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後日談 黛家の新婚さん2
(57)ごめんなさい
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(56)話の後のお話です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
泊まりで遊びに来ていた唯が帰った後、なかなか抜けきらなかったアルコールとアセトアルデヒドが徐々に昇華して行き、漸く正気を取り戻した七海は自分の行動を改めて振り返って蒼ざめた。
(私けっこう酷くない?……いや、相当酷いかも)
黛家の人間が全て不在になる予定で、何となく寂しくなって唯に泊まりに来て貰った。久し振りに会って話し込んでいるうちに飲み過ぎてしまい、いつの間にか朝が来ていた。倒れ込むように布団に入って暫く眠ったものの起き上がっても具合が悪く、ダイニングテーブルに突っ伏してしまった。唯も右に同じなようで二人で頭を抱えていると、そこへ当直上がりの黛が帰宅した。
そんな妻たちの醜態に少し驚いた顔を見せたものの「冷たいままだと吸収しづらいから」とスポーツドリンクを温めて渡してくれた。
なのに「ありがとう」と言った後、掌を返したように無神経な台詞を繰り返してしまった。
『スゴイ……黛君が人に気を使っている……』
『うん、そうでしょ。結構黛君って人に気を使えるんだよ……』
『すごーい』
『ねー、すごいよね~』
『意外~黛君っていい旦那さまなんだなね~』
『そうなの!意外でしょー?』
唯が驚くのは分かるが、七海がそれに乗っかるのはどうなのか。あの台詞はどう考えても寝不足をおして妻たちの世話を焼いた夫を気遣うものから遠く離れていた……。
(うわ~~、本当に申し訳ないっっ)
幸せに胡坐を掻いてしまってはいけない。七海は黛の起床をまんじりともせず待っていた。
するとダイニングにパジャマ姿の黛が現れた。
「おはよー」
声音に怒りが隠れていないか、ついドキドキしながら注意深く聞いてしまう。
取りあえずそのような気配は感じられなかったので、七海はホッと胸を撫で下ろした。
「おはよう、もう少しでご飯出来るよ」
「じゃ、シャワー浴びて来る」
そうして黛が浴室に入って行った後、七海は食卓を整える事に集中した。
** ** **
シャワーを終えた黛がダイニングに現れた。
「お、いー匂い!」
「チーズ雑炊だよ、簡単でゴメンね」
土鍋にご飯とコンソメ、擦り下ろした玉ねぎを入れてシュレッドチーズをたっぷり掛け、グツグツ煮る。仕上げに粉チーズを振りかけ、食べる直前に粒胡椒をガリガリ挽いて完成だ。簡単だけど、食欲があまり無い時でも食べられる七海の家の養生食だった。
スープ皿に取り分けてレンゲと一緒に渡すと、黛が「いただきまっす」と言ってレンゲに掬った雑炊に息を吹き掛けつつ食べ始めた。
「美味い!」
「良かった、口に合って」
嬉しそうに言う黛に、七海の頬も思わず緩む。
少し気持ちが落ち着いた所で、勇気を出して謝罪の気持ちを述べる事にした。
「あの……黛君、今朝は……ごめんなさい」
「ん?……なんかあったっけ?」
「あのね、酔っぱらっちゃってゴメン。黛君疲れているのに……ドリンク温めてくれて助かったよ。それなのに『意外だ』とか言ったりして、その……」
「ああ、そんな事か」
黛が気にしていない事に安堵したが、七海は同時にもっと心苦しい気持ちになってしまった。
「あのっ……本当に悪かったと思ってるの。黛君がイイって言ってくれても気になるから―――そうだ、黛君が何かして欲しい事とかあったら何でもするし。食べたいものがあったらつくるし、疲れているだろうからマッサージとか……」
其処まで七海が口走った時、黛がピクリと動きを止めた。
あれ?と思ってパチクリと瞬きをした七海の目の前に、ニンマリとそれは楽しそうに笑う―――美男が。
「……『何でも』?」
笑顔なのにその眼光の鋭さは何なのか。
七海は自分の失言に気が付いたが、後に引けずにゴクリと唾を飲み込んだ。
「え……と」
「『何でも』してくれるんだ!そっか……楽しみだな」
「……!」
頷きつつも表情を強張らせ―――悪い予感に額にじんわりと汗を掻いてしまう七海であった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
七海は自らを窮地に追い込んでしまったようです。
黛は朝の事をあまり気にしていなかったので、棚から牡丹餅みたいな気分でその日は一日ウキウキして、七海を揶揄って遊びました。
お読みいただき、有難うございました。
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泊まりで遊びに来ていた唯が帰った後、なかなか抜けきらなかったアルコールとアセトアルデヒドが徐々に昇華して行き、漸く正気を取り戻した七海は自分の行動を改めて振り返って蒼ざめた。
(私けっこう酷くない?……いや、相当酷いかも)
黛家の人間が全て不在になる予定で、何となく寂しくなって唯に泊まりに来て貰った。久し振りに会って話し込んでいるうちに飲み過ぎてしまい、いつの間にか朝が来ていた。倒れ込むように布団に入って暫く眠ったものの起き上がっても具合が悪く、ダイニングテーブルに突っ伏してしまった。唯も右に同じなようで二人で頭を抱えていると、そこへ当直上がりの黛が帰宅した。
そんな妻たちの醜態に少し驚いた顔を見せたものの「冷たいままだと吸収しづらいから」とスポーツドリンクを温めて渡してくれた。
なのに「ありがとう」と言った後、掌を返したように無神経な台詞を繰り返してしまった。
『スゴイ……黛君が人に気を使っている……』
『うん、そうでしょ。結構黛君って人に気を使えるんだよ……』
『すごーい』
『ねー、すごいよね~』
『意外~黛君っていい旦那さまなんだなね~』
『そうなの!意外でしょー?』
唯が驚くのは分かるが、七海がそれに乗っかるのはどうなのか。あの台詞はどう考えても寝不足をおして妻たちの世話を焼いた夫を気遣うものから遠く離れていた……。
(うわ~~、本当に申し訳ないっっ)
幸せに胡坐を掻いてしまってはいけない。七海は黛の起床をまんじりともせず待っていた。
するとダイニングにパジャマ姿の黛が現れた。
「おはよー」
声音に怒りが隠れていないか、ついドキドキしながら注意深く聞いてしまう。
取りあえずそのような気配は感じられなかったので、七海はホッと胸を撫で下ろした。
「おはよう、もう少しでご飯出来るよ」
「じゃ、シャワー浴びて来る」
そうして黛が浴室に入って行った後、七海は食卓を整える事に集中した。
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シャワーを終えた黛がダイニングに現れた。
「お、いー匂い!」
「チーズ雑炊だよ、簡単でゴメンね」
土鍋にご飯とコンソメ、擦り下ろした玉ねぎを入れてシュレッドチーズをたっぷり掛け、グツグツ煮る。仕上げに粉チーズを振りかけ、食べる直前に粒胡椒をガリガリ挽いて完成だ。簡単だけど、食欲があまり無い時でも食べられる七海の家の養生食だった。
スープ皿に取り分けてレンゲと一緒に渡すと、黛が「いただきまっす」と言ってレンゲに掬った雑炊に息を吹き掛けつつ食べ始めた。
「美味い!」
「良かった、口に合って」
嬉しそうに言う黛に、七海の頬も思わず緩む。
少し気持ちが落ち着いた所で、勇気を出して謝罪の気持ちを述べる事にした。
「あの……黛君、今朝は……ごめんなさい」
「ん?……なんかあったっけ?」
「あのね、酔っぱらっちゃってゴメン。黛君疲れているのに……ドリンク温めてくれて助かったよ。それなのに『意外だ』とか言ったりして、その……」
「ああ、そんな事か」
黛が気にしていない事に安堵したが、七海は同時にもっと心苦しい気持ちになってしまった。
「あのっ……本当に悪かったと思ってるの。黛君がイイって言ってくれても気になるから―――そうだ、黛君が何かして欲しい事とかあったら何でもするし。食べたいものがあったらつくるし、疲れているだろうからマッサージとか……」
其処まで七海が口走った時、黛がピクリと動きを止めた。
あれ?と思ってパチクリと瞬きをした七海の目の前に、ニンマリとそれは楽しそうに笑う―――美男が。
「……『何でも』?」
笑顔なのにその眼光の鋭さは何なのか。
七海は自分の失言に気が付いたが、後に引けずにゴクリと唾を飲み込んだ。
「え……と」
「『何でも』してくれるんだ!そっか……楽しみだな」
「……!」
頷きつつも表情を強張らせ―――悪い予感に額にじんわりと汗を掻いてしまう七海であった。
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七海は自らを窮地に追い込んでしまったようです。
黛は朝の事をあまり気にしていなかったので、棚から牡丹餅みたいな気分でその日は一日ウキウキして、七海を揶揄って遊びました。
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