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しおりを挟む「何が……起きてるの?? 私のパソコン、どうなっちゃったの?? なんで? ウイルスなの? ねえーーーー!!」
***
初めてのオンラインゲーム。私より皆、大人! 最年少の私。年上たくさん。お姉さん、お兄さん。かっこいい。チームリーダー。頼もしい。頼れる。カッコイイアバター。誕生日に貰った! 皆で集まって写真撮ろー! 武器を作ってくれた。武器職人! 大事に使おう。もっと装備がほしいな。皆に頼りにされたい。強くなりたい。強いあの人。あの人と対等になりたい。目指したい。皆を守る。皆大好き。あの人大好き。初めてバトルアリーナでMVPをとった! 嬉しかった。皆褒めてくれる。優しい。ダンジョンも頑張らなきゃ。皆どうしてる? どこ行ったの? あれ?
――――ここは、どこ??
「わぁぁぁ!!!!」
草原……?
視界に映ったのは終わりのない草原が。
そして、今の走馬灯は何だったんだろう。私が今まで経験してきたオンラインゲームでの思い出が文字となって脳に流れた。決してその光景が映るというわけではなかった。薄っすらと映るかと思いきや、ぼやけてたのかあまり記憶にない。
「待って。ここはどこ?」
草原に、腰を抜かすようにペタリと座り込んでいる私。背を支えるように手は後ろに、足はそのまま真っ直ぐ伸ばしきっていた。すると、私はある事に気がついた。
薄いピンクの、花柄のようなレースのワンピース。私、こんな服なんて持っていたかな?
今までジャージ三着しか持っていなかった私が、なんでこんな可愛らしいワンピースを着ているのだろう。誰かが着せた? こんな草原の真っ只中で、いつの間に?
「……お母さん??」
一緒に暮らす母を呼んでも、どこからも返事はこない。草原が優しい風に揺られ、さざ波のような音しか聴こえてこなかった。
「何なの、ここ……??」
重い体を起こして――と、立ち上がった途端、違和感を覚えるほどの身軽さに思わず自分の体を二度見する。
ボールを二つくっつけたような胸。平らな腹部、そして大袈裟だと思うけれど私にはアルビノのような色素の薄い肌としか思えないこの体色。慣れない内股をしている素足があまりにも小柄で、まるで少女のような足の長さ。
「ど、どうなってるの……?」
手のひらに相談するように両手を前に向けると、私の手の二周りくらいサイズが違うような手のひらがそこには有った。
驚きはまだ続く。肩に垂れ下がった私の髪は薄い桃色をしていた。いつの間に私はこんな髪色に染めたの? いや、脱色したのか、それとも。まさか老けた? 若白髪? でもそんなの今まで無かったし、老けたという割には何だか体中幼くなっているような。
非現実でいうならば、過去に戻った? でも私は小さい頃からもこんな姿になった事は一度も覚えていない。記憶喪失? まさか。私はちゃんと昔の自分を支障が出ない程度には覚えている。
「グルル……」
お腹の虫。またしても、今までにない不可思議な腹の音が鳴る。
少女の体型でこの腹の虫はちょっと引くかなぁ……。
――じゃない。
「えっ!!??」
熊――いや、熊にしてはデカ過ぎる。デカいし何だか実験で体中にネジやら何やら人工的に作られたような半ロボット熊が目の前に。
「きゃああああああ!!」
――――死ぬ!!
考える暇もなく熊に背を向けて無我夢中に走り出した。
猛突進するように逃げても何もない草原が続く。
追いかけてるのか追いかけてないのか様子見すらもままならず。ひたすらに今にも折れそうな足を鞭打つように疾走する。
「やだやだややややうあああああ!!」
言葉にならないくらい、大声を消費する。
「っおい!! こっちだ!!」
「ああああああ!!」
誰かの声!! でもそれどころじゃ――唐突に腕を引っ張られる。一生懸命に走っていたところを急に止められるとブレーキが利かずに足を前に滑らせる。そのまま体勢を崩し、エンジンがかかって回り出すタイヤのようにグルグルと身が回転する。そのまま下り坂に入り、止まるに止まらない。私の腰に何かが巻き付いているのか物体と共に回っている。
「痛っ……!!!!」
漸く止まったかと思えば丁度背中が何らかの壁にぶつかり、痛かったけれど事なきを得た。
はぁ……はぁ……と呼吸を整えている誰かの声。
そして私の顔には生ぬるい温もりを感じる。胸元……? というか、人?
「人……!?」
「ごめっ、痛かった……よな??」
知らない男の人の声……??
