落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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新生した王国1

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メリンダ王女に呼び出されてから3日後。

リリス達はアブリル王国に向う為に、王城の前の広場に集結した。

この日のリリスはベージュのワンピースを着用し、リンディはブルーのワンピースを着用している。
いずれも上質な生地で縫製されており、公式的な場に出る為に王国から支給されたものだ。
現地での公式的な行事には、アブリル王国側からドレスなどを用意してくれる事になっている。
これはアブリル王国だけでなく、何処の国でも招待客に対して行っている慣習だ。

アブリル王国にはワームホールから出現する大量の魔物の駆除の為、リリスも今までに数回転移した事があった。
だがアブリル王国の王都に行くのは初めてで、ノイマン卿も10年ほど前に訪れて以来だと言う。
10年振りの王都訪問と言うのはノイマン卿にとって、頻繁に訪れる価値がなかったからかも知れない。
一応ミラ王国からは軍事支援を行っているが、その大半は魔物の駆除だったようだ。

アブリル王国は大陸北西部にある獣人の王国だ。
その領土はミラ王国に匹敵するほどの大きさだが、南北に国を分けるように山脈が連なり、その山脈の南側の周辺部がワームホールの多発地帯であった。
既にワームホールを出現させていた時空の歪は、ロキやリリスの尽力で正常化され、ワームホールの出現も皆無になってしまった。それ故に今後の外交をどのように展開していくのかが、現在のミラ王国の思案しているところである。

アブリル王国の地勢的な存在意義は高い。
北部で海にも接しているので海運も盛んであり、この地域の中心的な国家となってきた。
だが先日退位した国王の2代前から悪政が続き、隣国からの評判も地に落ちてしまっている。
周辺諸国との国境紛争も絶えず、小さな紛争は絶える事がない。
その悪政は国内にも顕在し、強権政治の下、国民の疲弊も過度に高まり、国外への流出も増える一方だった。

そんな中で起きた政変である。
無理もない事だと思いつつ、それでも新しい統治者に期待を寄せるでもない中途半端な状況の中、潜入させた諜報員から寄せられた情報にノイマンは違和感を感じていた。
それは3日前にジークから聞いた内容とほぼ同じである。
政変が起きたのは半年ほど前の事だ。
半年。
それほどに短期間で国の内外の状況がそれほどに変わるものなのか?
むしろ対外的には紛争が絶えなかったアブリル王国である。
政変に乗じて周辺諸国から攻め込まれる可能性もあったに違いない。
だが、周辺諸国との関係性はむしろ良好になったと言う。

これは自分の目で見なければ、正しい判断を下せない。

そう思っていたノイマンにとって、リリスへの国賓待遇での招待は格好の機会であった。

リリスが国賓待遇を受ける理由も気になるが、それ以上にこの目でアブリル王国の現状を確かめたい。
それが生来の外交家と自負するノイマンの本心である。


王城前の広場に集結したリリス達は、ジークが用意した転移の宝玉によって、アブリル王国の王都ハーグの南端部に転移されていく。
その場所は事前にアブリル王国側から提供された転移ポイントである。
既に数名のメイドと警護の兵士は転移済みで、現地でリリス達を出迎える事になっていた。

・・・・・

リリスの視界が暗転する。

・・・・・

転移したリリスの目に入ってきたのは、円形の大きな広場とその周辺に待機している騎馬兵達だった。
だが兵士達の軍服は意外にも、純白で飾り羽をあしらえた上品なものだ。

これって儀仗兵よね。
獣人の国でも儀仗兵っているの?

そんな違和感を覚えながらも立ち尽くすリリス達の前に、つかつかと近づいてくる女性の兵士が現われた。
純白の生地にブルーのラインが入り、肩に徽章を付けている兵士の顔に見覚えがある。
孤島でローラに仕えていたジーナだ。

「リリス様。お待ちしておりました。さあ、馬車にお乗りください。王城までご案内します。」

恭しく話し掛けたジーナに従って、リリス達は用意されていた豪華な軍用馬車に乗り込んだ。
その車窓から外を見ると、円形の広場から北に向かって幅30mほどもある大通りが伸びている。
馬車はゆっくりと動き出し、その大通りを北に進んでいく。
その通りの両側には瀟洒な店舗や頑丈そうなビルが立ち並び、大勢の人で賑わっていた。

