MASK 〜黒衣の薬売り〜

天瀬純

文字の大きさ
上 下
37 / 62

学生と祠 《異変》

しおりを挟む
 今年も残すところあと数時間と迫るなか、僕は大学で知り合った友人たちと初日の出を見ようと、とある山の国道沿いに車を停めていた。ガソリンがもったいないのでエンジンを止め、車の近くでテントを張って暖をとることに。本当はよくないことなんだろうけど、普段とは違う過ごし方に僕らは心を躍らせていた。もちろん、火事にならないように細心の注意を払いながら。

 午後11時過ぎ。特に自分たち以外の車が近くを通過することなく、僕たちはテント内で談笑していた。

(大学を卒業して就職したら、こんなふうに過ごすのも難しいんだろうな……)

きたる就職活動と対称的な時間を恋しく感じていると、

ゴーン。

ゴーン。

ゴーン。

「鐘?」

スマートフォンをいじっていた坂井が最初に反応する。

「ここまで聞こえてくるもんなのか?」

テント内で横になっていた茂田も続けて反応する。

「いや、除夜の鐘って年越し前に鳴らすっけ? というか…、この近くで鳴っていた感じに聞こえたけど…」

「怖いこと言うなよ。このあたりに神社や寺なんてないぞ」

坂井の指摘のように、僕らがいるのは山の頂き付近の国道沿いで、寺社仏閣どころか民家も近くに無いところだ。

「…だよね。やっぱり遠くから音が聞こえているのかなぁ…」

そう言って、僕らがなんとか理由付けて納得しかけたところで、

シャーンッ。

シャーンッ。

シャーンッ。

「「「っ⁉︎」」」

鈴だ。鈴の音がテントの外で響き渡った。

「え?……聞こえた?」

「う、うん。聞こえた」

「鈴、だったよね…」

確かに鈴だった。しかも全員が聞いていた。

「登山者とか?熊避けとかで鈴を持っているって聞くし…」

「いや、この時間に徒歩で来る人間いないよ…」

シャーンッ。

シャーンッ。

シャーンッ。

「ひっ」

再び鈴の音が聞こえてきた。まるで僕らを呼び出しているかのように。

「俺、ちょっと見て来る……」

おもむろに坂井が立ち上がって、外に出ようとする。

「お、おい」

「坂井、出ねぇほうがいいって」

僕たちの呼び止めに脇目も振らずに、彼は靴を履き始め、

「いや、なんか…気になるんだよ」

そう言って外に出て行ってしまった。

「な、なぁ。これ…」

茂田が震える声で僕を呼び、坂井が座っていた場所を指差す。

「え…」

そこには、彼のスマートフォンと一緒に古びた鈴が1つ置かれていた。

(やばいぞ、これ…)

同じことを思ったのだろう。顔を見合わせた茂田と僕は急いで靴を履き、テントの外に出た。外は暗く、テント内の明かりと持っているランタン以外は殆ど暗闇でだった。とりあえず、近くに停めていた車の中を確認してみるが、坂井の姿はなかった。

(車道のほうを歩いていったのかな?)

そう思い、僕が麓に続く車道を照らしていると、

「おい、こんなのあったか?」

茂田が呼びかけるほうへと顔を向けると、彼が持っている懐中電灯に照らされた先に古い石段が山の頂上がある方向に向かって続いていた。

(なんだ、これ)

「なかったよな、これ? 来た時は、普通に木とかが生えてたよな?」

僕は震えながら茂田に向かって頷く。

「う、うん。なかったよ……」

状況が把握出来ず、しばらくその場に立ち尽くしていた。しかし、坂井はもしかしたらを上っていったかもしないと思い、話し合いの結果、僕らは石段のほうへと近づいていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

デリバリー・デイジー

SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。 これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。 ※もちろん、内容は百%フィクションですよ!

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ニンジャマスター・ダイヤ

竹井ゴールド
キャラ文芸
 沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。  大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。  沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。

処理中です...