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本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

87.まさかの

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 見れば見るほど端正な顔だと七海は思った。
 そして出合った頃から随分と身長が伸びた。本田家の男達ほどでは無いが平均身長よりずっと高いから、比較的女性としては身長のある七海でも向かい合って目を合わせると自然と見上げる形になる。

「冗談……」
「じゃない」

 被せ気味に言われて更に動揺する。
 一体何を言っているんだと、七海は混乱しながらも頭を必死に働かせた。

「冗談じゃ無いってことは……」

 ―――が、全く分からなかった。

「『本気』ってこと?!」
「……」

 まゆずみは少し返事に躊躇したが、コクリと頷いた。
 七海も直ぐに自分が同じ意味の言葉しか発していない事に気が付いた。しかしこういう場合、普段の黛なら鼻で笑って突っ込みを入れたであろう。むしろ真面まともな対応をされていると言うのに違和感を感じて、ますます七海は不安になった。

「なんで?なんで急にそんな事言い出すの?」
「何でって……」

 言い淀む黛を見ている内に、七海はピン!と思い付いた。

「もしかして……今度は『婚約者の振り』?!上司のお嬢さんを押し付けられそうになって困っているとか……」
「違う」
「じゃあ―――あぁっ!まさか……そう言う事?!」

 七海はゴクリと唾を飲み込んだ。
 あまりにありそうな想像に蒼くなり、俯き震え始める。

「七海……?」

 黛は急に顔を背けた七海を訝しみ、膝を屈めて顔を覗き込んだ。
 すると七海は唐突に顔を上げ、至近距離でキッと黛を睨みつけた。



「この……馬鹿正直!」

 ゴチン!!



 と額に額を、思いっきりカチ当てた!
 無防備に身を屈めていた黛の体がクラリとふらついて、ドサリと尻餅を付くように後ろに倒れ込む。

「ってぇー」

 黛は額に手を当て、呻いた。

「お前なんちゅー……石頭……」

 七海はフンっと仁王立ちで腕を組み、痛みに耐える黛の前に立った。
 少々額は赤くなったが、彼女の額のダメージは少ない。七海は自分が石頭である、と言う事を認めざるを得なかった。自分の意外な特技に気が付いて、内心驚きつつも額を抑える黛に向かってこう言い放った。



「自業自得!唯とずっと一緒に居たいからって、私と結婚しようだなんて……!人の好意を利用しようなんて、失礼だと思わないの……!」

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