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伯爵令息の到着

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 次の日の朝。朝早く起きた私は、顔を洗いメイクを施してもらうと、インクで顎に偽のほくろをつけてもらっていた。ほくろをつけると、壁に飾ってある肖像画のハリス殿下と私は瓜二つだった。

「基本的には、お部屋から出ないようにと言われております。申し訳ありませんが、こちらで朝食をお召し上がりください」

 メイドの方々に頭を下げられると、私は困ってしまい、慌ててしまう。

「じゅ、充分です。ありがとうございます」

 パンとスープの朝食を食べ終えると、私はベッドに横になり病人のフリをした。何もすることがなくて退屈だったが、横になっていると次第にウトウトしてくる。

 眠るに落ちる寸前、廊下から誰かが怒鳴る声が聞こえた。

「お待ちくださいっ‥‥‥。侍医から絶対に誰も近づけてはならないと言われております。レオンハルト様に万が一の事があれば、私達は死んでもお詫びしきれません」

「そのようなことは言うな。死んではならん。私が良いと言っているのだ」

 声はだんだん大きくなり、部屋の扉が開け放たれた。

「な、何事ですか?」

 私は咳き込むフリをしながら身体を起こし、2人を見つめていた。メイクで顔を青白くしてもらっているので、少しは具合が悪そうに見えるはずだ。

「婚約者が重病に侵されているというのに、見舞わない奴がいるか? それこそ、問題だと思う」

「感染ったら大変です。レオンハルト様、お引取りください」

 小さい時に会ったきりだと言っていたので大丈夫だとは思ったが、顔をジロジロと見る視線にドキリとしてしまう。

「思ったより、元気そうで安心した。おいっ、そこの‥‥‥。俺は元気になるまで毎日見舞いに来るからな?2週間とかいう、期間は関係ない」

 レオンハルト様は、そう言い捨てると部屋を出て行った。私はメイドと2人、顔を青くしたのだった。


*****


「たいへん申し訳ありません」

 午後になってから、トルネスさんとさっきまで一緒にいたメイドさんが謝りに来た。

「頭を上げてください」

「それで、そのぅ‥‥‥。大変申し上げにくいのですが‥‥‥」

「伯爵令息が帰るまでは、城にいてくださいとかでしょう? 乗りかかった船ですし、仕方がないと思います」

「延長分はキッチリとお支払いしますので、そちらはご安心ください」

「私が思うに、話に聞いたレオンハルト様と少々違う印象を受けたのですが‥‥‥」

「それがその‥‥‥。普段は温厚な方なのですが‥‥‥。私どもにも、よく分からないのです。もしかしたら、何か勘づいているのかもしれません」

「そうですか‥‥‥」

 もし何か気づかれたりしていたら、色々と厄介だろう。ボロを出さないように気をつけなければ。

 昨日より胃がキリキリと締めつけられるように痛くなった私は、夕方にお粥を食べて、そのまま眠りについたのだった。


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