31 / 65
箱買い
しおりを挟む
「ありがとうございました~」
深夜、地方都市の某大手チェーンのコンビニにて。
大学での学業の傍ら、僕はここでバイトをしている。深夜のバイトはサーカディアンリズムが狂うのではないかと忌避されがちだが、時給が良いので続けている。
時刻は深夜1時。終電が終わり、まばらだった客足もさらに落ち着いたので、僕は商品棚の補充を始めた。
(…そういえば、今度の長期休暇はどこ行こうかな…。東京の雑貨屋巡りもいいな~)
聞き飽きた店内放送を耳にながら、夏の予定をぼんやりと考えていると、
ガラガラ~。ピポピポ~ン。
自動ドアが開き、来客を知らせる音が店内に響く。
「いらっしゃいませ~」
おそらく陳列棚を数分間物色してからレジに来ると思ったので、しばらく作業を続けていると、
「すいませ~ん」
レジのほうから男の声が聞こえてきた。
(えっ、もう⁉︎)
急いでお客さんのもとへ向かうと、スーツ姿の男性が缶コーヒーをレジの上に置いて待っていた。駆け寄ってきた僕に気付くと、
「店員さん、これって箱ごと買えますか?」
「…箱?」
男性が尋ねてきたのは、レジの傍に置いてある一口サイズの煉羊羹だった。
(え…、それを⁉︎)
「ちょ、ちょっと確認して来ますね!」
僕はレジを離れて、急いで在庫を見に行く。
(珍しいお客さんだなぁ…。1個100円もしないとはいえ、深夜のコンビニで“あれ”の箱買いをご所望とは……)
宅飲みで足りなくなったお酒やお菓子を深夜にたくさん買いにくるお客さんならよく見るけど、煉羊羹だけを爆買いされる方は初めてだ。
「あ、あった」
目当ての商品の在庫を見つけた僕は、すぐにレジで待っている男性のもとへと戻った。
「お待たせしました。こちらの商品でよろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
男性は黒い布マスクをつけていたが、目の様子からして、かなり喜んでいることが伺えられた。
「袋はどうしますか?」
「あ、大丈夫です。仕事用の鞄に入れていくので」
見ると、彼の手元にはレザー製の黒い鞄があった。
(へ~、カッコいい鞄だな。なんの仕事だろう?)
男性の素性が気になりながらも、僕は会計の作業を進めた。
「…では、こちらお釣りとなります」
「はい、どうも」
お釣りを受け取ると、男性は缶コーヒーと箱買いした煉羊羹を鞄の中に詰め込んでいく。
「あ、そうだ」
何かを思い出したのだろうか。購入した物とは異なる物を鞄から出してきた。
「これ、よかったらどうぞ。勤務先のイメージキャラクターを模したストラップです。サンプルの1つですが、なかにアロマ関係の匂い玉が入っています」
男性が取り出したのは、三毛猫を彷彿とさせる10cmほどのストラップであった。それを彼から手渡されると、心地よいほのかな香りが漂ってきた。
(良い匂い……)
「羊羹がなくなったら、また来ますね」
そう言って、彼は店を後にした。
後日、もともと猫が好きだった僕は、彼から貰った三毛猫のストラップを普段使っている自分の鞄に付けてみることにした。友人たちからの評判は良い。そして、この一件をバイト先の同僚たちに話したところ、大半の者が彼の来店を強く願うのであった。
深夜、地方都市の某大手チェーンのコンビニにて。
大学での学業の傍ら、僕はここでバイトをしている。深夜のバイトはサーカディアンリズムが狂うのではないかと忌避されがちだが、時給が良いので続けている。
時刻は深夜1時。終電が終わり、まばらだった客足もさらに落ち着いたので、僕は商品棚の補充を始めた。
(…そういえば、今度の長期休暇はどこ行こうかな…。東京の雑貨屋巡りもいいな~)
聞き飽きた店内放送を耳にながら、夏の予定をぼんやりと考えていると、
ガラガラ~。ピポピポ~ン。
自動ドアが開き、来客を知らせる音が店内に響く。
「いらっしゃいませ~」
おそらく陳列棚を数分間物色してからレジに来ると思ったので、しばらく作業を続けていると、
「すいませ~ん」
レジのほうから男の声が聞こえてきた。
(えっ、もう⁉︎)
急いでお客さんのもとへ向かうと、スーツ姿の男性が缶コーヒーをレジの上に置いて待っていた。駆け寄ってきた僕に気付くと、
「店員さん、これって箱ごと買えますか?」
「…箱?」
男性が尋ねてきたのは、レジの傍に置いてある一口サイズの煉羊羹だった。
(え…、それを⁉︎)
「ちょ、ちょっと確認して来ますね!」
僕はレジを離れて、急いで在庫を見に行く。
(珍しいお客さんだなぁ…。1個100円もしないとはいえ、深夜のコンビニで“あれ”の箱買いをご所望とは……)
宅飲みで足りなくなったお酒やお菓子を深夜にたくさん買いにくるお客さんならよく見るけど、煉羊羹だけを爆買いされる方は初めてだ。
「あ、あった」
目当ての商品の在庫を見つけた僕は、すぐにレジで待っている男性のもとへと戻った。
「お待たせしました。こちらの商品でよろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
男性は黒い布マスクをつけていたが、目の様子からして、かなり喜んでいることが伺えられた。
「袋はどうしますか?」
「あ、大丈夫です。仕事用の鞄に入れていくので」
見ると、彼の手元にはレザー製の黒い鞄があった。
(へ~、カッコいい鞄だな。なんの仕事だろう?)
男性の素性が気になりながらも、僕は会計の作業を進めた。
「…では、こちらお釣りとなります」
「はい、どうも」
お釣りを受け取ると、男性は缶コーヒーと箱買いした煉羊羹を鞄の中に詰め込んでいく。
「あ、そうだ」
何かを思い出したのだろうか。購入した物とは異なる物を鞄から出してきた。
「これ、よかったらどうぞ。勤務先のイメージキャラクターを模したストラップです。サンプルの1つですが、なかにアロマ関係の匂い玉が入っています」
男性が取り出したのは、三毛猫を彷彿とさせる10cmほどのストラップであった。それを彼から手渡されると、心地よいほのかな香りが漂ってきた。
(良い匂い……)
「羊羹がなくなったら、また来ますね」
そう言って、彼は店を後にした。
後日、もともと猫が好きだった僕は、彼から貰った三毛猫のストラップを普段使っている自分の鞄に付けてみることにした。友人たちからの評判は良い。そして、この一件をバイト先の同僚たちに話したところ、大半の者が彼の来店を強く願うのであった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる