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新生した王国5
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アブリル王国の中央山脈の南側。
リリスが世界樹の加護を土魔法と連動させて造り上げた広大な小麦畑の上空に、巨大な魔力の塊が近付いてきた。
だがそれが近付くにつれて分裂し、三つの光球となってリリス達の目の前に飛来した。
三つの光球は徐々に人の形になっていく。
その纏っている魔力は膨大で、周囲の時空を捻じ曲げそうなほどだ。
不測の事態に備えて賢者ブルギウスは亜空間シールドを前面に展開させ、更にリンディが全員を包み込むようにドーム状の亜空間シールドを造り上げた。
だが身構えるリンディとは裏腹に、リリスの表情は直ぐに緩んでしまった。
現われたのはレイチェルとタミアとユリアである。
3人ともに使い魔の姿ではない。
しかも膨大な魔力を隠す事も無く現れたのだった。
「ちょっと待ってよ。何事なの?」
リリスの言葉にレイチェルが渋面で口を開いた。
「何事かって聞きたいのはこっちの方よ。リリスが自制心を失って暴走しているかもしれないってロキが言うから、臨戦態勢で駆けつけてきたのよ。」
臨戦態勢と言うだけあって、レイチェル達の纏う膨大な魔力の影響で、周囲の空間がゆらゆらと揺れているように見える。
レイチェルの言葉にユリアとタミアが続いた。
「もしかしたらリリスが闇落ちしちゃったかも知れないと思って、私とタミアもレイチェルを追いかけてきたのよ。」
「万一リリスが闇落ちしちゃったら、私達が全員で対処しないと大陸全域に被害が及ぶと思ってね。でも・・・リリスって普通じゃないの?」
「当たり前でしょ! 私は正常よ!」
リリスの怒りにレイチェル達は肩透かしを喰らわされたような表情を見せた。
これってもしかしたらロキ様の嫌がらせなの?
そう思いながらもリリスはレイチェルにこれまでの経緯を伝えた。
その話を聞きながらレイチェルはうんうんと頷いた。
「要するに世界樹の加護をロキの許可なしに発動させたのね。」
「でも土魔法に連携させただけよ。特別な事はしていないわ。造り上げたのもこの世界の作物だし・・・」
リリスの言葉にレイチェルはう~んと唸った。
「それってグレーゾーンよね。何もないところから小麦畑を出現させたのはどうかなあ。」
「種さえあれば急激に育て上げるのってドライアドでも出来るわよ。」
「ドライアドでもって言うけど、これだけ広大な小麦畑を一気に造り上げようとしたら、膨大な数のドライアドを使役させることになるわよ。」
二人の会話が今一つ噛み合っていない。
リリスとレイチェルのやり取りにユリアとタミアは首を傾げた。
「ねえ、レイチェル。あんたってロキにからかわれたんじゃないの?」
「多分ロキの説明が不足だったのよ。でもわざと誤解させるように仕向けてきたのかも知れないわね。リリスに対する牽制の意味も含めてね。」
二人の言葉にレイチェルはう~んと唸って考え込んだ。
リリスにもロキの真意は分からない。
これまでの経緯から考えて、ロキが意図的にレイチェルに誤解させたとも思えない。
色々と考えていると、背後からブルギウスが話し掛けてきた。
「リリス。この3人は敵では無いのだな? 敵で無いのなら魔力を抑えるように言ってくれないか?」
ブルギウスの言葉にレイチェルははっとして魔力を抑え込み、ユリアとタミアも同じように魔力を抑え込んだ。
「それで彼女達は何者なのだ? 普通の人族でない事は分かるのだが・・・」
そう問い掛けたブルギウスにリリスは答えあぐねた。
だがあれこれと説明する前にタミアが反射的に口を開いた。
「私は火の亜神タミア。この二人は風の亜神レイチェルと水の亜神ユリアよ。亜神と言っても本体の一部だけどね。」
「何時もは使い魔の姿でリリスの部屋にたむろしているんだけど、今日は一大事だと思って実体で来たのよ。」
タミア。
私の部屋の事まで言わなくて良いわよ!
