大好きな恋人が、いつも幼馴染を優先します

山科ひさき

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 それから時は過ぎ、誕生日当日。待っている間は途方もなく長い時間に感じたけれど、過ぎ去ってみるとあっという間だった気がする。
 オリビアはこの日のために買った可愛いピンクのワンピースを見にまとい、一時間前から待ち合わせ場所のベンチで待機していた。

──少し早く来すぎてしまったけど、気持ちを落ち着かせる猶予ができたと思えばちょうどいいかも。ああでも、早く来ないかなぁ……。

 そわそわと、手鏡で身だしなみをチェックしたり、何を話すかシミュレーションをしたりしながら恋人を待つ。
 五分前になると落ち着くどころかいよいよ緊張はピークに達し、待ち人が早く来て欲しいような一生来てほしくないような複雑な心持ちでオリビアは無駄に首をひねってみたり足を組み直したりしながら、今か今かと待っていた。
 ふと首をかしげる。

──あれ、来ないな。まあ彼が遅れるのはいつものことだし、気長に待ってよう。

 待ち合わせ時間を10分ほど過ぎても来る気配はない。緊張しすぎた反動か、糸が切れたように力が抜けた。ため息を一つ吐き、そのままじっとロバートを待つ。
 そうしてしばらくは鳥などを眺めながらぼんやりしていたが、一時間も経つとさすがに不安になってきた。
 寝坊か。約束を忘れているのか。はたまた……。

「ねえ、君。さっきからずっとここにいるよね? 暑いでしょ。よかったらお茶でもしない?」

 声をかけられて見上げると、そこにいたのは当然のようにロバートではなく、軽薄そうな雰囲気の見知らぬ男だった。苦笑して「いえ、人を待っているので」と返す。

「えー、それって恋人?」
「ええまあ、そうです」
「ふーん。ならまあ仕方ないか」

 男は案外あっさりと引き下がったが、去り際に放った一言はオリビアの胸を深くえぐった。

「でもさ、待ちぼうけしてるみたいだし、その恋人にほったらかしにされてるわけでしょ? 君、大切にされてないんじゃない。じゃあねー」

 残されたオリビアは呆然としてその後ろ姿を眺めていた。
 なに、あの失礼な人。声をかけた女に相手にされなかったからってああいうこと言う?
 心の中で悪態をつきながらも、鼻の奥がツンとなって視界がじわりと滲んだ。「嫌な奴に絡まれた、運が悪かった」そんな風に早々に気持ちを切り替えてしまえないのは、さっきの男の言っていたことがまぎれもない事実だからだ。オリビアは大切にされていない。
 それでも──ロバートがこない理由はまだはっきりしたわけではない。もしかしたら面倒ごとか何かに巻き込まれて、来るに来れない状況なのかもしれないのだ。可能性が少しでもあるなら待とう。そう思った。



 ずっとベンチに座っている間に、日が昇って、落ちていった。辺りが薄暗くなり始めた時、オリビアは呟いた。

「……帰ろう」

 家までの道を歩く途中、閉じている店のショーウィンドウに映る自分の姿が目に入った。
 髪を綺麗にセットし、フェミニンでかわいらしいワンピースを身に纏った女性を見て、オリビアは薄く笑った。
 浮かれちゃって、バカみたいね。少しでも可愛く見えるように、なんて。見せる人なんて、来ないのに。

 過去の自分を思い返せばあまりに滑稽で、胸に穴が開いたような虚しさが心を満たした。これ以上その場に留まっていたら周囲を顧みず泣き出してしまいそうで、オリビアは感傷を振り切るように足を速めた。
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