2 / 7
2
しおりを挟む
最近、城内にて身に覚えのない不法侵入者が居ると噂が広がっていた。
僕が兵長に成り上がる数日前の話だった。
上官からの指令で、結局僕がその侵入者を探す事になった。毎日朝から夜中まで、トラップを仕掛けてみたけれどなかなかハマらず。本当に侵入者が居るのかと疑いを持ちつつ、うんざりした真夜中に、僕の部屋でその侵入者とご対面してしまった。
黒髪で、赤目の褐色肌。僕とは違い、つり上がった眉と目尻。そして、鍛え上げられた筋肉。薄汚い黒のフードを深く被り、足首まであるマントを羽織っていた。白シャツと革のグローブに、皮膚と同化したような黒のパンツ、そしてブーツ。
これは……どれも全て当てはまるものばかりで……。
「もしかして、兄さんなの……?」
「……」
昔よりも、逞しくなったような兄の姿。
でも、僕の中で兄の存在は二年前に消した。
だからもう、今は他人そのものだ。
「兄さんだろうと、容赦しないよ」
正直、自分の部屋の中だったので少し油断をしていた。普段は黒のテールコートジャケットを羽織って身を守り、内ポケットに護身用を入れていたけど、今はもう白シャツと黒ズボンのみ。運良く細い剣だけは腰に装着したままだったから、相手が過去の兄であろうとすぐに引き抜いた。
「どうしたんだい? 僕が居なくなったせいで、生活も儘ならなくなった?」
――問いかけても、何も返事が来ない。
何だよ……。
小さい頃から、兄は変な奴だと思ってたんだ。だから返事がなくともそこまで気にならなかった。
けれどこの時は、久々に会ったせいか苛立ちが治まらず、大人気なくも罵声を浴びせてしまう。
「なんか言ってみなよ! ねえ!」
剣を高く上げて、兄に向けて振り下ろす。
すると兄も短剣を引き抜き、構えた。丁度良く僕の剣が兄の剣に当たり、響き渡る。
まあ勝てると思った。
なのに……。
「……なっ」
兄さんは片手で、僕の剣に耐えていた。力を入れているはずなのに、ビクともしない。
何故? 昔ならすぐに押し返してやったのに。
「嘘だ」
そう声が漏れた途端に、兄さんの剣が僕の剣を押し上げ、僕がもう一度振り下ろそうとすると、僕の剣を素早く振り払うように横切られ、奪い取られてしまった。
奪われたというより、僕の手から剣を引き離したんだ。
キィィンと音が鳴って床に落ちる。そして僕の真後ろはベッドだ。押し寄せてくる兄に圧倒され、兄は両手で握った短剣を僕に振り下ろしてくる。丁度僕の額に刺さりそうな勢いで――
「くそっ!!」
咄嗟に目を閉じてしまい、まずいと思い開き直すと……。
額に刺さってるかと思いきや頭上にある枕に刺さったようで、視界に羽毛が飛び交った。
羽毛から垣間見えた兄の素顔。頬に汗を垂らし、ニィっと口角をつり上げた姿がそこにあった。そして僕にのし上がり、身動きを取れないようにしている。
「漸く、会えた」
僕が兵長に成り上がる数日前の話だった。
上官からの指令で、結局僕がその侵入者を探す事になった。毎日朝から夜中まで、トラップを仕掛けてみたけれどなかなかハマらず。本当に侵入者が居るのかと疑いを持ちつつ、うんざりした真夜中に、僕の部屋でその侵入者とご対面してしまった。
黒髪で、赤目の褐色肌。僕とは違い、つり上がった眉と目尻。そして、鍛え上げられた筋肉。薄汚い黒のフードを深く被り、足首まであるマントを羽織っていた。白シャツと革のグローブに、皮膚と同化したような黒のパンツ、そしてブーツ。
これは……どれも全て当てはまるものばかりで……。
「もしかして、兄さんなの……?」
「……」
昔よりも、逞しくなったような兄の姿。
でも、僕の中で兄の存在は二年前に消した。
だからもう、今は他人そのものだ。
「兄さんだろうと、容赦しないよ」
正直、自分の部屋の中だったので少し油断をしていた。普段は黒のテールコートジャケットを羽織って身を守り、内ポケットに護身用を入れていたけど、今はもう白シャツと黒ズボンのみ。運良く細い剣だけは腰に装着したままだったから、相手が過去の兄であろうとすぐに引き抜いた。
「どうしたんだい? 僕が居なくなったせいで、生活も儘ならなくなった?」
――問いかけても、何も返事が来ない。
何だよ……。
小さい頃から、兄は変な奴だと思ってたんだ。だから返事がなくともそこまで気にならなかった。
けれどこの時は、久々に会ったせいか苛立ちが治まらず、大人気なくも罵声を浴びせてしまう。
「なんか言ってみなよ! ねえ!」
剣を高く上げて、兄に向けて振り下ろす。
すると兄も短剣を引き抜き、構えた。丁度良く僕の剣が兄の剣に当たり、響き渡る。
まあ勝てると思った。
なのに……。
「……なっ」
兄さんは片手で、僕の剣に耐えていた。力を入れているはずなのに、ビクともしない。
何故? 昔ならすぐに押し返してやったのに。
「嘘だ」
そう声が漏れた途端に、兄さんの剣が僕の剣を押し上げ、僕がもう一度振り下ろそうとすると、僕の剣を素早く振り払うように横切られ、奪い取られてしまった。
奪われたというより、僕の手から剣を引き離したんだ。
キィィンと音が鳴って床に落ちる。そして僕の真後ろはベッドだ。押し寄せてくる兄に圧倒され、兄は両手で握った短剣を僕に振り下ろしてくる。丁度僕の額に刺さりそうな勢いで――
「くそっ!!」
咄嗟に目を閉じてしまい、まずいと思い開き直すと……。
額に刺さってるかと思いきや頭上にある枕に刺さったようで、視界に羽毛が飛び交った。
羽毛から垣間見えた兄の素顔。頬に汗を垂らし、ニィっと口角をつり上げた姿がそこにあった。そして僕にのし上がり、身動きを取れないようにしている。
「漸く、会えた」
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる
すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。
第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」
一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。
2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。
第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」
獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。
第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」
幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。
だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。
獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。
父と息子、婿と花嫁
ななな
BL
花嫁になって欲しい、父親になって欲しい 。すれ違う二人の思い ーー ヤンデレおじさん × 大学生
大学生の俺は、両親が残した借金苦から風俗店で働いていた。そんな俺に熱を上げる、一人の中年男。
どう足掻いてもおじさんに囚われちゃう、可愛い男の子の話。
Original drug
佐治尚実
BL
ある薬を愛しい恋人の翔祐に服用させた医薬品会社に勤める一条は、この日を数年間も待ち望んでいた。
翔祐(しょうすけ) 一条との家に軟禁されている 平凡 一条の恋人 敬語
一条(いちじょう) 医薬品会社の執行役員
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
兄弟ってこれで合ってる!?
ててて
BL
母親が再婚した。
新しいお義父さんは、優しそうな人だった。
その人の連れ子で1歳上のお兄さんも優しそう
ずっと一人っ子だったおれは、兄弟に憧れてた。
しょうもないことで喧嘩したり、他愛もない話をしたり、一緒にお菓子を食べたり、ご飯も1人で食べなくていいし。
楽しみだな…
って、思ってたんだけど!!!
確かに仲のいい兄弟に憧れはあったけど!!!
え、兄弟ってこんなに距離近いの?
一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たり??
え、これって普通なの!?
兄弟ってこれで合ってる!?!?
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる