298 / 314
未知の召喚獣2
しおりを挟む
突然メリンダ王女に呼び出されたリリス。
学生寮に戻って最上階に向かい、いつも通りメイド長のセラのチェックを受け、彼女の部下のメイドの案内でメリンダ王女の部屋に案内された。
部屋の中に入るとメリンダ王女の隣にはエミリア王女が座っていた。
そのエミリア王女の隣にあの赤い鳥がちょこんと座っている。
その姿はまるで置物のようだ。
その長い尾羽根がエミリア王女の衣服に絡まっているようにも見える。
お互いに挨拶を交わし、メリンダ王女の指示でソファに座ったリリスに、メリンダ王女は苦笑いをしながら口を開いた。
「急に呼び出してごめんね。でも呼び出した理由は何となく分かるわよね?」
「うん。その使い魔の事よね。」
リリスは赤い鳥を指さしながら答えた。
リリスの言葉にメリンダ王女もうんうんと頷いた。
その間、エミリア王女は赤い鳥の頭を撫でている。
「今日も朝から出現したままなのよ。召喚の解除を念じても消えてくれないの。これじゃあ、教室にも行けないわ。」
メリンダ王女の言葉にリリスも首を傾げた。
「どうしてこうなっちゃったのかしらねえ。」
ため息をつきながら嘆くメリンダ王女。
その隣に座っているエミリア王女がリリスに顔を向けた。
「リリス。あなたって精霊を見ることが出来るわよね。この赤い鳥の周囲に見えるかしら?」
精霊使いの王女の言葉を聞き、リリスは非表示で魔装を発動させた。
その途端に赤い鳥の周囲に、いくつもの赤や青の光点がぼんやりと見えてきた。
その中に少し大きな光点も見えている。
「うんうん。ぼんやりと見えるわ。でも少し大きめのものもあるわね。」
「リリスったらそこまで分かるのね。そう、そうなのよ。」
エミリア王女はそう言いながら身を乗り出してきた。
オッドアイを持つビスクドールのような美しい顔の接近に、思わずリリスは少し後ろに引いてしまった。
以前にも増して生気が感じられる。
エミリア王女は最近になって神官としての修練を始めたと、神殿のマキからは聞いていた。
その際、マキから魂魄浄化や胎内回帰などの高位の聖魔法も受けたはずだ。
元聖女のマキと交流する中で、エミリア王女にも良い影響が及んでいるのだろう。
「その少し大きめの光点は上位の精霊でね。今日になって現れるようになったのよ。」
「これってこの赤い鳥が招いているの?」
リリスの問い掛けにエミリア王女はうんうんと頷いた。
「この赤い鳥って既にメルとの召喚関係を逸脱しちゃったわ。でも危険な魔物じゃないからまだ良いんだけど・・・」
エミリア王女の言葉にメリンダ王女は困惑の表情を見せた。
「良いって事無いわよ。勝手に出てきて私の傍から離れないんだから。」
「まあ、メルったら懐かれているのね。」
「そんなんじゃないわよ。」
メリンダ王女はそう言いながら手を伸ばし、赤い鳥の頭を撫でた。
その仕草に赤い鳥も目を細めている。
「それでこの赤い鳥って魔物なの?」
リリスの言葉にエミリア王女は首を横に振った。
「それがねえ。鑑定しても魔物と認識出来ないのよ。どちらかと言えば精霊に近い存在かしら・・・」
エミリア王女の言葉を受け、リリスは赤い鳥を鑑定してみた。
だがステータスを開けない。
リリスは止むを得ず解析スキルを発動させた。
この赤い鳥って何者なの?
魔物?
『魔物じゃありませんね。解析不能な要素の塊ですが、精霊に近い存在なのは確かです。その赤い鳥が精霊を呼び集めていますからね。』
この子が呼び集めているの?
『そうです。表面上は何もしていないように見えますが、そう言う波動を亜空間に常時放っています。』
う~ん。
増々得体が知れないわね。
リリスは解析スキルを解除し、赤い鳥をじっと見つめた。
目が合うと可愛い顔をしている。
大きな目の上に生えている長い毛が、まるで付けまつげの様だ。
こんな顔の鳥っていたわよね。
そうそう。
ヘビクイワシだわ。
でもアニメの火の鳥のようにも思えるわね。
そう思いながら赤い鳥の頭を撫でていると、赤い鳥は突然その場ですくっと立ち上がり、リリスの傍に近付いてきた。
リリスの身体に擦り寄る赤い鳥。
その仕草を見てメリンダ王女はふふふと笑った。
「リリスに懐いてくれるのなら、それでも良いわよ。」
「いえいえ。それは遠慮するわ。今度は私が授業に出れなくなっちゃうわよ。」
困惑の言葉を放つリリスの足元に赤い鳥は音もなく移動した。
その小さなくちばしでツンツンとリリスの足元を突いた。
それは普通であれば、小さな鳥としての他愛もない仕草だった。
だがリリスはその足首がじんじんと疼き始めたのを感じた。
うっ!
どうして異世界通行手形が発動し始めているのよ!
何の兆候もなくリリスの足首から白い靄が出現し、その中から例の三毛猫が出現した。
「えっ! どうしたの?」
驚くエミリア王女の言葉にリリスも戸惑ってしまった。
「あの・・・これは私のスキルの擬人化した姿で・・・」
しどろもどろになるリリスの目の前で、三毛猫と赤い鳥が身体を摺り寄せてじゃれ合っている。
それは徐々に光の塊となって融合し、再び二つに分かれて元の姿に戻った。
その様子に驚き、リリスは再び解析スキルを発動させた。
何が起きているの?
『詳細は不明です。ただ、何らかの構成要素のやり取りがあったようです。』
意味が分からないわ。
『簡単に言うと、機能と権能が振り分けられたと考えてください。』
それでも良く分からないわね。
赤い鳥が異世界通行手形の機能を手に入れたって事なの?
『それもあります。ですが異世界通行手形のスキルが手に入れた機能もあるようです。詳細は不明ですが・・・』
う~ん。
良く分からないわね。
そう思っているうちに、三毛猫はふっとその姿を消した。
後に残った赤い鳥は羽を広げ、飛び立つような仕草をした。
その途端に赤い鳥の周囲の空間が揺らぎ始めた。
時空の歪が生じ始めているのは明白だ。
拙い!
リリスは焦りのあまり、赤い鳥の動作を止めようとして手を伸ばした。
その手が赤い鳥に触れた瞬間に、リリスの身体からごそっと魔力が吸引されてしまった。
赤い鳥はその身体が赤く光り、一回り大きくなって羽ばたいた。
その時、リリスの視界が一転した。
周囲の色が無くなり、白黒写真のような情景に変わってしまった。
その中で赤い鳥だけが色を失わず、リリスの顔をじっと見つめている。
しかもメリンダ王女やエミリア王女の動作が停止していた。
これは明らかに時空が停止している状態だ。
その状況の中、赤い鳥はもう一度大きく羽ばたいた。
その途端にリリスの視界が暗転し、目の前が真っ青になってしまった。
次の瞬間、リリスは周囲の青い色が空の色だと分かった。
リリスの身体が空中にふわふわと浮かんでいる。
ふと周りを見回すと、メリンダ王女とエミリア王女も空中に浮かんでいた。
二人の王女は自分達の置かれている状況に驚き、じたばたとその場であがいていた。
これって実体じゃないわよね。
意識が飛ばされていると言う事はおそらく・・・・・世界樹の世界ね。
そう思ってリリスは周囲を見回した。
リリスの後方に天にも届きそうな巨大な樹木がそびえ立っている。
間違いない。
あの世界樹だ。
あの赤い鳥によって意識を異世界に飛ばされてしまったのだろう。
リリスはじたばたとあがいているメリンダ王女の傍に近付き、落ち着いた口調で声を掛けた。
「メル。焦らなくても大丈夫よ。心の中で念じれば行きたい方向に行けるからね。」
「そんな事を言っても・・・」
メリンダ王女はそう言い返そうとしたが、その身体が安定しすっと前に進んだ。
「あらっ! 以外に簡単にコントロール出来たわ。でもこんなのって初めてよ。夢でも見ているの?」
メリンダ王女は前後左右に身体を移動させると、まだじたばたしているエミリア王女の傍に近付いた。
「エミリア。焦らなくても大丈夫よ。私も最初は戸惑ったけど、自分の意思でコントロール出来たわ。」
メリンダ王女の言葉にエミリア王女も従い、徐々に身体の動きを制御出来るようになった。
慣れるとそれは未知の経験だ。
空中を飛んでいるという感覚に嫌でもテンションが上がってしまう。
楽しそうに空中を動き回ってその感覚を楽しみながら、二人はリリスの周囲をぐるぐると回り始めた。
「ねえ、リリス。ここってどこなの?」
メリンダ王女の問い掛けにリリスは苦笑いを浮かべた。
「異世界よ。あの赤い鳥によって飛ばされてしまったの。でも実体じゃなくて意識だけだから心配しなくても良いわよ。」
リリスの言葉にメリンダ王女は首を傾げた。
まだ自分の置かれている状況が把握出来ないのだろう。
エミリア王女は自分の周囲を見回しながら、う~んと小さな唸り声をあげた。
「精霊達の存在を感じられないわ。こんな事って有り得ない。確かにここは私達の居た世界じゃなさそうね。」
エミリア王女の方が状況を把握しているようだ。
とりあえず赤い鳥を探そう。
そう思って周囲を探知すると、リリスの予感通り、赤い鳥の気配は世界樹の傍に感じられた。
「メル、エミリア。向こうの世界樹の傍まで行くわよ。赤い鳥もそこに居るからね。」
「世界樹? そんなものがここにはあるのね。」
驚き振り向くメリンダ王女の視界に、巨大な樹木が入ってきた。
「でもどうしてそれを知っているの?」
エミリア王女の問い掛けにリリスは苦笑した。
「実は何度もここに訪れているのよ。あの世界樹とは縁があってね。」
「リリス。あんたって何者なの? もしかしてこの世界から来たの?」
「違うわよ! 私は私、生まれも育ちもミラ王国よ。まあ、この世界の世界樹との関係は色々あって、簡単には説明出来ないけどね。」
リリスはそう答えて、二人の王女を促し、世界樹の方向にゆっくりと進んでいった。
真近で見る世界樹は巨大だ。
その大きさと質量感に圧倒されてしまう。
へええっ!と驚きの声を上げる二人の王女を引き連れ、リリスは世界樹の上部の生い茂った枝葉の傍に辿り着いた。
リリスの接近に伴って枝葉が動き始め、大きなハンモックのような形に変化していく。
これは世界樹の歓迎の気持ちの表れだ。
そこに腰を掛けた3人に、周囲の枝葉から細胞励起のような癒しの波動が流れ込んでくる。
何時もながら居心地の良い空間だ。
メリンダ王女もエミリア王女もその心地良さを満喫している。
その傍に上空から赤い鳥が近付き、リリス達の横にちょこんと座り込んだ。
赤い鳥はその小さな頭部をメリンダ王女に摺り寄せ、チチチチチッと小さな声で鳴いた。
その仕草にメリンダ王女も更に癒された様子だ。
「ここって心地良いのは良いんだけど、元の世界には帰れるの?」
「心配ないわよ、メル。異世界に来たと言っても意識だけだから。」
リリスはそう言うと世界樹に感謝の念を送った。
メル達をここに長く留まらせる訳にもいかないから、今回は早めに帰るわね。
また来るわ。
リリスの思いに世界樹は枝葉を揺らして反応した。
リリスは二人の王女と身体を密着させながら、二の腕の三つの小さな黒点に魔力を流そうとした。
だがその時赤い鳥が羽ばたき、リリスの腕にすっと留まった。
「あらっ? あんたが送ってくれるの?」
リリスの言葉に赤い鳥はうんうんと頷き、その翼を大きく羽ばたかせた。
それに反応してリリスの意識がすっと飛ぶ。
気が付くとリリス達は元の部屋のソファの上に座っていた。
メリンダ王女もエミリア王女も、きょとんとした表情でリリスの顔を見つめている。
「夢でも見ていたの?」
メリンダ王女の言葉にリリスは苦笑した。
「夢じゃないわよ。でも夢を見ていたと思った方が良いかもね。」
リリスの言葉にエミリア王女が不満そうな表情を見せた。
「私はもう少しあそこに居たかったわ。だって、自由に空を飛び回れるなんて、初めての経験だったんだもの。」
生来虚弱体質で運動も出来ないエミリア王女にしてみれば、よほど楽しい体験だったのだろう。
「でも何となく身体も心も癒されたわ。」
そう言ってメリンダ王女はソファの背にもたれ掛かった。
その時突然リリスの視界が変わった。
白黒の世界になり、メリンダ王女もエミリア王女もその動きが停止している。
えっ!
また時空が停止してしまったの?
驚くリリスがその周囲を見回すと、頭上から二つの巨大な魔力の塊が接近しているのを探知した。
何事だろうか?
不安に駆られつつ、リリスはその状況を見守っていたのだった。
学生寮に戻って最上階に向かい、いつも通りメイド長のセラのチェックを受け、彼女の部下のメイドの案内でメリンダ王女の部屋に案内された。
部屋の中に入るとメリンダ王女の隣にはエミリア王女が座っていた。
そのエミリア王女の隣にあの赤い鳥がちょこんと座っている。
その姿はまるで置物のようだ。
その長い尾羽根がエミリア王女の衣服に絡まっているようにも見える。
お互いに挨拶を交わし、メリンダ王女の指示でソファに座ったリリスに、メリンダ王女は苦笑いをしながら口を開いた。
「急に呼び出してごめんね。でも呼び出した理由は何となく分かるわよね?」
「うん。その使い魔の事よね。」
リリスは赤い鳥を指さしながら答えた。
リリスの言葉にメリンダ王女もうんうんと頷いた。
その間、エミリア王女は赤い鳥の頭を撫でている。
「今日も朝から出現したままなのよ。召喚の解除を念じても消えてくれないの。これじゃあ、教室にも行けないわ。」
メリンダ王女の言葉にリリスも首を傾げた。
「どうしてこうなっちゃったのかしらねえ。」
ため息をつきながら嘆くメリンダ王女。
その隣に座っているエミリア王女がリリスに顔を向けた。
「リリス。あなたって精霊を見ることが出来るわよね。この赤い鳥の周囲に見えるかしら?」
精霊使いの王女の言葉を聞き、リリスは非表示で魔装を発動させた。
その途端に赤い鳥の周囲に、いくつもの赤や青の光点がぼんやりと見えてきた。
その中に少し大きな光点も見えている。
「うんうん。ぼんやりと見えるわ。でも少し大きめのものもあるわね。」
「リリスったらそこまで分かるのね。そう、そうなのよ。」
エミリア王女はそう言いながら身を乗り出してきた。
オッドアイを持つビスクドールのような美しい顔の接近に、思わずリリスは少し後ろに引いてしまった。
以前にも増して生気が感じられる。
エミリア王女は最近になって神官としての修練を始めたと、神殿のマキからは聞いていた。
その際、マキから魂魄浄化や胎内回帰などの高位の聖魔法も受けたはずだ。
元聖女のマキと交流する中で、エミリア王女にも良い影響が及んでいるのだろう。
「その少し大きめの光点は上位の精霊でね。今日になって現れるようになったのよ。」
「これってこの赤い鳥が招いているの?」
リリスの問い掛けにエミリア王女はうんうんと頷いた。
「この赤い鳥って既にメルとの召喚関係を逸脱しちゃったわ。でも危険な魔物じゃないからまだ良いんだけど・・・」
エミリア王女の言葉にメリンダ王女は困惑の表情を見せた。
「良いって事無いわよ。勝手に出てきて私の傍から離れないんだから。」
「まあ、メルったら懐かれているのね。」
「そんなんじゃないわよ。」
メリンダ王女はそう言いながら手を伸ばし、赤い鳥の頭を撫でた。
その仕草に赤い鳥も目を細めている。
「それでこの赤い鳥って魔物なの?」
リリスの言葉にエミリア王女は首を横に振った。
「それがねえ。鑑定しても魔物と認識出来ないのよ。どちらかと言えば精霊に近い存在かしら・・・」
エミリア王女の言葉を受け、リリスは赤い鳥を鑑定してみた。
だがステータスを開けない。
リリスは止むを得ず解析スキルを発動させた。
この赤い鳥って何者なの?
魔物?
『魔物じゃありませんね。解析不能な要素の塊ですが、精霊に近い存在なのは確かです。その赤い鳥が精霊を呼び集めていますからね。』
この子が呼び集めているの?
『そうです。表面上は何もしていないように見えますが、そう言う波動を亜空間に常時放っています。』
う~ん。
増々得体が知れないわね。
リリスは解析スキルを解除し、赤い鳥をじっと見つめた。
目が合うと可愛い顔をしている。
大きな目の上に生えている長い毛が、まるで付けまつげの様だ。
こんな顔の鳥っていたわよね。
そうそう。
ヘビクイワシだわ。
でもアニメの火の鳥のようにも思えるわね。
そう思いながら赤い鳥の頭を撫でていると、赤い鳥は突然その場ですくっと立ち上がり、リリスの傍に近付いてきた。
リリスの身体に擦り寄る赤い鳥。
その仕草を見てメリンダ王女はふふふと笑った。
「リリスに懐いてくれるのなら、それでも良いわよ。」
「いえいえ。それは遠慮するわ。今度は私が授業に出れなくなっちゃうわよ。」
困惑の言葉を放つリリスの足元に赤い鳥は音もなく移動した。
その小さなくちばしでツンツンとリリスの足元を突いた。
それは普通であれば、小さな鳥としての他愛もない仕草だった。
だがリリスはその足首がじんじんと疼き始めたのを感じた。
うっ!
どうして異世界通行手形が発動し始めているのよ!
何の兆候もなくリリスの足首から白い靄が出現し、その中から例の三毛猫が出現した。
「えっ! どうしたの?」
驚くエミリア王女の言葉にリリスも戸惑ってしまった。
「あの・・・これは私のスキルの擬人化した姿で・・・」
しどろもどろになるリリスの目の前で、三毛猫と赤い鳥が身体を摺り寄せてじゃれ合っている。
それは徐々に光の塊となって融合し、再び二つに分かれて元の姿に戻った。
その様子に驚き、リリスは再び解析スキルを発動させた。
何が起きているの?
『詳細は不明です。ただ、何らかの構成要素のやり取りがあったようです。』
意味が分からないわ。
『簡単に言うと、機能と権能が振り分けられたと考えてください。』
それでも良く分からないわね。
赤い鳥が異世界通行手形の機能を手に入れたって事なの?
『それもあります。ですが異世界通行手形のスキルが手に入れた機能もあるようです。詳細は不明ですが・・・』
う~ん。
良く分からないわね。
そう思っているうちに、三毛猫はふっとその姿を消した。
後に残った赤い鳥は羽を広げ、飛び立つような仕草をした。
その途端に赤い鳥の周囲の空間が揺らぎ始めた。
時空の歪が生じ始めているのは明白だ。
拙い!
リリスは焦りのあまり、赤い鳥の動作を止めようとして手を伸ばした。
その手が赤い鳥に触れた瞬間に、リリスの身体からごそっと魔力が吸引されてしまった。
赤い鳥はその身体が赤く光り、一回り大きくなって羽ばたいた。
その時、リリスの視界が一転した。
周囲の色が無くなり、白黒写真のような情景に変わってしまった。
その中で赤い鳥だけが色を失わず、リリスの顔をじっと見つめている。
しかもメリンダ王女やエミリア王女の動作が停止していた。
これは明らかに時空が停止している状態だ。
その状況の中、赤い鳥はもう一度大きく羽ばたいた。
その途端にリリスの視界が暗転し、目の前が真っ青になってしまった。
次の瞬間、リリスは周囲の青い色が空の色だと分かった。
リリスの身体が空中にふわふわと浮かんでいる。
ふと周りを見回すと、メリンダ王女とエミリア王女も空中に浮かんでいた。
二人の王女は自分達の置かれている状況に驚き、じたばたとその場であがいていた。
これって実体じゃないわよね。
意識が飛ばされていると言う事はおそらく・・・・・世界樹の世界ね。
そう思ってリリスは周囲を見回した。
リリスの後方に天にも届きそうな巨大な樹木がそびえ立っている。
間違いない。
あの世界樹だ。
あの赤い鳥によって意識を異世界に飛ばされてしまったのだろう。
リリスはじたばたとあがいているメリンダ王女の傍に近付き、落ち着いた口調で声を掛けた。
「メル。焦らなくても大丈夫よ。心の中で念じれば行きたい方向に行けるからね。」
「そんな事を言っても・・・」
メリンダ王女はそう言い返そうとしたが、その身体が安定しすっと前に進んだ。
「あらっ! 以外に簡単にコントロール出来たわ。でもこんなのって初めてよ。夢でも見ているの?」
メリンダ王女は前後左右に身体を移動させると、まだじたばたしているエミリア王女の傍に近付いた。
「エミリア。焦らなくても大丈夫よ。私も最初は戸惑ったけど、自分の意思でコントロール出来たわ。」
メリンダ王女の言葉にエミリア王女も従い、徐々に身体の動きを制御出来るようになった。
慣れるとそれは未知の経験だ。
空中を飛んでいるという感覚に嫌でもテンションが上がってしまう。
楽しそうに空中を動き回ってその感覚を楽しみながら、二人はリリスの周囲をぐるぐると回り始めた。
「ねえ、リリス。ここってどこなの?」
メリンダ王女の問い掛けにリリスは苦笑いを浮かべた。
「異世界よ。あの赤い鳥によって飛ばされてしまったの。でも実体じゃなくて意識だけだから心配しなくても良いわよ。」
リリスの言葉にメリンダ王女は首を傾げた。
まだ自分の置かれている状況が把握出来ないのだろう。
エミリア王女は自分の周囲を見回しながら、う~んと小さな唸り声をあげた。
「精霊達の存在を感じられないわ。こんな事って有り得ない。確かにここは私達の居た世界じゃなさそうね。」
エミリア王女の方が状況を把握しているようだ。
とりあえず赤い鳥を探そう。
そう思って周囲を探知すると、リリスの予感通り、赤い鳥の気配は世界樹の傍に感じられた。
「メル、エミリア。向こうの世界樹の傍まで行くわよ。赤い鳥もそこに居るからね。」
「世界樹? そんなものがここにはあるのね。」
驚き振り向くメリンダ王女の視界に、巨大な樹木が入ってきた。
「でもどうしてそれを知っているの?」
エミリア王女の問い掛けにリリスは苦笑した。
「実は何度もここに訪れているのよ。あの世界樹とは縁があってね。」
「リリス。あんたって何者なの? もしかしてこの世界から来たの?」
「違うわよ! 私は私、生まれも育ちもミラ王国よ。まあ、この世界の世界樹との関係は色々あって、簡単には説明出来ないけどね。」
リリスはそう答えて、二人の王女を促し、世界樹の方向にゆっくりと進んでいった。
真近で見る世界樹は巨大だ。
その大きさと質量感に圧倒されてしまう。
へええっ!と驚きの声を上げる二人の王女を引き連れ、リリスは世界樹の上部の生い茂った枝葉の傍に辿り着いた。
リリスの接近に伴って枝葉が動き始め、大きなハンモックのような形に変化していく。
これは世界樹の歓迎の気持ちの表れだ。
そこに腰を掛けた3人に、周囲の枝葉から細胞励起のような癒しの波動が流れ込んでくる。
何時もながら居心地の良い空間だ。
メリンダ王女もエミリア王女もその心地良さを満喫している。
その傍に上空から赤い鳥が近付き、リリス達の横にちょこんと座り込んだ。
赤い鳥はその小さな頭部をメリンダ王女に摺り寄せ、チチチチチッと小さな声で鳴いた。
その仕草にメリンダ王女も更に癒された様子だ。
「ここって心地良いのは良いんだけど、元の世界には帰れるの?」
「心配ないわよ、メル。異世界に来たと言っても意識だけだから。」
リリスはそう言うと世界樹に感謝の念を送った。
メル達をここに長く留まらせる訳にもいかないから、今回は早めに帰るわね。
また来るわ。
リリスの思いに世界樹は枝葉を揺らして反応した。
リリスは二人の王女と身体を密着させながら、二の腕の三つの小さな黒点に魔力を流そうとした。
だがその時赤い鳥が羽ばたき、リリスの腕にすっと留まった。
「あらっ? あんたが送ってくれるの?」
リリスの言葉に赤い鳥はうんうんと頷き、その翼を大きく羽ばたかせた。
それに反応してリリスの意識がすっと飛ぶ。
気が付くとリリス達は元の部屋のソファの上に座っていた。
メリンダ王女もエミリア王女も、きょとんとした表情でリリスの顔を見つめている。
「夢でも見ていたの?」
メリンダ王女の言葉にリリスは苦笑した。
「夢じゃないわよ。でも夢を見ていたと思った方が良いかもね。」
リリスの言葉にエミリア王女が不満そうな表情を見せた。
「私はもう少しあそこに居たかったわ。だって、自由に空を飛び回れるなんて、初めての経験だったんだもの。」
生来虚弱体質で運動も出来ないエミリア王女にしてみれば、よほど楽しい体験だったのだろう。
「でも何となく身体も心も癒されたわ。」
そう言ってメリンダ王女はソファの背にもたれ掛かった。
その時突然リリスの視界が変わった。
白黒の世界になり、メリンダ王女もエミリア王女もその動きが停止している。
えっ!
また時空が停止してしまったの?
驚くリリスがその周囲を見回すと、頭上から二つの巨大な魔力の塊が接近しているのを探知した。
何事だろうか?
不安に駆られつつ、リリスはその状況を見守っていたのだった。
30
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?
のんのこ
恋愛
侯爵令嬢セイラは、両親を亡くした従姉妹(いとこ)であるミレイユと暮らしている。
両親や兄はミレイユばかりを溺愛し、実の家族であるセイラのことは意にも介さない。
そんなセイラを救ってくれたのは兄の友人でもある公爵令息キースだった…
本垢執筆のためのリハビリ作品です(;;)
本垢では『婚約者が同僚の女騎士に〜』とか、『兄が私を愛していると〜』とか、『最愛の勇者が〜』とか書いてます。
ちょっとタイトル曖昧で間違ってるかも?
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
木乃伊取りが木乃伊 ~監視対象にまんまと魅了された婚約者に、婚約破棄だと言われたので速攻了承したのに・・・保留ってどういうことですか!?~
夏笆(なつは)
恋愛
貴族学園最高学年であり、侯爵家の娘であるアラベラは、一年ほど前、婚約者のサイラスより特別任務で魅了を操る女生徒、チェルシーの監視役となったことを聞かされた。
魅了防止の護符も与えられ、何より愛するのは君だけだ、心配はないと言い切ったサイラスだが、半年経った頃から態度が激変し、真実の愛はチェルシーと育むと宣言、とうとうアラベラに婚約破棄を叩きつける。
しかし、その時には自分の気持ちに決着をつけていたアラベラが、あっさりと了承したことでサイラスの様子がおかしくなる。
小説家になろうにも掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる