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本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
22.お気になさらず(★)
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※なろう版と一部表現が変わります。
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暫く居心地の悪い想いを引き摺りながら、七海は眼鏡男性二人と当り障りのない世間話をしてやり過ごした。
信に絡む麻利亜を横目に見つつ(これが『肉食女子』と言うものか……)と酒をグイグイ煽り、へべれけになって信にしな垂れかかる彼女を見て思った。
麻利亜に絡まれる信は時折困った顔を見せながらも、にこやかに対応していた。
(信さんは優しいなぁ、でもあれじゃ皆誤解してもおかしくないよなー)
その点から言うと、黛は近寄って来る知らない女性にはニコリともせずズバズバ「興味ない」とか「今友達と話してるから」と言い放つから、黛自身は女の子に憎まれるけど結果、隣にいる七海に敵意が向くと言う事は無かった。
ワザと憎まれ役を買って出ている訳では無いと思うが、一緒に飲む時かなり気楽だったな……と何となく思い出した。
(ん?何を私は―――アイツなんて、ただ好き勝手やってるだけじゃん!)
七海は思いを振り切るように頭を振った。
「七海ちゃん、飲んでる?大丈夫?」
麻利亜に絡まれたままの信が、思いに耽った様子の七海を心配して声を掛けてくれる。
その気遣いは有難いが、隣の麻利亜から発せられる殺気が微妙に痛い。
「あ、大丈夫です。お気になさらず……」
「うーん、そうは見えないなぁ。もう帰ろっか」
「えー信、もう帰るのぉ!」
酔っぱらった麻利亜が抗議の声を上げて、七海に白い眼を向ける。その目が「具合悪いなら一人で帰れ」言っているように見えて怖くなった七海は両手を上げて首を振った。
「信さんは残ってください、私自分で帰れますから!まだ早いですし」
慌てて押し留めるが、信は問答無用で立ち上がった。
しかし麻利亜に向かって微笑むと「また今度ね」とニコリと笑った。気遣いを忘れない信に麻利亜は少し頬を染めて「もー信ったら本当に親切だよねー」と拗ねた素振りで意外とアッサリ引いたのだった。
信の女性あしらいの上手さに七海が目を丸くしていると、ボソリと平泉と工藤が呟くように交わす会話が耳に入った。
「あーあ、またやっちゃったよ……」
「良い顔見せるから、執着されんだよなぁ」
「また新たなバトルに突入するかもよ」
なるほど、こうして女友達が信に執着するようになるのか。と七海は思った。
もしかすると彼女は、昔信を巡って争った女友達の内の一人なのかもしれない。
波風立てない方が公の場所では望ましいのかもしれないが、信の周囲が騒がしいのはこういう事の積み重ねなのだなぁ、と七海は妙に感心したのだった。
しかし言っておかなければならない事は、ちゃんと伝えねばならない。七海は店を出てからビシッと人差し指を突き出して信に抗議した。
「信さん!ヒドイですよ!どうみてもあの麻利亜さんって、信さんの事大好きじゃないですか、そんな人の前で心にも無い事言うの止めてください!」
「え?心にもない事って?」
信はキョトンと首を傾げた。
七海は若干イラつきながら、恥ずかしさを堪えて言った。
「その……『彼女』とか言ってフザケテみたり、『お気に入り』とか『アプローチ』してるとか微妙な台詞を……」
言いながら更に恥ずかしさが増して来て、段々声が小さくなってしまう。
それを目にした信の瞳が細められる。
「本当のことだよ」
「え?」
そう言って信は、七海の腕をグイッと引き寄せ顔を近づけた。
息が掛かる一歩手前。店の灯りを受けて彼の瞳の中に七海が映り込んでいるのが見えるほどの距離。
「七海ちゃんは俺の『お気に入り』」
近距離でイケメンに色気満開で微笑まれ―――七海の心臓はドクンと跳ね、全身がカッと熱くなった。ゾワゾワと背筋を何かが走り去る。
「そ……」
七海の顔はますます朱くなって行き、微かに体がブルブル震え出した。
「その思わせぶりがトラブルの原因なんですよ―――!!」
「ハハハ……七海ちゃんってやっぱ可愛いね、あー癒される」
怒って離れた七海の頭を、信はポンポンとあやすように撫でた。
七海の全力の叫びも信の手前で空気の抜けたボールのようにポトリと失速して落ちた。
伝わらなさにガックリと七海は項垂れるのであった。
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暫く居心地の悪い想いを引き摺りながら、七海は眼鏡男性二人と当り障りのない世間話をしてやり過ごした。
信に絡む麻利亜を横目に見つつ(これが『肉食女子』と言うものか……)と酒をグイグイ煽り、へべれけになって信にしな垂れかかる彼女を見て思った。
麻利亜に絡まれる信は時折困った顔を見せながらも、にこやかに対応していた。
(信さんは優しいなぁ、でもあれじゃ皆誤解してもおかしくないよなー)
その点から言うと、黛は近寄って来る知らない女性にはニコリともせずズバズバ「興味ない」とか「今友達と話してるから」と言い放つから、黛自身は女の子に憎まれるけど結果、隣にいる七海に敵意が向くと言う事は無かった。
ワザと憎まれ役を買って出ている訳では無いと思うが、一緒に飲む時かなり気楽だったな……と何となく思い出した。
(ん?何を私は―――アイツなんて、ただ好き勝手やってるだけじゃん!)
