上 下
111 / 363
後日談 黛先生の婚約者

(3)初めてのお泊り?(★)

しおりを挟む
R表現はありませんが、男性の生理現象に関する表現がありますので苦手な方は閲覧を回避願います。

※なろう版には掲載しておりません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 明日は休日と言うある日、まゆずみに合わせて七海が休みを取ってくれた。
 と言う訳で、初めてのお泊りである。



 玲子の知合いでサックスプレーヤーのメグが黛のマンションに泊まった(本当に宿泊しただけだが)事があると聞いて少しだけ焼きもちを焼いてくれたのを感じた黛は、さり気なくダメ元で「お前も泊まるか?」と聞いてみた。
するとそれまであまり乗り気でなかった七海が、頷いてくれたのだ。

 お互いの両親に報告を済ませたれっきとした婚約者同士となったのだ。
 今夜父親は学会に出席するため九州へ行っており、ここへは帰って来ない。
 黛としては待ちに待ったこの機会を絶対に逃すつもりは無かった。

 風呂を勧めたが、七海は後に入りたいと言う。

 仕方なく先に浴室に入り体を洗う。湯船に浸かると色々と妄想が逞しくなってしまい、序でにこっそり一度自分を慰めておく事にした。
 実は黛はこれまで自分から夜の誘いを掛けた事が無い。七海に断られたあの時が初めての経験だ。アッサリと断られ、頭突きと腹蹴りをお見舞いされて撃退されてしまったが。
 その上今までの相手は経験者ばかりで、処女を相手にした事は無かった。
 勿論色々と医学的な知識はある。そしてネットでも情報を集めて予習をしてみた。
 あまりガッツいて乱暴にするのはご法度で事前に抜いて置く方が良い、とウエブ上のある先輩が自信あり気に投稿していた。そんなに処女相手の経験が豊富な人がいるものなのだろうか……と訝しく思いつつもつい縋ってしまう。
幼馴染の本田には距離が近すぎて、何となく聞けなかった。

 どんなに落ち着こうと努力しても、ガッツいてしまう予感がヒシヒシとしてしまう。もしかしたら、逆に起たないかもしれない―――などと柄にも無く不安になった。

 色々思い悩んでいたら、すっかりのぼせてしまった。
 何しろ長い長い片思いが漸く成就したのだ。あれこれ考えてしまうのはしょうがないかもしれない―――と黛はやっと風呂から出る決心を固めたのだった。

 ハーフパンツとTシャツを身に着け、七海に風呂を勧める。
 七海が着替えを持って少し恥ずかしそうに脱衣場に消えるのを眺めつつ、缶ビールをプシッと開けて落ち着かない心を静めるように、ゴクゴクと一気に飲み干した。






 テレビを見ながらソワソワと待っていると、やがて脱衣場の扉が開く。
 その音にどくりと心臓が跳ねた。

 風呂上りの七海は大きめのパジャマにしっかりと身を包んでいる。
 ホカホカと湯気が立っていて何とも美味しそうだ。既に髪の毛もだいたい乾かし終わっているようで、このまま直ぐに部屋に連れて行けそうだと黛はゴクリと唾を飲み込んだ。

 しかし焦りは禁物と―――念仏のように唱え、飲み物をまず勧めた。
 ペットボトルのお茶を飲んで、ホッと息を吐いたのを見定めてから、黛は漸く「じゃ、寝るか」と口を開いた。

 立ち上がって七海を見下ろすと、意外と落ち着いた瞳と目が合う。



「私はどの部屋に寝たら良い?」



 と聞かれて愕然とした。
 あまりの台詞に口を聞けずにいると、七海が勝手に了解したと言うように頷いた。

「客間で良かった?お布団あるよね。じゃあ―――おやすみなさい」

 そう言うとペコリと頭を下げて、勝手に部屋に下がってしまった。
 暫く氷像のようにその場に固まる黛を置き去りにして。



「冗談じゃねえ……!」



 意識を取り戻して、慌てて黛は七海の後を追ったのだった。

しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...