落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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リリアの目論見3

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目の前に広がる大きな湖。

その向こう岸にゴールがある事は分かっている。

だがそこまで行くにはかなりハードな状況だと思われる。

リリアは警戒しながら、向こう岸まで続く幅5mほどの道を数歩歩み出した。

その途端に道の両側から無数の巨大な触手が襲ってきた。道の両側を全て埋め尽くすほどの数だ。
リリスが慌てて幾つものファイヤーボールを放つと、目の前の10本ほどの触手は焼き尽くされた。
だがその背後にはまだまだ多数の触手が残っている。
リリアは業火の化身の出力を50%にまで上げた。
その上で身体の周囲から数十発の火球を放ち、同時に前方にファイヤートルネードを放った。
多数の火球が前方に広角に滑空し、激しい爆炎を上げて触手を焼き尽くしていく。
更にその背後から激しい炎の渦巻きが縦横無尽に触手に襲い掛かり、残っている触手を一気に焼き尽くした。

これで前方30mほどの触手は無くなった。

そう思って前に進むと、再び道の両側から無数の触手が襲ってきた。いつの間にか道の両側の触手は、最初の状態に戻ってしまっている。目に見える総数は全く減っていない。
更に道の片側の水中から長い角を生やした巨大な魚が何匹も飛び出し、道の反対側に飛び込んでいるのが見える。

これって水中の魔物の本体を駆除しないと終わらないわね。

そう思ってリリスは湖の水中に探知を掛けた。案の定、生命反応は無数にある。

どれだけの魔物を集めたのよ!
これは消耗戦だわ。

そう思って驚いているとレイチェルからの念話が届いた。

(リリス。湖に毒を撒かないでね。あくまでもリリアに攻略させるんだから。)

うっ!
先に釘を刺されちゃったわ。

考え込んでいるリリスの前方で、リリアはむきになって湖の中に大量に火球を放ち始めた。
だが湖の表層部はある程度焼かれても、それを嘲笑うように再び触手が伸びあがってくる。
その触手をめがけてウィンディが大量のエアカッターを放ち、同時にトルネードを放って前方に送り出した。

大量にエアカッターを包み込んだ渦巻きが縦横無尽に動き回り、水面上の触手を水草のように刈り取っていく。
これで前方の50mほどまでの触手は消えた。
だが消えたと思っていただけで、同じ場所から再び触手は伸び上がってくる。

(いくら切り取っても焼き払っても、同じ魔物の本体から再生するからね。)

レイチェルの念話にリリスは唖然とした。

厄介なものを用意したわねえ。

リリアの様子を見ると、既にハアハアと荒い息をしている。
業火の化身が魔力吸引を発動させ、大地や大気から魔力を吸い上げ始めた。
だがリリアの身体そのものが疲弊しているようだ。

リリスはリリアの身体に低レベルで細胞励起を掛け、その身体を癒してあげた。
リリアはう~んと唸って目を閉じ、リリスの細胞励起の波動に身を委ねた。

「リリア。少し休みましょう。攻略の手段方法を考えないとね。」

リリスの言葉にリリアは目を閉じたまま、うんうんと頷いた。


5分ほど道の手前で座り込み、どうしようかと考えていると、再びレイチェルからの念話が届いた。

(ヒントをあげるわね。リリアのステータスを確認してみて。)

リリアのステータス?

リリスはリリアのステータスを思い起こし、そのスキルや属性を思い出した。

(そう言えばリリアって、レベルは低いけど水魔法も使えるのよね。これを使えって事なの?)

(ハイ、正解よ。)

(でもレベルが低いわよ。)

(まあ、それだけならね。)

意味深なレイチェルの念話にふと、リリスは閃いた。

そうか!
火魔法と連携させれば良いんだ。
でもそれってリリアに出来るの?

そう思ってリリスはリリアに話し掛けた。

「ねえ、リリア。火魔法と水魔法を連携出来る?」

突然のリリスの言葉にリリアは意味が分からず、えっ?とつぶやき首を傾げた。

「イメージを造るのよ。火魔法と水魔法の連携を強く念じながら。」

リリスがそう伝えてもリリアにはピンとこない。

「ほらっ! 生活魔法で水を温めるイメージよ。それを拡大するだけだから。」

「それって火魔法を僅かに放っているだけでは・・・」

「だったら火を焚いて鍋の水を温めるイメージよ。とりあえず試してみて。」

リリスの言葉にリリアは考え込みながらもその場から立ち上がった。
湖水の傍に近付き、両手を前方に突き出したリリアは、火魔法の魔力を湖水に向けて放ち始めた。
リリアはお湯を沸かすイメージを念じながら、水魔法をも発動させてみた。
それによって手前の湖水の岸辺の部分が若干泡立ってきた。

「こんなイメージかしら?」

そう思ったリリアの脳裏に業火の化身からの意思が伝わってきた。

(水魔法と連携させたいのか?)

(ええ、そうよ。)

(それなら今のイメージで最大限に出力を上げてみれば良い。)

最大出力と言われても、現在のリリアの身体の魔力回路の耐性から考えると60%が限度だ。
だがそれでもやってみよう。
リリアはそう思って業火の化身を発動させ、その出力を最大限にまで上げた。
リリアの身体の周囲の空気が激しく揺れ動き、魔力が周囲から渦巻くように流れ込んでいく。
その振動に耐えつつ、リリアは火魔法と水魔法の連携を強く念じた。
それをサポートするように、業火の化身が無数の触手を長く伸ばし、湖水の中に入っていく。

その気配を察知して湖水の中から触手が伸びて邪魔をしようとするが、魔力の触手なので物理的には邪魔されない。

リリアが更に強く念じ続けると、リリアの身体が光り始め、その身体が魔力の触手で徐々に浮かびあがった。
ピンッと弾けるような音を立て、リリアの身体が大きく光ると、湖のところどころから湯気が上がり始めた。

リリスが試しに湖の中に探知を掛けると、リリアの魔力の触手は水深30mほどにまで伸びているのが分かった。
更にその先端が熱く熱を発しているのが分かる。

水魔法との連携の要領を掴んだのだろう。
業火の化身は更にギアを上げ、周囲から魔力を吸引しながら作業を続けた。それに伴ってリリアの身体がガタガタと震え出している。既にリリアは目をつぶり、その意識があるのかどうかも分からない。
それでも業火の化身は発動し続けた。

「リリア君は大丈夫なのか?」

ロイドの言葉にリリスは軽く頷いた。

「大丈夫だと思います。魔力の補充が追い付かなくなったら、そこでストップするはずです。」

そうは答えたものの、リリスにも確信は無い。
ただそうであろうと思うだけだ。

ほどなく湖水が沸騰し、水中の魔物の暴れ回る姿が湖の水面を覆い尽くしたが、それもしばらくすると収まった。

業火の化身の本格的な作動から10分ほど経過して、リリアの身体から光が消え、リリアはそのまま地上に降りてきた。
ゆっくりと着地すると、リリアはその場で倒れ込んでしまった。

慌ててウィンディが駆け寄り、リリアの上半身を抱き起し、ポーションを数本飲ませた。
そのリリアの身体の背後から、リリスも低レベルで細胞励起を掛けていく。
真っ青だったリリアの顔色が徐々に赤みを帯び、目を開くとゆっくりと呟いた。

「どうですか? 成果は?」

「うん。上出来よ、リリア。見てごらんなさい。」

リリスの言葉に従って湖の方に目を向けると、湖水の至る所から蒸気が吹き出し、ブクブクと泡が立っていた。
更に湖の水面の至る所に黒い魔物が大量に浮かび上がっている。
それはあまりにも大量なので、湖水の水面の下に2層3層になって浮き上がっているのが分かる。
リリスは広範囲に探知を掛けたが、生命反応は全くなかった。
道の両側は赤く焼けただれた触手が大量に打ち上げられて、道を埋め尽くすように塞いでいる。
これはもはや障害物に過ぎない。
火球で焼き払えば道は通れるだろう。

「凄いね。まるで煮物になっちゃっているよ。」

ロイドの言葉は嘘ではない。
湖から漂ってくる匂いは、何となく美味しそうな匂いなのだ。

これって海鮮鍋の匂いを思い出しちゃうわ。
湖水が出汁になっているんじゃないの?

リリスはそう思いながら立ち上がり、試しに道に向かってファイヤーボールを数発放った。
爆炎と共に道の手前の部分の触手が吹き飛ばされたが、当然の事ながら再生してくる気配もない。
それを確認してリリスは歩き出した。

「さあ、行くわよ。」

リリスの言葉をきっかけに、リリア達も立ち上がり、道に向かって歩き出した。

ウェインディのトルネードとリリアのファイヤートルネードで道を塞いでいた触手を取り除き、10分ほど歩いてリリス達は湖の向こう岸にようやく辿り着いた。
その間も美味しそうな海鮮鍋の匂いが漂ってくる。

昼食が待ち遠しいわね。

そう思いながらリリスは下方への階段の前に立った。

ダンジョンチャレンジはここで終わりだ。
第5階層は立ち入り禁止になっている。
この下の階層は、探索者を追い返すだけの仕組みになっているからだ。

「さあ、帰ろうか。今日はリリア君の大活躍だったね。」

ロイドの言葉にリリアはえへへと笑ってウィンディと顔を見合わせた。

ロイドは懐から転移の魔石を取り出し、それを発動させ、一行は魔法学院の学舎の地下の訓練場に転移したのだった。




その日の午後。

学生寮の自室に戻ったリリスは、亜神達の3体の使い魔に出迎えられた。

ブルーの衣裳を着たピクシーと、赤い衣装を着たピクシーと、ブルーのストライプの入った白い鳥である。
サラは補講を受けていてまだ戻ってきていない。

「リリス。お疲れ様!」

白い鳥の言葉に頷くリリス。
その傍に赤い衣装のピクシーがにじり寄った。

「私も行きたかったんだけどねえ。」

「いやいや、タミアは遠慮してよね。あんたが来ると何が起きるか分からないからね。」

リリスの言葉に赤い衣装のピクシーは残念そうな表情を見せた。

「それで業火の化身はどうだった? 自立進化し始めたって聞いたわよ。」

ブルーの衣裳のピクシーの言葉に、白い鳥が答える。

「だから、さっき話した通りよ。順調に仕上がってきているわ。闇落ちの気配も感じられないからね。」

「それは自律進化の影響もあるの?」

リリスの問い掛けにブルーの衣裳のピクシーが頷いた。

「多分あるわね。自律進化によって自浄作用が働くようになったと思うわよ。まあそれでも念のために高位の聖魔法は、受け続けた方が良いと思うけどね。」

「そう。それなら一安心ね。」

リリスはそう言うとソファの上で身体を伸ばし、う~んと唸ってソファの背にもたれた。

精神的にもかなり疲れるダンジョンチャレンジだったわ。

そう思いながらも亜神の使い魔達としばらく歓談していると、補講を終えたサラが帰ってきた。
それを機会に使い魔達はその姿を消し、リリスは明日の授業の準備に取り掛かった。

だがしばらくして、リリスのカバンの中からピンピンと通報音が鳴りだした。
これは神殿のマキとの連絡用の魔道具である。

リリスは慌てて魔道具を取り出すと、マキとの通話を始めた。

「マキちゃん、どうしたの?」

「ああ、リリスちゃん、ごめんね呼び出して。緊急の用件じゃないんだけど、リリスちゃんに打診しておかなければと思って呼び出したのよ。」

打診するって?

何の事か分からず、リリスはマキの言葉に耳を傾けた。

「私、来週アブリル王国に行くのよ。王族達からの招請でね。実は今回が2回目で先月も行ったんだけど、その時にリリスちゃんは来ないのかって、色々な人から問い掛けられたのよ。祭司長のケネスさんも『リリス様に是非来ていただきたい。』って言っていたわ。アブリル王国の恩人だとも言っていたけど、リリスちゃんってあそこで何をやったの?」

う~ん。
返答し難いわね。

「大量発生した魔物の駆除で、何度も足を運んだからじゃないの?」

「それだけであの態度は考えられないわね。」

「ああ、私の土魔法で荒れ野を開墾してあげた事もあったわね。」

リリスの返答にマキは魔道具の向こう側でう~んと唸っていた。

「まあ、説明出来ない事もあるんでしょうね。それで・・・来週私と一緒にアブリル王国に行かない? 私から王家にも伝えておくからね。」

「アブリル王国とは公式的な転移ルートが開かれているので、移動には時間が掛からないわ。でも遠方の獣人の国なので私の身辺警護はやはり必要なのよね。警護って事ならリリスちゃんの名前を追加しても名目は立つと思うの。」

身辺警護ねえ。
確かにマキちゃんって元聖女様だし、各国の王族に対して施しているのは聖女様レベルの高位魔法だから、どうしても身辺警護が必要なのは理解出来るわ。

そう考えながらも、リリスはふとアブリル王国が海に接している事を思い出した。ローラ達を助け出したのもアブリル王国の領海内の孤島だった。

「ねえ、マキちゃん。アブリル王国でオフの日に港町に行けるかなあ?」

「港町? 確かに王都の北方は海に面しているって聞いたけど、どうしてそこに行きたいの?」

「うん。何だか無性に海鮮鍋を食べたいのよ。」

「海鮮鍋?」

マキはそう言うと、再び魔道具の向こう側でう~んと唸っていた。

「どうして海鮮鍋なのよ?」

「いや、そう言う風な匂いに纏わりつかれる機会があって、それが未だに記憶に残っているのよね。」

「でも魚料理ならミラ王国の王都でも食べられるわよ。」

マキの言いたい事は理解出来るが、リリスは高級な料理を望んでいない。

「そうじゃなくて、もっとシンプルなものが良いのよ。漁師飯みたいなものがね。ブイヤベースとかアクアパッツァとか、アヒージョみたいなもので良いのよ。」

「随分懐かしい単語を並べ上げますね。ホームシックですか?」

マキの言葉が急に後輩っぽい口調になったのは、リリスが元の世界の単語を口にしたからだろう。

「単に食べたくなっただけよ。詳しい事はまた別の機会に話すわね。それで・・・マキちゃんに同行出来るのは大歓迎よ。」

「ああ、良かったわ! それじゃあ王家に連絡しておくわね。許可されればまた連絡するわ。」

そう言ってマキは魔道具での通話を終えた。

リリスは漁師町での食事を思い浮かべ、鼻歌を歌いながら明日の授業の準備を続けたのだった。
  








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