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番外編 裏側のお話
(116)小日向さんの災難
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七海の職場の後輩、計画的小悪魔系女子、小日向さんの災難話。
恋愛要素は無いと思います。
※あまり楽しい話ではありません。苦手そうな方は回避してください。
こちらを読まなくても今後の展開に支障は無いように書く予定です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バシャっ!
水を掛けられて、思わず小日向は小さな悲鳴を上げた。
何が何だか分からない。
目の前には般若のような表情の少し年上に見える女性が、コップを握りしめて仁王立ちで震えていた。
「な……なにす……っ」
全く面識のないその女性に、何故そんな振る舞いをされるのかまるで分からない。
小日向はカワイ子ちゃんだ―――十人男性がいれば八人は眉尻を緩めるくらいの。
十人全員とは言わない、小日向は美容にお洒落に常に気を配ってはいるが、男性の見た目に関する好みは千差万別だし、見た目を重視する男ばかりではないと彼女は重々承知しているからだ。
だから、彼女持ちの男にポーッと見惚れられ、その隣の女性に睨まれる事はそれほど珍しい事ではない。けれども小日向はいつだって、深い恨みを持たれないよう慎重にそのような迂闊な男とは距離を取って来たのだ。
すると掛かって来た電話を受けるため席を立っていた筈の相手がスッと現れて、小日向の肩を―――何故か抱き寄せた。
「ああ、ごめんよ。かほりの所為じゃ無いのに……俺が悪いんだ、君を好きになってしまったから」
「―――」
言葉の羅列が小日向の頭の中を通り過ぎて―――何度か反芻した後、やっと言葉の意味を理解した。
「はぁあ?!」
小日向が驚きの声を上げて、自分の肩を抱き寄せた相手を見上げると、野性味のある色男が、いつもは自信あり気にキリッと保っている眉を悲し気に下げて哀れっぽい声で続けた。
「かほりは知らなかったんだ。知らずに俺と―――ゴメン、俺がもう彼女に夢中で他に目が行かないんだ。本当にすまない―――っ!」
唖然としている小日向の前で、遠野は長身を折り曲げて目の前で般若の仮面を被ったような顔をしている彼女に、如何にも『誠実そうに』頭を下げたのだった。
「ちょっ……ナニ馬鹿な事言って……っ!」
小日向が慌てて否定しようとすると、遠野が顔を上げて小日向を庇うように前に立った。
「すまない、俺が―――全部悪いんだ!だから夕子さん……申し訳ない、諦めてくれ……!」
「だ、だって……私の事好きだって……言ったじゃない」
「ゴメン、本当にゴメン。俺が全て悪い」
茶番だ。
小日向はそう思った。水の滴る髪をギュッと絞り、泣き顔に変わった『夕子』とか言う彼女の代わりに般若の仮面をつけて、目の前の広い背中を睨みつけたのだった。
ダンっ!
テーブルを叩いて、目の前の色男を睨みつけた。
さきほど情けない様子で哀れっぽく眉を下げていた男とはすっかり別人だった。椅子に背を預け、鼻歌を歌うかのような様子でニコニコしている。
「なっ……んで私が、こんな目に合わなきゃならないのよっ!」
「いや~……だから、ゴメンって」
ヘラヘラしている男を目の前に、小日向のイライラは大きくなるばかりだった。
「今日は合コンの打合せしていただけでしょう?!私のこと『好きになった』?!『夢中』?!嘘つけ!付き合ってもいないじゃないのっ……アンタみたいな遊び人、絶対ゴメンだっつーのっっ!!」
目隠しのある半個室になった空間とはいえ、声は響く。小日向は低い声に憎しみを込めて言い放った。
「なんであんな嘘をつくのよ!私全然関係ないじゃないっ!ふざけんな!」
「いや~ちょうどよくってさ、そろそろだと思って別れを匂わしているのにシツコクてさ。婚約者いるって言っても『愛人で良い、愛があれば』って変な覚悟持ってしまって、扱いに困ってたんだよね~~。他の彼女と会っているんだろうって、疑って電話やメール攻撃が凄くてさ。思わず―――その~『今君より好きな相手と一緒にいる』って言っちゃったんだよね」
「なっなっ……」
思わず怒りで言葉が途切れる。過呼吸になりそうなくらい、激しい怒りが込み上げたが、堪えて抗議の言葉を発した。
「嘘ばっかり!!」
「嘘じゃないさ、俺に興味が無くて、なのに普通に話のできる女の子って付き合い易いよね。現時点では異常な執着し始めた彼女より、君の方が好きだな」
サラリと舌に乗せた言葉に、全く重みが籠っていない事を隠しもしない遠野を、小日向は再び殺気を込めて睨みつけた。
「アンタには可愛い婚約者がいるんでしょ!水を被るのはその子の役目じゃん!」
「……アイツには迷惑掛けたくないんだよな。『素敵なお兄ちゃん』のイメージを壊すのも可哀想だし」
「……『鬼畜なお兄ちゃん』の間違いでしょう……」
「ははっ!やっぱ君、面白いね~」
本気で殺ってやる。
小日向はその瞬間、吐き気と共にそう決意した。
「服も弁償するし、カッコイイ独身の医者も紹介するから……!」
「それは当然でしょ!それと『ヨロニク』のコースが食べたい!あと、『カッコイイ独身』で『真面目で誠実な』医者よ!間違ってもアンタみたいのはゴメンだから……!」
「分かった分かった。焼肉もいい男もちゃーんと、用意するよ!」
カラカラ余裕で笑う遠野を座った目で睨みつけながら、沸々と滾る怒りを丹田に仕舞い込んだ。そして小日向は改めてこう決意したのだ。
……絶対、コイツ、利用し尽くしてやせ細るまで搾り取ってやる……!
と。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
メラメラと遠野に対する怒りを滾らせる小日向ちゃん。
しかし絶対にタダでは起きないと、決意し立ち上がるのでありました。
微妙なお話ですが、お読みいただき有難うございました!
恋愛要素は無いと思います。
※あまり楽しい話ではありません。苦手そうな方は回避してください。
こちらを読まなくても今後の展開に支障は無いように書く予定です。
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バシャっ!
水を掛けられて、思わず小日向は小さな悲鳴を上げた。
何が何だか分からない。
目の前には般若のような表情の少し年上に見える女性が、コップを握りしめて仁王立ちで震えていた。
「な……なにす……っ」
全く面識のないその女性に、何故そんな振る舞いをされるのかまるで分からない。
小日向はカワイ子ちゃんだ―――十人男性がいれば八人は眉尻を緩めるくらいの。
十人全員とは言わない、小日向は美容にお洒落に常に気を配ってはいるが、男性の見た目に関する好みは千差万別だし、見た目を重視する男ばかりではないと彼女は重々承知しているからだ。
だから、彼女持ちの男にポーッと見惚れられ、その隣の女性に睨まれる事はそれほど珍しい事ではない。けれども小日向はいつだって、深い恨みを持たれないよう慎重にそのような迂闊な男とは距離を取って来たのだ。
すると掛かって来た電話を受けるため席を立っていた筈の相手がスッと現れて、小日向の肩を―――何故か抱き寄せた。
「ああ、ごめんよ。かほりの所為じゃ無いのに……俺が悪いんだ、君を好きになってしまったから」
「―――」
言葉の羅列が小日向の頭の中を通り過ぎて―――何度か反芻した後、やっと言葉の意味を理解した。
「はぁあ?!」
小日向が驚きの声を上げて、自分の肩を抱き寄せた相手を見上げると、野性味のある色男が、いつもは自信あり気にキリッと保っている眉を悲し気に下げて哀れっぽい声で続けた。
「かほりは知らなかったんだ。知らずに俺と―――ゴメン、俺がもう彼女に夢中で他に目が行かないんだ。本当にすまない―――っ!」
唖然としている小日向の前で、遠野は長身を折り曲げて目の前で般若の仮面を被ったような顔をしている彼女に、如何にも『誠実そうに』頭を下げたのだった。
「ちょっ……ナニ馬鹿な事言って……っ!」
小日向が慌てて否定しようとすると、遠野が顔を上げて小日向を庇うように前に立った。
「すまない、俺が―――全部悪いんだ!だから夕子さん……申し訳ない、諦めてくれ……!」
「だ、だって……私の事好きだって……言ったじゃない」
「ゴメン、本当にゴメン。俺が全て悪い」
茶番だ。
小日向はそう思った。水の滴る髪をギュッと絞り、泣き顔に変わった『夕子』とか言う彼女の代わりに般若の仮面をつけて、目の前の広い背中を睨みつけたのだった。
ダンっ!
テーブルを叩いて、目の前の色男を睨みつけた。
さきほど情けない様子で哀れっぽく眉を下げていた男とはすっかり別人だった。椅子に背を預け、鼻歌を歌うかのような様子でニコニコしている。
「なっ……んで私が、こんな目に合わなきゃならないのよっ!」
「いや~……だから、ゴメンって」
ヘラヘラしている男を目の前に、小日向のイライラは大きくなるばかりだった。
「今日は合コンの打合せしていただけでしょう?!私のこと『好きになった』?!『夢中』?!嘘つけ!付き合ってもいないじゃないのっ……アンタみたいな遊び人、絶対ゴメンだっつーのっっ!!」
目隠しのある半個室になった空間とはいえ、声は響く。小日向は低い声に憎しみを込めて言い放った。
「なんであんな嘘をつくのよ!私全然関係ないじゃないっ!ふざけんな!」
「いや~ちょうどよくってさ、そろそろだと思って別れを匂わしているのにシツコクてさ。婚約者いるって言っても『愛人で良い、愛があれば』って変な覚悟持ってしまって、扱いに困ってたんだよね~~。他の彼女と会っているんだろうって、疑って電話やメール攻撃が凄くてさ。思わず―――その~『今君より好きな相手と一緒にいる』って言っちゃったんだよね」
「なっなっ……」
思わず怒りで言葉が途切れる。過呼吸になりそうなくらい、激しい怒りが込み上げたが、堪えて抗議の言葉を発した。
「嘘ばっかり!!」
「嘘じゃないさ、俺に興味が無くて、なのに普通に話のできる女の子って付き合い易いよね。現時点では異常な執着し始めた彼女より、君の方が好きだな」
サラリと舌に乗せた言葉に、全く重みが籠っていない事を隠しもしない遠野を、小日向は再び殺気を込めて睨みつけた。
「アンタには可愛い婚約者がいるんでしょ!水を被るのはその子の役目じゃん!」
「……アイツには迷惑掛けたくないんだよな。『素敵なお兄ちゃん』のイメージを壊すのも可哀想だし」
「……『鬼畜なお兄ちゃん』の間違いでしょう……」
「ははっ!やっぱ君、面白いね~」
本気で殺ってやる。
小日向はその瞬間、吐き気と共にそう決意した。
「服も弁償するし、カッコイイ独身の医者も紹介するから……!」
「それは当然でしょ!それと『ヨロニク』のコースが食べたい!あと、『カッコイイ独身』で『真面目で誠実な』医者よ!間違ってもアンタみたいのはゴメンだから……!」
「分かった分かった。焼肉もいい男もちゃーんと、用意するよ!」
カラカラ余裕で笑う遠野を座った目で睨みつけながら、沸々と滾る怒りを丹田に仕舞い込んだ。そして小日向は改めてこう決意したのだ。
……絶対、コイツ、利用し尽くしてやせ細るまで搾り取ってやる……!
と。
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メラメラと遠野に対する怒りを滾らせる小日向ちゃん。
しかし絶対にタダでは起きないと、決意し立ち上がるのでありました。
微妙なお話ですが、お読みいただき有難うございました!
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