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後日談 黛家の新婚さん2
(85)挨拶に来ました
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久し振りの登場です。
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黛と龍一が仕事で出ている土曜日。玲子は渡米前に土産物などの買い出しに出掛け、七海は独りでのんびりソファーに横になって、音楽を聴きつつウトウトしていた。
ピンポーン。
そこに来客を告げるチャイムが鳴ったので、七海はトコトコとインターフォンに近付き通話ボタンを押した。すると、慣れ親しんだ声が其処から飛び出して来る。
「七海?」
「あれ?……唯!」
何故か共用玄関を既に突破した唯が、直接黛家の家の前まで辿り着いていた。
通常ならここに辿り着く前に、インターフォンの呼び出しに応じて共用玄関の鍵を開ける手順がある筈なのに。
(誰かここのマンションの人と一緒に入って来たのかな?)
昼間はコンシェルジュがいるので、そういう行為は監視され止められる筈だった。悪質な悪戯や不審者の侵入を防ぐ為だ。七海は首を傾げる。
玄関の扉をガチャリと空けると、小さな紙袋を持った唯がニコニコしながら立っていた。
「来ちゃった。連絡ナシにゴメンね?」
「ううん、嬉しいよ。でもよく共用玄関、通れたね?」
「うん。鍵持ってるから」
鍵?七海は更に首を捻った。
「エントランスの?」
「うん。はい、コレどうぞ」
「?」
唯から受け取った紙袋の中を覗くと、近所の蕎麦屋が販売している生蕎麦セットが入っていた。
「……お蕎麦?」
「うん、引っ越しの挨拶です」
「え?」
「このマンションに越して来た『本田』です。これからお世話になりますので、よろしくお願いします」
ペコリとやや律儀に行儀良く、唯が頭を下げた。
それから頭を起こし―――目をまん丸に見開いた七海に向かって、にこっと満足気に微笑んだのだった。
「な、な―――えええ!」
七海は思わず玄関先で卒倒しそうになってしまった。
貧血気味だったので、割と本気で。
唯を居間に案内し、七海はキッチンの冷蔵庫に生蕎麦をしまう。そうしてソファに座る唯に声を掛けた。
「ペットボトルの麦茶でも良い?」
「あ、うん。アリガト~!」
カフェインレスの麦茶をグラスに入れて、常備してあった羊羹を切って居間へ運ぶ。
妊婦にはカフェインは厳禁だ。そしてこれも悪阻なのか……何故か羊羹ばかり食べたくなってしまった七海の為に、黛も玲子も―――それから意外にも龍一も、たびたび羊羹をお土産に買って来るようになった。そういう訳で、食料庫のストックの籠には現在ありとあらゆる種類の羊羹が取り揃えられている。
ソファに座って羊羹を食べお茶を飲み、一旦落ち着いた所で七海は唯に切り出した。
「引っ越して―――来たの?ここに?」
「うん、この間空室が出たから信君が押さえて置いてくれたの」
「もしかしてここって……」
「そう、本田家の不動産なの。式の後入る新居を探していたんだけど、ちょうどここが空いたから賃貸する事にしたんだ。ポンちゃんと黛君が連絡取り合って相談したみたい。二人ともお仕事で留守にする事が多いから、何かあっても同じマンションだったら心強いからって」
「う、うわ~~……」
七海の胸は一杯になった。
唯が悪戯っぽい瞳で、そんな七海の顔を覗き込み、ピースサインを作った。
「どう?サプライズ!……びっくりした?」
「び、吃驚し過ぎて……嬉し過ぎだよ~!」
泣き笑いのような表情になってしまった。
「サプライズ、大成功だね!」
と唯が笑った。
つられて七海も笑ってしまう。
ちなみに表札は『本田』だが、入籍は三月後半の唯の誕生日を予定しているらしい。
お返しに自分の妊娠を告げると、唯は「悔しい!サプライズ、即座に仕返しされた!」とあまり悔しく無さそうにまた笑い出したのだった。
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少々ご都合主義的な展開に(^^;)
留守がちな夫達も、これで安心して仕事に専念できそうです。
お読みいただき、有難うございました。
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黛と龍一が仕事で出ている土曜日。玲子は渡米前に土産物などの買い出しに出掛け、七海は独りでのんびりソファーに横になって、音楽を聴きつつウトウトしていた。
ピンポーン。
そこに来客を告げるチャイムが鳴ったので、七海はトコトコとインターフォンに近付き通話ボタンを押した。すると、慣れ親しんだ声が其処から飛び出して来る。
「七海?」
「あれ?……唯!」
何故か共用玄関を既に突破した唯が、直接黛家の家の前まで辿り着いていた。
通常ならここに辿り着く前に、インターフォンの呼び出しに応じて共用玄関の鍵を開ける手順がある筈なのに。
(誰かここのマンションの人と一緒に入って来たのかな?)
昼間はコンシェルジュがいるので、そういう行為は監視され止められる筈だった。悪質な悪戯や不審者の侵入を防ぐ為だ。七海は首を傾げる。
玄関の扉をガチャリと空けると、小さな紙袋を持った唯がニコニコしながら立っていた。
「来ちゃった。連絡ナシにゴメンね?」
「ううん、嬉しいよ。でもよく共用玄関、通れたね?」
「うん。鍵持ってるから」
鍵?七海は更に首を捻った。
「エントランスの?」
「うん。はい、コレどうぞ」
「?」
唯から受け取った紙袋の中を覗くと、近所の蕎麦屋が販売している生蕎麦セットが入っていた。
「……お蕎麦?」
「うん、引っ越しの挨拶です」
「え?」
「このマンションに越して来た『本田』です。これからお世話になりますので、よろしくお願いします」
ペコリとやや律儀に行儀良く、唯が頭を下げた。
それから頭を起こし―――目をまん丸に見開いた七海に向かって、にこっと満足気に微笑んだのだった。
「な、な―――えええ!」
七海は思わず玄関先で卒倒しそうになってしまった。
貧血気味だったので、割と本気で。
唯を居間に案内し、七海はキッチンの冷蔵庫に生蕎麦をしまう。そうしてソファに座る唯に声を掛けた。
「ペットボトルの麦茶でも良い?」
「あ、うん。アリガト~!」
カフェインレスの麦茶をグラスに入れて、常備してあった羊羹を切って居間へ運ぶ。
妊婦にはカフェインは厳禁だ。そしてこれも悪阻なのか……何故か羊羹ばかり食べたくなってしまった七海の為に、黛も玲子も―――それから意外にも龍一も、たびたび羊羹をお土産に買って来るようになった。そういう訳で、食料庫のストックの籠には現在ありとあらゆる種類の羊羹が取り揃えられている。
ソファに座って羊羹を食べお茶を飲み、一旦落ち着いた所で七海は唯に切り出した。
「引っ越して―――来たの?ここに?」
「うん、この間空室が出たから信君が押さえて置いてくれたの」
「もしかしてここって……」
「そう、本田家の不動産なの。式の後入る新居を探していたんだけど、ちょうどここが空いたから賃貸する事にしたんだ。ポンちゃんと黛君が連絡取り合って相談したみたい。二人ともお仕事で留守にする事が多いから、何かあっても同じマンションだったら心強いからって」
「う、うわ~~……」
七海の胸は一杯になった。
唯が悪戯っぽい瞳で、そんな七海の顔を覗き込み、ピースサインを作った。
「どう?サプライズ!……びっくりした?」
「び、吃驚し過ぎて……嬉し過ぎだよ~!」
泣き笑いのような表情になってしまった。
「サプライズ、大成功だね!」
と唯が笑った。
つられて七海も笑ってしまう。
ちなみに表札は『本田』だが、入籍は三月後半の唯の誕生日を予定しているらしい。
お返しに自分の妊娠を告げると、唯は「悔しい!サプライズ、即座に仕返しされた!」とあまり悔しく無さそうにまた笑い出したのだった。
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少々ご都合主義的な展開に(^^;)
留守がちな夫達も、これで安心して仕事に専念できそうです。
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