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 母がいなくなってから、7年だ。


 うみちゃんは変わらない姿のまま港にいて、冬になるとどこかにいなくなってしまう。
 そして春が近づくといつのまにか戻ってきているのだ。


「お母さんが、いなくなったの。うみちゃんは知ってるよね? お母さん。私の大好きなお母さん」


 
 うみちゃんに話しかけても母は嫌がらなかったから、母と連れだって港に来ることがよくあった。
 ここにいる、というと丁寧に頭を下げていた。
 父には想像の友達じゃなく、ほんとうの友達と遊べ! といつも言われていた。


 うみちゃんはじっと七海を見つめ、こくんと頷いた。

 ほら、いた。お母さんはいた。 
 なんでかみんな忘れてしまったけど、うみちゃんはちゃんと覚えてる。

 七海は母のことを覚えているかと確認するため、うみちゃんに話をする日が増え、母親探しも諦めなかった。
「見えないお友達」に「いないはずのお母さん」と虚言ばかり言っているように見える七海に対して、いじめが始まった。









「お買い物でもしましょ。スーパーに寄りましょ」

「いや。行かない。誰にも会いたくないよ。町のみんながミキちゃんみたいに思ってるの。頭が、おかしいって」

「ななみちゃん……」


 家は港のすぐ近くだ。
 慶の運転する車はすぐに倉本家に着く。
 ペーパードライバーだと言っていたのに、危なげない運転だ。




「あらぁ、いつもお買い物は、どうしてるの? 食材とか」

「スーパーの、た、宅配だよ。他は通販か、おにいちゃん、に、おつかいしてもらってる。私は頭が、おかしいから。み、見つかるとみんなあんな風に、言うから」


 ぽろりぽろりと涙が溢れる。
 小さな町は、良くも悪くも情報が広がりやすい。
 表立って七海を罵り傷つけたのは学校で一緒だった子供たちだけだが、教師や保護者、町の大人からも悪意を感じた。

 被害妄想だったのかもしれない。でも中学生だった七海にはわからなかった。
 そして七海は兄以外の町の人間が恐ろしくなってしまった。





「ななみちゃん。ななみちゃんはおかしくなんてないのよぉ。うみちゃん……様が見えることは、わたしのいたところでは尊ばれるのよぉ? わたしはね、故郷では神の子と呼ばれていたわ」



 Tシャツをまくりあげ、刺青を示す。

 肘の下にちらりと見えていた蔦模様は、肩まで続いて更に奥に伸びていた。


「すごいでしょ、これ、胸……心臓の辺りからここまで続いてるのよ。ななみちゃんにならぜんぶ見せてもいいわよぉ? これはね、印なの。故郷の守り神様のつけた印。タトゥーじゃないのよ、生まれつきこんなふうなの」


 グレーの瞳を細めた慶は、戯けてみせたが、うまく笑えていなかった。






あとがき

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくおねがいします!


私の拙いお話を読んでいただけて嬉しいです。

里見しおん

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