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 やっと声を出したかと思えば、兄は、はぁ、はぁ、と息を荒くしていた。
 

「……信じられないよ。なんだよ今のスピード? 昔は弱かったくせに」

 僕の鼓動は驚きで高鳴りが治まらず、思った事を口にしてしまった。

「ルーツを守る為に、強くなったんだ」
「僕の為?」
「ルーツは危なっかしいから」
「それはアンタだろ!?」

 ずっと弱かったじゃないか。何しても空回りだったくせに! べそを掻きながら僕の後ろを歩く弱虫な兄だったのに……?!
 相手にする必要もないくらいに駄目だったアイツが、なんで今はこうも遠い存在のように感じるんだろう。
 ――いや、幻想に違いない。これは紛れだと思った。

「ルーツは俺が弱かったから離れたんだろ? 大山猫リンクスの魔力もロクに使えない、自慢できない兄だから」
「……それは、違――」
「でももう問題ねえよ。俺はルーツ以上に力を手に入れる事ができたから」
「えっ……」

 兄の赤眼が一瞬、眩しくて見えなくなった。それと同時に視界がふらついて、全体の力が抜けていくように動かせなくなった。

 まさか、この僕が兄の魔力で操られてる?

 本来なら有り得ない状況だ。同じ呪力を持つ者の魔力は、基本効かないはずだから。

「っはは……!! 終わったな、ルーツ。いや、愛人にはルーツ様って呼ばせてんだっけ?」

 不敵な笑いだった。まるでゴミでも見るかのような、見下した目だった。脳の処理が追いつかない。なんでこんな奴に見下されなきゃいけない? なんで僕は今、兄に捕まってるんだ? なんで笑われてるんだ? なんで抵抗できないんだろう?

「……なんでそれを」
「なぁ、ルーツ様ぁ。お前はもう俺に勝てないんだって」

 その言葉は光の速さで心臓をえぐるように突き刺さった。

「……!? っはぁ……はぁ……!!」

 呼吸困難になるんじゃないかと思った。嘘だ嘘だ。図星なわけないのに、図星なわけじゃないのに……!!

「可愛いルーツ様。俺のせいで緊張しちゃってんの?」
「違っ……!!」
「そんないじらしい顔されてもなあ」

 まるで反抗する子犬のようだと、兄はそう言った。
 ……まさかコイツ。
 今まで僕に散々見下されてきたから、殺意でも湧いてるのか? 守る為に――と言いつつ、本当はこの世から消し去りたいんだろう。きっと暗殺を企んでいるんだ。

「っ……あはは……兄さん、そういう事か。僕を殺したくてしょうがないんだな? 僕より強くなった事を証明する為に。そうでしょう?」
「??? 違うぞ?」
「え?」
「俺は、ルーツが俺無しじゃあ生きられなくしてやりたい」

 ……どういう事?
 どういう事!?!?

「は……??」
「だってそうしないと、ルーツは俺から離れようとするだろ? ――あぁ、わりい、ルーツじゃなくて……。ね? ルーツ様」

 まるで語尾にハートをつけるような物言いだった。
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