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プロローグ
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「兄さまありがとう。」
ロシェが両親に許可をとったので、リュシエルは屋敷に拾った子犬を入れることができた。それどころか母プリシアは幼いころから動物を飼ってみたかったようで、毛布や子犬を入れる少し大きめのカゴなど用意してくれた。
「ケガの具合をみつつ、体をやさしく拭くのよ。汚れたままだと黴菌が入ってしまうかもしれないわ。」
プリシアはロジェのいうことを聞くようリュシエルへ告げると獣医を呼ぶために部屋を後にした。
「何かに噛まれたような痕があるね。親とはぐれてしまったところを襲われたのかもしれない。」
「……酷い傷。治るかしら。」
リュシエルは傷口に触れないように慎重に子犬の体を拭いていった。
「もうすぐお医者様がくるからがんばって。」
リュシエルの小さな指で撫でられた頭はピクリとも動かなかった。連れてきたときよりも子犬の体が冷たくなっているような気がしてリュシエルは心がキュッと握りしめられたような気持がした。
「とても痛かったよね。」
「そうだね。」
「一人で怖かったわよね。」
「でも今はリュシーがいるからきっと心強いと思うよ。」
そっとロジェの袖をつかむと、そのままロジェにしがみつくように頭を胸に押し付けた。リュシエルにとって初めて生死に向き合う出来事だった。
「ほら。お医者様が来たようだ。この子の様態を説明できるかな?」
ロジェはリュシエルをそっと抱きしめ頭をポンポンと優しくたたくと、覚悟したかのようにぎゅっと抱きしめ返して顔をあげた。
「ちゃんとできるわ。」
◇◇◇
獣医師のバルトは、モンペザ侯爵家のお抱え獣医で馬を診てもらっていえる。バルトはあらかじめ「俺は馬専門だからね」とロジェに宣言していた。バルトの家系は代々モンペザ家の馬を診ている獣医師の家系だ。彼が小さいころから父親に連れられてモンペザ家に来ていたので侯爵の幼馴染でもある。無理難題を押し付けられないようにといった牽制みたいなものだろうとロジェは思った。。
「この子は狼じゃないですかね。でも…いやしかし…」
「「狼?」」
リュシエルが子犬を見つけたときのことを説明しおわると、首をひねっている。
「この地域には狼などいないのでは……?」
ロジェはどこからみても犬だろうという目で子犬を見た。
「そうなんだよねぇ……。狼は群れを形成しているはずだから一匹だけというのもおかしな話なんだよね。」
「狼が他にもいたかもしれないということ?」
「狼は少なくなっていると聞くし、攫われてきたのかなぁ。」
獣医はそう言いながら薬を塗っていく。ロジェとバルトが話すのを横目でチラチラ覗きながらリュシエルは話しかけるタイミングを図っていた。
「あっ、ごめんごめん。かなり傷があって出血しているようだから、よ~く看てあげなきゃだめだよ。」
「大丈夫なの?」
「大丈夫だとはいえないよ。弱ってしまって身体も冷えてしまっているからあたためてあげてね。傷口にこの薬を一日二回塗ってあげて。」
「はい!」
リュシエルはバルトに言われたことをメモする。
「水を飲ませるのは難しいけれど、口に含ませてあげるようにしてね。」
リュシエルはシリンダーを受け取ると、エリーに水の用意をお願いした。
「傷口には薬を塗るけれど、この子の生命力次第。このまま弱っていくかもしれない。絶対に元気になるとは言えない。だから看病しながら、頑張れって声をかけてあげてね。」
「聞こえてるの?」
「そうだよ。ちゃんと声は聞こえている。覚えていないかもしれないけれど、一生懸命願えば声は届くはずだから、もし苦しんでいたら頑張れって声をかけてあげようね。」
子狼が寒くないように毛布をしきつめた。エリーは子狼のカゴのなかをじっと眺めていてしばらく動く気配はない。
「ロジェ……。」
バルトはそっと部屋をでる。
「傷口も確かに動物の噛み痕もあるんだけど、刃物のようなものの痕もあるんだよね。」
「刃物って人間が捨てたというの?」
「いや。噛み痕もあるんだよ。ここには狼はいないはずだから、ペットとして輸入したけれど逃げたとか、なつかなくて捨てたとかそういうこともあるかもしれないだろ?用心しておくに越したことはない。」
ロシェが両親に許可をとったので、リュシエルは屋敷に拾った子犬を入れることができた。それどころか母プリシアは幼いころから動物を飼ってみたかったようで、毛布や子犬を入れる少し大きめのカゴなど用意してくれた。
「ケガの具合をみつつ、体をやさしく拭くのよ。汚れたままだと黴菌が入ってしまうかもしれないわ。」
プリシアはロジェのいうことを聞くようリュシエルへ告げると獣医を呼ぶために部屋を後にした。
「何かに噛まれたような痕があるね。親とはぐれてしまったところを襲われたのかもしれない。」
「……酷い傷。治るかしら。」
リュシエルは傷口に触れないように慎重に子犬の体を拭いていった。
「もうすぐお医者様がくるからがんばって。」
リュシエルの小さな指で撫でられた頭はピクリとも動かなかった。連れてきたときよりも子犬の体が冷たくなっているような気がしてリュシエルは心がキュッと握りしめられたような気持がした。
「とても痛かったよね。」
「そうだね。」
「一人で怖かったわよね。」
「でも今はリュシーがいるからきっと心強いと思うよ。」
そっとロジェの袖をつかむと、そのままロジェにしがみつくように頭を胸に押し付けた。リュシエルにとって初めて生死に向き合う出来事だった。
「ほら。お医者様が来たようだ。この子の様態を説明できるかな?」
ロジェはリュシエルをそっと抱きしめ頭をポンポンと優しくたたくと、覚悟したかのようにぎゅっと抱きしめ返して顔をあげた。
「ちゃんとできるわ。」
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獣医師のバルトは、モンペザ侯爵家のお抱え獣医で馬を診てもらっていえる。バルトはあらかじめ「俺は馬専門だからね」とロジェに宣言していた。バルトの家系は代々モンペザ家の馬を診ている獣医師の家系だ。彼が小さいころから父親に連れられてモンペザ家に来ていたので侯爵の幼馴染でもある。無理難題を押し付けられないようにといった牽制みたいなものだろうとロジェは思った。。
「この子は狼じゃないですかね。でも…いやしかし…」
「「狼?」」
リュシエルが子犬を見つけたときのことを説明しおわると、首をひねっている。
「この地域には狼などいないのでは……?」
ロジェはどこからみても犬だろうという目で子犬を見た。
「そうなんだよねぇ……。狼は群れを形成しているはずだから一匹だけというのもおかしな話なんだよね。」
「狼が他にもいたかもしれないということ?」
「狼は少なくなっていると聞くし、攫われてきたのかなぁ。」
獣医はそう言いながら薬を塗っていく。ロジェとバルトが話すのを横目でチラチラ覗きながらリュシエルは話しかけるタイミングを図っていた。
「あっ、ごめんごめん。かなり傷があって出血しているようだから、よ~く看てあげなきゃだめだよ。」
「大丈夫なの?」
「大丈夫だとはいえないよ。弱ってしまって身体も冷えてしまっているからあたためてあげてね。傷口にこの薬を一日二回塗ってあげて。」
「はい!」
リュシエルはバルトに言われたことをメモする。
「水を飲ませるのは難しいけれど、口に含ませてあげるようにしてね。」
リュシエルはシリンダーを受け取ると、エリーに水の用意をお願いした。
「傷口には薬を塗るけれど、この子の生命力次第。このまま弱っていくかもしれない。絶対に元気になるとは言えない。だから看病しながら、頑張れって声をかけてあげてね。」
「聞こえてるの?」
「そうだよ。ちゃんと声は聞こえている。覚えていないかもしれないけれど、一生懸命願えば声は届くはずだから、もし苦しんでいたら頑張れって声をかけてあげようね。」
子狼が寒くないように毛布をしきつめた。エリーは子狼のカゴのなかをじっと眺めていてしばらく動く気配はない。
「ロジェ……。」
バルトはそっと部屋をでる。
「傷口も確かに動物の噛み痕もあるんだけど、刃物のようなものの痕もあるんだよね。」
「刃物って人間が捨てたというの?」
「いや。噛み痕もあるんだよ。ここには狼はいないはずだから、ペットとして輸入したけれど逃げたとか、なつかなくて捨てたとかそういうこともあるかもしれないだろ?用心しておくに越したことはない。」
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