「わぁぁぁ! こ、こちらこそごめんなひゃあわわ私なんかであわわ……」
何を言ってるんだろう自分。生まれて十八年、未だ人間慣れせず。ゲームの中であれば饒舌のように話ができるのに。リアルだといつもこの有様だ。
背中が痛いなんて言ってられない。私はすぐ様に起き上がった。
「そんな立ち上がらなくても……。無理するなって」
「い、いえいえ私なんか気にせず。いや、ほんとに気にしなくて大丈夫なんです」
気持ちが落ち着かずテンパりが治まらない。日本語にならないただひたすらに言葉を並べてるだけ。恐る恐る見上げると……、
「あ……」
黒髪でミディアムな、前髪はセンターパートに分かれている。赤目だし肌の色が濃いのでまるで日本人とは思えない、ファンタジーに居そうな人だ。かっこいい……何かのコスプレなのかな? 服装が、黒のフード付きのマントを巻いて、その下は包帯で首元から胸下までグルグルに巻いている。茶色のバルーンパンツに使い古したようなブーツ。
ここまで完璧にコスプレされてると尚更緊張してしまう。
「とにかく、ありがとうございました。何もお礼できなくて申し訳ありませんが私はこれで……」
見た目で人を判断するのは良くないことだけれど、彼を見るに余計に話が合わないと感じたのでさっさとこの場から離れようとした。
「待って」
「ひっ」
しなやかな指に、手の甲は今にも骨が浮き出でそうな彼に引き止められる。
「あのさ……良ければなんだけど……、暫く一緒に居られないかな?」
「えっ!?」
「いや深い意味はなくて! その……分かんないんだ。ここがどこなのか」
悪気は無いと思うけど、この人は基本は感情を表に出さないタイプなのか、表情の変化が薄く威圧をかけられているみたいで受け応えしにくい。
「あっ……それは、私もです。変な話ですが、家に居たつもりだったんですけど、気づいたらこんなところに居て」
「やっぱり! 俺も今まで家に居たはずなんだよ。そっから記憶が無いんだよな」
私と全く同じ状況下にいる人だった。そういうわけなら……と、例の熊も突進するだけで追いかけ回されるどころか居なくなったようだし、目的地もないまま二人で歩みを進めた。
「よかった。話が分かる人がいると心強いな」
握られた手が離れると、衝動的に握られた部分をもう片方の手で覆った。
「わ、私も!」
会話のキャッチボールもまともにできない私。
これがチャットならば、タイピングならばと心の奥底でむず痒くなっている。
自業自得なのに、会話が止まると鼓動が張り裂けそうになる。
でも、どうしても聞いてみたいことがあったから思い切って聞いてみる。
「……あの、もしかしてなんだけど」
「うん?」
「そのコスプレも……心当たりないとか、ない?」
「あっ……」
二、三秒の沈黙の後に、
「実は、そう……。俺、コスプレなんて初めてだよ。それに、特殊メイク? っていうのかな、肌の色も濃くて不自然に感じて……」
と、手に首を回しながらぽつりと答えた。
「私もです! 私もこんな真っ白でふんわりとした少女みたいなコスプレさせられて!! なんというか年相応じゃないというか」
「…………そういや、名前は?」
「あっ……! 神子柴 涼晴です」
「涼晴さん。それもコスプレだったんだな。勝手ながら中学生くらいの女の子だと思ってた」
「実はもう二十歳なんです……」
「同い年だ。俺は、剣魔 拓磨」
口頭で名前の漢字まで丁寧に教えてくれる。
剣魔さん……!! 同い年。コスプレのせいもあってか、惚れ惚れとしてしまう。幸い、コスプレのおかげで私もこうしてカーストレベル上位そうな男の人と対等に並べている気がする。
恐るべし少女の力……と、しみじみ痛感した。
「はぁぁ……! 剣魔さん……!!」
私の周りにはお花畑が浮かぶように、更に目からはハートが零れ落ちそうなくらいに情緒不安定となってきている。
「ん……? なんだろう。何か城のようなものが見えるけど」
「え? 城?」
私の情緒などお構いなしに、剣魔さんは何かに気がついた。前方に目を向けたままなので私も前を向くと、そこにはお城らしき影が木々に隠れながらも薄っすらと映っていた。
「……外国みたいだな」
「ふわぁぁ……! 行ってみましょう! 剣魔さん」
どうにか打ち解けられそうで調子に乗ってしまいがちだけど、未だ緊張は解せてないので私は謎の饒舌人間と化していた。
剣魔さん、到着したら一緒に何か食べませんか? ど、どうせならお城の中も見に行きません? 等の発言は気持ち悪いと思われたら最後だから、その二言だけは言わないよう心から念を押した。
けれども、何か理由つけておかないと、城に到着した途端ここでお開きになるなんて事もあるんじゃないか……?? そんな心細い! 誰かと打ち解けるのは勇気がいるからできれば剣魔さんを繋ぎ止めておきたい。
どうしよう……。
城が近くなればなるほど、胸騒ぎが起きた。
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