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JK-自殺と解雇-

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男。ヨシカズは駅のホームでいつも通りの空気を聴く。風の音、学生の雑話、駅員の注意喚起。いつも通りの流れ、その日は異彩を放つ音が絡んでいた。電車に潰される肉。骨。肉。行きつけの店のつくねは美味いが、もう食べられないと思うと涙が出てきた。なにしろ今回ミンチの材料タネは、自分自身なのだから。


くび【首/頸】
1、脊椎動物の頭を繋ぐ部分
                         ~
5、職を辞めさせること、解雇


学生時代、笑いながら読んでいた5の項目を実体験することになるとは。私、ヨシカズの人生は特別楽しいものでは無いだろうが、それでも頑張ってやってはきた。定められたルールを自発的に破ることは無かったし、順調に大学まで進学した後、就職先も上流ではないが中級、他人からは真っ当な生き方をしていると言われることだろう。そんな私に下された突然の死刑宣告。何を大袈裟にと思うかもしれないが、生きる意味を仕事に対する責任にのみ置いていた者にとって、解雇は事実上の死刑宣告なのだ。
「これは死ぬしかないか」
自殺を決めた翌日の朝、7時発の電車にはもう乗る必要が無いのに、起床時の時計の針は縦に180度になっていた。社会の歯車ってのは言い得て妙だな。起きてしまったものは仕方ない。いつも通り準備を整え、存在しない仕事に出かける。今日もいつも通りに来るであろういつもの電車を、いつも通りではなくしてやろうというくだらない復讐心に駆られて。
  
 
駅に着く。残り5分。周りの人は昨日も一昨日も同じ話をしている。今日はせめて彼らの会話に貢献できたらいいか。あと4分。相も変わらず寂れた駅。無くなったら少し寂しい。それを感じることはもう無いが。そして3分。よく考えたらここでコーヒー買った方が効率良かったのでは?今更ながら。もう2分。こんなに短いのか5分間。拍動が聞こえる。いよいよ1分。本当にいよいよ。いよいよいよよ。
見えた。来た。見知った顔だ。何千回と拝んだ顔が音を立ててやってくる。飛べ!ヨシカズ!
ふわりと浮遊する感覚を全身に受けながら走馬灯に思いを馳せる。
そういえば子供の時は憧れていた人、キャラクターが居たなぁ。せめて最後はヒロイックにこの世を去ろう。さらば世界。
「あばよ」
大の大人がこんなセリフ、
少し照れるーーーーーーー







人肉ミンチの完成でーす。





吐き気がする。目が眩む。今まで死んだことがなかったので死への恐怖を理解出来なかった。死の恐ろしさは体験しないと分からない、が、二度と思い出したくない。骨の軋む音、肉の匂い。人がモノに変化していく感覚…
「ごっ!ごボっボロろrロロろ…!」
昨日から何も口にしていなかったので吐き出されるのは液体のみだ、しかし体中がこのおぞましい感覚を吐き出そうと必死になっている。
半透明な液に赤色が追加されてきた。急速に熱は冷め、体を守るためか吐き気は治まった。
過呼吸になりながらも、一息、落ち着いて不思議に思う。何故私は意識があるのか、死んだ訳では無いのか。急に恐ろしくなり辺りを見回す。
周りはーーー
「白い…」
ということは天国?信じてはいなかったが、天国に行けたのならこれ以上はない。しかし広い場所。これからどうすれば良いのだろう?
「……合うてん!戦うてん!」
安易な語尾で物騒なことが聞こえる?
「戦えてん!戦えてん!」
「な…何言ってるんですか?」
堪らず話しかけた私の目の前には白くて可愛いマスコットキャラクターがいた。

「何言ってるも何も、あなたのことてん!僕の名前は てんしくんてん!これからあなたには戦ってもらうてん! 」
「だからそのことです。いきなり戦えって…どういうことなんですか?私は死んだのですよね?」
「あなたは死んだてん!その通りだてん!でも今、天界は人員不足てん!」
「すいません、語尾がある人と話した経験がないので、語尾カット、して貰えますか?」
「分かりました。じゃあもう一度説明を。あなたは死にました。紛れもなく。ですので本来なら担当の天使がこの『全自動天国地獄振り分け機』によってあなたの魂を審査し、天国に行くのかはたまた地獄のものに任せるのかを決めます。しかし今の世の中、あの世も人員不足。振り分け担当の天使の人数は少なく、捌ききれないのが現状。そこで我々は、より効率的に魂を審査するためにある儀式、通称"JK"と、我々は呼んでいますが、を行うことにしたのです。その内容を分かりやすく言いますと、人間同士を競い合わせ、人を審査する儀式。つまり、この戦いで勝ち残った半数が、天国に行けるって寸法なのですっ」
なるほど確かに個々人の仕事は減るが、少し手荒ではないだろうか?仮にも天界を名乗る存在がそのような俗っぽい手法で…?
色々確かめたいことはあるが、ここは情報を得るのが先…
「その儀式にはまだ審査されていない全ての人が参加するのですか?それとも選考には理由が…」
「むっ!その質問に答えるにはまだまだ説明が必要なので、しばしお待ちを。そもそも天国か地獄か、その振り分けは単純に生前行った良い事と悪い事の比率によってなされるもの。しかし、現代では、分かりやすく善悪の区別がある人間が少ない。かつては、振り分け機にも判別がつけることの出来ない曖昧な人間は、その都度天使が審判し振り分けていました。しかし重なる人員不足、もう天使達は疲れました。そして決めたのです。ちまちま判別するのではなく、面倒な問題は当人同士で解決して頂きましょう、と。」
「ということは、対象となるのは…」
「はい!生前行った善行悪行のバランスがほぼ同じの人間たち!ということなのです!」
ふうむ。確かに自分は目立った活躍をしたことも、悪事を働いたことも無い。そこにはすんなり納得がいった。
「すいません、慣れてきたので、語尾を戻しても大丈夫です。」
「てんっ!?助かるてん~!やっぱりこの方がやりやすいてん!」
わかりやすく喜んでいる、可愛いてんしくん。
「それは良かったです。では最後に、儀式の具体的な内容を伺ってもよろしいですか?」
「おっ!ついに来たてんね~その質問が。でもまずはこのくじを引くてん!その方が説明早いのてん!」
くじ?順番決めか何か?とりあえず言われた通りに箱に手を入れくじを引く。
くじ、と言っても引いて出たのはガシャポンのカプセルのようなもので、中には紙が入っているのが見えた。
「おおっ!出たてんね!なかなかいいのを引いたてん~?それが君の使える力てん!」
「力?」
「そうてん!それで戦うのてん!それで勝ち残るのてん!」
勝ち残る?どういう…
「では次は転生だてん!てぇーん!」 
思考の途中で眩い光が辺りを包む。思わず目をつぶり、開くと…
見慣れた家具、間取り、ここは…
「私の、家?」
どういう事だ、生き返ったのか?転生?転生ってことは…?
「成功だてん!じゃあ次は鏡を見るてーん!…
中々素敵てん?」
思考が追いつかないままに鏡を見る。


美少女がいた。



100人が見て少なくとも80人は美少女と言うであろう端正な顔立ち、しかし何故か見慣れたような、元々この顔であったような不思議と安心感のある顔。そこで彼女わたしは、見たことの無い学校の制服(ようなもの)を身にまとっていた。

な、何故…
「なぜ女性になってるんですか!?しかも歳も若く…なってますし!というか!ここウチですよね!?」
「女性というかJK女子高生てん。世の中1番上手く渡っていけるのは美人なJKだって天界の調べでは出てるてん!殺し合いの場が下界だから、少しでも暮らしやすくなるように、天界側の配慮だてん!」
「諸説ありですよ!というか殺し合いの場って?普通に人の街で?」
てんしくんの説明は進んでいるのに、疑問符がどんどん出てくる。
「天界にそんな場所ないてん!無駄に広い下界を有効的に使う、賢い案だてん。」
そんな理由で舞台に選ぶ事に賢さを感じはしない…
いや、そこも重要だが、恐ろしい言葉を見落としている。
「"殺し合い"の場…?」
口にすると背筋が凍る
そういえばまだ具体的な方法を
聞いてはいなかった
最悪を想定して
先に進むのを躊躇ってしまう
しかし、

その不安は目の前にいる可愛い生き物(?)の可愛い口から何気なく吐き出された。
「そうだてん!これからあなた方、人間達には、天界行きを賭けて、殺し合ってもらうのてーん!」



吐き気がぶり返す。脳は多量の最悪を考え、震えている。だが、口から絞り出されたのは、極めて人間的な、しかし多くの現代人は滅多に触れることの無い言葉ーーー




「死にたく…ない」


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