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カトリーナ、或いは加藤里菜

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 カトリーナになる前、加藤里菜だった。

 名前どうした。
 ふざけてないよね?
 カトリーナのパパは加藤里菜を知るわけないし偶然だよね。

 加藤里菜が小学生のころ、クラスに加藤さんもリナちゃんもいたから、私はカトリナちゃんというあだ名で呼ばれていた。

 だから急に思い出したけど、名前は全然違和感がない。
 中学生になっても、みんなからはカトリナちゃんて呼ばれて……


 高校生になった覚えがない。

 高校生になる前に、死んだ?
 そしてカトリーナになった?


 加藤里菜は日本の田舎町で暮らす、ごく平凡な女の子だった。
 両親と祖父母、2人の兄と暮らしていた。
 猫を飼っていた。
 小学生の頃は、兄や友達と山でカブトムシを捕まえたり川でザリガニを釣った。
 やんちゃな子供だった。
 中学校の入学式には、着慣れないセーラー服を着て新しいお友達ができるかな、てどきどきしながら教室の扉を開けた。
 今日のカトリーナと同じだ。
 中学校も楽しくて……
 いや、あんまり楽しくなかった?
 中学生の途中から記憶があやふやだ。


 カトリーナとして10年生きてきた記憶ははっきりとある。
 ママが小さい頃に亡くなって、パパとじいちゃんの住む小さな集落にお世話になるべく引っ越した。
 パパは町で会計士をしているけど、私を預ける先がなかったのだ。

 遠いけどパパは町に通って仕事をしている。
 私はパパが仕事でいない間、じいちゃんの畑を手伝ったり、お隣のおばあちゃんにお料理やお裁縫を教えてもらったり、集落の最高齢の大じいちゃんに本を読んであげたり、毎日楽しく暮らしていた。
 そして今日、初めてのお友達に出会えることを楽しみに、パパの通勤の馬に二人乗りさせてもらって町にきた。
 1時間かかった。毎日通ってるパパ尊敬する。


 ママと同じらしい、栗色の髪と濃い茶色の瞳、地味な色彩のカトリーナ。
 金髪碧眼が美人と賞賛されるこの国では地味だけど自分の容姿はなかなか悪くないと思っていた。
 パパが褒めてくれるせいもあるけど、思い出した今ならわかる。日本人としても違和感のない色彩に安心していた。


 うん、理解した。これ、異世界転生てやつだ。


 なぜ異世界かって、誰でも魔法が使えるから。
 畑には魔法で水をまき、料理はかまどに魔法で火をつけ、本は教えてもらわなくても字が読めた。
 ……字が読めたの、ラノベでよくある異世界転生ボーナスじゃないだろうか。
 大じいちゃんに教えてもらったって思って疑問に思わなかったんだんだろうな、パパ……。



 私は加藤里菜だったけど、異世界に転生して、カトリーナになった。
 前世の記憶があってちょっとラッキーかも。それだけ。
 大丈夫、整理できた。

 私はカトリーナ。カトリーナ・ユール。





 でもどうして死んでしまったんだろう?
 思い出せない。
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