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クリスティア・アスター
しおりを挟む市民学校に入る少し前のある朝。
教会騎士をしているパパのすりむいた肘が痛そうで、治れ! と心から思って触れたら良くなった。
「クリスティア、癒しが使えるのかい」
驚いたパパに教皇となったばかりのおじいさまの元に連れて行かれ、詠唱を教わった。
「『光よ、この者にいやしをあたえたまえ』」
するとまだ残っていたパパのすり傷がすっかりきれいになった。
「パパよかった!」
パパの怪我が治ってよかった!
パパはありがとうクリスティア。と苦く笑った。
それから教会に住むことになった。
癒しを使えるものは少ないから、神官になるんだって。
ママは泣いていた。
パパはお仕事をしている時にたまに見かけるけど、ママにはそれきり会っていない。
ちょっと寂しいけど、教会にはすてきな人がいたから平気。
たまに一緒にお勉強をする、3つ年上のアルトゥール様。
白い髪の美しい人。
聖女ガブリエラ様に次ぐ強い癒しの力をお持ちで、もうすぐ大神官になるんですって。
「クリスティア、朗読がうまくなったね」
優しく微笑んでくれるととてもどきどきした。
恋をしたのだ。
しかし恋はすぐ、儚く破れた。
「独身を貫きます。教会に生涯を捧げます」
アルトゥール様がおじいさまと話をしているところを聞いてしまったのだ。
クリスティアは淡い金髪に碧眼の美少女だ。
他の神官や騎士に誘われることはあったが、アルトゥール様よりすてきと思える人はいなかった。
だがちやほやされるのは気持ちよかった。
かわいい。きれい。教皇のお孫様。
男たちにもてはやされ、お勉強は疎かになっていた。
そんなクリスティアにアルトゥール様は笑いかけてくれなくなった。
「クリスティア、次代の聖女の候補にお前の名が上がっている。癒しを使える乙女がいないのだ」
おじいさまのお話にクリスティアは閃いた。
聖女となり、アルトゥール様を伴侶に指名すれば、結婚できるのでは?
聖女は白い結婚をし、教会に生涯を捧げる。
女の喜びは捨てさせられる。
そのため望むことはたいてい通るのだ。
聖女の指名をアルトゥール様は断れないだろう。
「身を慎みなさい。あまりお前のいい話は聞かないよ。」
「……はい」
男に囲まれ、勉強も神官の務めもおろそか。
聖女になるのに相応しくないと言われているのだろう。
クリスティアは反省したが、次代の聖女様! ともてはやされすぐに忘れた。
私は聖女。
聖女なのだから、望みはなんでも叶う。
神の愛し子カトリーナ・ユールが現れクリスティアは慄いた。
栗色の髪に垢抜けないジャンパースカート。
田舎娘だ。
しかしなんとも清らかな存在感。
光の魔法の格が違う、とクリスティアは感じた。
光魔法の光を見るアルトゥール様には感じる、どころか格の違いが見えるかもしれない。
クリスティアはカトリーナがアルトゥールに会う前に追い返そうと突撃したが反撃され、更に現場を押さえられアルトゥール様に説教をされた。
お説教でも2人で話せるなんて久しぶりで嬉しい。
クリスティアはときめいたが、静かに怒るアルトゥール様に、クリスティアへの嫌悪がにじんでいることに、気づいてしまった。
クリスティアは泣いた。
泣いて喚いて朝を迎え、アルトゥール様がカトリーナ・ユールと面会をしているとの情報に慌てて駆けつけたのである。
呼び止めたカトリーナは繊細な白いワンピースを着て髪を結い、外見まで可憐になっていた。
田舎娘のくせに。
「あなたが聖女なの?」
「いいえ」
クリスティアは歓喜に震えた。
この子が聖女でないなら、私しかいない!
やはり私が聖女だ!
しかし現れたアルトゥール様に暴言を咎められ。
手を取られクリスティアの大好きな優しい微笑みを向けられているのは田舎娘。
それは私の場所なのに!
アルトゥール様に守られ去っていくカトリーナ・ユール。
クリスティアは神官におじいさまの部屋に連れて行かれ、戻ってきたアルトゥール様とおじいさまに並んでお説教された。
私室に戻り、クリスティアはカトリーナへの嫉妬に身を焦がし泣き叫んだ。
聖女じゃないのにアルトゥール様に優しくされて!
聖女じゃないのにあんなにも清らかで!
あの子が神官になったらずっと比べられてしまう。
アルトゥール様だってあの子を贔屓する!
おじいさまにもあの格の違いはわかるだろう。おじいさまに会う前に帰ってもらわないと。
「ノックス!」
涙を適当にぬぐって扉の外にいる騎士を呼んだ。
「ちょっとあの田舎娘、剣で脅してやりなさい」
クリスティアはぎらぎらと燃える瞳で騎士に言いつけた。
あとがき
クリスティアはあんなに清らかな存在感のカトリーナが神官にならないなんて少しも思いません。
はじめに帰りたいって言ったのに、忘れてます……。
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