七海は思いを振り切るように頭を振った。
「七海ちゃん、飲んでる?大丈夫?」
麻利亜に絡まれたままの信が、思いに耽った様子の七海を心配して声を掛けてくれる。
その気遣いは有難いが、隣の麻利亜から発せられる殺気が微妙に痛い。
「あ、大丈夫です。お気になさらず……」
「うーん、そうは見えないなぁ。もう帰ろっか」
「えー信、もう帰るのぉ!」
酔っぱらった麻利亜が抗議の声を上げて、七海に白い眼を向ける。その目が「具合悪いなら一人で帰れ」言っているように見えて怖くなった七海は両手を上げて首を振った。
「信さんは残ってください、私自分で帰れますから!まだ早いですし」
慌てて押し留めるが、信は問答無用で立ち上がった。
しかし麻利亜に向かって微笑むと「また今度ね」とニコリと笑った。気遣いを忘れない信に麻利亜は少し頬を染めて「もー信ったら本当に親切だよねー」と拗ねた素振りで意外とアッサリ引いたのだった。
信の女性あしらいの上手さに七海が目を丸くしていると、ボソリと平泉と工藤が呟くように交わす会話が耳に入った。
「あーあ、またやっちゃったよ……」
「良い顔見せるから、執着されんだよなぁ」
「また新たなバトルに突入するかもよ」
なるほど、こうして女友達が信に執着するようになるのか。と七海は思った。
もしかすると彼女は、昔信を巡って争った女友達の内の一人なのかもしれない。
波風立てない方が公の場所では望ましいのかもしれないが、信の周囲が騒がしいのはこういう事の積み重ねなのだなぁ、と七海は妙に感心したのだった。
しかし言っておかなければならない事は、ちゃんと伝えねばならない。七海は店を出てからビシッと人差し指を突き出して信に抗議した。
「信さん!ヒドイですよ!どうみてもあの麻利亜さんって、信さんの事大好きじゃないですか、そんな人の前で心にも無い事言うの止めてください!」
「え?心にもない事って?」
信はキョトンと首を傾げた。
七海は若干イラつきながら、恥ずかしさを堪えて言った。
「その……『彼女』とか言ってフザケテみたり、『お気に入り』とか『アプローチ』してるとか微妙な台詞を……」
言いながら更に恥ずかしさが増して来て、段々声が小さくなってしまう。
それを目にした信の瞳が細められる。
「本当のことだよ」
「え?」
そう言って信は、七海の腕をグイッと引き寄せ顔を近づけた。
息が掛かる一歩手前。店の灯りを受けて彼の瞳の中に七海が映り込んでいるのが見えるほどの距離。
「七海ちゃんは俺の『お気に入り』」
近距離でイケメンに色気満開で微笑まれ―――七海の心臓はドクンと跳ね、全身がカッと熱くなった。ゾワゾワと背筋を何かが走り去る。
「そ……」
七海の顔はますます朱くなって行き、微かに体がブルブル震え出した。
「その思わせぶりがトラブルの原因なんですよ―――!!」
「ハハハ……七海ちゃんってやっぱ可愛いね、あー癒される」
怒って離れた七海の頭を、信はポンポンとあやすように撫でた。
七海の全力の叫びも信の手前で空気の抜けたボールのようにポトリと失速して落ちた。
伝わらなさにガックリと七海は項垂れるのであった。
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