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君の笑顔
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「君は一体いつになったら笑うんだい?」
もう何回目かも忘れた問いを妻にかける。
「あら、私ってすっごく笑顔が素敵なレディだと思うのだけど、ご存じなくて?」
そしていつものように妻が茶化してくる。
「僕は君の笑顔なんて見たことないよ」
事実、出会ってから結婚するまで七年、結婚してから五年、妻の口角が上がっている所は見たことがない。
学生時代から妻は有名だった。
綺麗な黒髪を靡かせて颯爽と歩き、勉強もできてスポーツも万能、おまけにとびきりの美人ときてる。
しかし、笑わない。
学校では知らぬ者がいないくらい有名人だった。
まぁ僕は妻のそんな所を好きになったわけで、同じクラスだったのを幸いに猛アピール。
高校卒業と同時に告白し、見事付き合う事ができた。
OKされるとは思いもしなかったが、その時も彼女は笑わなかった。
初デートも、大学生になっても、プロポーズの時も、結婚してからも、
妻は一度たりとも笑わない。
普通そんなにも笑顔が見れなかったら誰もが耐えられないかもしれない。
しかし、妻は実は結構茶目っ気があるのだ。
会話にも頻繁に冗談を挟んでくるし、元々の口数も多い。
ただ笑わないだけ。
なんていうのがいいだろう、簡単に言えば表情筋が死んでいると言うのが一番適切かもしれない。
それを妻に言うと怒られてしまうのだが。
「僕の決死のギャグも、デートのときも全然笑わない、本当に楽しんでくれてる?」
「あなたのギャグに関してはノーコメントを貫かせてもらうけど、一緒にいる時はいつも楽しいわ。隣で小躍りしてるぐらい」
「僕のギャグで笑わないのは君ぐらいだけどね。君の事はいつも見てるけど、そんな事してた?」
「あなたの瞬きの瞬間とかかもね」
そんなくだらない会話をしつつ、穏やかな時間が流れていく。
変わらない日常がずっと続いていけばいいのに。
「私、なんだか眠くなってきちゃった」
妻がそう言ってウトウトし始める。
「今日は暖かいからね、久しぶりにゆっくり寝てよ」
「最近よく眠れなかったからね。そうさせて貰おうかな。」
「寝る前に笑顔を見せてくれてもいいんだよ?」
冗談まじりに言うと
「あなたって本当にしつこいわね」
妻はそう言って笑った。
僕の顔とは正反対に。
外は春の陽気で満たされて、開いている窓からは心地よい風が頬を撫でる。
「風が気持ちいいね」
返事が返ってくるはずないのに声をかける。
静寂が訪れる病室。
耳をすませば、聞こえてくる呼吸の音は
一人分
世界は変わらず穏やかな時間が流れていく、そんな春の日。
もう何回目かも忘れた問いを妻にかける。
「あら、私ってすっごく笑顔が素敵なレディだと思うのだけど、ご存じなくて?」
そしていつものように妻が茶化してくる。
「僕は君の笑顔なんて見たことないよ」
事実、出会ってから結婚するまで七年、結婚してから五年、妻の口角が上がっている所は見たことがない。
学生時代から妻は有名だった。
綺麗な黒髪を靡かせて颯爽と歩き、勉強もできてスポーツも万能、おまけにとびきりの美人ときてる。
しかし、笑わない。
学校では知らぬ者がいないくらい有名人だった。
まぁ僕は妻のそんな所を好きになったわけで、同じクラスだったのを幸いに猛アピール。
高校卒業と同時に告白し、見事付き合う事ができた。
OKされるとは思いもしなかったが、その時も彼女は笑わなかった。
初デートも、大学生になっても、プロポーズの時も、結婚してからも、
妻は一度たりとも笑わない。
普通そんなにも笑顔が見れなかったら誰もが耐えられないかもしれない。
しかし、妻は実は結構茶目っ気があるのだ。
会話にも頻繁に冗談を挟んでくるし、元々の口数も多い。
ただ笑わないだけ。
なんていうのがいいだろう、簡単に言えば表情筋が死んでいると言うのが一番適切かもしれない。
それを妻に言うと怒られてしまうのだが。
「僕の決死のギャグも、デートのときも全然笑わない、本当に楽しんでくれてる?」
「あなたのギャグに関してはノーコメントを貫かせてもらうけど、一緒にいる時はいつも楽しいわ。隣で小躍りしてるぐらい」
「僕のギャグで笑わないのは君ぐらいだけどね。君の事はいつも見てるけど、そんな事してた?」
「あなたの瞬きの瞬間とかかもね」
そんなくだらない会話をしつつ、穏やかな時間が流れていく。
変わらない日常がずっと続いていけばいいのに。
「私、なんだか眠くなってきちゃった」
妻がそう言ってウトウトし始める。
「今日は暖かいからね、久しぶりにゆっくり寝てよ」
「最近よく眠れなかったからね。そうさせて貰おうかな。」
「寝る前に笑顔を見せてくれてもいいんだよ?」
冗談まじりに言うと
「あなたって本当にしつこいわね」
妻はそう言って笑った。
僕の顔とは正反対に。
外は春の陽気で満たされて、開いている窓からは心地よい風が頬を撫でる。
「風が気持ちいいね」
返事が返ってくるはずないのに声をかける。
静寂が訪れる病室。
耳をすませば、聞こえてくる呼吸の音は
一人分
世界は変わらず穏やかな時間が流れていく、そんな春の日。
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