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本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
39.聞き出し上手な美男
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「えっ……と……」
唐突な話題転換に、七海は口籠った。
そもそも信は別に七海を貶めようとして、会社まで迎えに来ている訳では無い。おそらく全くの好意からの行動な筈だ。それなのにそれが自分の都合に合わなかったからと言って泣いて責めると言うのは間違っていた―――と七海は思い直したばかりなので、もうこの話題には触れたく無かった。例え駅で待ち合わせすると言う約束をスルーされたとしても、信に責任のある話では無いと彼女は考えた。
「もう、いいです。信さんに悪気は無かったんだから」
「……」
「あー美味しいですね。繊細な味と言うか、このムース優しい味がして落ち着きます!」
信はテーブルに両肘を付いて、組み合わせた拳の上に顎を乗せ七海を見つめた。
その視線に気づいて七海はうっかり顔をあげる。
細められた精悍な瞳から何とも言えない色気が滲み出ていたので、ヒヤリとして慌ててデザートに集中を戻すべく七海は皿に目を落とした。
「七海ちゃん、誤魔化さないで。話してくれないなら―――今度は毎回会社の受付まで迎えに行くよ」
「!」
「そこから呼び出し電話かけて貰おうかな」
「なっ……駄目です、駄目です、絶対ダメ!」
「じゃ、教えて」
「うっ……あー……分かりました」
七海は一昨日起こった出来事をかいつまんで説明した。
一度黛に纏まらない話を聞いて貰ったお陰で、要領よく要点を説明出来たと思う。
立川にランチに誘われたこと。
それを見た岬に糾弾されたこと。
そしてその後立川と田神の会話を聞いて動揺したが、翌日岬以外の先輩の態度は普通でホッとしたこと。立川に夕食に誘われて勇気を出して断り、意外にもアッサリ引いてくれて安堵したことも付け加えた。
何となく黛に『彼氏の振り』をして貰った事は伏せてしまった。
モテない自分が我が身可愛さに友達にそこまでせさているなんて、ちょっと情けなさ過ぎる……と恥ずかしく感じたからだ。
「それでさっき信さんが会社の前に立っていた時―――気付いたんです。何故自分がホスト遊びをしていると誤解されたのか」
「ええと……つまり同僚の女性が、俺を『ホスト』と誤解した、と言うこと?」
「はい、おそらく。今まで周りを気にしてなかったんですが、振り向いたら私達のほうを課の先輩達が窺っていたんです。三人でかたまってこちらを見ていました」
「ははぁ……それで」
七海は少し頬を染めた。
「泣いちゃったのは―――前日その事で悩んで疲れていて……今日は一日気を張って過ごしていたからです。気にしないようにしてたんですけど、かなり疲れてたみたいで。だから呑気そうな信さんを見て腹が立ってしまって……」
「そうか……悪かったね、俺の軽率な行動で七海ちゃんを悩ませてたなんて」
真面目に謝る信に対して七海は首を振った。
「信さんの所為じゃありません。だから気にしないでください。あっでも、待合わせではもう会社まで来てくれない方が……助かるので、ちょっとだけ気にしてください」
「アハハ、七海ちゃんって甘いなぁ。もっと怒ればいいのに」
「その怒りも美味しいディナーで吹き飛びました。今日、奢ってくれるんですよね?」
「勿論、当たり前だよ。俺が誘ったんだから」
「いつもスイマセン。ご馳走様です」
「いえいえ、こちらこそ。七海ちゃんといられる時間が俺の癒しタイムだからね」
信がいつも通り軽口を言ってくれたので、七海は重苦しい空気を振り払うように笑った。しかし信が真剣な表情で七海の顔をじっと見つめているのに気が付いて、その双眸を不思議な気持ちで窺った。
「俺が誤解を解いてあげるよ」
「え?……職場の先輩に、ですか?」
「うん。七海ちゃん―――」
