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後日談 黛家の新婚さん2
(67)二人は仲良し?
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(66)話の続きです。
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「何でお前がここにいる」
「片山、昨日飲み会で潰れちゃってさ。アイツに代わりに出てくれって頼まれたんだ」
「そんな偶然、ある訳無いだろう」
黛は憮然として遠野を睨みつけた。声を掛けた片山の代わりに最後に会場に現れたのは遠野だった。黛はわざわざ遠野を避けて、独身でフリーの研修医のみに声を掛けていたので、まさかこの場に彼が現れるなどと思ってはいなかったのだ。
「それが意外とあるんだな」
遠野と片山が飲み会で一緒になった事自体は、確かに偶然だった。以前気合を入れて参加した飲み会でスプラッタ話を自慢げに披露して一斉に女性陣に引かれてしまった経歴を持つ片山は、今回のランチ合コンに期待するあまり緊張して飲み過ぎてしまったのだ。それを面白がって煽ってしまったのは遠野なのだが―――実際飲んだのは片山自身の選択なのだから、と責任は全く感じていない。結果として珍しく男性をお持ち帰りしてしまった遠野が「俺が代わりに出てやるから休んどけ」と、眠る片山のスマホにメッセージを残して置き去りにしたのは、仕方の無い事だろう……と彼自身は自分に好意的にそう考えている。
片山は遠野のマンションの寝心地の良いベッドで、そんな事になっているとは露知らず、合コンで上手い冗談を飛ばしてモテまくる自分……と言う良い夢を見ながらスヤスヤ眠っている所である。
「なあ?江島と再会したのも偶然だったしな」
「え?あ、うん。そうだね」
身を乗り出し黛の向かいに座る七海にニッコリと笑い掛ける遠野に、彼女は曖昧に笑って返事をした。
「近づくな」
グイっと遠野を押し戻し、黛は眉を顰めた。
「お前意外と心が狭いな。……前はそんなに嫉妬深い人間じゃ無かったのに」
楽しそうに遠野が漏らすと、黛は絶対零度の眼差しを向けた。
「よっぽど昔話がしたいみたいだな―――いいだろう、俺もタップリお前の昔話がしたかったんだ……」
「―――!―――っと、言うのは冗談で……ええと、あっ、幹事のかほりちゃん?そろそろ席替えしないか?」
黛が低い声で呟くと遠野は斜め向かいに座る小日向に笑顔を向け、慌てて話題を変えた。こういう展開に予想が付いている筈なのに何故何度も同じ過ちを繰り返すのか。と黛は訝し気に遠野を睨んだ。
「……懲りない奴」
黛の呟きを拾った七海が、クスリと笑った。
「やっぱり仲良いよね?」
「『くされ縁』だって言ってるだろ」
嫌そうな顔をしているが、こうまで遠野のように黛に積極的に関わって来る同性の人間は珍しいと、七海は思った。
高校までの黛の人間関係は、本田と唯との間のものを除けば非常に淡泊だったように思う。黛は一般的な生徒達からは完全に浮いていた。性格の所為もあるが、頭が良すぎて周りの皆と視点が違うのが問題だったのかもしれない、と今更ながら七海はそう分析している。黛の言葉はなんというか非常に合理的過ぎで率直で、若くて弱い人間には苦い薬か毒のようにしか感じられないだろう、と大人になった今ではそう考えられるようになった。
医大や職場では余程濃密な時間を過ごしているのだなぁ、と七海は思う。黛が以前「女としては全く好みじゃない」と言い放った加藤との間でさえ、長く付き合った親し気な雰囲気が漂っていたように思う。率直過ぎて極端な物言いが黛に似ているとも思った。彼女もきっと普通の学校では浮いていただろうと―――七海は想像した。きっと彼の大学や職場には……割と黛と似た、頭が良くてちょっと人間関係に不器用な人間が多いのかもしれないと彼女は思った。
比較的一匹狼のような雰囲気を持っていた黛だが、今では同じ目的を持った仲間に囲まれて人との関わりを自然と持てる人間に成長したのかもしれない。
それは七海と黛の間に育まれたモノと大分形が違うのだろうが……ある意味、強い繋がりなのだろうとも思う。
それが証拠に高校の時なら絶対黛がやらないであろう、合コンの人集めもしてくれたのだ。単に年齢と経験を重ねて成長した―――と言う以上に、七海と離れている間に黛は色々な経験を重ねて来たのだろうと、考えた。
七海は少し身を乗り出して、周りに聞こえないように囁いた。
「なんか嫉妬しちゃうなぁ」
そう冗談のつもりで言ってニコリと笑うと、黛は眉を顰めた。何となく予想と違う反応が返って来たので、七海は彼の言葉を黙って待つことにした。すると盛大に嫌そうな顔をした黛が、真剣な声でこう言ったのだった。
「俺はゲイじゃないからな……!」
知ってるし。
……と、七海は心の中で突っ込んだのだった。
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『二人は仲良し?』の二人は、遠野と黛でした……。
黛と遠野のゲイ疑惑は、職場の飲み会の定番ネタとなりました。
一時期それを利用していた黛も、長引くネタに最近辟易しがち。
お読みいただき、有難うございました。
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「何でお前がここにいる」
「片山、昨日飲み会で潰れちゃってさ。アイツに代わりに出てくれって頼まれたんだ」
「そんな偶然、ある訳無いだろう」
黛は憮然として遠野を睨みつけた。声を掛けた片山の代わりに最後に会場に現れたのは遠野だった。黛はわざわざ遠野を避けて、独身でフリーの研修医のみに声を掛けていたので、まさかこの場に彼が現れるなどと思ってはいなかったのだ。
「それが意外とあるんだな」
遠野と片山が飲み会で一緒になった事自体は、確かに偶然だった。以前気合を入れて参加した飲み会でスプラッタ話を自慢げに披露して一斉に女性陣に引かれてしまった経歴を持つ片山は、今回のランチ合コンに期待するあまり緊張して飲み過ぎてしまったのだ。それを面白がって煽ってしまったのは遠野なのだが―――実際飲んだのは片山自身の選択なのだから、と責任は全く感じていない。結果として珍しく男性をお持ち帰りしてしまった遠野が「俺が代わりに出てやるから休んどけ」と、眠る片山のスマホにメッセージを残して置き去りにしたのは、仕方の無い事だろう……と彼自身は自分に好意的にそう考えている。
片山は遠野のマンションの寝心地の良いベッドで、そんな事になっているとは露知らず、合コンで上手い冗談を飛ばしてモテまくる自分……と言う良い夢を見ながらスヤスヤ眠っている所である。
「なあ?江島と再会したのも偶然だったしな」
「え?あ、うん。そうだね」
身を乗り出し黛の向かいに座る七海にニッコリと笑い掛ける遠野に、彼女は曖昧に笑って返事をした。
「近づくな」
グイっと遠野を押し戻し、黛は眉を顰めた。
「お前意外と心が狭いな。……前はそんなに嫉妬深い人間じゃ無かったのに」
楽しそうに遠野が漏らすと、黛は絶対零度の眼差しを向けた。
「よっぽど昔話がしたいみたいだな―――いいだろう、俺もタップリお前の昔話がしたかったんだ……」
「―――!―――っと、言うのは冗談で……ええと、あっ、幹事のかほりちゃん?そろそろ席替えしないか?」
黛が低い声で呟くと遠野は斜め向かいに座る小日向に笑顔を向け、慌てて話題を変えた。こういう展開に予想が付いている筈なのに何故何度も同じ過ちを繰り返すのか。と黛は訝し気に遠野を睨んだ。
「……懲りない奴」
黛の呟きを拾った七海が、クスリと笑った。
「やっぱり仲良いよね?」
「『くされ縁』だって言ってるだろ」
嫌そうな顔をしているが、こうまで遠野のように黛に積極的に関わって来る同性の人間は珍しいと、七海は思った。
高校までの黛の人間関係は、本田と唯との間のものを除けば非常に淡泊だったように思う。黛は一般的な生徒達からは完全に浮いていた。性格の所為もあるが、頭が良すぎて周りの皆と視点が違うのが問題だったのかもしれない、と今更ながら七海はそう分析している。黛の言葉はなんというか非常に合理的過ぎで率直で、若くて弱い人間には苦い薬か毒のようにしか感じられないだろう、と大人になった今ではそう考えられるようになった。
医大や職場では余程濃密な時間を過ごしているのだなぁ、と七海は思う。黛が以前「女としては全く好みじゃない」と言い放った加藤との間でさえ、長く付き合った親し気な雰囲気が漂っていたように思う。率直過ぎて極端な物言いが黛に似ているとも思った。彼女もきっと普通の学校では浮いていただろうと―――七海は想像した。きっと彼の大学や職場には……割と黛と似た、頭が良くてちょっと人間関係に不器用な人間が多いのかもしれないと彼女は思った。
比較的一匹狼のような雰囲気を持っていた黛だが、今では同じ目的を持った仲間に囲まれて人との関わりを自然と持てる人間に成長したのかもしれない。
それは七海と黛の間に育まれたモノと大分形が違うのだろうが……ある意味、強い繋がりなのだろうとも思う。
それが証拠に高校の時なら絶対黛がやらないであろう、合コンの人集めもしてくれたのだ。単に年齢と経験を重ねて成長した―――と言う以上に、七海と離れている間に黛は色々な経験を重ねて来たのだろうと、考えた。
七海は少し身を乗り出して、周りに聞こえないように囁いた。
「なんか嫉妬しちゃうなぁ」
そう冗談のつもりで言ってニコリと笑うと、黛は眉を顰めた。何となく予想と違う反応が返って来たので、七海は彼の言葉を黙って待つことにした。すると盛大に嫌そうな顔をした黛が、真剣な声でこう言ったのだった。
「俺はゲイじゃないからな……!」
知ってるし。
……と、七海は心の中で突っ込んだのだった。
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『二人は仲良し?』の二人は、遠野と黛でした……。
黛と遠野のゲイ疑惑は、職場の飲み会の定番ネタとなりました。
一時期それを利用していた黛も、長引くネタに最近辟易しがち。
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