そう思ってリリスは心の中でチッと舌打ちした。
だがブルギウスは感心したかのようにリリスの顔を見た。
「リリス。君の部屋には3体もの亜神が訪れるのか?」
リリスの返答を遮るように、タミアがリリスを押しのけて口を挟んだ。
「あら、私達だけじゃないわよ。土の亜神や闇の亜神も使い魔の姿で訪れるし、ロキだって訪れた事があったわよ。それに王族や賢者だって使い魔の姿で訪れるわよ。使い魔の姿で訪れるのがそこでのルールなのよね。」
そんなルールってあったっけ?
勝手に造っているだけじゃないの?
リリスの思いとは裏腹に、ブルギウスはタミアの言葉に強く反応した。
「賢者まで訪れるのか! それなら是非儂に紹介してくれ。」
「あらっ? あんたって友達がいないの?」
タミアの失礼な問い掛けにブルギウスは一瞬ムッとした。
「そう言う事ではない。だが賢者と呼ばれるレベルの人物は希少だからな。儂は自分と同じ獣人の賢者と各々の研究成果を語り合いたいんじゃよ。」
ブルギウスの言葉にユリアが反応した。
「リリス。あんたの知り合いで獣人の賢者って居ないの?」
突然話を振られたリリスは少し考え込んだ。
「そう言えばゴート族の賢者様が居たわね。」
「何だと! どうしてそんな特殊な種族の賢者と知り合ったのだ?」
真顔で迫りくるブルギウスの圧に押され、リリスは思わず後ろに引き下がってしまった
「ゴート族の賢者リクード様とはオアシス都市イオニアで知り合いまして・・・。」
そう言いながらリリスはふと何かを思いついたような仕草をした。
「そう言えば古代のレミア族の遺した遺物や遺跡の事で、私の先祖である賢者ユリアス様と交流しているはずです。ユリアス様に聞いてみますね。」
リリスの言葉にユリアが口を挟んだ。
「ユリアスに用事があるなら、今直ぐここに呼んであげようか?」
「そんな事が出来るのか?」
ブルギウスの問い掛けにユリアはふふんと鼻で笑った。
「ユリアスは私達のパシリだからね。呼べば来るわよ。」
そう言うとユリアはパチンと指を鳴らした。
その途端にブルギウスの目の前に二人の男性が現われた。
一人はリッチの姿のユリアスだが、もう一人は・・・チャーリーだ。
しかも薄いブルーの作業服を着ている。
まるで町工場の職人だ。
チャーリーがどうしてここに?
リリスと同じ疑問をユリアも抱いた。
「チャーリー。どうしてユリアスと一緒に居たのよ?」
ユリアの言葉にチャーリーはそのでっぷりとしたおなかを擦って答えた。
「どうしても何も、君が強制的に転移させたんやないか。僕はユリアスからレミア族の正体不明の遺物があるって聞いて、教えてあげる為にユリアスの研究施設に足を運んだだけや。」
そのチャーリーの傍でユリアスはうんうんと頷いていた。
「ユリア。用事があるならそれをまず話してくれよ。突然呼び出すから外出の準備が整っておらんじゃないか。」
ユリアスは話し終えると一瞬で姿を変え、初老の男性の姿になった。
「それで何の用事だ?」
ユリアスの問い掛けにユリアはブルギウスを指差した。
「このブルギウスって言う賢者が、リクードって言う賢者を紹介して欲しいって言うからあんたを呼び出したのよ。」
ユリアの言葉にユリアスはピクンと眉を上げた。
「ブルギウス様でしたか。お噂は兼ねがね聞いておりますぞ。リクード様とはドラゴニュートの賢者デルフィ様の研究施設で紹介され、それ以降交流を深めております。お望みなら何時でも紹介しましょう。」
「おお! それはありがたい。是非お願いしますぞ。」
ブルギウスはそう言ってユリアスの手を握った。
「なんか異業種間の企業交流みたいやな。」
チャーリーはそう言うと、ふとリリス達の後ろに居たケネスとグルジアに目を向けた。
じっと見つめて目を細めるチャーリー。
その表情に困惑の様子が若干見える。
「ユリア。この二人の事やけど・・・」
「そうなのよね。私も気になっていたの。普通の獣人じゃないわね。それこそ、この世界で初めて目にしたような存在だわ。」
ユリアの言葉を聞き、レイチェルがリリスの顔を覗き込んだ。
