10 / 13
カミラ視点①
しおりを挟む
ロバートに恋愛感情を抱いたことは一度もない。幼い頃から家族ぐるみの付き合いで、弟か自分の後ろをついてくる犬みたいな、そんな存在だった。
けれど──彼とはこれからもずっと一緒にいるのだろうと、そう思っていた。
「ロバート君が家を出ちゃって、寂しくなったわねえ」
洗濯物を取り込みながら話しかけてくる母に、カミラは一言だけ返した。
「……そうだね」
自分でも驚くほどに冷淡な声だった。何か感づかれてしまうかもしれない。慌てて取り繕おうとするも、母は特に違和感を覚えなかったのか、そのまま話を続ける。
「どうしてロバートくんが急に家を出たのか、あんた知ってる?」
「……さあ。自立したかったとかじゃないの?」
「そうそう、そうなんだけどね。なんで今のタイミングでって思うでしょ? これが聞いた話なんだけどねえ、なんか好きな人ができたって話してたらしいんだよ。それと家を出ることがどう繋がるのかよくわからないけど」
「ふーん」
なるほど、それだけ聞けば確かにわからない。
けれど、彼女は知っていた。ロバートが家を出たのは、カミラと距離を取るため。自分の恋愛を邪魔してくる幼馴染から離れるためであると。
もうこの話題を聞きたくなくて適当な相槌を打ったが、それが母の気に障ったらしかった。
「ふーんって、あんたねえ。……てっきりあんたはロバートくんと結婚するもんだと思ってたのに、向こうには別の相手がいるっていうんだから、予定がまるっきり狂っちゃったよ。あんたももういい歳だし、うかうかしてたらすぐ行き遅れになるんだからね。早く相手を探しなさいよ」
「そんなの、ママたちが勝手に言っていただけでしょ。私は知らないよ」
そう言い残して、カミラはリビングのソファーから立ち上がると自分の部屋に直行した。このままだと母の長い説教に付き合わされる羽目になると思ったからだ。
「結婚、ね……」
ベッドに寝転がり、つぶやく。
さっき、カミラは「ママたちが勝手に言っていただけ」と母に言ったが、あれは嘘だ。
──実際はカミラ自身も、いずれはロバートと結婚するのだろうとなんの疑いもなく信じていたのだから。
だって、カミラの両親はいつもそう言っていた。カミラをもらってくれるのはロバートくんくらいしかいないわね、って。そうしたらロバートの両親も同調して、カミラちゃんが来てくれるならとっても嬉しいわ、って。ロバート本人だって特に否定もせず笑っていた。
だから──カミラはロバートとの将来を、まるで確定したことのように自分の中で扱ってしまっていたのだ。
顔もまあ悪くないし、近場で手を打とう。気心も知れているし仲良くやれるだろう。そんなふうに。
でも、今になって思う。カミラの両親が本気で二人をくっつけようとしていたのに対して、ロバートの両親は角が立たないように話を合わせていただけで、全然本気ではなかった。ロバートもカミラとの結婚など単なる冗談としか思っていなくて、だからこそ笑っていたのだと。
自分の両親だけが盛り上がっていた話に乗せられて、勝手にその気になってしまった自分が恥ずかしくてたまらない。結婚するのは自分だという思い込みのあまりに取った行動も、思い返せばあまりに痛々しくて、どこかに埋まりたいような、走り去ってしまいたいような気持ちになる。
けれど──彼とはこれからもずっと一緒にいるのだろうと、そう思っていた。
「ロバート君が家を出ちゃって、寂しくなったわねえ」
洗濯物を取り込みながら話しかけてくる母に、カミラは一言だけ返した。
「……そうだね」
自分でも驚くほどに冷淡な声だった。何か感づかれてしまうかもしれない。慌てて取り繕おうとするも、母は特に違和感を覚えなかったのか、そのまま話を続ける。
「どうしてロバートくんが急に家を出たのか、あんた知ってる?」
「……さあ。自立したかったとかじゃないの?」
「そうそう、そうなんだけどね。なんで今のタイミングでって思うでしょ? これが聞いた話なんだけどねえ、なんか好きな人ができたって話してたらしいんだよ。それと家を出ることがどう繋がるのかよくわからないけど」
「ふーん」
なるほど、それだけ聞けば確かにわからない。
けれど、彼女は知っていた。ロバートが家を出たのは、カミラと距離を取るため。自分の恋愛を邪魔してくる幼馴染から離れるためであると。
もうこの話題を聞きたくなくて適当な相槌を打ったが、それが母の気に障ったらしかった。
「ふーんって、あんたねえ。……てっきりあんたはロバートくんと結婚するもんだと思ってたのに、向こうには別の相手がいるっていうんだから、予定がまるっきり狂っちゃったよ。あんたももういい歳だし、うかうかしてたらすぐ行き遅れになるんだからね。早く相手を探しなさいよ」
「そんなの、ママたちが勝手に言っていただけでしょ。私は知らないよ」
そう言い残して、カミラはリビングのソファーから立ち上がると自分の部屋に直行した。このままだと母の長い説教に付き合わされる羽目になると思ったからだ。
「結婚、ね……」
ベッドに寝転がり、つぶやく。
さっき、カミラは「ママたちが勝手に言っていただけ」と母に言ったが、あれは嘘だ。
──実際はカミラ自身も、いずれはロバートと結婚するのだろうとなんの疑いもなく信じていたのだから。
だって、カミラの両親はいつもそう言っていた。カミラをもらってくれるのはロバートくんくらいしかいないわね、って。そうしたらロバートの両親も同調して、カミラちゃんが来てくれるならとっても嬉しいわ、って。ロバート本人だって特に否定もせず笑っていた。
だから──カミラはロバートとの将来を、まるで確定したことのように自分の中で扱ってしまっていたのだ。
顔もまあ悪くないし、近場で手を打とう。気心も知れているし仲良くやれるだろう。そんなふうに。
でも、今になって思う。カミラの両親が本気で二人をくっつけようとしていたのに対して、ロバートの両親は角が立たないように話を合わせていただけで、全然本気ではなかった。ロバートもカミラとの結婚など単なる冗談としか思っていなくて、だからこそ笑っていたのだと。
自分の両親だけが盛り上がっていた話に乗せられて、勝手にその気になってしまった自分が恥ずかしくてたまらない。結婚するのは自分だという思い込みのあまりに取った行動も、思い返せばあまりに痛々しくて、どこかに埋まりたいような、走り去ってしまいたいような気持ちになる。
826
お気に入りに追加
3,753
あなたにおすすめの小説
お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです
めぐめぐ
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。
さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。
しかしナディアは全く気にしていなかった。
何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから――
偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。
※頭からっぽで
※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。
※夫婦仲は良いです
※私がイメージするサバ女子です(笑)

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!
ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。
同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。
そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。
あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。
「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」
その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。
そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。
正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」



結婚しましたが、愛されていません
うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。
彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。
為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……

聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした
今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。
二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。
しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。
元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。
そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。
が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。
このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。
※ざまぁというよりは改心系です。
※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。

【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる