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「馬鹿にしやがって!!」
「馬鹿にしてねえよ。俺は本気だよ、大好きな弟のためじゃん」

 兄は僕の頭上にあった剣を引き抜き、どこかに放り投げた後、空いた手で僕の頭を撫でてきた。
 背筋がぞわぞわした。兄が恐怖でしかなかった。
 ――いや、よくよく考えてみると、今まで僕も愛人らに似たような事をしてきたかもしれない。尋常じゃない独占欲と支配欲。同じ血が流れてる分、似つくのも無理はないということか。
 けれど唯一違うと思ったのは、そこに愛が含まれているか否か。兄の場合は――、

「はぁ、はぁ……好きだよ、ルーツ。ずっと、ずっと会いたかった。すげえ寂しかったよ」

 異常な愛を持つ人間。そして僕が、弄ぶ人間だと。
 
「は、はは、は……まさか、僕を襲うつもり? 男だよ?」
「?? 俺がシてあげないと、愛人のとこに行っちゃうだろ?」
「……そういう問題?」

 何をそんなに離れるのが嫌なのか。
 ――けれど、すぐ気がついた。もしかして、僕が二年前に勝手に離れたことで、トラウマになったのか? だから兄は、こんな風に壊れてしまったのか?
 昔はこんなんじゃなかった。
 いや――でも昔から、弱虫でも僕の事を最優先に気にかけてた。じゃあ小さい頃からずっと僕に気が合ったって事? それとも、小さい頃から僕に相手されなさ過ぎて、歪んでしまったのか。

 ――なら、僕のせい?

 もしかして、互いに心を歪ませてしまったの?

「ほんと、ルーツは俺のこと何も知らないよな」 

 兄の歪んだ笑み。
 そういえば僕は、今まで兄に興味を持たなかったから、何も兄の事情を知らない。

「――今、少し分かったかも」
「ほんと!? じゃあ俺がこれから何をするかも分かるよな?」
「……ヤるの?」
「まぁそれもあるんだけど」

 ガチャガチャ。
 
「えっ」

 力が抜けた僕の両手を、兄が無理やり上に回して手錠をかけ始める。鎖を壁にぶら下げて、ここから離れられないようにする。

「――監禁、みたいな?」
「なぁ、ルーツは兵長になりたいんだっけ? 俺が代わりにルーツのふりして成り上がってやるよ。だからルーツは一生ここにいて?」
「そんなのやだよ!! 僕は僕の手で成し遂げたい」
「だから、そんな事したらまた俺の前から消えるじゃん」
「……消えないよ。もう」
「嘘つくな」

 丁寧に僕のシャツのボタンを外していく。全部外れたところで、首筋に唇を当ててくる。そして、ドロっとした生ぬるい弾力が撫でるように押し当てられる。

「んっ……」
「ルーツ、最近シてなかったから溜まってるだろ?」
「えっ……なんで知ってるの?」

 兄は何も答えずに、ニコリと笑みを浮かべるだけ。
 なんだコイツ……。やけに僕の事情を知ってるんだけど。

「兄さん、ストーカーぁ……? 確かに好きな人とは急に連絡が取れなくなったよ。それも全員」
「ふうん」

 興味なさそう。けれども、ニッと笑い続ける。どこか満足気だ。

「ま、もう俺がいるから。要らないよな?」

 僕の耳元で内緒話するように囁く。はぁ、と息が吹きかかり、舌が入ってくる。そして、軽く耳朶を甘噛みされる。
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