ひだまりを求めて

空野セピ

文字の大きさ
上 下
17 / 108
第一章 穏やかな日常

恥ずかしさと、寂しさと

しおりを挟む
「おやおやティミー、悪い事をしてしまったね」

「な、何がですか、おばあちゃん……」

 レミーはマッドが出て行った扉を見ながら、ティミーの背中を軽く叩いた。 

「マッド坊やと一緒にご飯を食べたかったのだろう? 無理に呼び出してしまって悪かったわねえ」

「なっ……ち、違います! あれは……」

 レミーの言葉にティミーは何故か赤くなりながら、あわあわと首を左右に振った。 
 村人達も、どこか引っ掛かる笑みを浮かべながら、ティミーを見ている。 

「はっは~ん、ティミーちゃん、さてはマッドの事……」

「もう、黙って下さい!」

 中年の男性の言葉とティミーの反応に、周囲からは笑いが飛び交い、ティミーは更に顔を赤くさせた。

「ハックション! ……風邪引いたか?」

 家に戻る最中、噂をされたマッドは何度かくしゃみをしていた。 
 暗い道をランプの光を頼りに黙々と歩き、家に辿り着くと直ぐに風呂の準備を始めた。 
 天然の温泉が近くに有る為、暖かいお湯を常に出せる状態なので、マッドは湯船にお湯を流し込み、お湯がいっぱいになるまでの間に、歯磨きや明日の準備を進めていく。 
 そう、明日の朝は薬草摘みと、お昼過ぎからのティータイムの為に、紅茶の葉っぱを積みにいくのだ。

 小さな布の袋と残り僅かな薬草を袋に入れると、着替えを持ち風呂場へと向かった。 
 今日一日の疲れをお湯と共に綺麗に流すこの時間を、マッドは存分に味わった。 
 暫くして風呂から上がり、着替えて濡れた髪を拭きながら出てくると、マッドは直ぐに二階へ上がって行った。 

 自分の部屋のドアを開け、思い切りベッドにダイブすると、重さを受け止めたベッドが鈍い音を立ててマッドを受け入れた。
 昼間干した布団や毛布からは柑橘系の匂い、更に髪からも柑橘系の匂いが漂い、マッドは瞳を細めた。 
 そう、頭を洗うシャンプーもスー特製のもので、更に髪がサラサラになる効果もあった。 
 髪から垂れてくる滴がうざったくなったのか、マッドは乱暴にタオルで髪を拭くと、また乱暴に机の上にそのタオルを置いた。 
 それと同時に、一枚の写真が視界に入り、マッドはその写真を手に取り、小さく微笑みを浮かべる。 
 写真には、オレンジ色の瞳を細めクリーム色の美しい髪を流した女性と、マッドと同様の銀髪に、空色の瞳を細めた男性が、オレンジ色の瞳に銀髪の小さな少年を優しく見ている姿が映されていた。 
 その写真を見て、マッドは窓越しから星空を見上げる。

「父さんと母さんは、どうして……」

 ポツリと呟いた言葉は、誰も居ない部屋に小さく響き、マッドは再び写真に視線を戻した。 
 そう、この写真は、マッドの母親フラム・クラーデンと父親バルベス・クラーデン、真ん中に居るのは幼き日のマッドだった。 
 家族三人が一番笑っている写真で、マッドが一番大事にしている宝物でもあった。 
 両親が亡くなってから、マッドは一人で生活していた。 
 村人達が気遣ってくれたりはしたが、マッドはそれを素直に受け取められずにいた。
 しかし、それも自然と徐々に受け入れるようになってしまった。
 だが、最近になり受け入れるのに抵抗を感じてしまうようになり、マッドは小さく溜め息を付く。 

「俺は何も出来ねえ。恩返しもできねえ。それでも、素直に受け止めて良いのかな……父さん、母さん」

 写真を見ながら、どこか切なそうに呟くと、眠気が襲って来たのか、マッドは瞼が重くなるのを感じた。 
 昼寝をしたとは言え、眠った時間が浅かったのだろうか、マッドは写真を机の上に戻すと、ベッドに横になり、毛布を被った。 
 ランプの炎を少しだけ弱め、部屋の中が薄明るい事を確認すると、マッドは大きな欠伸をしながらぼんやりと瞳を開いた。 
 正直に思うと、心の中で明日が来るのが楽しみだった。 
 ティミーやアクス達と騒ぐ事は嫌いでは無く、寧ろ楽しいと感じていた。 

(結局は、寂しいんかな。……駄目だ眠い。明日は朝早いし、もう寝るとするか) 

 早朝に薬草を摘みに行く為に、マッドは布団からほのかに香る柑橘系の匂いと眠気に身を任せながら、静かに瞳を閉じ、眠りについた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...