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完全敗北
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次の日。俺は陛下から追加で頼まれた仕事を執務室でこなしながら、居留守を使っていた。しかも、昔の職場から人を借りて部屋の入口を見張らせていた。そうでもしないと、落ち着かなくて仕事にならなかったのだ。
「スミス様、フェイ殿下がお越しです」
「いないと言ってくれ」
「そんなぁ。いいんですか? たぶん、15回目ですよ?」
先日、穴に埋まった時に、たまたま側にいた文官はフランと言うらしく、困った顔でジッとこちらを見つめていた。
「騎士団に戻りたいんだろ?」
「うっ‥‥‥」
フランは心を決めたかのように頷くと、ドアを開けた。
「フェイ殿下、申し訳ありません。スミス様は、ご不在‥‥‥」
フランが全て言い終わる前に、ドアは押し開けられた。フェイ殿下は、息を切らしながら眉をつり上げている。
「スミス様!! なんで居留守を使うんです? 僕に残された時間は、あと1ヶ月も無いんですよ? 僕と真剣に向き合うって、約束してくれたのは‥‥‥。あれは、嘘だったんですか?!」
「すまん‥‥‥。仕事に集中したくてな」
そう言いながらも、「フェイ殿下の怒った顔も可愛い」とか、いらない事を考えていた‥‥‥。どうやら、俺は完全に恋に落ちてしまったらしい。
「だったら、正直にそう言えばいいじゃないですか? 何で、僕を避ける必要があるんです? そんなに僕のこと、嫌いですか?」
「スミス様‥‥‥」
「フラン!! 余計な事を喋るんじゃない!! フェイ殿下、来ていただいて申し訳ないが、明日にしてくれないか? 仕事が溜まっているのは本当なんだ」
「‥‥‥」
冷静に話したつもりだった。それなのに、フェイ殿下は、暗い表情をして俯いていた。どうやら、落ち込ませてしまったようだ‥‥‥。違う、そんな顔をさせたかった訳じゃないんだ。
「本当にすまない‥‥‥。明日は、フェイ殿下の行きたいところに行って、殿下のしたいことをしよう?」
フェイ殿下は、俯いていた顔を上げると微笑んだ。
「本当ですか?」
「本当だ。男に二言はない」
「嬉しいです!! 僕、明日どこへ行くか考えてきます」
そう言うと、フェイ殿下は部屋を出ていった。どうやら機嫌は直ったようだ。
「スミス様も大変ですね」
「仕事しろ」
フェイ殿下の機嫌だけでなく、フェイ殿下の笑顔で俺の機嫌も直っていた‥‥‥。俺の完全敗北だった。
「スミス様、フェイ殿下がお越しです」
「いないと言ってくれ」
「そんなぁ。いいんですか? たぶん、15回目ですよ?」
先日、穴に埋まった時に、たまたま側にいた文官はフランと言うらしく、困った顔でジッとこちらを見つめていた。
「騎士団に戻りたいんだろ?」
「うっ‥‥‥」
フランは心を決めたかのように頷くと、ドアを開けた。
「フェイ殿下、申し訳ありません。スミス様は、ご不在‥‥‥」
フランが全て言い終わる前に、ドアは押し開けられた。フェイ殿下は、息を切らしながら眉をつり上げている。
「スミス様!! なんで居留守を使うんです? 僕に残された時間は、あと1ヶ月も無いんですよ? 僕と真剣に向き合うって、約束してくれたのは‥‥‥。あれは、嘘だったんですか?!」
「すまん‥‥‥。仕事に集中したくてな」
そう言いながらも、「フェイ殿下の怒った顔も可愛い」とか、いらない事を考えていた‥‥‥。どうやら、俺は完全に恋に落ちてしまったらしい。
「だったら、正直にそう言えばいいじゃないですか? 何で、僕を避ける必要があるんです? そんなに僕のこと、嫌いですか?」
「スミス様‥‥‥」
「フラン!! 余計な事を喋るんじゃない!! フェイ殿下、来ていただいて申し訳ないが、明日にしてくれないか? 仕事が溜まっているのは本当なんだ」
「‥‥‥」
冷静に話したつもりだった。それなのに、フェイ殿下は、暗い表情をして俯いていた。どうやら、落ち込ませてしまったようだ‥‥‥。違う、そんな顔をさせたかった訳じゃないんだ。
「本当にすまない‥‥‥。明日は、フェイ殿下の行きたいところに行って、殿下のしたいことをしよう?」
フェイ殿下は、俯いていた顔を上げると微笑んだ。
「本当ですか?」
「本当だ。男に二言はない」
「嬉しいです!! 僕、明日どこへ行くか考えてきます」
そう言うと、フェイ殿下は部屋を出ていった。どうやら機嫌は直ったようだ。
「スミス様も大変ですね」
「仕事しろ」
フェイ殿下の機嫌だけでなく、フェイ殿下の笑顔で俺の機嫌も直っていた‥‥‥。俺の完全敗北だった。
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