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後日談 黛家の新婚さん1

(40)誕生日プレゼント おまけ(★)

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(39)話で誕生日プレゼントを買ったその後の話。短いです。

※なろう版には掲載しておりません。

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誕生日間近のその日、お祝いのディナーをレストランで食べ終えて七海と黛はマンションに戻って来た。
黛を先にお風呂に入れて、七海は直ぐにスーツを脱いで皺にならないようにハンガーに掛ける事にした。クローゼットに吊るそうとして……何となく鏡の前に持って行って、体に当ててみる。

改めて見ても。それはなかなか……七海に似合っていた。

思わず七海の口元も綻ぶ。

何かを買って欲しいとも無駄使いして欲しいとも思った事は無かったが、こうして実際、素敵なプレゼントを贈られると―――どうしようもなく嬉しくなってしまう自分がいる。
真剣に七海の服を選んでいる黛を見た時は、意外過ぎて面食らったが……七海よりもずっと彼女に似合う服を選ぶセンスもあるようで、贈られたスーツを彼女はものすごく気に入ってしまった。

黛の誕生日だと言うのに逆にプレゼントを貰ってしまうとは。

半年恋人として付き合って来て、だんだん彼の事を理解出来るようになった気になっていたが……やはりまだまだ黛の考えを把握するのは、七海には難しいようだ。

七海はフフっと笑って、クローゼットの手前の風通しの良い場所にブラッシングしたスーツを掛けた。そしてそろそろ黛が出る頃合いだろうと、お風呂に入る為に着替えを一式手にして居間へと戻る事にした。
居間を覗くと、黛はちょうど風呂から出て来たところだったらしい。パジャマに着替えて首にタオルを掛けた状態で水を飲んでいる彼に、七海は一声かけた。

「黛君先に寝ててね。お風呂洗っちゃうから出るの時間掛かるかも」
「あ、スマン。ありがとう」

付き合ってから彼について知った事はやはり沢山あるな……と七海は思う。

黛は我儘だしマイペースだが、七海がやった事に対して割とこまめにお礼を言う。
付き合う前はそういう彼の習慣に気付く機会は殆ど無かった。勝手にヨモギ餅を二つ食べて「ウマかった」と事後に言われるくらいだったか。そもそも七海は黛に何かをして上げた事はあまり無かったかもしれない。頭突きで最後は有耶無耶になったが、酔った時家に連れ帰ったくらいで―――。

そう言えば。と改めて思った。

七海は黛に親切に助けて貰う事や、奢って貰う事の方が多かったかもしれない。お礼を言おうとするタイミングで、すかさず彼が七海を揶揄うので腹を立ててしまい……結局お礼も言えずに終わる事が何度かあった。

あれもひょっとして照れ隠しだったのだろうか……?と考えてみて、いや単に好きに振る舞っていただけかも……と首を振る。

やっぱり黛の考えている事はいまだによく分からない……と七海はお風呂に肩を沈めつつ、改めて思った。
よく分からないが―――彼は今日、ただ自分を思い遣ってくれたのかもしれない……と七海は考えた。逆プレゼントになってしまったのはきっと深い意味は無くて、ただプレゼントに何を選んで良いか悩んでいた七海を助けるつもりで言い出しただけなのだろう。

(黛君もけっこう優しい所あるよね)

七海は湯船でホカホカ温まりながら、クフフと笑った。






七海は知らなかった。黛が彼女を寝室で今か今かと待ち構えている事を。

そしてこの後、せっかく寛いだパジャマ姿でベッドに飛び込もうと思っていた七海に、黛が満面の笑顔でスーツを差し出し「誕生日プレゼントくれるんだろ?」とゴリ押しで着替えさせられ、いろんな角度から散々ジロジロ眺められた後、写真まで取られ―――その後美味しくいただかれてしまうなどという事は。

そうしてその夜……七海は『誕生日プレゼント』の意図を、散々思い知らされたのであった。


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久し振りに黛の我儘に振り回された七海でした。

お読みいただき、有難うございました。
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