大好きな恋人が、いつも幼馴染を優先します

山科ひさき

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カミラ視点①

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 ロバートに恋愛感情を抱いたことは一度もない。幼い頃から家族ぐるみの付き合いで、弟か自分の後ろをついてくる犬みたいな、そんな存在だった。
 けれど──彼とはこれからもずっと一緒にいるのだろうと、そう思っていた。

「ロバート君が家を出ちゃって、寂しくなったわねえ」

 洗濯物を取り込みながら話しかけてくる母に、カミラは一言だけ返した。

「……そうだね」

 自分でも驚くほどに冷淡な声だった。何か感づかれてしまうかもしれない。慌てて取り繕おうとするも、母は特に違和感を覚えなかったのか、そのまま話を続ける。

「どうしてロバートくんが急に家を出たのか、あんた知ってる?」
「……さあ。自立したかったとかじゃないの?」
「そうそう、そうなんだけどね。なんで今のタイミングでって思うでしょ? これが聞いた話なんだけどねえ、なんか好きな人ができたって話してたらしいんだよ。それと家を出ることがどう繋がるのかよくわからないけど」
「ふーん」

 なるほど、それだけ聞けば確かにわからない。
 けれど、彼女は知っていた。ロバートが家を出たのは、カミラと距離を取るため。自分の恋愛を邪魔してくる幼馴染から離れるためであると。
 もうこの話題を聞きたくなくて適当な相槌を打ったが、それが母の気に障ったらしかった。

「ふーんって、あんたねえ。……てっきりあんたはロバートくんと結婚するもんだと思ってたのに、向こうには別の相手がいるっていうんだから、予定がまるっきり狂っちゃったよ。あんたももういい歳だし、うかうかしてたらすぐ行き遅れになるんだからね。早く相手を探しなさいよ」
「そんなの、ママたちが勝手に言っていただけでしょ。私は知らないよ」

 そう言い残して、カミラはリビングのソファーから立ち上がると自分の部屋に直行した。このままだと母の長い説教に付き合わされる羽目になると思ったからだ。

「結婚、ね……」

 ベッドに寝転がり、つぶやく。
 さっき、カミラは「ママたちが勝手に言っていただけ」と母に言ったが、あれは嘘だ。

──実際はカミラ自身も、いずれはロバートと結婚するのだろうとなんの疑いもなく信じていたのだから。

 だって、カミラの両親はいつもそう言っていた。カミラをもらってくれるのはロバートくんくらいしかいないわね、って。そうしたらロバートの両親も同調して、カミラちゃんが来てくれるならとっても嬉しいわ、って。ロバート本人だって特に否定もせず笑っていた。
 だから──カミラはロバートとの将来を、まるで確定したことのように自分の中で扱ってしまっていたのだ。
 顔もまあ悪くないし、近場で手を打とう。気心も知れているし仲良くやれるだろう。そんなふうに。

 でも、今になって思う。カミラの両親が本気で二人をくっつけようとしていたのに対して、ロバートの両親は角が立たないように話を合わせていただけで、全然本気ではなかった。ロバートもカミラとの結婚など単なる冗談としか思っていなくて、だからこそ笑っていたのだと。
 自分の両親だけが盛り上がっていた話に乗せられて、勝手にその気になってしまった自分が恥ずかしくてたまらない。結婚するのは自分だという思い込みのあまりに取った行動も、思い返せばあまりに痛々しくて、どこかに埋まりたいような、走り去ってしまいたいような気持ちになる。
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