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誕生日の約束をすっぽかされてから数日、オリビアはまだロバートに会っていなかった。二人のの逢瀬はほとんどがオリビアからの接触によって成り立っていたため、彼女が会いに行かなければ二人が顔をあわせることはない。
実は翌日こっそりとロバートの姿を見に行きはしたが、普通に元気そうな様子で働いていた。つまり、事故に巻き込まれて来るに来られなかった、とかいうわけではなさそうなのだ。オリビアの感情としては、怒っているというより、憂鬱とか気乗りがしないと言った方が近い。またロバートの弁解を聞かされるのは辛かったため、先延ばしにしているような状態だった。
オリビアが働いている食堂を閉めた後、店内の片付けをしている時のことだった。
「こんばんはー」
若い女性の声が店内に響く。
あれ、扉の看板を閉店中に帰るのを忘れてたかな。そう思いながら「すみません、もう閉めちゃってるんですよ……」と言いつつ振り返ると、そこに立っていたのはカミラだった。
「オリビアちゃんと話したくて来ただけだから大丈夫だよ」
「あ……そうだったんですか。じゃあもうすぐ片付け終わるので、待っててもらっていいですか?」
「わかった!」
オリビアは動揺しながらも閉店後の作業を終えると、店のテーブル席にとりあえずカミラを座らせ、自分も対面に座った。
「それで、話っていうのは」
「うん。この前、オリビアちゃんの誕生日にロバートとデートの約束をしてたけど、ロバートが待ち合わせ場所に来なかったでしょ? あれ、私のせいなんだ。ごめんね」
ちょっと首をかしげ、特に申し訳なさそうな様子も見せず謝るカミラ。
何を言い出すつもりかと、オリビアは眉をひそめた。
「……どういうことですか?」
「あの日、私が熱を出しちゃってね。ロバートはデートに行こうとしてたんだけど、その前に私の様子を見にきてくれたんだ。でも私、そのとき体調が悪かったから心細くなっちゃって……つい、引き止めちゃったの。そうしたら、ロバートって優しいでしょ? 私をほっといてデートに行くってこともできなかったみたいで。本当、ごめんねぇ?」
ごめんね、と言葉では謝りつつも、口調と表情には優越感がにじんでいる。
やっぱり、この人は苦手だ。ロバートに聞いた話ではこの幼馴染とは一度も恋愛関係にあったことはなく、告白を受けたり、好意を匂わされたことすら一度もないという。オリビアの手前嘘を言っている可能性もあるが、おそらく真実だろうと彼女は踏んでいた。ロバートのオリビアに対する普段の言動からして、もしも実際に何かあったとしてもそれを隠すとは思えなかったからだ。
カミラは、ロバートに対して恋愛感情を抱いているわけではない。少なくとも、20年一緒に過ごしてきて恋愛関係になろうとしたことは一度もないのだ。なのに、恋人が出来るとあからさまに牽制や嫌がらせめいたことを仕掛けてくる。それが理解できなかった。
「本当は当人が謝りに来るべきなんだろうけど、忙しいみたいで。まあ、気まずいっていうのもあるだろうけど。だから、私が代わりに謝りに来たんだ。ロバートが来なかったのはショックだろうけど、私のせいで仕方なかったわけだし、許してあげてくれないかな?」
「そう、ですね。それなら、仕方がないかも……」
どこか得意げに事情を述べるカミラに、オリビアは曖昧な笑みを返した。
それからカミラとどのような会話をし、どのようにして家に帰ったのか、はっきりとは覚えていない。だだ、自宅のベッドに寝転がって天井を見つめながら、確実に理解できていることが一つあった。
──オリビアはまた、幼馴染に負けたのだ。
実は翌日こっそりとロバートの姿を見に行きはしたが、普通に元気そうな様子で働いていた。つまり、事故に巻き込まれて来るに来られなかった、とかいうわけではなさそうなのだ。オリビアの感情としては、怒っているというより、憂鬱とか気乗りがしないと言った方が近い。またロバートの弁解を聞かされるのは辛かったため、先延ばしにしているような状態だった。
オリビアが働いている食堂を閉めた後、店内の片付けをしている時のことだった。
「こんばんはー」
若い女性の声が店内に響く。
あれ、扉の看板を閉店中に帰るのを忘れてたかな。そう思いながら「すみません、もう閉めちゃってるんですよ……」と言いつつ振り返ると、そこに立っていたのはカミラだった。
「オリビアちゃんと話したくて来ただけだから大丈夫だよ」
「あ……そうだったんですか。じゃあもうすぐ片付け終わるので、待っててもらっていいですか?」
「わかった!」
オリビアは動揺しながらも閉店後の作業を終えると、店のテーブル席にとりあえずカミラを座らせ、自分も対面に座った。
「それで、話っていうのは」
「うん。この前、オリビアちゃんの誕生日にロバートとデートの約束をしてたけど、ロバートが待ち合わせ場所に来なかったでしょ? あれ、私のせいなんだ。ごめんね」
ちょっと首をかしげ、特に申し訳なさそうな様子も見せず謝るカミラ。
何を言い出すつもりかと、オリビアは眉をひそめた。
「……どういうことですか?」
「あの日、私が熱を出しちゃってね。ロバートはデートに行こうとしてたんだけど、その前に私の様子を見にきてくれたんだ。でも私、そのとき体調が悪かったから心細くなっちゃって……つい、引き止めちゃったの。そうしたら、ロバートって優しいでしょ? 私をほっといてデートに行くってこともできなかったみたいで。本当、ごめんねぇ?」
ごめんね、と言葉では謝りつつも、口調と表情には優越感がにじんでいる。
やっぱり、この人は苦手だ。ロバートに聞いた話ではこの幼馴染とは一度も恋愛関係にあったことはなく、告白を受けたり、好意を匂わされたことすら一度もないという。オリビアの手前嘘を言っている可能性もあるが、おそらく真実だろうと彼女は踏んでいた。ロバートのオリビアに対する普段の言動からして、もしも実際に何かあったとしてもそれを隠すとは思えなかったからだ。
カミラは、ロバートに対して恋愛感情を抱いているわけではない。少なくとも、20年一緒に過ごしてきて恋愛関係になろうとしたことは一度もないのだ。なのに、恋人が出来るとあからさまに牽制や嫌がらせめいたことを仕掛けてくる。それが理解できなかった。
「本当は当人が謝りに来るべきなんだろうけど、忙しいみたいで。まあ、気まずいっていうのもあるだろうけど。だから、私が代わりに謝りに来たんだ。ロバートが来なかったのはショックだろうけど、私のせいで仕方なかったわけだし、許してあげてくれないかな?」
「そう、ですね。それなら、仕方がないかも……」
どこか得意げに事情を述べるカミラに、オリビアは曖昧な笑みを返した。
それからカミラとどのような会話をし、どのようにして家に帰ったのか、はっきりとは覚えていない。だだ、自宅のベッドに寝転がって天井を見つめながら、確実に理解できていることが一つあった。
──オリビアはまた、幼馴染に負けたのだ。
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