1 / 7
1
しおりを挟む「ねぇ、ルーツ様ってお兄様が居たわよね?」
「えっ、兄?」
「うん。黒髪で、褐色系の人――」
愛人とベッドで二人きり。王が僕のために用意してくれた豪華な部屋で、聞きたくもない話が飛んでくる。
僕は咄嗟に「兄なんて居ないよ」と答えた。
何故なら僕の中で、二年前に兄の存在を消したから。それは彼と縁を切った年。
もう二度と、会うことはないだろうと思っていたのに……。
***
僕は兄が大嫌いだった。
僕らは兄弟揃って父が率いるカルミア盗賊団の一員だった。小さい頃から盗みや戦術を覚えさせられ、人を見抜く方法を叩き込まされた。僕は兄よりも容量が良かったみたいで、父の教えを良く吸収し、柔軟に覚えることができた。それに対して兄は何をしても空回りして失敗する。父さんからも怒られてばかりで、剣術は愚か、魔術の使い方も上手くいかない。
なのに、父は僕よりも出来損ないの兄を贔屓するように、夜遅くまで兄を教育した。僕に対しては「ルーツは何でもできるから」と相手をしてくれなかった。物の受け取り方は人それぞれだけれど、僕にとってはそれが放ったらかしだと思っていた。それの所為でかな、僕は昔から兄の事を好きになれなかった。
そんなある日、僕が六歳の頃、父が僕に向けてこう言った。
「ルーツ、いや……ルーツリア。ベルナードの事をどう思う?」
二人で夜景を見ながら何気ない会話の中で出てきた、兄に対する思いの問いであった。
「うん? 興味ないよ。あんな出来損ないに相手する暇ないし」
と、即答した。
だけど、兄はどんなに失敗しても、父に泣かされて悔しい思いをしても。僕より不出来であろうと、そして僕に相手されなくとも、兄は自分より僕を優先して気にかけた。僕が弟だからか? 特に困った事もないのに、ルーツを助けなきゃ、そばにいてあげなきゃって気持ちが常に兄の中ではあったようだ。
それが僕にとっては邪魔で、不快でしかなかった。
でも、残酷なのはここからだった。
兄は齢十二にして、父の推薦で盗賊団の代理団長に成り上がった。僕の十の脳には理解が追いつかない話だった。
なんで僕じゃないんだ? 僕より弱いのに? 何故?
父に聞いた、何故僕じゃないのか。「ルーツはまだ十歳になったばかりだし、まだまだこれから覚えることが沢山ある」と。それってある意味、遠回しに兄の方が有能だと言ってるようなもんじゃないか。
――おかしい。納得がいかない。
正直、兄が強くなったような跡が見られない。
何かがあるんだ。僕はそう自分に言い聞かせた。
まあ最初からおかしいと思っていたさ、なんか怪しいって。僕は父が病気で他界した後、六年の月日を経て盗賊団を抜けた。長かったが兄から離れる為、そして盗賊ではなく別の人生を送りたかった。正当評価してくれる場所へと移るために。
暫くの間、兄とは顔を合わさずグロキシニア城という金持ちが大量に住んでいる娯楽街に入り浸り、盗んだ金で女と遊んだ。
有難い事に、僕の容姿は他の人よりも優れているようで、女性から見ると、僕は王子様のようだと言う人が多い。死んだ母から貰った血筋のおかげで、海のような蒼いサラサラとした髪と、艶のある色白な肌を得た。目尻が垂れ下がった赤眼は父譲りなのか、笑みを零すと爽やかな笑顔だと女の人は喜んでくれる。
大山猫の血を引く僕には、一時的に人の身も心も操る事ができた。これを使って上手いこと金をくすねる事も可能だった。
更に盗んだ金のおかげで、僕はこの国の中で上級に値する貴族と勘違いされ、国民の話題となった。
トントン拍子に事は進み、金の羽振りからこの国の王にまで目をつけられるようになってしまった。金はどこから湧いてくるのか? と問われれば、酒場で受注できる役割をこなしたと根も葉もない実績を披露した。腕に自信はあったので、一時期は王に嘘をついてるのではと追求されたけれど、王から何か頼みを受けても文句無しの結果を出してみせた。
僕ははれて国王のおかげで、十八にして盗賊から足を洗う事ができ、国の兵士として成り上がり、次期兵長に推薦された。仕事で忙しくなってきたおかげで、兄との記憶もどんどん薄れていき、消し去ることができたと思う。
――はずだった。
それはある日の事。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…


乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる
すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。
第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」
一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。
2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。
第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」
獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。
第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」
幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。
だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。
獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる