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 最近、城内にて身に覚えのない不法侵入者が居ると噂が広がっていた。
 僕が兵長に成り上がる数日前の話だった。
 上官からの指令で、結局僕がその侵入者を探す事になった。毎日朝から夜中まで、トラップを仕掛けてみたけれどなかなかハマらず。本当に侵入者が居るのかと疑いを持ちつつ、うんざりした真夜中に、僕の部屋でその侵入者とご対面してしまった。

 黒髪で、赤目の褐色肌。僕とは違い、つり上がった眉と目尻。そして、鍛え上げられた筋肉。薄汚い黒のフードを深く被り、足首まであるマントを羽織っていた。白シャツと革のグローブに、皮膚と同化したような黒のパンツ、そしてブーツ。
 これは……どれも全て当てはまるものばかりで……。

「もしかして、兄さんなの……?」
「……」

 昔よりも、逞しくなったような兄の姿。
 でも、僕の中で兄の存在は二年前に消した。
 だからもう、今は他人そのものだ。

「兄さんだろうと、容赦しないよ」

 正直、自分の部屋の中だったので少し油断をしていた。普段は黒のテールコートジャケットを羽織って身を守り、内ポケットに護身用を入れていたけど、今はもう白シャツと黒ズボンのみ。運良く細い剣だけは腰に装着したままだったから、相手が過去の兄であろうとすぐに引き抜いた。

「どうしたんだい? 僕が居なくなったせいで、生活も儘ならなくなった?」

 ――問いかけても、何も返事が来ない。
 何だよ……。
 小さい頃から、兄は変な奴だと思ってたんだ。だから返事がなくともそこまで気にならなかった。
 けれどこの時は、久々に会ったせいか苛立ちが治まらず、大人気なくも罵声を浴びせてしまう。

「なんか言ってみなよ! ねえ!」

 剣を高く上げて、兄に向けて振り下ろす。
 すると兄も短剣を引き抜き、構えた。丁度良く僕の剣が兄の剣に当たり、響き渡る。
 まあ勝てると思った。
 なのに……。

「……なっ」

 兄さんは片手で、僕の剣に耐えていた。力を入れているはずなのに、ビクともしない。
 何故? 昔ならすぐに押し返してやったのに。

「嘘だ」

 そう声が漏れた途端に、兄さんの剣が僕の剣を押し上げ、僕がもう一度振り下ろそうとすると、僕の剣を素早く振り払うように横切られ、奪い取られてしまった。
 奪われたというより、僕の手から剣を引き離したんだ。

 キィィンと音が鳴って床に落ちる。そして僕の真後ろはベッドだ。押し寄せてくる兄に圧倒され、兄は両手で握った短剣を僕に振り下ろしてくる。丁度僕の額に刺さりそうな勢いで――
 
「くそっ!!」

 咄嗟に目を閉じてしまい、まずいと思い開き直すと……。
 額に刺さってるかと思いきや頭上にある枕に刺さったようで、視界に羽毛が飛び交った。
 羽毛から垣間見えた兄の素顔。頬に汗を垂らし、ニィっと口角をつり上げた姿がそこにあった。そして僕にのし上がり、身動きを取れないようにしている。

「漸く、会えた」
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