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古都再生2
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古都フィリスの宮殿。
古びたその建物にリリスとケネスが入り、その後ろに護衛の兵士が2名付き従った。
宮殿の中は薄汚れ、壁や床もかなり朽ちていた。
家具や調度品はもちろん無い。
埃にまみれたガランとした空間のみだ。
だが床から天井に繋がる柱は朽ちているとは言え立派で、良好な石材をふんだんに使っている事が分かる。
その柱を撫でながらケネスはリリスに話し掛けた。
「リリス君。この石材を再生したいんだよ。このまま取り壊すのも大変だし、これだけの石材を探して切り出すのも大変だからね。
それでまず君にお願いしたいんだが・・・」
そう言いながらケネスは一呼吸、間を置いた。
「私がフィリップ殿下から聞いた話では、君は泥沼を瞬時に出現させ、その泥沼を硬化させる事も出来るそうじゃないか。君の土魔法のレベルでこの柱を何処まで硬化出来るかね?」
「硬化するんですか?」
「そう。硬化だよ。理想を言えば石材全体を硬化したい。そうすればそのまま再利用出来るからね。勿論その為には相当な魔力量と土魔法のレベルが必要だが・・・」
ケネスの言葉にリリスは黙って頷いた。
要するにリリスの技量を見たいと言う事なのだろう。
リリスは両手をその柱の上に置いた。柱の表面が触るだけで少し崩れてしまう。
その埃を掃いながらリリスは探知を掛けた。
柱は3m四方で高さは15mもある。石質はかなり硬いものの、内部に亀裂が無数にあり、その傷みも酷い事が分かる。
これを内部まで硬化出来るのか?
まあ、無理ではないと思うけどねえ。
そう思いながらリリスは土魔法を発動させ、とりあえず硬化を始めた。
柱の石材の表面から徐々に硬化の範囲を広げ、表面全体を硬化させ、そのまま内部まで硬化していく。
硬化だけなので意外にも5分ほどで柱の内部まで硬化出来た。
魔力もそれほどに消費していない。
魔物を沈めた泥沼全体を硬化させるのに比べたら、どうって事ないわね。
そう思いながら振り返ると、ケネスはう~んと唸って考え込んでいた。
「そんなに簡単に済ませるなんて、やはり君は規格外だね。魔力を消耗している様子も無いし・・・」
「そうですか?」
そんなに大変な事をしているとは思えないんだけど・・・。
ケネスは少し考え込んで口を開いた。
「リリス君。君に任せるので、この広間全体の床や壁や柱を硬化させてくれないか? 勿論君にやれる範囲で良いからね。」
あらあら。
早速丸投げされちゃったわ。
「まあ、良いですよ。やってみますけど、壁のあちらこちらに彫り込まれているレリーフも、そのまま硬化させるんですか?」
「ああ、それは構わないよ。レリーフは硬化させた後に専門の職人が仕上げるからね。」
うんうん。
それはそうよね。
それならと言う事で、リリスは硬化作業を始めた。
広間は床が縦20m横40mほどの長方形で、柱は10本、壁は高さ15mまで石材で積み上げられている。
その壁に両手を置き、探知しながらリリスは解析スキルを発動させた。
この壁の石材って単に積み上げているだけじゃ無いわよね。
『そうですね。コンクリートの様なもので接着されているようです。』
それって復元出来るの?
『出来ない事は無いですが、そのまま硬化してしまえば良いと思いますよ。均一の石質にした方が強度を保てますからね。」
そうね。じゃあ、そうするわ。
リリスは改めて壁の石材を探知した。厚さは50cmほどだと分かったので、一気に硬化を始めた。
リリスの両手を置いている場所から硬化が一気に進み、壁全体を硬化させるのに5分も掛からなかった。
壁に彫り込まれたレリーフも薄汚れたままに硬化されている。
これって改めて汚れを落としたり、磨き上げるのも大変よね。
そう思ったリリスは石材表面の石質の組成を変えてみた。
表面から30cmほどまでの石質を変えてみると、まるで化粧板を取り付けたように壁が一新され、壁全体が鈍い光沢を見せるようになった。
ここから更に磨き上げるのは職人に任せるわ。
リリスは同じ要領で床材を硬化し、その表面の石質を変えた。
更に10本の柱を硬化させ、また同じようにその表面の石質を変えていく。
天井の石材は下から土魔法の魔力を放ち、その表面を硬化させる。
上の階層から下へと再度硬化を掛ければ、天井の石材全体が硬化出来るはずだ。
作業を進める事、約1時間。
広間全体が鈍い光沢を放つ空間となった。
それでもリリスの魔力量はさほど消耗していない。
むしろリリスも作業が楽しくなってきたほどだ。
「これだけの作業をしても、まだまだ魔力量に余裕があるなんてねえ。」
呆れ顔のケネスに次の部屋を指示して貰い、リリスは再び作業を続けた。
奥の部屋はゲストルームのようだ。
10m四方の部屋で高さは5mほどだが、その内部はやはり劣化が進んでいる。
だがその部屋に入った途端に、リリスは違和感を覚えた。
正面の壁に異様な黒い染みが浮かび上がっている。
そこから微かに呪詛の様なものをリリスは感じた。
探知してみると壁は石材で組まれていて、奥行きは5mほどもあった。
しかもその石材があまり劣化していない。
随分頑丈な造りね。
何かを隠しているとすれば、納得出来るけど・・・。
「ここに何か埋められているのですが、試しに取り出してみて良いですか?」
リリスの言葉にケネスは首を傾げた。
「取り出すと言っても壊さなければ無理だよね。」
「いいえ、大きさはそれほど大きくないので、壁全体を壊さずに取り出せますよ。」
ケネスはそう言われてもピンとこない。
「まあ、壊さないのならやってみてくれ。」
そう言ってケネスは壁から離れた。
リリスは先ず魔力の触手を伸ばし、壁の中に侵入させてみた。
触手の先端が埋められている物体に近付くと、ピリピリと刺すような刺激が伝わってくる。
これは間違いなく呪詛だ。
その物体に呪いが掛けられているのだろう。
その呪詛は物体の上方に突き抜けていくように放たれている。
これが宮殿の屋根から広範囲に広がって、周囲に人を寄せ付けないようにしているのかも知れない。
リリスは解析スキルを再び発動させた。
この呪詛って解呪出来るの?
『それほどに複雑な呪詛ではないので、可能だと判断します。外気に触れると強烈に呪いが拡散される可能性もありますので、この物体を外部に取り出すつもりなら、即座に解呪すべきですね。』
そうね。取り出す前に処理すべきよね。
リリスはそう判断して、呪詛構築スキルを発動させた。
魔力の触手の先端から呪詛をサンプルとして少量取り込み、分析して解呪の為の呪詛を構築していく。
それを再度魔力に纏わらせて、魔力の触手から放っていくと言う段取りだ。
暗黒竜の加護のお陰で呪詛構築スキルもかなりアップデートされているので、思ったほどにも時間が掛からない。
まあ、禁呪すら構築出来るんだから、普通の呪詛なら容易いわよね。
そう思いながら、リリスはクイーングレイスに感謝した。
呪詛が解呪されたので、リリスは次の作業に取り掛かった。
魔力の触手から土魔法の魔力を放ちながら、壁の表面から物体の直前までを砂状に変質させる。
壁の表面の直径50cmほどの部分が砂となって床に崩れ落ちた。
更に魔力の触手を物体の裏側に回し、背後から硬化を掛けていく。
それによって物体を引き出す作業だ。
これは以前にアブリル王国で、山の崖から竜の鱗を取り出した時と同じ要領である。
ほんの数分で壁の前の床に砂と共にガタンと箱のようなものが落ちた。
それに近付き、その表面を洗浄魔法で奇麗にすると、硬質ガラスの蓋のついた頑丈な木箱が現われた。
大きさは縦横が40cmほどで透明の蓋が付いている。
「それは何かね?」
ケネスが近付いてその透明の蓋を見ると、中には小さなミニチュアの街並みが見えた。
「まるで箱庭だね。子供用の玩具だろうか? それにしても・・・どうしてこんなものが埋め込まれていたんだ?」
ケネスの言葉にリリスも首を傾げるだけだ。
呪詛を掛けてあったので、子供の玩具では無さそうなのだが・・・。
不思議に思ってその透明の蓋を覗き込むと、突然その蓋全体がカッと光った。
それと共にリリスは、身体がふわっと浮いたような感覚を覚えた。
拙い!
転送されてしまったわ!
リリスの視界が暗転し、気が付くとリリスとケネスは白い部屋の中に居た。
大きなテーブルの上には雑然と書類が置かれており、そのテーブルの周囲に椅子が5脚並んでいる。
その端の椅子に小柄な白髪の老人が座っていた。
だがこちらに向いたその顔は骸骨である。
リッチだ!
驚くリリス達の目の前で、リッチはその姿を変え、温和そうな表情の老人となった。
その老人はほうっ!と驚きながら立ち上がり、リリス達の傍に近付いて来た。
「ようやく客人が来たようだね。」
満面の笑みを見せる老人である。
「ここは・・・どこですか? 私達は・・・転送されたのですか?」
リリスの問い掛けに老人はうんうんと頷いた。
「突然の事で驚いただろう。ここは儂が造り上げた仮想空間の中だ。ここを管理している人工知能が君等を探知し、木箱の中に転送させたのだよ。」
「君等が儂の抱える問題を解決してくれる人物だと判断したのだろうな。」
そう言って老人はハハハと笑った。
老人は名をオルヴィスと言い、以前は賢者として名を馳せていたと自己紹介をした。
リリス達も名を名乗りオルヴィスに促されて椅子に座った。
「オルヴィス様。貴殿の名は私も聞いた事があります。ドルキア帝国初期に活躍された賢者様だと記憶していますが・・・」
ケネスの言葉にオルヴィスは嬉しそうに頷いた。
「そのような時もあったな。だが既に700年も経っておる。ドルキア帝国はまだ健在か?」
オルヴィスの問い掛けにケネスは軽く頷いた。
「今はドルキア王国として存続しています。ここに居るリリスの母国であるミラ王国と強固な同盟関係を結び、繁栄の道を辿っているところです。」
「そうか。隣国と同盟を結んで存続しているのか。そうすると孤高の強国として君臨したドルキア帝国の姿はもう無さそうだな。」
「それはかつての栄光ですね。でも今もそれなりに繁栄していますよ。」
ケネスの言葉に嘘は無い。
それを感じてオルヴィスも安堵のため息をついた。
「それにしても、どうしてここに700年も居るのですか?」
リリスの問い掛けにオルヴィスはうむと唸り、ケネスの方に目を向けた。
「ケネス君。君はドルキア出身だから、帝国初期の王都の伝染病の事は知っているな?」
「ええ、良く聞かされました。その当時はフィリスが王都だったのですね。」
ケネスの言葉にオルヴィスは強く頷いた。
「フィリスは水の豊富な美しい白亜の王都だった。儂は生まれも育ちもフィリスなのだよ。それ故に人一倍思い入れがある。その王都を襲ったのがあの伝染病だ。儂はその元凶を見つけ出し、この仮想空間に誘い込む事に成功した。完全に隔離し、呪詛まで掛けて封印したのだがな。」
そう言ってオルヴィスはリリスの方に目を向けた。
「そんなに簡単な呪詛では無かったと思うのだが、いとも簡単に解呪してしまったようだな。お陰で解呪の反作用が儂の身体に襲い掛かって来たよ。」
えっ!
そんな事になっていたの?
驚くリリスの表情を見てオルヴィスはハハハと笑った。
「まあ、心配は要らんよ。儂はリッチだからな。肉体的な負荷はほとんど無い。」
「骨が数本折れただけだが、既に修復してしまったよ。」
そうなのね。
それなら大丈夫なのかしら?
そう案じつつも、リリスはオルヴィスの言葉が気になった。
「オルヴィス様。その伝染病の元凶って・・・・・何ですか?」
リリスの問い掛けにオルヴィスは深くため息をついた。
「そう。こいつが厄介なのだ。ここに誘い込んで隔離する事に成功したものの、駆除の方法が儂には思いつかん。奴は全ての属性魔法に強固な耐性を持ち、更に毒耐性まで持っておるからな。」
「それでそれって何ですか?」
リリスの再度の問い掛けに、オルヴィスは少し間を置いて口を開いた。
「ホムンクルスをベースにして何者かが造り上げた人型の生物兵器だよ。」
生物兵器!
そうすると伝染病って人為的なものだったの?
