178 / 363
後日談 黛家の新婚さん2
(56)お泊り会で
しおりを挟む
唯が泊まりに来ました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お風呂から上がり部屋着に着替えた二人はダイニングで、女子会をスタートさせた。
最近ついつい選んでしまうシードルで乾杯する。
チーズと粗びきソーセージ、それからアボカドとマグロの和え物―――統一性は無いが、自分達の好きな物ばかり並べていた食卓は目に鮮やかで食欲をそそる。
「え!じゃあ、お仕事辞めちゃうの?」
「うん」
ポリっと粗びきソーセージを齧りながら、唯は頷いた。
「なんか勿体無いなぁ、あんなに頑張っていたのに」
大学から本田と別の進路を歩んだ唯は、意外に自分に合った職業に辿り着いた。旅行会社で仕事に邁進し更に通訳案内士の資格取得のため、英検一級試験合格を目指し勉強を続けていた。美味しそう……と言う不純な動機でお菓子会社に就職した七海が、何となく仕事を続けているのに比べると仕事に掛ける情熱が違っていたように思えたので、彼女は余計にそう思ったのだ。
「どうして辞めようと思ったの?この間までは子供出来るまで続けるって言っていたのに」
「うーん……理由を一つに絞るのは難しいんだけど……」
唯は少し視線を上げて考えを纏めるように暫し言葉を切った。
「原点に戻ったのよ」
「原点?」
「そう、自分が一番やりたい事って何かなぁってね」
「やりたいこと……それは旅行会社の仕事では無いって事?」
「勿論それも仕事をして出来た私の『やりたい事』なんだけど……私はポンちゃんと一緒にいたいって言うのが一番だったから、その本能を優先する事にしたの」
「本能……」
「もともと外国語の勉強も……ポンちゃんが国際線を担当できるようになったら、その飛行機に乗って一緒に現地に着いて行こうって言う邪な動機からだったしね。思った以上に体に合っていて勉強も仕事も遣り甲斐感じて、のめり込んじゃったけど……」
「唯、楽しそうだったもんね」
「うん……本当は少なからず未練はあるんだよね。それにポンちゃんは気付いてて、ずっと仕事続けなよって言ってくれてたんだ。だけどこの間ポンちゃんの職場の人にいろいろ教えて貰って、やっぱり先ずポンちゃんを支えるのが先決かなって思ったの。ポンちゃんは大丈夫って言うけれど、やっぱりパイロットって大変みたい」
「そっかあ」
七海は唯の決断力にまたしても感心してしまう。
「なんか唯らしいね」
「そう?まあ、ポンちゃんも忙しいし仕事辞めるのはちょっと寂しいけど……結局英検落ちちゃったし、この機会に本腰入れて資格試験頑張ろうかなって。それにポンちゃんママのお仕事お手伝いするのもいいかも。不規則な仕事の旦那さんのお世話を優先させてくれる会社って、恵まれた環境だもんね」
「前向きだなあ」
「んーでも、ポンちゃん不在の間かなり寂しく感じちゃうと思うんだ、仕事無くなったら。だからそうなったら七海に構って貰おうかな~と、自分に都合の良い展開を期待しているんだけど……」
ペロッと舌を出してはにかむ唯に、七海は心臓を撃ち抜かれた。
「ナニソレ、こっちこそ大歓迎だよ……!ウエルカムですからっ」
「会社入ってから忙しくて頻繁に会えなかったもんね、結婚したらいっぱい遊ぼうね!せっかく七海もこっちに引っ越して来て家も近くなったんだし」
「うん!あ~……何だか唯の結婚式が待ちきれないんだけど」
「『待ちきれない』の意味変わって来てるね?」
それから二人で大笑いして、前祝いとばかりに乾杯を繰り返した。
** ** **
翌朝帰って来た黛は、二日酔いで動けなくなった二人を発見した。
「味まずいけど、ちょっとマシになるから飲んどけよ」
と言ってスポーツドリンクを温めて飲ませる黛に、二人は目を潤ませて礼を言った。
「スゴイ……黛君が人に気を使っている……」
「うん、そうでしょ。結構黛君って人に気を使えるんだよ……」
「すごーい」
「ねー、すごいよね~」
「意外~黛君っていい旦那さまなんだなね~」
「そうなの!意外でしょー?」
「……」
全然褒めてない。
黛はそう思ったが、とにかく眠過ぎるので―――取りあえずそんな二人を放置してベッドへ直行したのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
遠慮の無い女性陣でした。ヘロヘロなので本音がオブラートに包めないようです(笑)
もともとこういう気遣いは黛の初期設定なんですが、当直で疲れ切っているのに、二日酔いの妻たちのお世話を普通にできるのはかなり偉いかもしれません。
お読みいただき、有難うございました!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お風呂から上がり部屋着に着替えた二人はダイニングで、女子会をスタートさせた。
最近ついつい選んでしまうシードルで乾杯する。
チーズと粗びきソーセージ、それからアボカドとマグロの和え物―――統一性は無いが、自分達の好きな物ばかり並べていた食卓は目に鮮やかで食欲をそそる。
「え!じゃあ、お仕事辞めちゃうの?」
「うん」
ポリっと粗びきソーセージを齧りながら、唯は頷いた。
「なんか勿体無いなぁ、あんなに頑張っていたのに」
大学から本田と別の進路を歩んだ唯は、意外に自分に合った職業に辿り着いた。旅行会社で仕事に邁進し更に通訳案内士の資格取得のため、英検一級試験合格を目指し勉強を続けていた。美味しそう……と言う不純な動機でお菓子会社に就職した七海が、何となく仕事を続けているのに比べると仕事に掛ける情熱が違っていたように思えたので、彼女は余計にそう思ったのだ。
「どうして辞めようと思ったの?この間までは子供出来るまで続けるって言っていたのに」
「うーん……理由を一つに絞るのは難しいんだけど……」
唯は少し視線を上げて考えを纏めるように暫し言葉を切った。
「原点に戻ったのよ」
「原点?」
「そう、自分が一番やりたい事って何かなぁってね」
「やりたいこと……それは旅行会社の仕事では無いって事?」
「勿論それも仕事をして出来た私の『やりたい事』なんだけど……私はポンちゃんと一緒にいたいって言うのが一番だったから、その本能を優先する事にしたの」
「本能……」
「もともと外国語の勉強も……ポンちゃんが国際線を担当できるようになったら、その飛行機に乗って一緒に現地に着いて行こうって言う邪な動機からだったしね。思った以上に体に合っていて勉強も仕事も遣り甲斐感じて、のめり込んじゃったけど……」
「唯、楽しそうだったもんね」
「うん……本当は少なからず未練はあるんだよね。それにポンちゃんは気付いてて、ずっと仕事続けなよって言ってくれてたんだ。だけどこの間ポンちゃんの職場の人にいろいろ教えて貰って、やっぱり先ずポンちゃんを支えるのが先決かなって思ったの。ポンちゃんは大丈夫って言うけれど、やっぱりパイロットって大変みたい」
「そっかあ」
七海は唯の決断力にまたしても感心してしまう。
「なんか唯らしいね」
「そう?まあ、ポンちゃんも忙しいし仕事辞めるのはちょっと寂しいけど……結局英検落ちちゃったし、この機会に本腰入れて資格試験頑張ろうかなって。それにポンちゃんママのお仕事お手伝いするのもいいかも。不規則な仕事の旦那さんのお世話を優先させてくれる会社って、恵まれた環境だもんね」
「前向きだなあ」
「んーでも、ポンちゃん不在の間かなり寂しく感じちゃうと思うんだ、仕事無くなったら。だからそうなったら七海に構って貰おうかな~と、自分に都合の良い展開を期待しているんだけど……」
ペロッと舌を出してはにかむ唯に、七海は心臓を撃ち抜かれた。
「ナニソレ、こっちこそ大歓迎だよ……!ウエルカムですからっ」
「会社入ってから忙しくて頻繁に会えなかったもんね、結婚したらいっぱい遊ぼうね!せっかく七海もこっちに引っ越して来て家も近くなったんだし」
「うん!あ~……何だか唯の結婚式が待ちきれないんだけど」
「『待ちきれない』の意味変わって来てるね?」
それから二人で大笑いして、前祝いとばかりに乾杯を繰り返した。
** ** **
翌朝帰って来た黛は、二日酔いで動けなくなった二人を発見した。
「味まずいけど、ちょっとマシになるから飲んどけよ」
と言ってスポーツドリンクを温めて飲ませる黛に、二人は目を潤ませて礼を言った。
「スゴイ……黛君が人に気を使っている……」
「うん、そうでしょ。結構黛君って人に気を使えるんだよ……」
「すごーい」
「ねー、すごいよね~」
「意外~黛君っていい旦那さまなんだなね~」
「そうなの!意外でしょー?」
「……」
全然褒めてない。
黛はそう思ったが、とにかく眠過ぎるので―――取りあえずそんな二人を放置してベッドへ直行したのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
遠慮の無い女性陣でした。ヘロヘロなので本音がオブラートに包めないようです(笑)
もともとこういう気遣いは黛の初期設定なんですが、当直で疲れ切っているのに、二日酔いの妻たちのお世話を普通にできるのはかなり偉いかもしれません。
お読みいただき、有難うございました!
20
お気に入りに追加
1,357
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる