ひだまりを求めて

空野セピ

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第八章 護りたい想い

それぞれの診察

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 日陰の町サーヴァで巨大サソリを倒し、その後マッドが原因不明の暴走を起こしウォックが負傷し、マッド自身も倒れてしまった為、ティミー達はヴェイトとベルスに連れられてベルトア軍の軍病院に帰還した。
 
 マッドはヴェイト一人で診れるだろうと判断したベルスは、ウォックを診察室に運び込むと即座に服を捲り上げて傷の具合を確認する。

「さっきある程度止血はしたが、内臓の一部が完全に斬られてるな。手術になるからヴェノルとプリムはどっか行ってろ」

 ベルスの言葉に、ヴェノルは不安そうにベルスの右腕を掴んだ。

「ウォック、助かるよね?」
「大丈夫だっての。死にはしねぇよ。手術すりゃ治るし元々コイツタフだろ」
「タフ、なのかなぁ」
「普通だったら死んでてもおかしくねぇ傷だぜ」

 ヴェノルは不安そうにウォックを見詰める。
 顔色も悪く、傷口の炎症による高熱でうなされているようだ。
 そんなウォックを見ると、ヴェノルの目頭には無意識に涙が浮かび、溢れ落ちそうになった。
 
「ウォック、心配なんだ......。いつも怒られちゃうけど、頭も撫でてくれるし美味しいご飯も作ってくれるし......一緒にいると安心するんだ」
「ま、面倒見は良いもんなアイツ」
「うん......痛いのは、辛いもん。だからベルス、絶対ウォックの事、助けてね」
「分かってるっての。だから外で待ってろ。プリム、お前がコイツの面倒見てろよ」
「えっ、私が......ですか?」

 突然話を振られたプリムは目を見開き、オロオロと手を挙げたり下げたりしていた。
 その様子にベルスは小さくため息を吐き、ヴェノルとプリムの頭を乱暴にわしゃわしゃと撫で、整えられた二人の髪の毛をぐしゃぐしゃに乱した。

「わーっ、何するんですかベルス中将!」
「良いか、あくまでコイツらは一般人だ。あんまり軍の中を歩かれるとこっちが迷惑なんだよ。暫くお前の部屋に匿わせておけ」
「そ、そんな事言われても、だってこの子......」
「なんだよ」

 ベルスはぶっきらぼうに聞き返すと、プリムは顔を赤くしながら俯いてしまった。

「その、子供とは言え男の子じゃ無いですか......。私の部屋に匿わせるのはちょっと」
「あ? お前まさか、不健全な事考えてんじゃねぇだろうな?」

 ベルスの言葉に、プリムは顔を赤くし頬を膨らませながら声を上げた。

「不健全も何も、異性を匿わせる事は出来ません! だったらベルス中将の部屋に匿わせれば良いじゃ無いですか!」
「今のコイツにそんな知識一ミリも無ぇし俺の部屋足の踏み場無ぇし。良いだろ別に減るもんじゃねぇんだから」
「嫌です!」
「うるせーな、なら適当に飯でも食わせておけ。ほら、邪魔だからさっさといけガキ共」

 ベルスがヴェノルとプリムの背中を押して部屋から出そうとすると、ヴェノルは足に力を入れて踏ん張り、バタバタと手を上下させた。

「え~! 何で! 俺も手伝う!」
「手伝うじゃねぇよ! 医療知識の無ぇ奴が手出しすんな!」
「やだ~! ウォックが心配だもん! 俺も手伝う手伝う!」
「あーもーうるせぇ! さっさと出てけ! 俺が呼びに行くまで絶対ここに近付くなよ!」

 ベルスは半分蹴り飛ばす様に二人を部屋から追い出すと、そのまま部屋に鍵を掛け二人を入れない様にしてしまった。
 ヴェノルが何度も扉を開けようとするも、ビクともせずに扉を睨み付けた。

「何だよー! ベルスのケチ!」
「ま、まぁまぁ。私達に何も出来ないのは事実ですし......ほら、行きましょうヴェノルさん。ご飯食べに行きませんか?」
「ご飯!? うん! 食べに行く~! 案内してプリム!」
「わーっ、ちょっ、抱きつかないで下さい!」

 ご飯の言葉に反応したヴェノルは勢い良くプリムに抱きつき、そのままスリスリと首筋に顔を埋めて甘える様にしがみついた。
 プリムは何とかヴェノルを引き剥がすと、軽く咳払いをして乱れた軍服を直す。

「もう、ほら行きますよ。ベルス中将がウォックさんを治してくれるまで暫く休みましょう」
「はぁ~い! 何があるんだろう、オムライスあるかな? プリム作れる?」
「料理はちょっと苦手なので、食堂に行きましょうか。此処からだと真っ直ぐ歩けば着くはずなので......」
「やったぁ! 早く行こうプリム! あ、ご飯食べ終わったらすぐ戻って来ようね!」
「えっ、ちょっ、あぁぁあまたこのパターン! 走らないで下さい~!」

 ヴェノルはプリムの手を掴むと勢い良く走り出し、二人は連れ去られる様に軍病院の奥へと消えていった。




 一方ヴェイトは倒れたマッドを別の診察室に寝かし、状態を確認していた。
 聴診器で胸の音や呼吸音を確認し、時折カルテに素早く書き込みを入れていく。
 その様子をティミーは不安そうに見守っていると、診察が終わったのか、ティミーに椅子に座る様に促し、ヴェイトも自分の椅子に座り小さく息を吐いた。

「解毒の点滴も打ったし、今は落ち着いて眠っているよ。熱はまだあるが、とりあえず一安心して大丈夫だろう」
「そうですか......良かった」

 一安心して良い、という言葉にティミーはホッとしたのか、深く息を吐いた。
 緊迫していた雰囲気が抜けたのか、ティミーの茶色の瞳からは自然と涙が溢れ出て、思わず両手で顔を覆い、ヴェイトに見られない様に顔を背けた。

「す、すみません......その」
「良いよ。心配していたもんね。大丈夫、もう命の心配はしなくて大丈夫だから」
「はい......」

 ヴェイトはティミーが落ち着くまで、優しく背中をぽんぽんと叩き、心配そうにティミーの様子を伺っていた。
 暫くしてティミーが落ち着き顔を上げ笑顔を見せると、ヴェイトも微笑み、静かに椅子から立ち上がった。

「落ち着いたとは言え、暫くは入院が必要になるけどな」
「入院、ですか」

 入院、という言葉にティミーは不安を覚え、ヴェイトを見上げる。
 ヴェイトは深刻そうな表情でマッドを見ると、近くの棚から患者衣を取り出し、少し苦しそうに眠るマッドの頭を軽く撫でた。

「ちょっと特殊な体質の持ち主なんだろうな、彼は」
「特殊......?」
「そう。彼は毒とか、異物が身体に入り込むと過剰なまでに拒絶反応が出てしまう様だ。それでいて、解毒がし難い体質みたいだな」
「拒絶反応......」
「だから、旅を続けるのであれば一度詳しく検査した方が良い。今後、同じ事が起こる可能性もあるからな」

 ヴェイトの言葉に、ティミーは思わずヴェイトの腕を掴んでしまった。
 ヴェイトは驚き、ティミーに視線を向ける。

「どうした?」
「マッドは! そんな事しません! そんな......また、私達を襲うなんて事」

 ティミーは続きの言葉を言おうとしたが、喉の奥が詰まる感覚を覚えてそれ以上言葉を発する事が出来なかった。
 同時に、身体が震え、足から力が抜けてしまい思わず床に座り込んでしまう。
 ヴェイトは慌ててティミーに手を差し伸べて立ち上がらせると、ティミーを再び椅子に座らせた。
 
「......本当は怖いんだろう? また襲いかかってくるかもしれないと」
「......それは」
「怖かったの、凄く分かるよ。だからこそ、キチンと調べて同じ事が起こらない様に予防する事だって出来るかもしれない。それも兼ねての入院だから。言葉が足りなかったね」

 不安から震えるティミーを落ち着かせる為に、ヴェイトは静かに言葉を吐き、ティミーの頭を優しく撫でる。

 その暖かさに、何処かティミーは懐かしさを感じていた。

(懐かしい......昔、私もこんな風にされていたのかな)

 

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