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本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
80.クールな人?
しおりを挟む国立競技場を通り過ぎ外苑西通りを歩いて、コンビニのある白いタイル張りの建物の地下に入って行った。
「偶に腹減った時に寄るんだ」
黛が七海を連れて来たのはダイニングバーだった。周辺にそれほど賑わいは無いのにほど良く混んでいて、メニューには手頃な値段のイタリア料理が並んでいる。七海は「へーお洒落だね」と言ってそのメニューを見ながら黛に尋ねた。
「いつも何頼んでるの?」
「『黒毛和牛のステーキ』肉どっさり来るから」
「じゃ、それと『一押し』って書いてある『温野菜のラタトゥイユ』頼もうか」
「チーズのピザも食べたい」
と黛が言うと、七海は「はいはい」と面倒臭そうに頷いた。
そのいつも通りの対応に彼は少し安堵する。思い切った事をしたり言ってしまった自覚はある。その所為で七海の態度がすっかり変わってしまうのでは無いかと少し心配していたのだ。
生ジョッキを持ってきた店員に、黛と七海は料理を注文する。
一段落終えてお互いジョッキを握ると、目を合わせた。
「じゃ、乾杯」
「乾杯」
カチンと合わせたジョッキが音を立てた。
七海は一口飲んで「ぷは~」と息を吐いた。
満足した様子で、黛を真正面からジロジロと眺める。
黛は遠慮ない視線に晒されて、何となく視線を逸らしながらジョッキに再び口を付けた。
「ねえ、気になっていたんだけど―――」
七海の台詞に思わず黛の喉がゴクリと鳴ってしまう。
「黛君って大学では『クール』って言われてるの?」
「……」
「私、五月蠅いとか面倒臭いって印象しかないんだけど」
(気になっているのって、ソコかよ?!)と内心突っ込みを入れたが、黛は表面上は平静を保ち直ぐに自分を立て直した。
「……加藤には素っ気ない態度しかとってないからな。そう見えたんじゃないか?」
「やっぱり、加藤さんって黛君の事が好きなの……?」
「いや、違うんじゃないか?なんかいつも親し気に近付いてくるけど―――アイツは多分周りの男が皆自分に注目していないと我慢ならないんだと思う。流石に今日は驚いたけどな……俺がアイツに気があるって誤解していたとは。かなり冷たくしていた筈なんだけど」
「じゃあ、加藤さんは黛が彼女に気があるのに、素直になれなくて冷たい態度を取っていたと思っていたのかな?」
「そうなんじゃね?さっきの台詞を聞く限りはな」
「ふーん……」
七海はジョッキに口を付けると暫く何事かを考えるような素振りで黙り込んだ。
そしてポツリと呟くように言った。
「黛君が好きな子に素直になれないなんて、ある訳ないのにね」
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