上 下
236 / 363
後日談 黛家の妊婦さん1

(122)教育方針?

しおりを挟む
(121)話の補足のようなお話です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「いいか、まず女性には優しく接しろ」

コクリと翔太は頷いた。

「今はお前は小さいかもしれない。そして勿論、お前より大きい女も小学校にはたくさんいると思う。大人の女性だってそうだ。だけど―――女性って言うのは本来男より、か弱い生き物なんだ」

翔太はジッと真剣に黛の語りかける言葉に耳を傾けていた。

「いつもお前と『たたかいごっこ』をしてくれた七海も、女だ。だから優しくしなくちゃならない。しかもお腹に赤ちゃんがいる。俺がいない時は、お前が七海と赤ちゃんを守るんだ。だからお腹に頭から突進するなんて、もってのほかだ」
「あの……黛君、翔太はまだ六歳だし……」

小さな翔太の肩を大きな手で掴み、教えを授けるように語りかける黛の言葉に―――とうとう耐えられなくなって七海は声を上げた。
七海にとっては翔太はまだまだ幼い子供だ。大きな大人である七海を守れなんて言って、翔太自身が危ない目にあったりしないか心配になったのだ。

「翔太はもう、頭では理解できる年齢だ。こういう事はいきなり身に就くものじゃない、出来るようになる前にちゃんと言葉にしてまず、伝える事が大事なんだ。『男女七歳にして席を同じゅうせず』っていうだろ?基本的にもう男女の違いが理解できる年齢なんだ」
「でも……」
「俺―――!」

戸惑う七海の言葉を遮るように、翔太は声を張り上げた。

「七海に優しくする……!」

小さな拳を握りしめ決意をにじませる翔太。黛が大きく頷いて見せると、得意げに胸を張った。
その様子があまりにも可愛らしくて。七海は「うーん」と一言唸って、それからガクリと肩を落とした。諦めたように溜息を吐き、翔太の前にしゃがみ込む。そして正面から目線を合わせ―――ニコリと微笑んで見せた。

「ありがとう、翔太。翔太の気持ち……嬉しいし、頼もしいよ。でも、危なくない範囲でお願いね」

丁寧にゆっくりと、七海は翔太にお礼の気持ちを返した。
すると翔太はキラキラと目を輝かせて、シッカリと大きく頷いたのだった。







「何だか翔太、ちょっと見ない間にすっごく大人になった気がするなぁ……」

思いっきり遊び通した翔太は疲れ切ってスヤスヤと寝息を立てている。居間で子供番組を見ていたと思ったら、ソファに突っ伏して眠ってしまっていた。ぷくりとした頬っぺたを愛でながら、七海はそう呟いた。

「ところで黛君『男女七歳にして席を……』って随分古い事言うのね。これって要するに男尊女卑とか……そう言う時代のことわざじゃないの?」

話が途中になっていたため、その場で解消できずにいた疑問を七海は口にした。『席を分ける』と聞いて―――畳の上で男性がご飯を食べている間、台所の冷たい板の間で女性がご飯を食べる昔の決まりごとだとか、小学校の授業で男女のクラスを分けてそれぞれ違う授業を受けさせるような……そんな古い時代のイメージが、七海の中に浮かびあがって来たのだ。

七海に問いかけられて、黛は首をひねった。

「そうか?『席』って言うのは当時の『むしろ』や『ござ』の事で、座りもするけれど寝る時に使うから―――要するに数えで七歳、今の時代で言うと六歳になったら男女はもう同衾させてはいけないって意味だった筈だぞ」
「……『どうきん』ってナニ?」

聞きなれない言葉に、今度は七海が首をひねった。

「『一緒に布団で寝る』って意味だ。昔の女子は十二歳くらいで結婚したらしいからな、六歳からもう男女の区別を付けるよう意識を育てなさいって言う儒教の決まり事だって俺は何かで読んだぞ。まあ原文では『食を共にせず』って続くから、七海の言うように食事場所を分けろって意味もあったかもしれないけどな」
「ふーん……なるほどねぇ、確かに小学校くらいから女子は女子、男子は男子って分かれて遊んでたような気がするから、教えるまでも無く子供達自身も違いを意識し始めるものなのかもね。と言う事は……六歳が、大人の始まりってこと?」

するとうつ伏せになっていた翔太が、ソファの上でごろりと仰向けになった。七海はクスリと笑ってしゃがみ込み、激しい寝相でアピールする翔太の頬を人差し指で、優しく突いてみた。

「こーんなモッチモチの頬っぺたの男の子は……まだまだ私にとって『大人の始まり』って言うより可愛い『お子ちゃま』のくくりに、入れたくなっちゃうな。これってある意味、大人の我儘なのかな?」

愛しそうに微笑む七海に、黛もフッと眉を緩めた。

「確かにこのほっぺは貴重だな!」

そう言って黛は笑いながら、七海が触っている側ではない頬を指で優しく押した。

「柔らかいなー」
「ね」

それから二人は暫くの間―――フニフニと翔太の頬っぺたを堪能して過ごしたのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

これにて、翔太のお泊り会は終了です。

これをきっかけに黛を見習って翔太がイケメン行動を発揮するようになるのは―――もう少し後のお話となります。……なんて、そこまで続いたりは多分しませんのでご安心を(笑)

お読みいただき、有難うございました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

処理中です...