1 / 3
1章 記憶喪失な異世界転移者
1-1 私の名前は
しおりを挟む
チリチリと日の光が差し込み熱さを感じる。眩しさから逃れるように布団の中に潜り込む。
「……ん……」
ふんわりと枕に頭が沈むと、微かなスズランの香りがした。枕がいつもと違う。
「……?」
目を開くと見覚えのない天井が見える。視線を横にずらすと見たことが無い格子の窓。
飛び起きて周りを見渡して胸がキュッとした。
「ここは……」
静かな部屋でごくりと唾をのむ音が響いた。震える身体を強く強く抱きしめた。
何もわからない
***
周囲を見渡しても見たこともない部屋。穏やかな日差しが室内に差し込み、カーテンがゆらゆらと揺れている。
「……っ。」
起きようとして腕に鋭い痛みが走り、すぐにベッドに身体が落ちた。左右の腕には丁寧にガーゼが貼られていたので、どうやらケガをしているらしいことがわかった。腕を持ち上げて眺めていたところ視線を感じたので顔を向けてみると、開いたドアの前で一人の男性がこちらを見ていた。
「目が覚めたか。」
ツカツカと私の元までやってきて、喉は乾いていないかと問われたので顔を少し動かして頷いた。薄いブラウンの髪で身長は170cmくらいか、それいでいて細身だけど、肩幅がガッチリしていた。知らない顔つきなので外国の方なのかもしれない。
「あっ…」
「ちょっと待て。」
声が出なかった私に透明な液体を入れたグラスをくれた。
「大丈夫。水だ。」
うなずいて受け取り、口に水を含ませた。
「……ありがとうございます。」
喉が潤ったからか、少し弱弱しいけれど声が少しでるようになった。
「擦り傷がたくさんあった。打撲もしていたようだが、痛みは?」
「動くと少しだけ……」
「何があった?」
窓際のイスに座った彼は優しく問いかけた。
「この辺りではみかけない服を着ていたようだが……。」
ハッとして自分の服を見る。クリーム色のシンプルなワンピースを着ていた。
「あっ、着替えは侍女がしたから安心するといい。」
服の違いもわからなくてワンピースを見つめたけれど、それを着替えの心配をしていると思ったようだった。
「わからないのです。」
怪訝そうにみる彼を向いてもう一度言う。
「何もわからないのです。」
***
私はどこからやってきたのか、どうして森の中にいたのか全く分からないと話した。
「名前は?」
「わからない……」
「年齢は?」
「わからない……」
彼から質問されてはじめて自分のことさえ何もわからないことに気がついた。わからないことが増えていくごとにどんどん不安になり胸が苦しくなっていった。気がついたら目の前が滲んでいた。
「大丈夫だ。」
彼はやさしく私の頭をなでて、医者を呼ぶからちょっと待ってくれと言った。
「待って。」
部屋を出ようとする彼の背に向かって声をかけた。今一人にされたら怖い。一人ぼっちが怖い。そんな私の気持ちが伝わったのか、彼は少しだけ目を細めてすぐ戻るから大丈夫だと宥めるように言った。無表情だった彼が少し微笑んでいるかのように見えた。
***
彼が呼んだ医者に診察をしてもらうと、ケガをしたときの衝撃かその時のストレスなどで記憶喪失になっているのではないかということだった。
「君の服装はこの辺りではみなし、ケガをして倒れていた状況から何かの事件に巻き込まれたということもあるかもしれないな。」
再び二人になると、私が倒れていた状況について教えてくれた。彼の家から馬車で1時間くらいの森の中で倒れていたこと、近くにオオカミがいたので警戒してみていたところオオカミの視線の先に私がいたことを知った。
「ありがとうございます。」
背中がゾクっとして身体が震えた。
「とりあえず今日はゆっくり休むといい。あれから2週間ほど寝ていたのだから、まだ体力ももどっていないだろう。続きはまた明日にしよう。」
「……はい。」
いろいろと話して疲れてしまったのか、身体がひどく重く感じた。
「私はオリバー。君は……。」
「えっと……。」
名前を思い出せないので言葉に詰まってしまった。
「リリィ。君が名前を思い出すまでの仮の名前だ。」
「リリィ?」
「そう。君が倒れていた場所には沢山のスズランの花が咲いていたんだ。」
目を細めてほほ笑むオリバーを見て顔が熱くなった。
「リリィ……素敵な名前ですね。」
「……ん……」
ふんわりと枕に頭が沈むと、微かなスズランの香りがした。枕がいつもと違う。
「……?」
目を開くと見覚えのない天井が見える。視線を横にずらすと見たことが無い格子の窓。
飛び起きて周りを見渡して胸がキュッとした。
「ここは……」
静かな部屋でごくりと唾をのむ音が響いた。震える身体を強く強く抱きしめた。
何もわからない
***
周囲を見渡しても見たこともない部屋。穏やかな日差しが室内に差し込み、カーテンがゆらゆらと揺れている。
「……っ。」
起きようとして腕に鋭い痛みが走り、すぐにベッドに身体が落ちた。左右の腕には丁寧にガーゼが貼られていたので、どうやらケガをしているらしいことがわかった。腕を持ち上げて眺めていたところ視線を感じたので顔を向けてみると、開いたドアの前で一人の男性がこちらを見ていた。
「目が覚めたか。」
ツカツカと私の元までやってきて、喉は乾いていないかと問われたので顔を少し動かして頷いた。薄いブラウンの髪で身長は170cmくらいか、それいでいて細身だけど、肩幅がガッチリしていた。知らない顔つきなので外国の方なのかもしれない。
「あっ…」
「ちょっと待て。」
声が出なかった私に透明な液体を入れたグラスをくれた。
「大丈夫。水だ。」
うなずいて受け取り、口に水を含ませた。
「……ありがとうございます。」
喉が潤ったからか、少し弱弱しいけれど声が少しでるようになった。
「擦り傷がたくさんあった。打撲もしていたようだが、痛みは?」
「動くと少しだけ……」
「何があった?」
窓際のイスに座った彼は優しく問いかけた。
「この辺りではみかけない服を着ていたようだが……。」
ハッとして自分の服を見る。クリーム色のシンプルなワンピースを着ていた。
「あっ、着替えは侍女がしたから安心するといい。」
服の違いもわからなくてワンピースを見つめたけれど、それを着替えの心配をしていると思ったようだった。
「わからないのです。」
怪訝そうにみる彼を向いてもう一度言う。
「何もわからないのです。」
***
私はどこからやってきたのか、どうして森の中にいたのか全く分からないと話した。
「名前は?」
「わからない……」
「年齢は?」
「わからない……」
彼から質問されてはじめて自分のことさえ何もわからないことに気がついた。わからないことが増えていくごとにどんどん不安になり胸が苦しくなっていった。気がついたら目の前が滲んでいた。
「大丈夫だ。」
彼はやさしく私の頭をなでて、医者を呼ぶからちょっと待ってくれと言った。
「待って。」
部屋を出ようとする彼の背に向かって声をかけた。今一人にされたら怖い。一人ぼっちが怖い。そんな私の気持ちが伝わったのか、彼は少しだけ目を細めてすぐ戻るから大丈夫だと宥めるように言った。無表情だった彼が少し微笑んでいるかのように見えた。
***
彼が呼んだ医者に診察をしてもらうと、ケガをしたときの衝撃かその時のストレスなどで記憶喪失になっているのではないかということだった。
「君の服装はこの辺りではみなし、ケガをして倒れていた状況から何かの事件に巻き込まれたということもあるかもしれないな。」
再び二人になると、私が倒れていた状況について教えてくれた。彼の家から馬車で1時間くらいの森の中で倒れていたこと、近くにオオカミがいたので警戒してみていたところオオカミの視線の先に私がいたことを知った。
「ありがとうございます。」
背中がゾクっとして身体が震えた。
「とりあえず今日はゆっくり休むといい。あれから2週間ほど寝ていたのだから、まだ体力ももどっていないだろう。続きはまた明日にしよう。」
「……はい。」
いろいろと話して疲れてしまったのか、身体がひどく重く感じた。
「私はオリバー。君は……。」
「えっと……。」
名前を思い出せないので言葉に詰まってしまった。
「リリィ。君が名前を思い出すまでの仮の名前だ。」
「リリィ?」
「そう。君が倒れていた場所には沢山のスズランの花が咲いていたんだ。」
目を細めてほほ笑むオリバーを見て顔が熱くなった。
「リリィ……素敵な名前ですね。」
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と
王女殿下の騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、3話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
さようなら、わたくしの騎士様
夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。
その時を待っていたのだ。
クリスは知っていた。
騎士ローウェルは裏切ると。
だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる