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本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

14.休日の洗濯と掃除は私の担当です

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 マンションに帰って洗濯機を回し掃除機を手に取る。土曜日と日曜日の洗濯は七海の仕事だ。それから居間に掃除機を掛ける事も。

 平日は同居中の元気な祖母が簡単に家事を担当し、食事はパートから帰って来た母と祖母が作る。大学生の妹は理系を選んだ所謂いわゆる『リケジョ』で実験に明け暮れあまり家には帰ってこない。父は銀行に勤めていて働き盛りの五十代。仕事自体も忙しいが、飲み会も頻繁で平日は朝しか顔を合わせない。
 土日の両親は年の離れた四歳の弟の相手で忙しい。平日は主に祖母が、休日は両親がやんちゃで動き回りたい盛りの弟に振り回されている。だから休日の洗濯と掃除は七海の担当だ。

 一つ年上の兄は十八で北海道の大学へ進学して以来そのまま就職し、北の地の人間となった。どうやらそのまま骨をうずめるつもりらしい。一番デカい人間が一人離脱したとはいえこの人数で4LDKは狭い。いずれ自分も独立しなければと思いつつ、常に誰かが家にいるような環境で育ってきた七海は二段ベッドを卒業できないまま現在に至っている。






 洗濯物を干し終わり、七海は空を見上げた。
 遠くの空に浮かぶ雲が滑らかな丸い形をしているのに気が付いた。

(まるで大福みたい)

 そう気付いて彼女は、それまで頭の隅に追いやっていた記憶を振り返る。

 戸惑ったような黛の態度。
 あれは絶対何を言われているのか分かってない顔だった。

(だいたい唯に言われたから何が悪いかどうか理解していないのに、簡単に頭を下げるってどういうこと?)

 無性にイラついた今朝の気持ちを思い起こしてから、七海は我に返る。

 今まで唯優先の黛の行動に呆れる事はあっても、腹を立てる事は無かった。自分は何故こんなに腹を立てたのだろう、黛が他人の気持ちを読み取れないなどと言う事は当り前の事だったのに。と、七海は不思議に思った。

「やっぱ……キスされたから……なのかなぁ」

 黛にとってはたかが『キス』七海にとってはされど『キス』

 高校時代に二週間付き合った短い期間は、付き合ったと言っても名目上の事で実際友達以上の関係になる事は無かった。
 何となくだが、黛も高校生の内は他の彼女達ともそれほど深い関係になっていなかったように思う。多分そうなる前に振られていた。そしてそのマイペース過ぎる性格が浸透してからは女子に敬遠され、遠巻きにされていた。……密かに隠れファンはいたが。そして実情をあまり理解していない下級生や他校生にはモテていたが。

 大学に入ってから、唯や本田、黛とも日常的に顔を合わせる事が無くなって、休日や放課後だけ会うようになった。大学には彼の性格を知らない人間ばかりだ、さぞモテた事だろうと推測する。偶に「今の彼女ってどんな人?」と聞いて黛が答える人物像は毎回違ったので、相変わらずサイクルが短いな、と思うだけだった。その内尋ねる事もしなくなった。

 それが軽く一度キスされたぐらいで―――相手を男として意識してしまうなんて。

 あの物慣れた感じ……きっと大学に入ってから黛は色々と経験を積んできたに違いない……と七海はつい考えてしまい、思わず「うわぁ」と頭を抱えた。

(そんな事今まで考えた事も無かったのに……!)

 ずっと黛の女性関係は他人事ひとごとだった。

 友人の黛はサッパリしていて、性格はアレだが正直な奴だし何を言っても凹まない自信家だから、ポンポン七海は好きなように辛辣な口をきいていた。
 正直、漫才みたいに言い合いするのは物凄く楽しかった。

 七海にとって黛は『男』では無かったのだ。



「私……チョロイ……チョロ過ぎるよー……」



 奇跡的に黛が、七海の望み通りにキチンと自分の非を理解したとして。
 果たして元の楽な居心地の良い関係に戻れるのだろうか……。



 俯いていた顔を上げると、七海が先ほど見つけた大福の形の雲はいつの間にか風に流されて他の雲に混じってしまっていた。

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