通りすがる馬車に沿道の住民が手を振って歓迎している。
温和そうな獣人達の歓迎を受けながら、馬車の中でノイマンは首を傾げていた。

「ジーク君。この国に儀仗兵などは居なかったよな?」

「そうですね。私も初めて見ました。それにこの大通りや沿道の建物も小綺麗で、住民達の表情も明るいですね。私の脳内ではハーグは薄汚い王都だったと記憶していたのですが・・・」

ジークとノイマンの会話とは裏腹に、リリスは歓迎されている雰囲気に感謝していた。
だがふとリンディの様子を見ると、彼女もやはり首を傾げている。

「どうしたの? リンディ。この王都の雰囲気に、あなたも何か違和感があるの?」

リリスの問い掛けにリンディは、薄ら笑いを浮かべながら首を横に振った。

「違うんです。違和感はあるんですが、この街にではなく、この国に入った時から感じていた事があって・・・」

リンディは自分の考えを纏めるかのような仕草をした。

「多分これは獣人に対してだけ感じられるように、設定されているのかも知れません。人族の認識出来る波長では無いので、リリス先輩やノイマン様達には何の影響も無いと思うのですが・・・」

珍しく歯切れの悪いリンディである。

「リンディ。それって何の事?」

再度のリリスの問い掛けにリンディは言葉を選びながら答えた。

「この国に転移した途端に微かな魔力の波動を感じているんです。微かなんだけど途切れない。無視出来るような波動なんだけど心を動かされてしまう。かといって精神誘導ではないんです。何と説明して良いものか、未だに整理出来ません。」

精神誘導・・・では無いのね。
だとしたら何?

「それでその波動でどう言う影響を受けているの?」

「それがですね・・・例えば3分ほどの間、公徳心を持てと心に働きかけてくるんです。その後にまた3分ほど、他者の嫌がる事をするなと訴えてくるんです。お説教のような言葉が続くのかと思っていると、その次には3分ほど、王家にとってお前達は最高の臣下だと褒めたたえてくるんです。これって何なんでしょうか?」

う~ん。
私にも分からないわ。

「でも悪いものじゃなさそうね。」

「それがかえって不気味なんですよ。私の感覚では微かに認識出来ますけど、この国の大半の獣人達は認識出来ていないでしょうね。でも確実に心に働きかけているんです。」

それってサブリミカル効果のようなものかしら?
国民の啓蒙の為に意図的に放たれているのかも・・・。

「それで不快感はあるの?」

「いいえ。むしろ心地良い感覚が伴ってくるんです。それがまた不気味で・・・」

そう言って話し込んでいたリリスとリンディの耳に、大きな爆発音が聞こえてきた。
何かと思って馬車の窓から外を見ると、前方にまだ小さく見える王城の上に、いくつもの花火が舞い上がっていた。
歓迎の花火なのだろう。
それを合図にして、馬車の走る沿道に人が群がってきた。
一様に歓迎の意図を込めて、笑顔で手を振っている。

その住民達の服装は小綺麗で、何処にも貧しさは感じられない。
大人に混じって子供達も、屈託のない笑顔で手を振っている。

「大歓迎ですね。」

ジークの言葉にノイマン卿もうんうんと頷いた。

「まるで他国に来たようだ。ここは本当にあのアブリル王国なのか?」

ノイマン卿の言葉にジークは、はいと答えて前方に目を向けた。

「ノイマン様、王城が光輝いていますよ。まるで新築されたばかりのようにも見えます。」

「あの薄汚なかった王城が?」

そう言って
ノイマン卿は馬車の窓から乗り出し、前方に目を向けた。
遠くに見えていた王城が近付いている。
その外壁は白く輝き、尖塔の上に様々な旗がたなびいていた。
その中にはミラ王国の国旗も見える。

馬で先導していたジーナが馬車に近付き、王城の傍まで辿り着いた事を告げた。
城門が開き、高らかに歓迎のファンファーレが鳴り響く。
城門の上から花吹雪が降り注ぐ中を、馬車は進んでいった。

ちなみに王城の中に馬車を通す事は極稀な事だそうだ。
それだけの賓客だと言う事だろう。

馬車を降りるとレッドカーペットが設置されていた。
その上を歩き、ジーナの案内で王城の中に入っていく。

王城のエントランスは天井に豪華なシャンデリアが飾られ、気品溢れる雰囲気になっている。
女王に謁見する前に通されたゲストルームで、リリスはジーナから小声で耳打ちされた。

「ローラ様は公式的な姿でお目に掛かりますので、まずはそのようにご理解ください。」

「慣例に基づく様式で謁見していただければ結構です。詳細はその後に個別にお話出来る場を設けますので。」

分かったような分からないような文言だ。

リリスも詳細は良く分からないが、慣例通りの様式で謁見すれば良いのだと理解した。

しばらく寛いだ後、王城に仕える獣人のメイドの案内で、リリス達は謁見の間に通された。
白い壁にレリーフが彫られ、その随所に金が張り詰められている。
床のじゅうたんも厚みがあってふかふかだ。

その場で跪き待機していると、謁見の間の奥の扉が開き、一段高いところに細身で背の高い女性のシルエットが見えてきた。
上品で清楚な衣装をまとった女王の登場だ。

「リリス様、お待ちしておりました。」

声は明らかにローラである。
だがその容貌は確かに20歳前後の凛とした女性だ。

驚くリリスの顔を見て、前方からジーナが目配せをしてきた。
余計な事は言わずに、形式通りの所作を行えと言う事なのだろう。

それを悟ってリリスは招待していただいた事への感謝の言葉を告げ、女王の治世に対する賛美の言葉を口にした。
リリスに続いてノイマン卿やジークも感謝の言葉を告げた。
その言葉に笑顔で答えた女王は、ミラ王国に対する感謝の言葉を告げ、ノイマン卿との外交交渉の進展に大いに期待しているとも告げた。
その言葉にノイマン卿はハイと答えて深々と頭を下げた。

女王はリリスの目を見つめ、歓迎晩さん会でまた会いましょうと言うと、ふっと振り返り謁見の間の奥の扉から退出した。
僅かな時間ではあったが、リリス達にとっては緊張の時間でもあった。

だがリリスはローラの姿が腑に落ちない。
大人の姿に擬態しているのだろうと言う事は分かる。
対外的にはその方が良いだろう。
だが自国内でそれを理解させることが出来るのか?
ローラが10歳前後の少女である事は、自国内でも分かっているのではないだろうか?
大半の国民は知らなかったとしても、王族の中には知っている者も居るはずだ。
まさかその事実を知る者を全て処断したとは思えないのだが・・・。

そう思いながらふとリンディの顔を見ると、困惑した表情を見せている。

「リンディ。どうしたの?」

リリスの問い掛けにリンディは、ポンポンと頭を軽く叩いて口を開いた。

「何だか圧倒されちゃいました。ローラ女王様の存在感が凄いですね。」

「うん。凛とした雰囲気があって、如何にも女王様って感じだわ。」

「まあ、見た目はそうなんですけど・・・」

リンディはそう言うと自分の考えを整理した。

「これって人族の方には分からないと思いますが、レベルの違いを直感的に感じるんですよね。」

「レベルって女王様の持つスキルや能力の事?」

リリスの疑問にリンディは首を横に振った。

「違うんです。女王様がどんなスキルや能力を持っているのか、私には分かりません。う~ん。何と言ったら良いのか・・・」

リンディは言葉を選んで話を続けた。

「存在のレベルが違うって言う表現が正しいのかも。思わずひれ伏してしまうような存在感ですね。でも威圧のような強制的なものじゃないんです。この方に逆らってはいけないと言う思いが自然に湧き出てくるんです。」

う~ん。
そこまでの感覚は私には感じられなかったわ。
多分獣人特有の直感なんだろうな。
レベルの違いを感じるのは、ローラが産土神体現スキルによって個別進化を遂げた結果かも知れないけど・・・。

謁見の間の片隅に待機していたジーナがノイマン卿の傍に近付き、今回のリリス達の泊る宿舎に案内すると告げた。

リンディの感性にそれなりの理解を示しながら、リリスはノイマン達と共に宿舎に向かったのだった。

















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