94 / 363
本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
81.素直になれない人
しおりを挟む
黛は一瞬固まった。
先ほど黛が加藤に言った事を、七海は完全に無かった事にしていると気付いたのだ。
恥ずかし過ぎる本音を吐露したのに、まるで伝わってない事が分かった。
しかし最初の前提が悪かったと、記憶を呼び覚まし認識を改めた。
いつの間にか、加藤相手に『ずっと友達だったけど、付き合う事になった』のだと偽りを言った事も、恋人同士のように七海を巻き込んで装った事実もすっかり黛の念頭から消え去っていた。きっと七海は黛の言った事を演技の一環だと受け取っているに違いない。黛が以前そう彼女に申し出た時と同じように。
黛は肩を落として溜息を吐いた。
「俺だって何でも思った通りを口にしてきた訳じゃ無い」
そう言うと、呑気にジョッキに口を付けていた七海がキョトン、と上目遣いで黛を見た。
その視線にドキリとして口を噤むと、彼女はジョッキをテーブルに下ろし、動揺したように瞳を揺らした。
「え、それって―――やっぱり加藤さんが好きだって事……?!」
「―――何でそーなる!」
思わず即座に突っ込みを入れてしまった。
すると七海は胸に手を当てて安堵の息を吐いた。
ホッとしたように笑顔になるのを目にし、黛の心も幾分浮上し掛けたが、
「そうだよね、黛君はずっと唯が一番だもんね。良かった、吃驚した―――」
と言う七海の台詞に、ガツンと落とされる。
加藤に靡かなかった事を喜んでくれたのかと勘違いしそうになった自分を改めて残念に思った。
しかしその台詞には黛が気付いていなかったもう一つの事実が含まれていた。
落ち込むと同時に、やっと黛は気が付いたのだった。
―――七海が未だに重大な勘違いをしたままなのだと言う事を。
「お前、まだそんな事―――」
「お待たせしました!」
黛が否定しかけた時、店員が綺麗に盛り合わせられた皿を運んで来た。
テーブルの上に配膳された皿を見ながら、気を取り直して黛は再び口を開く。
「あのな、それはもう―――」
言葉を続けようとして、七海が上げた歓声に遮られた。
「わっ!美味しそう~!見て見て黛君、お肉がこんなに大量に……!そしてお野菜がピカピカ眩しいんですけど!」
「そうだな……」
「ほら!食べよ!……お腹空いてるでしょう??」
「うん……」
確かに黛もかなり空腹だった。
嬉しそうに笑顔を向ける七海を目にすると、何だか力が抜けてしまう。
気の重い話は食べ終わってからでも良いか―――と、黛は諦めて差し出された箸を受け取って肩を落としたのだった。
先ほど黛が加藤に言った事を、七海は完全に無かった事にしていると気付いたのだ。
恥ずかし過ぎる本音を吐露したのに、まるで伝わってない事が分かった。
しかし最初の前提が悪かったと、記憶を呼び覚まし認識を改めた。
いつの間にか、加藤相手に『ずっと友達だったけど、付き合う事になった』のだと偽りを言った事も、恋人同士のように七海を巻き込んで装った事実もすっかり黛の念頭から消え去っていた。きっと七海は黛の言った事を演技の一環だと受け取っているに違いない。黛が以前そう彼女に申し出た時と同じように。
黛は肩を落として溜息を吐いた。
「俺だって何でも思った通りを口にしてきた訳じゃ無い」
そう言うと、呑気にジョッキに口を付けていた七海がキョトン、と上目遣いで黛を見た。
その視線にドキリとして口を噤むと、彼女はジョッキをテーブルに下ろし、動揺したように瞳を揺らした。
「え、それって―――やっぱり加藤さんが好きだって事……?!」
「―――何でそーなる!」
思わず即座に突っ込みを入れてしまった。
すると七海は胸に手を当てて安堵の息を吐いた。
ホッとしたように笑顔になるのを目にし、黛の心も幾分浮上し掛けたが、
「そうだよね、黛君はずっと唯が一番だもんね。良かった、吃驚した―――」
と言う七海の台詞に、ガツンと落とされる。
加藤に靡かなかった事を喜んでくれたのかと勘違いしそうになった自分を改めて残念に思った。
しかしその台詞には黛が気付いていなかったもう一つの事実が含まれていた。
落ち込むと同時に、やっと黛は気が付いたのだった。
―――七海が未だに重大な勘違いをしたままなのだと言う事を。
「お前、まだそんな事―――」
「お待たせしました!」
黛が否定しかけた時、店員が綺麗に盛り合わせられた皿を運んで来た。
テーブルの上に配膳された皿を見ながら、気を取り直して黛は再び口を開く。
「あのな、それはもう―――」
言葉を続けようとして、七海が上げた歓声に遮られた。
「わっ!美味しそう~!見て見て黛君、お肉がこんなに大量に……!そしてお野菜がピカピカ眩しいんですけど!」
「そうだな……」
「ほら!食べよ!……お腹空いてるでしょう??」
「うん……」
確かに黛もかなり空腹だった。
嬉しそうに笑顔を向ける七海を目にすると、何だか力が抜けてしまう。
気の重い話は食べ終わってからでも良いか―――と、黛は諦めて差し出された箸を受け取って肩を落としたのだった。
31
お気に入りに追加
1,356
あなたにおすすめの小説
その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~
ノ木瀬 優
恋愛
卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。
「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」
あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。
思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。
設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。
R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる