語る冷たい目……素敵です!やっぱり私が見込んだ通り、お兄ちゃんは貴女にしか託せません……!」
(お兄ちゃんは……貴女にしか……)
あまりの突拍子無さに、思わずボンヤリと心の中で彼女の台詞を繰り返す。
「は?え?……えええ!!!」
「『お姉さま』って……お呼びして良いですか?」
ポッと頬を染めて恥じ入る美少女は大変可愛らしい。
しかし。
彼女の恐ろしい提案に―――小日向は恐怖した。
バッッッと、今度こそ渾身の力を込めて腕を引き抜き―――ズザザッと飛びのいて、瞳を潤ませる美少女から距離をとった。
「あっ……!お姉さまっ!」
ゾゾゾ……と、背筋を何かが這い上がる。小日向は真っ青になって叫んだ。
「やめてっ!『お姉さま』じゃないから!遠野なんて、あんな下種野郎!!!託されても困るから……!!」
大混乱しつつも、ほとんど脊髄反射でそれだけキッパリと言い切り。
クルリと反転し、追い縋ろうとする女子高生を躱して小日向は駆け出した。
「お姉さまぁー…!」
(だから『違う』っつーの!!!)
そのまま振り返らずに、小日向は走って逃げた。
元陸上部の小日向は、脚には自信がある。
何かあの美少女の中で大変な誤解が生じている……そんな恐ろしい予感(悪寒)が体を包み込んだが、その悪寒を振り切るように目指す改札まで、小日向は一気に走り通したのだった。
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小日向ちゃんの災難その2でした。
その3もあるかも……?いや、やっぱりないかも(笑)
お読みいただき有難うございました。
応援ありがとうございます!
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