オルヴィスの言葉にリリスは驚くばかりだった。
古びたその建物にリリスとケネスが入り、その後ろに護衛の兵士が2名付き従った。
宮殿の中は薄汚れ、壁や床もかなり朽ちていた。
家具や調度品はもちろん無い。
埃にまみれたガランとした空間のみだ。
だが床から天井に繋がる柱は朽ちているとは言え立派で、良好な石材をふんだんに使っている事が分かる。
その柱を撫でながらケネスはリリスに話し掛けた。
「リリス君。この石材を再生したいんだよ。このまま取り壊すのも大変だし、これだけの石材を探して切り出すのも大変だからね。
それでまず君にお願いしたいんだが・・・」
そう言いながらケネスは一呼吸、間を置いた。
「私がフィリップ殿下から聞いた話では、君は泥沼を瞬時に出現させ、その泥沼を硬化させる事も出来るそうじゃないか。君の土魔法のレベルでこの柱を何処まで硬化出来るかね?」
「硬化するんですか?」
「そう。硬化だよ。理想を言えば石材全体を硬化したい。そうすればそのまま再利用出来るからね。勿論その為には相当な魔力量と土魔法のレベルが必要だが・・・」
ケネスの言葉にリリスは黙って頷いた。
要するにリリスの技量を見たいと言う事なのだろう。
リリスは両手をその柱の上に置いた。柱の表面が触るだけで少し崩れてしまう。
その埃を掃いながらリリスは探知を掛けた。
柱は3m四方で高さは15mもある。石質はかなり硬いものの、内部に亀裂が無数にあり、その傷みも酷い事が分かる。
これを内部まで硬化出来るのか?
まあ、無理ではないと思うけどねえ。
そう思いながらリリスは土魔法を発動させ、とりあえず硬化を始めた。
柱の石材の表面から徐々に硬化の範囲を広げ、表面全体を硬化させ、そのまま内部まで硬化していく。
硬化だけなので意外にも5分ほどで柱の内部まで硬化出来た。
魔力もそれほどに消費していない。
魔物を沈めた泥沼全体を硬化させるのに比べたら、どうって事ないわね。
そう思いながら振り返ると、ケネスはう~んと唸って考え込んでいた。
「そんなに簡単に済ませるなんて、やはり君は規格外だね。魔力を消耗している様子も無いし・・・」
「そうですか?」
そんなに大変な事をしているとは思えないんだけど・・・。
ケネスは少し考え込んで口を開いた。
「リリス君。君に任せるので、この広間全体の床や壁や柱を硬化させてくれないか? 勿論君にやれる範囲で良いからね。」
あらあら。
早速丸投げされちゃったわ。
「まあ、良いですよ。やってみますけど、壁のあちらこちらに彫り込まれているレリーフも、そのまま硬化させるんですか?」
「ああ、それは構わないよ。レリーフは硬化させた後に専門の職人が仕上げるからね。」
うんうん。
それはそうよね。
それならと言う事で、リリスは硬化作業を始めた。
広間は床が縦20m横40mほどの長方形で、柱は10本、壁は高さ15mまで石材で積み上げられている。
その壁に両手を置き、探知しながらリリスは解析スキルを発動させた。
この壁の石材って単に積み上げているだけじゃ無いわよね。
『そうですね。コンクリートの様なもので接着されているようです。』
それって復元出来るの?
『出来ない事は無いですが、そのまま硬化してしまえば良いと思いますよ。均一の石質にした方が強度を保てますからね。」
そうね。じゃあ、そうするわ。
リリスは改めて壁の石材を探知した。厚さは50cmほどだと分かったので、一気に硬化を始めた。
リリスの両手を置いている場所から硬化が一気に進み、壁全体を硬化させるのに5分も掛からなかった。
壁に彫り込まれたレリーフも薄汚れたままに硬化されている。
これって改めて汚れを落としたり、磨き上げるのも大変よね。
そう思ったリリスは石材表面の石質の組成を変えてみた。
表面から30cmほどまでの石質を変えてみると、まるで化粧板を取り付けたように壁が一新され、壁全体が鈍い光沢を見せるようになった。
ここから更に磨き上げるのは職人に任せるわ。
リリスは同じ要領で床材を硬化し、その表面の石質を変えた。
更に10本の柱を硬化させ、また同じようにその表面の石質を変えていく。
天井の石材は下から土魔法の魔力を放ち、その表面を硬化させる。
上の階層から下へと再度硬化を掛ければ、天井の石材全体が硬化出来るはずだ。
作業を進める事、約1時間。
広間全体が鈍い光沢を放つ空間となった。
それでもリリスの魔力量はさほど消耗していない。
むしろリリスも作業が楽しくなってきたほどだ。
「これだけの作業をしても、まだまだ魔力量に余裕があるなんてねえ。」
呆れ顔のケネスに次の部屋を指示して貰い、リリスは再び作業を続けた。
奥の部屋はゲストルームのようだ。
10m四方の部屋で高さは5mほどだが、その内部はやはり劣化が進んでいる。
だがその部屋に入った途端に、リリスは違和感を覚えた。
正面の壁に異様な黒い染みが浮かび上がっている。
そこから微かに呪詛の様なものをリリスは感じた。
探知してみると壁は石材で組まれていて、奥行きは5mほどもあった。
しかもその石材があまり劣化していない。
随分頑丈な造りね。
何かを隠しているとすれば、納得出来るけど・・・。
「ここに何か埋められているのですが、試しに取り出してみて良いですか?」
リリスの言葉にケネスは首を傾げた。
「取り出すと言っても壊さなければ無理だよね。」
「いいえ、大きさはそれほど大きくないので、壁全体を壊さずに取り出せますよ。」
ケネスはそう言われてもピンとこない。
「まあ、壊さないのならやってみてくれ。」
そう言ってケネスは壁から離れた。
リリスは先ず魔力の触手を伸ばし、壁の中に侵入させてみた。
触手の先端が埋められている物体に近付くと、ピリピリと刺すような刺激が伝わってくる。
これは間違いなく呪詛だ。
その物体に呪いが掛けられているのだろう。
その呪詛は物体の上方に突き抜けていくように放たれている。
これが宮殿の屋根から広範囲に広がって、周囲に人を寄せ付けないようにしているのかも知れない。
リリスは解析スキルを再び発動させた。
この呪詛って解呪出来るの?
『それほどに複雑な呪詛ではないので、可能だと判断します。外気に触れると強烈に呪いが拡散される可能性もありますので、この物体を外部に取り出すつもりなら、即座に解呪すべきですね。』
そうね。取り出す前に処理すべきよね。
リリスはそう判断して、呪詛構築スキルを発動させた。
魔力の触手の先端から呪詛をサンプルとして少量取り込み、分析して解呪の為の呪詛を構築していく。
それを再度魔力に纏わらせて、魔力の触手から放っていくと言う段取りだ。
暗黒竜の加護のお陰で呪詛構築スキルもかなりアップデートされているので、思ったほどにも時間が掛からない。
まあ、禁呪すら構築出来るんだから、普通の呪詛なら容易いわよね。
そう思いながら、リリスはクイーングレイスに感謝した。
呪詛が解呪されたので、リリスは次の作業に取り掛かった。
魔力の触手から土魔法の魔力を放ちながら、壁の表面から物体の直前までを砂状に変質させる。
壁の表面の直径50cmほどの部分が砂となって床に崩れ落ちた。
更に魔力の触手を物体の裏側に回し、背後から硬化を掛けていく。
それによって物体を引き出す作業だ。
これは以前にアブリル王国で、山の崖から竜の鱗を取り出した時と同じ要領である。
ほんの数分で壁の前の床に砂と共にガタンと箱のようなものが落ちた。
それに近付き、その表面を洗浄魔法で奇麗にすると、硬質ガラスの蓋のついた頑丈な木箱が現われた。
大きさは縦横が40cmほどで透明の蓋が付いている。
「それは何かね?」
ケネスが近付いてその透明の蓋を見ると、中には小さなミニチュアの街並みが見えた。
「まるで箱庭だね。子供用の玩具だろうか? それにしても・・・どうしてこんなものが埋め込まれていたんだ?」
ケネスの言葉にリリスも首を傾げるだけだ。
呪詛を掛けてあったので、子供の玩具では無さそうなのだが・・・。
不思議に思ってその透明の蓋を覗き込むと、突然その蓋全体がカッと光った。
それと共にリリスは、身体がふわっと浮いたような感覚を覚えた。
拙い!
転送されてしまったわ!
リリスの視界が暗転し、気が付くとリリスとケネスは白い部屋の中に居た。
大きなテーブルの上には雑然と書類が置かれており、そのテーブルの周囲に椅子が5脚並んでいる。
その端の椅子に小柄な白髪の老人が座っていた。
だがこちらに向いたその顔は骸骨である。
リッチだ!
驚くリリス達の目の前で、リッチはその姿を変え、温和そうな表情の老人となった。
その老人はほうっ!と驚きながら立ち上がり、リリス達の傍に近付いて来た。
「ようやく客人が来たようだね。」
満面の笑みを見せる老人である。
「ここは・・・どこですか? 私達は・・・転送されたのですか?」
リリスの問い掛けに老人はうんうんと頷いた。
「突然の事で驚いただろう。ここは儂が造り上げた仮想空間の中だ。ここを管理している人工知能が君等を探知し、木箱の中に転送させたのだよ。」
「君等が儂の抱える問題を解決してくれる人物だと判断したのだろうな。」
そう言って老人はハハハと笑った。
老人は名をオルヴィスと言い、以前は賢者として名を馳せていたと自己紹介をした。
リリス達も名を名乗りオルヴィスに促されて椅子に座った。
「オルヴィス様。貴殿の名は私も聞いた事があります。ドルキア帝国初期に活躍された賢者様だと記憶していますが・・・」
ケネスの言葉にオルヴィスは嬉しそうに頷いた。
「そのような時もあったな。だが既に700年も経っておる。ドルキア帝国はまだ健在か?」
オルヴィスの問い掛けにケネスは軽く頷いた。
「今はドルキア王国として存続しています。ここに居るリリスの母国であるミラ王国と強固な同盟関係を結び、繁栄の道を辿っているところです。」
「そうか。隣国と同盟を結んで存続しているのか。そうすると孤高の強国として君臨したドルキア帝国の姿はもう無さそうだな。」
「それはかつての栄光ですね。でも今もそれなりに繁栄していますよ。」
ケネスの言葉に嘘は無い。
それを感じてオルヴィスも安堵のため息をついた。
「それにしても、どうしてここに700年も居るのですか?」
リリスの問い掛けにオルヴィスはうむと唸り、ケネスの方に目を向けた。
「ケネス君。君はドルキア出身だから、帝国初期の王都の伝染病の事は知っているな?」
「ええ、良く聞かされました。その当時はフィリスが王都だったのですね。」
ケネスの言葉にオルヴィスは強く頷いた。
「フィリスは水の豊富な美しい白亜の王都だった。儂は生まれも育ちもフィリスなのだよ。それ故に人一倍思い入れがある。その王都を襲ったのがあの伝染病だ。儂はその元凶を見つけ出し、この仮想空間に誘い込む事に成功した。完全に隔離し、呪詛まで掛けて封印したのだがな。」
そう言ってオルヴィスはリリスの方に目を向けた。
「そんなに簡単な呪詛では無かったと思うのだが、いとも簡単に解呪してしまったようだな。お陰で解呪の反作用が儂の身体に襲い掛かって来たよ。」
えっ!
そんな事になっていたの?
驚くリリスの表情を見てオルヴィスはハハハと笑った。
「まあ、心配は要らんよ。儂はリッチだからな。肉体的な負荷はほとんど無い。」
「骨が数本折れただけだが、既に修復してしまったよ。」
そうなのね。
それなら大丈夫なのかしら?
そう案じつつも、リリスはオルヴィスの言葉が気になった。
「オルヴィス様。その伝染病の元凶って・・・・・何ですか?」
リリスの問い掛けにオルヴィスは深くため息をついた。
「そう。こいつが厄介なのだ。ここに誘い込んで隔離する事に成功したものの、駆除の方法が儂には思いつかん。奴は全ての属性魔法に強固な耐性を持ち、更に毒耐性まで持っておるからな。」
「それでそれって何ですか?」
リリスの再度の問い掛けに、オルヴィスは少し間を置いて口を開いた。
「ホムンクルスをベースにして何者かが造り上げた人型の生物兵器だよ。」
生物兵器!
そうすると伝染病って人為的なものだったの?
オルヴィスの言葉にリリスは驚くばかりだった。
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夕凪
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嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
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