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三話
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しばらくして落ち着いたのか、ハドリーが体を離した。
「傷は大丈夫、なの……? どうして急に」
そう言いながらふと目線を下げた先、何か光るものが視界に入る。不思議に思ってじっと見ると、光を放っているそれは私の手だった。さっきまで彼の手にずっと触れていた私の左手が、弱い光を放っている。
「何、これ……」
ハドリーの表情を見上げると、彼も動きを止めて私の左手を見ていた。そうして呆然としている間に、もともとかすかだった光はますます弱くなっていき、やがて消えた。
一体何が起こったのだろうか。戸惑っているのは私や彼だけではないようで、周囲で様子を見ていた人々のざわめき出す声が聞こえた。今にも命の灯が消えそうだった男が一瞬にして回復し、そのそばにいた女の手が光る。常識では説明のつかない現象が連続して起こったのだから、この場にいる人間全て、何が起こったのか全く把握できていないだろう。
周囲のざわめきが徐々に大きくなる中、彼がポツリとつぶやいた。
「もしかして、君の力で僕は助かったんだろうか」
「どういうこと? 私は何も……」
「さっき僕は確かに死ぬところだったのに、今は何ともない。たぶん傷もふさがっている。こんなこと、何か不思議な力がはたらいたとでも考えないと説明がつかない。その力は、もしかしたら君のものなんじゃないかと思ったんだ」
つまり彼は、自分が助かったのは何か不思議な力が作用したからだと考えた。そしてその不思議な力は、同時に不思議なことが起こった人間、つまり私のものであると考えたのだろう。
確かに、私も彼の立場ならそう考えるかもしれない。だけど、
「私、そんな不思議な力なんてないよ。知っているでしょう」
魔法、というものが存在するとかしないとかいう話は聞いたことがあるが、都市伝説レベルの噂だ。当然、私もそんなものは使えない。
私が彼の推測を否定すると、だが、彼はにっこりと嬉しそうに笑い、もう一度私に抱きついてきた。
「まあ、どっちでもいいよ。よかった、君の元に戻ってこれて。ただいま」
私は胸がいっぱいになって、今度こそしっかり彼の体を抱きしめ返した。
そうだ。何がどうなったのかさっぱりだけれど、ともかく彼は私のところに帰ってきてくれたのだ。
「おかえり」
そうしてしばらく私たちは抱きしめ合っていたが、ハドリーの仲間の「おい、そろそろいいか」という呼びかけで体をゆっくりと離した。
「ん、どうした?」
「どうしたじゃねぇよ。事情はよくわからないが、体に問題がないならドラゴンを倒した報酬をもらって、牙や鱗も金に換えにいかなきゃなんないだろうが」
「ああ……そうか」
仲間の男は彼の腕をつかんで強引に立たせ、他の仲間たちのところに引っ張っていった。
そうして地面に跪いたままの私をチラッと振り返る。
「邪魔して悪いが、こっちもこういう作業は早く済ませたいんだ。イチャつくのは終わってからにしてくれ」
「えっと……すみません」
確かに男の言う通り、いろいろ混乱していたとはいえ、私たちが彼らの仕事を滞らせてしまっていたようで申し訳ない。私は彼の後ろ姿に「じゃあ後でね」と呼びかけ、周囲で見ていた人の間を通り抜けて自分の家に帰った。未だ私の方を見て何か話している人々の様子にどこか不穏なものを感じたが、思い過ごしだろうと気にかけなかった。
「傷は大丈夫、なの……? どうして急に」
そう言いながらふと目線を下げた先、何か光るものが視界に入る。不思議に思ってじっと見ると、光を放っているそれは私の手だった。さっきまで彼の手にずっと触れていた私の左手が、弱い光を放っている。
「何、これ……」
ハドリーの表情を見上げると、彼も動きを止めて私の左手を見ていた。そうして呆然としている間に、もともとかすかだった光はますます弱くなっていき、やがて消えた。
一体何が起こったのだろうか。戸惑っているのは私や彼だけではないようで、周囲で様子を見ていた人々のざわめき出す声が聞こえた。今にも命の灯が消えそうだった男が一瞬にして回復し、そのそばにいた女の手が光る。常識では説明のつかない現象が連続して起こったのだから、この場にいる人間全て、何が起こったのか全く把握できていないだろう。
周囲のざわめきが徐々に大きくなる中、彼がポツリとつぶやいた。
「もしかして、君の力で僕は助かったんだろうか」
「どういうこと? 私は何も……」
「さっき僕は確かに死ぬところだったのに、今は何ともない。たぶん傷もふさがっている。こんなこと、何か不思議な力がはたらいたとでも考えないと説明がつかない。その力は、もしかしたら君のものなんじゃないかと思ったんだ」
つまり彼は、自分が助かったのは何か不思議な力が作用したからだと考えた。そしてその不思議な力は、同時に不思議なことが起こった人間、つまり私のものであると考えたのだろう。
確かに、私も彼の立場ならそう考えるかもしれない。だけど、
「私、そんな不思議な力なんてないよ。知っているでしょう」
魔法、というものが存在するとかしないとかいう話は聞いたことがあるが、都市伝説レベルの噂だ。当然、私もそんなものは使えない。
私が彼の推測を否定すると、だが、彼はにっこりと嬉しそうに笑い、もう一度私に抱きついてきた。
「まあ、どっちでもいいよ。よかった、君の元に戻ってこれて。ただいま」
私は胸がいっぱいになって、今度こそしっかり彼の体を抱きしめ返した。
そうだ。何がどうなったのかさっぱりだけれど、ともかく彼は私のところに帰ってきてくれたのだ。
「おかえり」
そうしてしばらく私たちは抱きしめ合っていたが、ハドリーの仲間の「おい、そろそろいいか」という呼びかけで体をゆっくりと離した。
「ん、どうした?」
「どうしたじゃねぇよ。事情はよくわからないが、体に問題がないならドラゴンを倒した報酬をもらって、牙や鱗も金に換えにいかなきゃなんないだろうが」
「ああ……そうか」
仲間の男は彼の腕をつかんで強引に立たせ、他の仲間たちのところに引っ張っていった。
そうして地面に跪いたままの私をチラッと振り返る。
「邪魔して悪いが、こっちもこういう作業は早く済ませたいんだ。イチャつくのは終わってからにしてくれ」
「えっと……すみません」
確かに男の言う通り、いろいろ混乱していたとはいえ、私たちが彼らの仕事を滞らせてしまっていたようで申し訳ない。私は彼の後ろ姿に「じゃあ後でね」と呼びかけ、周囲で見ていた人の間を通り抜けて自分の家に帰った。未だ私の方を見て何か話している人々の様子にどこか不穏なものを感じたが、思い過ごしだろうと気にかけなかった。
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