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プロローグ
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太陽が下がり始めたころ、リュシエンヌはロジェより2~3歩後ろを歩いていた。
「リュシー、余所見ばかりしてはいけないよ。迷子になったら大変だ。」
ロジェは立ち止まってリュシエンヌを手招きした。リュシエンヌは屋敷から出ることができないのでロジェとの散歩を楽しみにしていた。この森も敷地内ではあるが、屋敷とは違って塀で囲われているわけではないし野生の動物はたくさんいる。まだ8歳のリュシエルでは危険だ。あるとき湖の様子を見に行く父についていってから、リュシエルは森へ行きたがるようになった。高い木々も草花も屋敷の中で見ることができないものすべてが新鮮にうつったのだろうとロジェは思っている。だから、ロジェは自分が連れて行くからとリュシエルを屋敷の外へ出したくない両親を説得して、時々森へ連れ出していた。
「だって向こうにたくさん花が咲いているのよ。あれは何という花?」
「どれかな?」
リュシエンヌに手を引かれたほうへ向けると、小さな白い花が目に入った。
「スズランだよ。ここは群生地だったね。」
リュシエンヌはロジェに手を引かれてスズランの傍へ行った。かわいい花だったので1つ摘んで帰ろうと手を伸ばすとロジェに手を引っ張られ後ろから抱きとめられた。
「ふぇ……?」
「スズランはとてもかわいい花だけれど、毒を持っているんだ。花も葉も茎も。危ないからリュシーは触ってはいけないよ。」
「ごめんなさい。でもすごくかわいいのに……。」
うつむいたリュシエルの頭をなでながらロジェはほほ笑んだ。
「後でエリーに頼もう。リュシーの部屋に飾ってもらおうか。」
「兄さまいいの?」
キラキラした瞳で見つめられ、ロジェは無条件で返事をしたくなった。まさか花を食べたりはしないとはお思うが、万が一体に触れたり口に含んでしまったら大変だ。とはいっても、ロジェは可愛い妹がスズランを気に入ったようなので願いを叶えてあげたい。リュシエルの侍女 エリーに注意するように伝えよう。
「約束できる?スズランは花も茎も全てに毒があって危険なんだ。リュシーは触らないと約束できる?」
「えぇ!もちろん。」
リュシエルはロジェに抱きつくとそのまま抱き上げられた。
「お兄様にキスくれる?」
「もちろん!」
頬にキスを送るとロジェは目を細めた。
「カワイイ私のリュシエル。そろそろ帰ってお茶にしよう。」
リュシエルを抱えたまま小道へ戻ろうとすると、リュシエルは声をあげた、
「兄さまっ!あれ……」
リュシエルが指を刺した向こうに赤黒く汚れた小さな子犬がうずくまっていた。
ロジェの腕の中から飛び降りると、子犬ぬ向かって走り始めた。
「待ちなさい、リュシー」
リュシエルは子犬の傍によって上からのぞき込むと、子犬が酷いけがをしていることに気が付いた。様子がわからないのですぐには触らず、ロジェに相談をした。
「ロジェ兄さま、ワンちゃんがケガしているの……。」
「あぁ……。随分傷があるね。かすかだけどまだ息をしている。どうしたい?」
ロジェはまっすぐリュシエルを見つめて問う。子犬に視線をうつしてすぐにロジェへ視線を戻すとはっきりリュシエルは言った。
「この子を助けたい……。私が看病する。」
「随分ケガしていて虫の息だ。もしかすると間に合わなくて死んでしまうかもしれないよ。」
「一生懸命看病するわ。まだ生きているのだもの。」
「途中でやっぱり無理だなと思っても、放棄することはできないよ。」
ロジェが子犬を抱えようとするとリュシエルはそれをとめた。
「私がこの子を助けたいのだから。私がちゃんと連れて行くわ。」
両手で優しく子犬を抱えると胸に抱きしめた。
「リュシー、余所見ばかりしてはいけないよ。迷子になったら大変だ。」
ロジェは立ち止まってリュシエンヌを手招きした。リュシエンヌは屋敷から出ることができないのでロジェとの散歩を楽しみにしていた。この森も敷地内ではあるが、屋敷とは違って塀で囲われているわけではないし野生の動物はたくさんいる。まだ8歳のリュシエルでは危険だ。あるとき湖の様子を見に行く父についていってから、リュシエルは森へ行きたがるようになった。高い木々も草花も屋敷の中で見ることができないものすべてが新鮮にうつったのだろうとロジェは思っている。だから、ロジェは自分が連れて行くからとリュシエルを屋敷の外へ出したくない両親を説得して、時々森へ連れ出していた。
「だって向こうにたくさん花が咲いているのよ。あれは何という花?」
「どれかな?」
リュシエンヌに手を引かれたほうへ向けると、小さな白い花が目に入った。
「スズランだよ。ここは群生地だったね。」
リュシエンヌはロジェに手を引かれてスズランの傍へ行った。かわいい花だったので1つ摘んで帰ろうと手を伸ばすとロジェに手を引っ張られ後ろから抱きとめられた。
「ふぇ……?」
「スズランはとてもかわいい花だけれど、毒を持っているんだ。花も葉も茎も。危ないからリュシーは触ってはいけないよ。」
「ごめんなさい。でもすごくかわいいのに……。」
うつむいたリュシエルの頭をなでながらロジェはほほ笑んだ。
「後でエリーに頼もう。リュシーの部屋に飾ってもらおうか。」
「兄さまいいの?」
キラキラした瞳で見つめられ、ロジェは無条件で返事をしたくなった。まさか花を食べたりはしないとはお思うが、万が一体に触れたり口に含んでしまったら大変だ。とはいっても、ロジェは可愛い妹がスズランを気に入ったようなので願いを叶えてあげたい。リュシエルの侍女 エリーに注意するように伝えよう。
「約束できる?スズランは花も茎も全てに毒があって危険なんだ。リュシーは触らないと約束できる?」
「えぇ!もちろん。」
リュシエルはロジェに抱きつくとそのまま抱き上げられた。
「お兄様にキスくれる?」
「もちろん!」
頬にキスを送るとロジェは目を細めた。
「カワイイ私のリュシエル。そろそろ帰ってお茶にしよう。」
リュシエルを抱えたまま小道へ戻ろうとすると、リュシエルは声をあげた、
「兄さまっ!あれ……」
リュシエルが指を刺した向こうに赤黒く汚れた小さな子犬がうずくまっていた。
ロジェの腕の中から飛び降りると、子犬ぬ向かって走り始めた。
「待ちなさい、リュシー」
リュシエルは子犬の傍によって上からのぞき込むと、子犬が酷いけがをしていることに気が付いた。様子がわからないのですぐには触らず、ロジェに相談をした。
「ロジェ兄さま、ワンちゃんがケガしているの……。」
「あぁ……。随分傷があるね。かすかだけどまだ息をしている。どうしたい?」
ロジェはまっすぐリュシエルを見つめて問う。子犬に視線をうつしてすぐにロジェへ視線を戻すとはっきりリュシエルは言った。
「この子を助けたい……。私が看病する。」
「随分ケガしていて虫の息だ。もしかすると間に合わなくて死んでしまうかもしれないよ。」
「一生懸命看病するわ。まだ生きているのだもの。」
「途中でやっぱり無理だなと思っても、放棄することはできないよ。」
ロジェが子犬を抱えようとするとリュシエルはそれをとめた。
「私がこの子を助けたいのだから。私がちゃんと連れて行くわ。」
両手で優しく子犬を抱えると胸に抱きしめた。
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