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本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
78.ハッキリ言います
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「―――じゃあ、ハッキリ言うよ」
黛はピッタリと抱き寄せていた七海の肩から手を離した。
温もりが急に遠ざかり―――寒くも無いのに何故か心細く感じてしまう。だから七海は一瞬、ひょっとして加藤の言う通りなのでは無いかと思ってしまった。
黛はただ彼女を嫉妬させようとしただけだったのだろうか?……そんな疑念が湧き上がり、ギュウと胸が痛むのを感じた。
しかしそれは杞憂だと、すぐに分かる。
肩を離れた黛の手がスッと下に下ろされたかと思うと―――彷徨っていた七海の細い手を、しっかりと握りしめたのだ。
「加藤、俺はお前に全く興味が無い。―――あ、仕事相手だとは思っているし、その面では協力してやって行きたいとは思っている。だけど女としては全く好みじゃない」
「ひ、ひどっ……!」
と思わず突っ込んだのは七海だった。
黛らしいと言えば黛らしい言い方に(コイツ大人になったと思ったら……根本的な所、変わってないな)と七海は呆れてしまう。
思っても見ない拒絶を受けて茫然とした加藤の瞳が―――その途端ナイフのように七海を鋭く貫いた。うっかり安い同情を向けてしまった七海は、恐怖で身を竦める。
整えられた顔を奇妙に歪めて、加藤は鼻で笑った。
「……その子と付き合っているって言うのは、嘘ね?私が黛にあんまり靡かないから当てつけで言ってるんでしょ?無理する必要無いのに。だって全然……その子、黛が言っているように普通だし地味だし……そう『庶民』?黛だってそう言って馬鹿にしてたんでしょ。全然釣り合ってないし、自分でもそう思っているのに『彼女』だなんて―――どう考えても可笑しいわよ。」
(こ、この人なんてヒドイ事を面と向かって言うんだ……!ひょっとして、黛と一緒で自分の本音を全く隠せないタイプ……?ひょっとして―――『女・黛』??)
痛い事実だけに否定はできないが、社会人としてその台詞はどうかと七海は思った。
黛も黛だが、加藤も加藤だと―――一般人代表、常識人の七海は唖然としたのだった。しかしふと、彼女は正気に返る。
(いや、慣れてるけどね……)
ヒドイ台詞には黛によって長い年月をかけて鍛えられて来た。
今更動揺する訳が無い筈なのに、言われる相手が変わると真新しいダメージを受けてしまうのだろうか……と七海は溜息を吐いた。
何だか凄く疲れてしまって、肩の力が抜けてしまう。七海の首が自然と力を失い視線が床に落ちた。
すると、そんな七海の細い手を握る、黛の大きなゴツゴツとした手が目に入る。
指が長く美しいのに―――シッカリとしていて。
七海はふとそんな場合では無いのに(ちゃんと男の人の手だなぁ)と呑気に感心してしまった。
その大きな温かい掌からじんわりと圧力が加わって、黛が手の内に力を籠めたのが伝わって来た。
「―――それは、照れ隠しだ」
黛が表情を硬くして、重々しく呟いた。
「え?……なんて?」
「んん?」
よく聞こえなかったのか、加藤が聞きなおす。
バッチリ聞こえたものの、言っている意味が理解できず七海は首を捻った。
「俺は好きな奴には素直になれなかったんだ。子供だった。だから憎まれ口をきいて、コイツの気を引いてたんだ。―――本気でそう思っていた訳じゃない」
そう言って黙り込んだ黛を―――七海はもう一度見上げた。
そして彼女は大きく目を瞠ってしまう。
「ま、黛君……」
黛の顔が―――有り得ないほど真っ赤になっていた。
黛はピッタリと抱き寄せていた七海の肩から手を離した。
温もりが急に遠ざかり―――寒くも無いのに何故か心細く感じてしまう。だから七海は一瞬、ひょっとして加藤の言う通りなのでは無いかと思ってしまった。
黛はただ彼女を嫉妬させようとしただけだったのだろうか?……そんな疑念が湧き上がり、ギュウと胸が痛むのを感じた。
しかしそれは杞憂だと、すぐに分かる。
肩を離れた黛の手がスッと下に下ろされたかと思うと―――彷徨っていた七海の細い手を、しっかりと握りしめたのだ。
「加藤、俺はお前に全く興味が無い。―――あ、仕事相手だとは思っているし、その面では協力してやって行きたいとは思っている。だけど女としては全く好みじゃない」
「ひ、ひどっ……!」
と思わず突っ込んだのは七海だった。
黛らしいと言えば黛らしい言い方に(コイツ大人になったと思ったら……根本的な所、変わってないな)と七海は呆れてしまう。
思っても見ない拒絶を受けて茫然とした加藤の瞳が―――その途端ナイフのように七海を鋭く貫いた。うっかり安い同情を向けてしまった七海は、恐怖で身を竦める。
整えられた顔を奇妙に歪めて、加藤は鼻で笑った。
「……その子と付き合っているって言うのは、嘘ね?私が黛にあんまり靡かないから当てつけで言ってるんでしょ?無理する必要無いのに。だって全然……その子、黛が言っているように普通だし地味だし……そう『庶民』?黛だってそう言って馬鹿にしてたんでしょ。全然釣り合ってないし、自分でもそう思っているのに『彼女』だなんて―――どう考えても可笑しいわよ。」
(こ、この人なんてヒドイ事を面と向かって言うんだ……!ひょっとして、黛と一緒で自分の本音を全く隠せないタイプ……?ひょっとして―――『女・黛』??)
痛い事実だけに否定はできないが、社会人としてその台詞はどうかと七海は思った。
黛も黛だが、加藤も加藤だと―――一般人代表、常識人の七海は唖然としたのだった。しかしふと、彼女は正気に返る。
(いや、慣れてるけどね……)
ヒドイ台詞には黛によって長い年月をかけて鍛えられて来た。
今更動揺する訳が無い筈なのに、言われる相手が変わると真新しいダメージを受けてしまうのだろうか……と七海は溜息を吐いた。
何だか凄く疲れてしまって、肩の力が抜けてしまう。七海の首が自然と力を失い視線が床に落ちた。
すると、そんな七海の細い手を握る、黛の大きなゴツゴツとした手が目に入る。
指が長く美しいのに―――シッカリとしていて。
七海はふとそんな場合では無いのに(ちゃんと男の人の手だなぁ)と呑気に感心してしまった。
その大きな温かい掌からじんわりと圧力が加わって、黛が手の内に力を籠めたのが伝わって来た。
「―――それは、照れ隠しだ」
黛が表情を硬くして、重々しく呟いた。
「え?……なんて?」
「んん?」
よく聞こえなかったのか、加藤が聞きなおす。
バッチリ聞こえたものの、言っている意味が理解できず七海は首を捻った。
「俺は好きな奴には素直になれなかったんだ。子供だった。だから憎まれ口をきいて、コイツの気を引いてたんだ。―――本気でそう思っていた訳じゃない」
そう言って黙り込んだ黛を―――七海はもう一度見上げた。
そして彼女は大きく目を瞠ってしまう。
「ま、黛君……」
黛の顔が―――有り得ないほど真っ赤になっていた。
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