19 / 363
本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
6.忙しそうだね
しおりを挟む
ゴチャゴチャした路地に入るとたくさん看板が並んでいる。黛が気に入って通っている焼き鳥屋はその内の一つだ。狭い階段を上って扉を潜ると外の喧騒とギャップのある木目調の落ち着いた内装が目に入る。
カウンターメインでテーブル席がいくつか。三十席ほどでこじんまりとしている。
黛は迷うことなくカウンター席に向かう。テーブル席に座るのは顔をジロジロ見られるのがうっとうしいのかもしれない、と七海は思った。
超絶マイペースの黛も大学に入学する辺りから少し周りの目を気にするようになって来た。
それまでは顔見知りばかりの空間だったから、いくら黛の顔が好かろうが、サッカーが上手かろうが、成績が良かろうが、扱いにくい性格とガサツな物言いのために遠巻きにされる事が多かった。隠れファンは多かったが。
しかし外に出ると、黛の事を良く知っている者は少なく、見た目だけで絡まれたり医学生と言うブランドで擦り寄られたりする機会が多くなり、さすがに彼も面倒事を避けるようになったのだ。
ちなみに信は擦り寄られてもニコニコ対応するのでいつの間にかテーブルに知らない女の人が加わっている、と言う状態になっていたりする。
「忙しそうだね」
馴染みの店員に「「生!」」と伝えた後、七海は隣の黛の顔を覗き込んだ。
「まあなー、新人だからね。失敗ばかりだよ……だいたいは看護師さんがフォローしてくれるけど。今はどっちが先生か分からん状態だ」
目の下のクマが苦労と寝不足を物語っている。
「珍しい!黛君が愚痴るなんて」
「んー……さすがに厳しい」
「メッセージも寝惚けてた」
「そう、寝入りばなに入れて、そのまま寝落ち」
七海は首を傾げた。
「そんな無理して連絡くれなくても良いのに。ちゃんと休んだら?」
そんな七海を黛はジットリと睨んだ。
「冷てーなー、七海は」
「そんな事ないけど……健康のほうが大事じゃない?」
絡み方が今までに無いパターンなので、七海は戸惑った。
何だか甘えられているようでソワソワしてしまう。
それだけ疲れていると言う事なのだろうか……と彼女は推測した。
「生、二丁です!」
そこへ店員のハキハキした声が響いた。
二人はペコリと会釈して、馴染みの彼からジョッキを受け取った。
「乾杯しよ。就職おめでと―!これでやっと社会人一年生だね!!」
先輩ぶって満面の笑顔になった七海の呑気な顔を見て、黛は苦笑した。
「乾杯」
ジョッキを合わせると、ガチンと分厚いガラスがぶつかる音がした。
カウンターメインでテーブル席がいくつか。三十席ほどでこじんまりとしている。
黛は迷うことなくカウンター席に向かう。テーブル席に座るのは顔をジロジロ見られるのがうっとうしいのかもしれない、と七海は思った。
超絶マイペースの黛も大学に入学する辺りから少し周りの目を気にするようになって来た。
それまでは顔見知りばかりの空間だったから、いくら黛の顔が好かろうが、サッカーが上手かろうが、成績が良かろうが、扱いにくい性格とガサツな物言いのために遠巻きにされる事が多かった。隠れファンは多かったが。
しかし外に出ると、黛の事を良く知っている者は少なく、見た目だけで絡まれたり医学生と言うブランドで擦り寄られたりする機会が多くなり、さすがに彼も面倒事を避けるようになったのだ。
ちなみに信は擦り寄られてもニコニコ対応するのでいつの間にかテーブルに知らない女の人が加わっている、と言う状態になっていたりする。
「忙しそうだね」
馴染みの店員に「「生!」」と伝えた後、七海は隣の黛の顔を覗き込んだ。
「まあなー、新人だからね。失敗ばかりだよ……だいたいは看護師さんがフォローしてくれるけど。今はどっちが先生か分からん状態だ」
目の下のクマが苦労と寝不足を物語っている。
「珍しい!黛君が愚痴るなんて」
「んー……さすがに厳しい」
「メッセージも寝惚けてた」
「そう、寝入りばなに入れて、そのまま寝落ち」
七海は首を傾げた。
「そんな無理して連絡くれなくても良いのに。ちゃんと休んだら?」
そんな七海を黛はジットリと睨んだ。
「冷てーなー、七海は」
「そんな事ないけど……健康のほうが大事じゃない?」
絡み方が今までに無いパターンなので、七海は戸惑った。
何だか甘えられているようでソワソワしてしまう。
それだけ疲れていると言う事なのだろうか……と彼女は推測した。
「生、二丁です!」
そこへ店員のハキハキした声が響いた。
二人はペコリと会釈して、馴染みの彼からジョッキを受け取った。
「乾杯しよ。就職おめでと―!これでやっと社会人一年生だね!!」
先輩ぶって満面の笑顔になった七海の呑気な顔を見て、黛は苦笑した。
「乾杯」
ジョッキを合わせると、ガチンと分厚いガラスがぶつかる音がした。
21
お気に入りに追加
1,356
あなたにおすすめの小説
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう
さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」
殿下にそう告げられる
「応援いたします」
だって真実の愛ですのよ?
見つける方が奇跡です!
婚約破棄の書類ご用意いたします。
わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。
さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます!
なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか…
私の真実の愛とは誠の愛であったのか…
気の迷いであったのでは…
葛藤するが、すでに時遅し…
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
(完結)親友の未亡人がそれほど大事ですか?
青空一夏
恋愛
「お願いだよ。リーズ。わたしはあなただけを愛すると誓う。これほど君を愛しているのはわたしだけだ」
婚約者がいる私に何度も言い寄ってきたジャンはルース伯爵家の4男だ。
私には家族ぐるみでお付き合いしている婚約者エルガー・バロワ様がいる。彼はバロワ侯爵家の三男だ。私の両親はエルガー様をとても気に入っていた。優秀で冷静沈着、理想的なお婿さんになってくれるはずだった。
けれどエルガー様が女性と抱き合っているところを目撃して以来、私はジャンと仲良くなっていき婚約解消を両親にお願いしたのだった。その後、ジャンと結婚したが彼は・・・・・・
※この世界では女性は爵位が継げない。跡継ぎ娘と結婚しても婿となっただけでは当主にはなれない。婿養子になって始めて当主の立場と爵位継承権や財産相続権が与えられる。西洋の史実には全く基づいておりません。独自の異世界のお話しです。
※現代的言葉遣いあり。現代的機器や商品など出てくる可能性あり。
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。
Hibah
恋愛
私の夫エルキュールは、王位継承権がある王子ではないものの、その勇敢さと知性で知られた高貴な男性でした。貴族社会では珍しいことに、私たちは婚約の段階で互いに恋に落ち、幸せな結婚生活へと進みました。しかし、ある日を境に、夫は私以外の女性を部屋に連れ込むようになります。そして「男なら誰でもやっている」と、浮気を肯定し、開き直ってしまいます。私は夫のその態度に心から苦しみました。夫を愛していないわけではなく、愛し続けているからこそ、辛いのです。しかし、夫は変わってしまいました。もうどうしようもないので、私も変わることにします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる