上 下
179 / 363
後日談 黛家の新婚さん2

(57)ごめんなさい

しおりを挟む
(56)話の後のお話です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


泊まりで遊びに来ていた唯が帰った後、なかなか抜けきらなかったアルコールとアセトアルデヒドが徐々に昇華して行き、漸く正気を取り戻した七海は自分の行動を改めて振り返って蒼ざめた。

(私けっこう酷くない?……いや、相当酷いかも)

黛家の人間が全て不在になる予定で、何となく寂しくなって唯に泊まりに来て貰った。久し振りに会って話し込んでいるうちに飲み過ぎてしまい、いつの間にか朝が来ていた。倒れ込むように布団に入って暫く眠ったものの起き上がっても具合が悪く、ダイニングテーブルに突っ伏してしまった。唯も右に同じなようで二人で頭を抱えていると、そこへ当直上がりの黛が帰宅した。
そんな妻たちの醜態に少し驚いた顔を見せたものの「冷たいままだと吸収しづらいから」とスポーツドリンクを温めて渡してくれた。

なのに「ありがとう」と言った後、掌を返したように無神経な台詞を繰り返してしまった。

『スゴイ……黛君が人に気を使っている……』
『うん、そうでしょ。結構黛君って人に気を使えるんだよ……』
『すごーい』
『ねー、すごいよね~』
『意外~黛君っていい旦那さまなんだなね~』
『そうなの!意外でしょー?』

唯が驚くのは分かるが、七海がそれに乗っかるのはどうなのか。あの台詞はどう考えても寝不足をおして妻たちの世話を焼いた夫を気遣うものから遠く離れていた……。

(うわ~~、本当に申し訳ないっっ)

幸せに胡坐を掻いてしまってはいけない。七海は黛の起床をまんじりともせず待っていた。
するとダイニングにパジャマ姿の黛が現れた。

「おはよー」

声音に怒りが隠れていないか、ついドキドキしながら注意深く聞いてしまう。
取りあえずそのような気配は感じられなかったので、七海はホッと胸を撫で下ろした。

「おはよう、もう少しでご飯出来るよ」
「じゃ、シャワー浴びて来る」

そうして黛が浴室に入って行った後、七海は食卓を整える事に集中した。






**  **  **






シャワーを終えた黛がダイニングに現れた。

「お、いー匂い!」
「チーズ雑炊だよ、簡単でゴメンね」

土鍋にご飯とコンソメ、擦り下ろした玉ねぎを入れてシュレッドチーズをたっぷり掛け、グツグツ煮る。仕上げに粉チーズを振りかけ、食べる直前に粒胡椒をガリガリ挽いて完成だ。簡単だけど、食欲があまり無い時でも食べられる七海の家の養生食だった。
スープ皿に取り分けてレンゲと一緒に渡すと、黛が「いただきまっす」と言ってレンゲに掬った雑炊に息を吹き掛けつつ食べ始めた。

「美味い!」
「良かった、口に合って」

嬉しそうに言う黛に、七海の頬も思わず緩む。
少し気持ちが落ち着いた所で、勇気を出して謝罪の気持ちを述べる事にした。

「あの……黛君、今朝は……ごめんなさい」
「ん?……なんかあったっけ?」
「あのね、酔っぱらっちゃってゴメン。黛君疲れているのに……ドリンク温めてくれて助かったよ。それなのに『意外だ』とか言ったりして、その……」
「ああ、そんな事か」

黛が気にしていない事に安堵したが、七海は同時にもっと心苦しい気持ちになってしまった。

「あのっ……本当に悪かったと思ってるの。黛君がイイって言ってくれても気になるから―――そうだ、黛君が何かして欲しい事とかあったら何でもするし。食べたいものがあったらつくるし、疲れているだろうからマッサージとか……」

其処まで七海が口走った時、黛がピクリと動きを止めた。
あれ?と思ってパチクリと瞬きをした七海の目の前に、ニンマリとそれは楽しそうに笑う―――美男イケメンが。



「……『何でも』?」



笑顔なのにその眼光の鋭さは何なのか。
七海は自分の失言に気が付いたが、後に引けずにゴクリと唾を飲み込んだ。

「え……と」
「『何でも』してくれるんだ!そっか……楽しみだな」
「……!」

頷きつつも表情を強張らせ―――悪い予感に額にじんわりと汗を掻いてしまう七海であった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

七海は自らを窮地に追い込んでしまったようです。
黛は朝の事をあまり気にしていなかったので、棚から牡丹餅みたいな気分でその日は一日ウキウキして、七海を揶揄って遊びました。

お読みいただき、有難うございました。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

処理中です...