「ねえ、リリス。あんたのスキルで個別進化させたのって、この二人の事なの?」
「そう。あと二人居るけどね。」
リリスの返答にふうんと声をあげながら、チャーリーはケネスとグルジアの傍に近付いた。
興味深そうに見つめるチャーリーの視線に、ケネスもグルジアも戸惑っている。
いくら個別進化した存在だとしても、亜神に対する接し方など分かるはずもない。
舐めるように見つめるチャーリーの視線に、二人は無言でその場に立ち尽くしていた。
「実に興味深いね。世界樹の加護と産土神スキルが与えた個別進化は、全く違う次元の種族を生み出したんやな。しかもこれで完成形や無いのがミソやね。」
「完成形ではないってどういう意味なの?」
リリスの問い掛けにチャーリーは軽く頷きながら口を開いた。
「言った通りの意味や。個別進化の完了までにはあと100年掛かる。」
「100年って・・・ケネスさん達はそこまで寿命が延びたって言う事?」
「それは半分正解、半分不正解やね。」
そう言うとチャーリーはしたり顔で口を開いた。
「彼等が普通の獣人より寿命が延びている事は確かやけどね。個別進化で彼等が得たものは全て優性遺伝されていく。その形質が完成されるまでには3世代掛かると考えれば良い。孫の世代で完成すると言う意味や。その頃にこの国がどうなっているのかを考えると、実に興味深いねえ。」
話し終えたチャーリーはリリスが造り上げた耕作地に目を向けた。
「リリス。この辺りの水資源は確かめたんか?」
「ええ、地下に水脈が幾つも走っているのは確認したわ。」
リリスの返答にチャーリーは軽く頷いた。
「そうなんやけどねえ。ここから耕作地を無駄無く活用するには水資源の循環が弱いね。ここは水の女神の出番かな?」
チャーリーはそう言いながらユリアの顔を見た。
その視線にユリアもうんうんと頷く。
この時点でユリアスはブルギウスを連れて、闇魔法の転移でデルフィの研究施設に向かった。
更にタミアも自分の出番がないと言いながら消えていった。
ユリアは3人を見送ると、ケネスとグルジアの傍に近付いた。
「あんた達がここに水の神殿を造って水の女神を祀るのなら、水資源の循環をもっと良くしてあげるわよ。神殿に祭壇を築いて大きな宝玉を用意してくれれば、私の魔力を注ぎ込んで私の加護を残してあげるわ。この土地の開拓者達がそこに参詣して魔力を寄進すれば、その魔力に応じて宝玉の加護が発動する仕組みよ。」
「ドルキアやリゾルタでもそれをやってきたから、その効果はリリスも知っているはずよね。私の魔力を注ぎ込む為の儀式も必要なんだけど、この国の王族を迎えてその儀式を執り行えるかしら?」
ユリアはケネス達に問い掛けながらリリスの顔を見た。
リリスはその視線を受けて無言で頷いた。
ケネス達は半信半疑の表情だ。
「ケネスさん。気紛れな亜神が人族や獣人の為に動いてくれるのって稀な事ですよ。ちなみにユリアは祭祀の際には女神の姿で現れますから。」
そう言ってリリスはユリアに促した。
「ユリア。あんたの美しい女神の姿を見せてあげてよ。」
「う~ん。仕方が無いわね。ちょっとだけよ。」
リリスの言葉に乗せられて、ユリアはまんざらでもないような表情を見せた。
ユリアの姿がその場からふっと消えると、上空から大きな魔力の塊がゆっくりと降りてきた。
それは女神の姿のユリアだった。
薄いブルーのゆったりとしたローブを纏い、膨大な魔力の波動と共に、水の超音波振動を元にした癒しの波動を周囲に振りまいている。その表情は穏やかで慈悲深く、全身が淡い光に包まれているのだが、特に目を引くのはその大きさだ。
全身が5mほどもありそうだ。
その大きさと魔力で周囲の者を圧倒してしまう。
女神はゆっくりと地面に降り立ち、そのままふっと姿を消した。
次の瞬間その場に現れたのは、元のサイズのユリアだ。
「この姿なら説得力があるでしょ?」
ユリアの言葉にケネスもグルジアもハイと答えて頭を下げた。
「ローラ女王様にもお伝えしますので、その節にはよろしくお願いします。」
ケネスの言葉にユリアは笑顔で快諾した。
だが神殿はどうする?
「リリス。あの辺りに水の神殿を建ててよ。開拓地だからそんなに大きくなくても良いわ。」
ユリアはそう言うと耕作地の端の一帯を指差した。
そこはまだ作物が植え付けられていない場所だ。
「形はあんたが造ったサイロに近い形で良いわよ。それをもう少し神殿っぽくしてくれればそれで充分。」
「うん。分かったわ。」
リリスはそう答えると、ユリアが示した場所に足を運んだ。
耕作地に造り上げた幾つものサイロを、もう少し大きなサイズで造り上げていく。
土魔法の魔力を駆使し、直径20mほどの円形に土壁を造り上げ、その上部をドーム状に伸ばしていく。
神殿と言う事なので正面に大きな開口部を造り上げ、内部に光を取り入れる採光用の窓を壁の上部に一定間隔で空けた。
もちろん魔道具での照明も必要だが、自然光と魔道具の光で程よい明るさになるだろう。
外壁を硬化させ、表面を白く艶のある石質に変えていく。
内部の土の床面を石畳に変え、これも上質な白い石質に変えた。
更に円形の床面の中央部の土を盛り上げ、硬化させて祭壇を造り上げる。
直径5m、高さ1mほどの祭壇だ。
その表面も石質を整え、簡素ながら白亜の神殿が出来上がった。
「うんうん。それで充分よ。」
ユリアも満足そうだ。
リリスはその神殿の周囲の地面を、広く円形に白い石畳の石質に変えて作業を終えた。
「リリス。お賽銭箱はどうした?」
「チャーリー。そんなものはいらないでしょ!」
チャーリーのボケに突っ込みを入れながら、リリスはケネス達のところに戻った。
「祭祀の日程が決まったら教えてね。私からユリアに伝えてあげるから。」
レイチェルはそう言うと、ユリアとチャーリーを連れて上空に消えていった。
レイチェルったら相変わらず面倒見が良いわね。
リリスはレイチェルに感謝しながら亜神達が消えていった上空を見つめていたのだった。
リリスが世界樹の加護を土魔法と連動させて造り上げた広大な小麦畑の上空に、巨大な魔力の塊が近付いてきた。
だがそれが近付くにつれて分裂し、三つの光球となってリリス達の目の前に飛来した。
三つの光球は徐々に人の形になっていく。
その纏っている魔力は膨大で、周囲の時空を捻じ曲げそうなほどだ。
不測の事態に備えて賢者ブルギウスは亜空間シールドを前面に展開させ、更にリンディが全員を包み込むようにドーム状の亜空間シールドを造り上げた。
だが身構えるリンディとは裏腹に、リリスの表情は直ぐに緩んでしまった。
現われたのはレイチェルとタミアとユリアである。
3人ともに使い魔の姿ではない。
しかも膨大な魔力を隠す事も無く現れたのだった。
「ちょっと待ってよ。何事なの?」
リリスの言葉にレイチェルが渋面で口を開いた。
「何事かって聞きたいのはこっちの方よ。リリスが自制心を失って暴走しているかもしれないってロキが言うから、臨戦態勢で駆けつけてきたのよ。」
臨戦態勢と言うだけあって、レイチェル達の纏う膨大な魔力の影響で、周囲の空間がゆらゆらと揺れているように見える。
レイチェルの言葉にユリアとタミアが続いた。
「もしかしたらリリスが闇落ちしちゃったかも知れないと思って、私とタミアもレイチェルを追いかけてきたのよ。」
「万一リリスが闇落ちしちゃったら、私達が全員で対処しないと大陸全域に被害が及ぶと思ってね。でも・・・リリスって普通じゃないの?」
「当たり前でしょ! 私は正常よ!」
リリスの怒りにレイチェル達は肩透かしを喰らわされたような表情を見せた。
これってもしかしたらロキ様の嫌がらせなの?
そう思いながらもリリスはレイチェルにこれまでの経緯を伝えた。
その話を聞きながらレイチェルはうんうんと頷いた。
「要するに世界樹の加護をロキの許可なしに発動させたのね。」
「でも土魔法に連携させただけよ。特別な事はしていないわ。造り上げたのもこの世界の作物だし・・・」
リリスの言葉にレイチェルはう~んと唸った。
「それってグレーゾーンよね。何もないところから小麦畑を出現させたのはどうかなあ。」
「種さえあれば急激に育て上げるのってドライアドでも出来るわよ。」
「ドライアドでもって言うけど、これだけ広大な小麦畑を一気に造り上げようとしたら、膨大な数のドライアドを使役させることになるわよ。」
二人の会話が今一つ噛み合っていない。
リリスとレイチェルのやり取りにユリアとタミアは首を傾げた。
「ねえ、レイチェル。あんたってロキにからかわれたんじゃないの?」
「多分ロキの説明が不足だったのよ。でもわざと誤解させるように仕向けてきたのかも知れないわね。リリスに対する牽制の意味も含めてね。」
二人の言葉にレイチェルはう~んと唸って考え込んだ。
リリスにもロキの真意は分からない。
これまでの経緯から考えて、ロキが意図的にレイチェルに誤解させたとも思えない。
色々と考えていると、背後からブルギウスが話し掛けてきた。
「リリス。この3人は敵では無いのだな? 敵で無いのなら魔力を抑えるように言ってくれないか?」
ブルギウスの言葉にレイチェルははっとして魔力を抑え込み、ユリアとタミアも同じように魔力を抑え込んだ。
「それで彼女達は何者なのだ? 普通の人族でない事は分かるのだが・・・」
そう問い掛けたブルギウスにリリスは答えあぐねた。
だがあれこれと説明する前にタミアが反射的に口を開いた。
「私は火の亜神タミア。この二人は風の亜神レイチェルと水の亜神ユリアよ。亜神と言っても本体の一部だけどね。」
「何時もは使い魔の姿でリリスの部屋にたむろしているんだけど、今日は一大事だと思って実体で来たのよ。」
タミア。
私の部屋の事まで言わなくて良いわよ!
そう思ってリリスは心の中でチッと舌打ちした。
だがブルギウスは感心したかのようにリリスの顔を見た。
「リリス。君の部屋には3体もの亜神が訪れるのか?」
リリスの返答を遮るように、タミアがリリスを押しのけて口を挟んだ。
「あら、私達だけじゃないわよ。土の亜神や闇の亜神も使い魔の姿で訪れるし、ロキだって訪れた事があったわよ。それに王族や賢者だって使い魔の姿で訪れるわよ。使い魔の姿で訪れるのがそこでのルールなのよね。」
そんなルールってあったっけ?
勝手に造っているだけじゃないの?
リリスの思いとは裏腹に、ブルギウスはタミアの言葉に強く反応した。
「賢者まで訪れるのか! それなら是非儂に紹介してくれ。」
「あらっ? あんたって友達がいないの?」
タミアの失礼な問い掛けにブルギウスは一瞬ムッとした。
「そう言う事ではない。だが賢者と呼ばれるレベルの人物は希少だからな。儂は自分と同じ獣人の賢者と各々の研究成果を語り合いたいんじゃよ。」
ブルギウスの言葉にユリアが反応した。
「リリス。あんたの知り合いで獣人の賢者って居ないの?」
突然話を振られたリリスは少し考え込んだ。
「そう言えばゴート族の賢者様が居たわね。」
「何だと! どうしてそんな特殊な種族の賢者と知り合ったのだ?」
真顔で迫りくるブルギウスの圧に押され、リリスは思わず後ろに引き下がってしまった
「ゴート族の賢者リクード様とはオアシス都市イオニアで知り合いまして・・・。」
そう言いながらリリスはふと何かを思いついたような仕草をした。
「そう言えば古代のレミア族の遺した遺物や遺跡の事で、私の先祖である賢者ユリアス様と交流しているはずです。ユリアス様に聞いてみますね。」
リリスの言葉にユリアが口を挟んだ。
「ユリアスに用事があるなら、今直ぐここに呼んであげようか?」
「そんな事が出来るのか?」
ブルギウスの問い掛けにユリアはふふんと鼻で笑った。
「ユリアスは私達のパシリだからね。呼べば来るわよ。」
そう言うとユリアはパチンと指を鳴らした。
その途端にブルギウスの目の前に二人の男性が現われた。
一人はリッチの姿のユリアスだが、もう一人は・・・チャーリーだ。
しかも薄いブルーの作業服を着ている。
まるで町工場の職人だ。
チャーリーがどうしてここに?
リリスと同じ疑問をユリアも抱いた。
「チャーリー。どうしてユリアスと一緒に居たのよ?」
ユリアの言葉にチャーリーはそのでっぷりとしたおなかを擦って答えた。
「どうしても何も、君が強制的に転移させたんやないか。僕はユリアスからレミア族の正体不明の遺物があるって聞いて、教えてあげる為にユリアスの研究施設に足を運んだだけや。」
そのチャーリーの傍でユリアスはうんうんと頷いていた。
「ユリア。用事があるならそれをまず話してくれよ。突然呼び出すから外出の準備が整っておらんじゃないか。」
ユリアスは話し終えると一瞬で姿を変え、初老の男性の姿になった。
「それで何の用事だ?」
ユリアスの問い掛けにユリアはブルギウスを指差した。
「このブルギウスって言う賢者が、リクードって言う賢者を紹介して欲しいって言うからあんたを呼び出したのよ。」
ユリアの言葉にユリアスはピクンと眉を上げた。
「ブルギウス様でしたか。お噂は兼ねがね聞いておりますぞ。リクード様とはドラゴニュートの賢者デルフィ様の研究施設で紹介され、それ以降交流を深めております。お望みなら何時でも紹介しましょう。」
「おお! それはありがたい。是非お願いしますぞ。」
ブルギウスはそう言ってユリアスの手を握った。
「なんか異業種間の企業交流みたいやな。」
チャーリーはそう言うと、ふとリリス達の後ろに居たケネスとグルジアに目を向けた。
じっと見つめて目を細めるチャーリー。
その表情に困惑の様子が若干見える。
「ユリア。この二人の事やけど・・・」
「そうなのよね。私も気になっていたの。普通の獣人じゃないわね。それこそ、この世界で初めて目にしたような存在だわ。」
ユリアの言葉を聞き、レイチェルがリリスの顔を覗き込んだ。
「ねえ、リリス。あんたのスキルで個別進化させたのって、この二人の事なの?」
「そう。あと二人居るけどね。」
リリスの返答にふうんと声をあげながら、チャーリーはケネスとグルジアの傍に近付いた。
興味深そうに見つめるチャーリーの視線に、ケネスもグルジアも戸惑っている。
いくら個別進化した存在だとしても、亜神に対する接し方など分かるはずもない。
舐めるように見つめるチャーリーの視線に、二人は無言でその場に立ち尽くしていた。
「実に興味深いね。世界樹の加護と産土神スキルが与えた個別進化は、全く違う次元の種族を生み出したんやな。しかもこれで完成形や無いのがミソやね。」
「完成形ではないってどういう意味なの?」
リリスの問い掛けにチャーリーは軽く頷きながら口を開いた。
「言った通りの意味や。個別進化の完了までにはあと100年掛かる。」
「100年って・・・ケネスさん達はそこまで寿命が延びたって言う事?」
「それは半分正解、半分不正解やね。」
そう言うとチャーリーはしたり顔で口を開いた。
「彼等が普通の獣人より寿命が延びている事は確かやけどね。個別進化で彼等が得たものは全て優性遺伝されていく。その形質が完成されるまでには3世代掛かると考えれば良い。孫の世代で完成すると言う意味や。その頃にこの国がどうなっているのかを考えると、実に興味深いねえ。」
話し終えたチャーリーはリリスが造り上げた耕作地に目を向けた。
「リリス。この辺りの水資源は確かめたんか?」
「ええ、地下に水脈が幾つも走っているのは確認したわ。」
リリスの返答にチャーリーは軽く頷いた。
「そうなんやけどねえ。ここから耕作地を無駄無く活用するには水資源の循環が弱いね。ここは水の女神の出番かな?」
チャーリーはそう言いながらユリアの顔を見た。
その視線にユリアもうんうんと頷く。
この時点でユリアスはブルギウスを連れて、闇魔法の転移でデルフィの研究施設に向かった。
更にタミアも自分の出番がないと言いながら消えていった。
ユリアは3人を見送ると、ケネスとグルジアの傍に近付いた。
「あんた達がここに水の神殿を造って水の女神を祀るのなら、水資源の循環をもっと良くしてあげるわよ。神殿に祭壇を築いて大きな宝玉を用意してくれれば、私の魔力を注ぎ込んで私の加護を残してあげるわ。この土地の開拓者達がそこに参詣して魔力を寄進すれば、その魔力に応じて宝玉の加護が発動する仕組みよ。」
「ドルキアやリゾルタでもそれをやってきたから、その効果はリリスも知っているはずよね。私の魔力を注ぎ込む為の儀式も必要なんだけど、この国の王族を迎えてその儀式を執り行えるかしら?」
ユリアはケネス達に問い掛けながらリリスの顔を見た。
リリスはその視線を受けて無言で頷いた。
ケネス達は半信半疑の表情だ。
「ケネスさん。気紛れな亜神が人族や獣人の為に動いてくれるのって稀な事ですよ。ちなみにユリアは祭祀の際には女神の姿で現れますから。」
そう言ってリリスはユリアに促した。
「ユリア。あんたの美しい女神の姿を見せてあげてよ。」
「う~ん。仕方が無いわね。ちょっとだけよ。」
リリスの言葉に乗せられて、ユリアはまんざらでもないような表情を見せた。
ユリアの姿がその場からふっと消えると、上空から大きな魔力の塊がゆっくりと降りてきた。
それは女神の姿のユリアだった。
薄いブルーのゆったりとしたローブを纏い、膨大な魔力の波動と共に、水の超音波振動を元にした癒しの波動を周囲に振りまいている。その表情は穏やかで慈悲深く、全身が淡い光に包まれているのだが、特に目を引くのはその大きさだ。
全身が5mほどもありそうだ。
その大きさと魔力で周囲の者を圧倒してしまう。
女神はゆっくりと地面に降り立ち、そのままふっと姿を消した。
次の瞬間その場に現れたのは、元のサイズのユリアだ。
「この姿なら説得力があるでしょ?」
ユリアの言葉にケネスもグルジアもハイと答えて頭を下げた。
「ローラ女王様にもお伝えしますので、その節にはよろしくお願いします。」
ケネスの言葉にユリアは笑顔で快諾した。
だが神殿はどうする?
「リリス。あの辺りに水の神殿を建ててよ。開拓地だからそんなに大きくなくても良いわ。」
ユリアはそう言うと耕作地の端の一帯を指差した。
そこはまだ作物が植え付けられていない場所だ。
「形はあんたが造ったサイロに近い形で良いわよ。それをもう少し神殿っぽくしてくれればそれで充分。」
「うん。分かったわ。」
リリスはそう答えると、ユリアが示した場所に足を運んだ。
耕作地に造り上げた幾つものサイロを、もう少し大きなサイズで造り上げていく。
土魔法の魔力を駆使し、直径20mほどの円形に土壁を造り上げ、その上部をドーム状に伸ばしていく。
神殿と言う事なので正面に大きな開口部を造り上げ、内部に光を取り入れる採光用の窓を壁の上部に一定間隔で空けた。
もちろん魔道具での照明も必要だが、自然光と魔道具の光で程よい明るさになるだろう。
外壁を硬化させ、表面を白く艶のある石質に変えていく。
内部の土の床面を石畳に変え、これも上質な白い石質に変えた。
更に円形の床面の中央部の土を盛り上げ、硬化させて祭壇を造り上げる。
直径5m、高さ1mほどの祭壇だ。
その表面も石質を整え、簡素ながら白亜の神殿が出来上がった。
「うんうん。それで充分よ。」
ユリアも満足そうだ。
リリスはその神殿の周囲の地面を、広く円形に白い石畳の石質に変えて作業を終えた。
「リリス。お賽銭箱はどうした?」
「チャーリー。そんなものはいらないでしょ!」
チャーリーのボケに突っ込みを入れながら、リリスはケネス達のところに戻った。
「祭祀の日程が決まったら教えてね。私からユリアに伝えてあげるから。」
レイチェルはそう言うと、ユリアとチャーリーを連れて上空に消えていった。
レイチェルったら相変わらず面倒見が良いわね。
リリスはレイチェルに感謝しながら亜神達が消えていった上空を見つめていたのだった。
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高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
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ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
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異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
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悪役令嬢の慟哭
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前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
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スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
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この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
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そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
オタクおばさん転生する
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マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
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