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後日談 黛家の新婚さん3
(94)湯川の見解
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(93)話の続きです。
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直接話しかけてこない周囲の人間も自分達の話題に興味を持っているらしい……と言う事に七海は気が付いた。注目されるのはしょうがない、黛は高校時代も目立った存在だったのだから。……と思いつつ、やっぱり別行動したかったな~と気持ちの半分では残念に思う。七海は未だに目立つ事が苦手なのだ。
「アハハ……仲良いんだねぇ、なんか中てられちゃうなぁ……」
少し茫然とした様子で加藤が社交辞令を口にした。何とも居心地悪いのでせめて握り込まれた手だけでも解放して貰えないかとモゾモゾと手を動かしてみるが、七海の意図に反して黛は拘束を緩めようとしない。同窓会に出席してまでイチャついていると白い目で見られているような気がして辛かったが、七海は暫く抵抗を続けた後いつも通り諦める事を選択した。
「飲んでるかーい?」
そこに少し軽いノリで現れたのは七海のクラスの幹事、湯川と五組のクラスの幹事、元サッカー部の戸次だった。
「湯川さん、お疲れ様。えっと……戸次君も」
「やっと一息つけるよー」
湯川が大袈裟に肩の力を抜くと、戸次も「うん、疲れたー」と言って大きく頷いた。その様子を見て七海は少し反省した。走り回っている幹事は大変そうだ。注目される事ぐらいで『疲れた』などと愚痴を言っている場合ではないな、と。
加藤、七海、黛と並んだテーブルの向かい側に、湯川と戸次が並んで腰を掛けた。
先ほど黛に名前を忘れられてショックを受けていた戸次は、もうケロリとしていて身を乗り出して黛に話しかけ出した。
黛も徐々に彼に関する記憶を取り戻しつつあるようで、特に嫌な顔もせず聞かれた事に答えたり、相手の話に言葉少なながらも頷いたりしている。
この為七海も、元クラスメイトの女子トークに専念する事が出来た。他愛無い世間話や昔話に興じ、やっと二次会を楽しめる心の余裕も出て来たと思ったところで話の矛先が七海と黛、二人の結婚に再び向き始めた。
「……だけど、吃驚したよ~。まさか黛君と江島さんが元サヤに収まるとはねぇ」
加藤が溜息を吐いて、カクテルに口を付ける。現在加藤はフリーなので結婚と言う目標に辿り着いた七海が羨ましくてしょうがない、と漏らした。
「湯川さんは知ってたの?」
「ほんのちょっと前だけどね。鹿島さんと江島さんに受付お願いした時に聞いたんだよね」
七海は湯川に笑顔を向けられて、コクリと頷いた。
「でも意外~!だって黛君ってモデルとかスゴイ美女と付き合ってたって聞いてたから……あっ!ゴメン!」
今の加藤の台詞は嫌味で言った訳では無いのが声の調子で明らかだったので、七海は大丈夫だと言う意味を込めて首を振った。幸い隣の黛は戸次の質問攻めに対応していて気が付いていないようだった。加藤は遠野と付き合っていたのだから、きっと彼から黛の交際相手について聞き及んでいたのだろうと七海は考えた。
「私は、何となくこうなる可能性は想像していたよ」
湯川が加藤の台詞を聞き流しつつ、やけにキッパリと言い切った。
相変わらず彼女は落ち着いているなあ、と七海は感心しつつ首を傾げる。あの頃も黛と七海は二週間だけの付き合いで、まるっきり友達としてしか関わっていない。それに黛は七海の後にも様々なタイプの女子に告白されて付き合っていた。
加藤も理解し難い様子で、訝し気に眉を寄せた。
「……何でそう思ったの?」
加藤の問いかけに湯川はニコリと笑って返事をした。
「だって私の見てる範囲で黛が自分から話し掛けてるのって、学校では本田か鹿島さんか江島さんしかいなかったから。本田と鹿島さんは幼馴染だから仕方ないとして……わざわざクラスに来てまで怒られに来てさぁ、小学生が好きな子揶揄ってるだけにしか見えなかったよ」
「んん?……ああ、そう言えばよくウチのクラスに来てたねぇ。鹿島さんに会いに来てたんだと思ってたけど……」
「鹿島さんの事はあんまり揶揄ったりしないんだよね、黛って」
「そっかー、あの時は『鹿島さん黛君に大事にされてるなぁ』って思ってたけど。小学生視点って考えると……確かにそう思えない事もないかな?」
湯川と加藤の言葉のキャッチボールに七海は口を噤むしかない。自分と夫の恋愛事情を目の前で話されている状況って、恥ずかしい事この上ない……と改めて思った。
「だけど、黛君っていっつも彼女いたよね」
加藤がもっともな疑問を口にした。七海も思わず頷いてしまう。あの状況で自分の事を気にしているなどと思える訳がない、と。
「だからガキだって言うの。確かに本人は自分の気持ちに気が付いてないのかもしれないけれど……自分の気持ちも把握できずにフラフラしている奴には江島さんは勿体無いなぁって思ったから、あの時は黙ってたのよ。『残念な奴だなぁ』ってね。まあ、結局結婚までしちゃったし、江島さん当人が納得しているんならもう文句を言う筋合いも無いけどね」
ニコリと微笑まれて、七海は思わず頬を染めてしまう。高校の頃から視野が広い大人っぽい人だと、湯川には一目置いていたが―――どうやら思っていた以上に彼女は大人だったようだ。
「おっとなー……」
「湯川さん、なんかカッコイイ……!」
加藤が感心したように呟き、七海が思わずキュンとして空いている手を胸に当てる。
すると周りに集まって来ているサッカー部員らしい男性陣の話に耳を傾けていた黛にグイッと手を引かれた。不穏な空気を察知したのか、ギュッと握った手に力を込められてしまう。疚しい所は何も無い筈なのに、ちょっとトキめいてしまった事が後ろめたくて「七海?」と、訝し気な視線を向けられた彼女は「アハハ、何でもないヨ~」とカタコトめいた乾いた返答で誤魔化したのだった。
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黛には危険を察知するセンサーが付いています。七海関連で鋭敏に反応……。
お読みいただき、有難うございました。
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直接話しかけてこない周囲の人間も自分達の話題に興味を持っているらしい……と言う事に七海は気が付いた。注目されるのはしょうがない、黛は高校時代も目立った存在だったのだから。……と思いつつ、やっぱり別行動したかったな~と気持ちの半分では残念に思う。七海は未だに目立つ事が苦手なのだ。
「アハハ……仲良いんだねぇ、なんか中てられちゃうなぁ……」
少し茫然とした様子で加藤が社交辞令を口にした。何とも居心地悪いのでせめて握り込まれた手だけでも解放して貰えないかとモゾモゾと手を動かしてみるが、七海の意図に反して黛は拘束を緩めようとしない。同窓会に出席してまでイチャついていると白い目で見られているような気がして辛かったが、七海は暫く抵抗を続けた後いつも通り諦める事を選択した。
「飲んでるかーい?」
そこに少し軽いノリで現れたのは七海のクラスの幹事、湯川と五組のクラスの幹事、元サッカー部の戸次だった。
「湯川さん、お疲れ様。えっと……戸次君も」
「やっと一息つけるよー」
湯川が大袈裟に肩の力を抜くと、戸次も「うん、疲れたー」と言って大きく頷いた。その様子を見て七海は少し反省した。走り回っている幹事は大変そうだ。注目される事ぐらいで『疲れた』などと愚痴を言っている場合ではないな、と。
加藤、七海、黛と並んだテーブルの向かい側に、湯川と戸次が並んで腰を掛けた。
先ほど黛に名前を忘れられてショックを受けていた戸次は、もうケロリとしていて身を乗り出して黛に話しかけ出した。
黛も徐々に彼に関する記憶を取り戻しつつあるようで、特に嫌な顔もせず聞かれた事に答えたり、相手の話に言葉少なながらも頷いたりしている。
この為七海も、元クラスメイトの女子トークに専念する事が出来た。他愛無い世間話や昔話に興じ、やっと二次会を楽しめる心の余裕も出て来たと思ったところで話の矛先が七海と黛、二人の結婚に再び向き始めた。
「……だけど、吃驚したよ~。まさか黛君と江島さんが元サヤに収まるとはねぇ」
加藤が溜息を吐いて、カクテルに口を付ける。現在加藤はフリーなので結婚と言う目標に辿り着いた七海が羨ましくてしょうがない、と漏らした。
「湯川さんは知ってたの?」
「ほんのちょっと前だけどね。鹿島さんと江島さんに受付お願いした時に聞いたんだよね」
七海は湯川に笑顔を向けられて、コクリと頷いた。
「でも意外~!だって黛君ってモデルとかスゴイ美女と付き合ってたって聞いてたから……あっ!ゴメン!」
今の加藤の台詞は嫌味で言った訳では無いのが声の調子で明らかだったので、七海は大丈夫だと言う意味を込めて首を振った。幸い隣の黛は戸次の質問攻めに対応していて気が付いていないようだった。加藤は遠野と付き合っていたのだから、きっと彼から黛の交際相手について聞き及んでいたのだろうと七海は考えた。
「私は、何となくこうなる可能性は想像していたよ」
湯川が加藤の台詞を聞き流しつつ、やけにキッパリと言い切った。
相変わらず彼女は落ち着いているなあ、と七海は感心しつつ首を傾げる。あの頃も黛と七海は二週間だけの付き合いで、まるっきり友達としてしか関わっていない。それに黛は七海の後にも様々なタイプの女子に告白されて付き合っていた。
加藤も理解し難い様子で、訝し気に眉を寄せた。
「……何でそう思ったの?」
加藤の問いかけに湯川はニコリと笑って返事をした。
「だって私の見てる範囲で黛が自分から話し掛けてるのって、学校では本田か鹿島さんか江島さんしかいなかったから。本田と鹿島さんは幼馴染だから仕方ないとして……わざわざクラスに来てまで怒られに来てさぁ、小学生が好きな子揶揄ってるだけにしか見えなかったよ」
「んん?……ああ、そう言えばよくウチのクラスに来てたねぇ。鹿島さんに会いに来てたんだと思ってたけど……」
「鹿島さんの事はあんまり揶揄ったりしないんだよね、黛って」
「そっかー、あの時は『鹿島さん黛君に大事にされてるなぁ』って思ってたけど。小学生視点って考えると……確かにそう思えない事もないかな?」
湯川と加藤の言葉のキャッチボールに七海は口を噤むしかない。自分と夫の恋愛事情を目の前で話されている状況って、恥ずかしい事この上ない……と改めて思った。
「だけど、黛君っていっつも彼女いたよね」
加藤がもっともな疑問を口にした。七海も思わず頷いてしまう。あの状況で自分の事を気にしているなどと思える訳がない、と。
「だからガキだって言うの。確かに本人は自分の気持ちに気が付いてないのかもしれないけれど……自分の気持ちも把握できずにフラフラしている奴には江島さんは勿体無いなぁって思ったから、あの時は黙ってたのよ。『残念な奴だなぁ』ってね。まあ、結局結婚までしちゃったし、江島さん当人が納得しているんならもう文句を言う筋合いも無いけどね」
ニコリと微笑まれて、七海は思わず頬を染めてしまう。高校の頃から視野が広い大人っぽい人だと、湯川には一目置いていたが―――どうやら思っていた以上に彼女は大人だったようだ。
「おっとなー……」
「湯川さん、なんかカッコイイ……!」
加藤が感心したように呟き、七海が思わずキュンとして空いている手を胸に当てる。
すると周りに集まって来ているサッカー部員らしい男性陣の話に耳を傾けていた黛にグイッと手を引かれた。不穏な空気を察知したのか、ギュッと握った手に力を込められてしまう。疚しい所は何も無い筈なのに、ちょっとトキめいてしまった事が後ろめたくて「七海?」と、訝し気な視線を向けられた彼女は「アハハ、何でもないヨ~」とカタコトめいた乾いた返答で誤魔化したのだった。
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黛には危険を察知するセンサーが付いています。七海関連で鋭敏に反応……。
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