信はデザートの皿が取り払われたテーブルの上に置かれた七海の白い手の甲に、彼の大きな堅い掌を重ねた。
「俺と―――結婚を前提に付き合ってください」
唐突な話題転換に、七海は口籠った。
そもそも信は別に七海を貶めようとして、会社まで迎えに来ている訳では無い。おそらく全くの好意からの行動な筈だ。それなのにそれが自分の都合に合わなかったからと言って泣いて責めると言うのは間違っていた―――と七海は思い直したばかりなので、もうこの話題には触れたく無かった。例え駅で待ち合わせすると言う約束をスルーされたとしても、信に責任のある話では無いと彼女は考えた。
「もう、いいです。信さんに悪気は無かったんだから」
「……」
「あー美味しいですね。繊細な味と言うか、このムース優しい味がして落ち着きます!」
信はテーブルに両肘を付いて、組み合わせた拳の上に顎を乗せ七海を見つめた。
その視線に気づいて七海はうっかり顔をあげる。
細められた精悍な瞳から何とも言えない色気が滲み出ていたので、ヒヤリとして慌ててデザートに集中を戻すべく七海は皿に目を落とした。
「七海ちゃん、誤魔化さないで。話してくれないなら―――今度は毎回会社の受付まで迎えに行くよ」
「!」
「そこから呼び出し電話かけて貰おうかな」
「なっ……駄目です、駄目です、絶対ダメ!」
「じゃ、教えて」
「うっ……あー……分かりました」
七海は一昨日起こった出来事をかいつまんで説明した。
一度黛に纏まらない話を聞いて貰ったお陰で、要領よく要点を説明出来たと思う。
立川にランチに誘われたこと。
それを見た岬に糾弾されたこと。
そしてその後立川と田神の会話を聞いて動揺したが、翌日岬以外の先輩の態度は普通でホッとしたこと。立川に夕食に誘われて勇気を出して断り、意外にもアッサリ引いてくれて安堵したことも付け加えた。
何となく黛に『彼氏の振り』をして貰った事は伏せてしまった。
モテない自分が我が身可愛さに友達にそこまでせさているなんて、ちょっと情けなさ過ぎる……と恥ずかしく感じたからだ。
「それでさっき信さんが会社の前に立っていた時―――気付いたんです。何故自分がホスト遊びをしていると誤解されたのか」
「ええと……つまり同僚の女性が、俺を『ホスト』と誤解した、と言うこと?」
「はい、おそらく。今まで周りを気にしてなかったんですが、振り向いたら私達のほうを課の先輩達が窺っていたんです。三人でかたまってこちらを見ていました」
「ははぁ……それで」
七海は少し頬を染めた。
「泣いちゃったのは―――前日その事で悩んで疲れていて……今日は一日気を張って過ごしていたからです。気にしないようにしてたんですけど、かなり疲れてたみたいで。だから呑気そうな信さんを見て腹が立ってしまって……」
「そうか……悪かったね、俺の軽率な行動で七海ちゃんを悩ませてたなんて」
真面目に謝る信に対して七海は首を振った。
「信さんの所為じゃありません。だから気にしないでください。あっでも、待合わせではもう会社まで来てくれない方が……助かるので、ちょっとだけ気にしてください」
「アハハ、七海ちゃんって甘いなぁ。もっと怒ればいいのに」
「その怒りも美味しいディナーで吹き飛びました。今日、奢ってくれるんですよね?」
「勿論、当たり前だよ。俺が誘ったんだから」
「いつもスイマセン。ご馳走様です」
「いえいえ、こちらこそ。七海ちゃんといられる時間が俺の癒しタイムだからね」
信がいつも通り軽口を言ってくれたので、七海は重苦しい空気を振り払うように笑った。しかし信が真剣な表情で七海の顔をじっと見つめているのに気が付いて、その双眸を不思議な気持ちで窺った。
「俺が誤解を解いてあげるよ」
「え?……職場の先輩に、ですか?」
「うん。七海ちゃん―――」
信はデザートの皿が取り払われたテーブルの上に置かれた七海の白い手の甲に、彼の大きな堅い掌を重ねた。
「俺と―――結婚を前提に付き合ってください」
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