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来年度の入学生 その後
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眠っていたはずのリリスが誘われた空間。
それは以前にも訪れた事のある世界だ。
以前の記憶では、時空の歪に一時的に展開された空間だと聞いている。
椅子の背にもたれながら、リリスはふとマスターに尋ねてみた。
「私の元の身体の遺伝子の深層部に格納されていた情報って、一体何だったのですか?」
リリスの言葉にマスターはふっとため息をついた。
「先日アルバ様に聞いた話だが・・・・・。どうやらこの世界の復元ポイントに関する核心部の情報だったようだね。」
「復元ポイントって・・・何の為の?」
リリスの言葉にマスターはぴくっと眉を上げた。
「元の状態に戻すためだよ。君も知っていると思うが、この世界も今君のいる世界のように、魔素と魔力で構成されていた時期があった。君の知る時間軸で言うと200万年ほど前の事だ。」
「だがその後管理者の意向で世界が再構成され、魔素も魔力も働かない世界となった。その世界が君の生きていた時代にまで繋がっているんだ。」
そこまではリリスも以前に聞かされた話だ。
「でも、このままこの世界は繁栄し続けると思うかい?」
マスターの問い掛けにリリスは『さあ?』と言いながら首を傾げた。
「そうだよね。未来の事は誰にも分からない。君が今居る世界では定期的に火の亜神が地上を焼き尽くしてしまうそうだが、こちらの世界では人間がその武器で地上を焼き尽くしてしまうかも知れないからね。」
それって核兵器の事?
「それで無くても状況によって、再び魔素と魔力で構成される世界に戻す必要があったとしたら、その時には復元ポイントが有効になってくるんだ。勿論そんなものが無くても管理者は世界の構成を再構築する事は可能だよ。だがそれを一から始めるとなると膨大な時間とエネルギーが必要となる。」
そこまで話してマスターはニヤリと笑った。
「復元ポイントを活用すると、時間もエネルギーも百分の一で済むそうだよ。」
そんな大事なものを私に託していたの?
信じられないわ。
「君には信じられない話かも知れないが、それが事実なら君に管理者が異常なほどに執着するのも理解出来るだろう?」
う~ん。
そうなのかしらねえ。
そう思って考え込んでいると、床がゆらゆらと揺れ、店内の様子が若干ぼやけて来た。
「この時空の歪を維持するのも、そろそろ限界だね。君の事だ。また会える日も遠くないだろうよ。」
マスターの少し寂しな表情に釣られて、隣に座っていた少女も寂しそうな表情を見せた。
「前回のように君がここから戻ると、時空の歪の存在を感じるだろう。とは言え、君のステージがかなり上がっているので、誤差範囲の変化で済むと思うよ。」
そう言ってマスターは少女に目配せをした。
少女はうんと頷いて、リリスの手を再び握った。
「お姉ちゃん。また会えると良いね。」
「お姉ちゃんの好みに合わせてアンティーク調の喫茶店を用意したけど、今度は飲茶の店も用意しておくね。お姉ちゃんってOLの時は、飲茶の店が好きだったでしょ?」
うっ!
あんたって何者なの?
リリスの戸惑う表情をスルーして、少女はスッと席を立ち、カウンターを擦り抜けるように移動してマスターの隣に立った。
既に言葉が聞こえない。
笑顔で手を振るマスターと少女の輪郭が徐々にぼやけてくる。
それに連れて店内の様子も次第にぼやけて来た。
程なく真っ白になってしまって、もはや何も見えないままに、リリスは再び深い眠りに陥っていったのだった。
その後、早朝にリリスは目が覚めた。
まだ日の出直前で、窓から見える空は仄かに明るくなっている。
隣のベッドで眠っているサラの静かな寝息を聞きながら、リリスは解析スキルを発動させた。
私ってまたこの世界から消失していたの?
『そうですね。今回は20分間でしたね。』
そう。
それなら特に不具合は無さそうね。
20分間の加齢・・・・・まあ、誤差範囲だろう。
リリスは一安心して再び眠りに就いた。
それから約一か月後。
魔法学院の新年度が始まった。
リリスは最上級生に進級し、当然の流れとして生徒会の会長となっていた。
副会長はエリスである。
魔法学院には新たに16名の新入生が入学してきた。
勿論その中にはサリナも含まれている。
入学式当日のリリスはまさに災難であった。
新入生を迎えて生徒会会長としての挨拶を壇上で行なった時、異世界通行手形が急に発動しそうになったからだ。
サリナの入学式に合わせて、サリナの二人の兄とサリナの両親まで駆けつけて来たのである。
異世界からの転移者の子孫が5人も目の前に並んでいるのだ。
それによって増大してしまった刺激はリリスの魔力に強く干渉し、スキルの発動を嫌でも加速させてしまう。
それを抑え込むために必死で魔力の流れを抑え込んだリリスは、壇上から降りた際には冷や汗を流していた。
私ってレイブン諸島に行ったら、何が起きるんだろう?
千人単位の転移者の子孫から受ける影響を思うと、暗澹たる気持ちになってしまうリリスであった。
数日間のオリエンテーリングの後、新入生達の授業が始まった。
その初日の放課後に生徒会の部屋を訪れたのは、やはりサリナであった。
「サリナ・パール・クロードです。よろしくお願いします。」
真新しい学生服に身を包み、明るくハキハキと挨拶するサリナである。
ちなみに新入生の担任教師は召喚術担当のバルザック先生だと言う。
クラス委員に立候補する生徒が他に居なかったと言う事だが、その性格を考えると適任だとリリスも感じた。
その場で生徒会のメンバーと挨拶を交わし、色々と情報交換をしていく中、サリナがふと部屋のドアの方に目を向けた瞬間があった。
その視線に若干の鋭さを感じたリリスだが、それを察したのかサリナは直ぐに笑顔を見せた。
「どうしたの?」
小声でサリナに尋ねたリリスの耳元に、サリナはその顔を近付けた。
「いま、ドアの外に人の気配を感じたんです。巧妙に気配を消しながら中を探るような・・・。」
うんうん。
それって多分ニーナだと思うよ。
巧妙に気配を隠すと聞いて、ニーナを即座に連想したリリスである。
多分、生徒会の部屋の近くまで来て、入室を躊躇ったのだろう。
だがそれを察知するサリナも何者だろうか?
リリスですら気付いていなかったのである。
そう言えばサリナのステータスって覗き見していなかったわね。
リリスはそう思いながら、こっそりとサリナを鑑定してみた。
**************
サリナ・パール・クロード
種族:人族 レベル13
年齢:13
体力:1300+
魔力:1000+
属性:火・水
魔法:ファイヤーボール レベル1
ウォータースプラッシュ レベル1
ウォーターカッター レベル1
スキル:探知 レベル3+
隠形 レベル2
罠解除 レベル2
暗視 レベル2
魔力吸引 レベル2
毒耐性 レベル2
精神誘導 レベル2
投擲スキル レベル2
身体強化 レベル2
加速 レベル2
武具習熟 レベル2
秘匿領域
スキル
抜刀術 レベル3
魅了 レベル2
毒解析 レベル2
白蛇降臨 (総合レベル未達により発動不可)
隠形七変化 (総合レベル未達により発動不可)
乾坤一擲 (総合レベル未達により発動不可)
称号
初級女忍資格所有者
**************
うっ!
これって13歳の少女のステータスなの?
ニーナ並みのスキルを持っているわね。
対人戦闘に特化しているじゃないの!
それにこの秘匿領域にある、中二病を刺激するようなネーミングのスキルや称号は何なの?
呆れて言葉を失ってしまったリリスである。
その呆然としたリリスの内心を知る事も無く、エリスがサリナに何げなく問い掛けた。
「サリナの他にはクラス委員の立候補者は本当に居なかったの? 新入生の中に、一昨年卒業したロナルド先輩の弟も居たと思うんだけど。」
「ええ、それが・・・」
サリナは一瞬、言い淀んだ。
「実は最初にバルザック先生から指名されたんです。私にクラス委員を任せるようにと、王族から指示があったと聞いています。」
「王族から? それならサリナを押し退けて立候補する者なんて居ないわよねえ。」
二人の会話にアンソニーが加わる。
「僕も聞きましたが珍しい事例ですよね。今までそんな事があったんですか? リリス先輩はご存知ですか?」
「いいえ、私の知る範囲では無いわよ。王族って多分・・・・・メリンダ王女ね。サリナの学内見学の時に、使い魔の姿で会っているからだと思うわ。」
「それだけの事で?」
間の抜けたような声で不思議がるアンソニーに、リリスは諭すように返答をした。
「あの王女様は直感的なところがあるからね。サリナと会話して、この子が適任だと感じたんだと思うわ。」
そう答えながら、内心ではメリンダ王女の腹を探りたいと思ったリリスである。
メルったら、何を画策しているのかしら?
リリスは少し考え込んだ。
その間にアンソニーがサリナに話し掛けた。
「僕が直接聞いた話だけど、ロナルド先輩の弟のルイも、最初はクラス委員に立候補するつもりだったらしいよ。でも王族からの指示でサリナに決まっちゃったので、仕方が無く諦めたって言っていたね。」
「それでも無念な気持ちがあって、何処かで見返してやろうと思ったそうだ。だけど新入生のオリエンテーリングで、訓練場でのサリナの戦闘スタイルを見て、こいつには勝てないと心底思ったって言っていたね。」
アンソニーの話にサリナはえへへと照れ笑いをした。
「訓練場で何をしたの? 標的を倒すだけなら剣術でも魔法でもそれなりに結果を出せると思うんだけど・・・」
エリスの問い掛けにサリナは照れ笑いをして答えず、アンソニーが代わりに口を開いた。
「ルイは見た事も無い剣技を見せられたって言っていたよ。剣を抜いた動作も見えず、高速で擦り抜けざまに3体の標的を一瞬で寸断していたそうだ。」
まあ、サリナったら、入学直後のテンションで張り切っちゃったのね。
でもこのステータスならそれも理解出来るわ。
「今度機会があったら、是非とも僕とお手合わせ願いたい。」
アンソニーの言葉にサリナは笑いながら手を何度も横に振った。
「いえいえ、とんでもないです。私ごときが先輩とお手合わせなんて・・・」
この時のサリナの仕草や遠慮気味な断り方に、何気無く日本人的な感性を感じてしまうのはリリスだけである。
「とりあえず細かい作業はウィンディが教えてあげてね。」
リリスの指示にウィンディはハイと答えてサリナに微笑みかけた。
サリナはペコリと頭を下げ、ウィンディに挨拶をした。
「ウィンディ先輩って風魔法の達人なんですよね。エリス先輩は水魔法の達人で、リリス先輩は火魔法の達人で、アンソニー先輩は剣技の達人って聞いています。生徒会って達人揃いですよね。」
「サリナ。それって誰に聞いたの?」
ウィンディの問い掛けにサリナはバルザック先生だと答えた。
バルザック先生ったら、そんな事をサリナに教えたの?
でも達人レベルの生徒なら他にも居るわよ。
業火の化身のリリアだとか、シーフマスターのニーナだとか、空間魔法の術者のリンディだとか・・・。
でもみんな生徒会の部屋に出入りしているわね、まるで部活の部屋みたいに。
ここって何なのかしら?
達人の溜まり場?
あれこれと思い巡らせているリリスを他所に、サリナはウィンディから生徒会の作業内容のレクチャーを受け始めた。
そこにエリスが同席し、その様子をリリスはにこやかに見守っていた。
その日の夜。
リリスはメリンダ王女に呼び出された。
学生寮の最上階で何時ものようにメイド長のセラのチェックを受け、メリンダ王女の部屋に案内されると、部屋の中ではこれまた何時ものようにフィリップ王子とメリンダ王女が寛いでいた。
挨拶を交わしソファに座ったリリスの目の前に、紅茶と共に小皿に乗ったドーラが供された。
ドーラ、すなわちどら焼きである。
「メル。これってどうしたの?」
「ああ、それは行商人のキリルから取り寄せたのよ。彼は今、イオニアに足を運んでいるわ。」
メリンダ王女の言葉にリリスは驚いた。
キリルの行動範囲の広さは尋常では無いからだ。
「そう言えば、サリナをクラス委員に推薦したのはメルなの?」
ドーラを頬張りながらリリスはメリンダ王女に問い掛けた。
メリンダ王女はまあねと言いながら紅茶を啜る。
その仕草が何となく怪しい。
「メル。何か企んでいるの?」
「そんな事は無いわよ。サリナって適任だと感じただけよ。」
メリンダ王女はさらっと躱し、別な話題に切り替えた。
その様子にリリスは納得していないが、何も言わない以上聞いても無駄だと思った。
「それでね。今度の休日を利用して、イオニア経由でリゾルタに行く事にしたのよ。用件は前に話したようにアイリスお姉様のご懐妊祝い。あんたも呼ばれているから準備しておいてね。」
「それと別枠でサリナも連れて行くからね。」
えっ!
どうして?
メリンダ王女の言葉にリリスは驚き、啜っていた紅茶を誤飲しそうになった。
「まあ、驚くのも無理は無いわね。でもリゾルタの王家からの要請なのよ。どう言う経緯なのかは私にも分からないわ。」
「ノイマンの話では、リゾルタの王家のバトルメイドの指南役をしている人物が絡んでいるらしいのよ。でもそれ以上の事は私にも分からない。多分、サリナ自身にも分からないと思うけどね。」
メリンダ王女の言葉にリリスは腑に落ちないまま、ドーラの残りを口に頬張っていたのだった。
それは以前にも訪れた事のある世界だ。
以前の記憶では、時空の歪に一時的に展開された空間だと聞いている。
椅子の背にもたれながら、リリスはふとマスターに尋ねてみた。
「私の元の身体の遺伝子の深層部に格納されていた情報って、一体何だったのですか?」
リリスの言葉にマスターはふっとため息をついた。
「先日アルバ様に聞いた話だが・・・・・。どうやらこの世界の復元ポイントに関する核心部の情報だったようだね。」
「復元ポイントって・・・何の為の?」
リリスの言葉にマスターはぴくっと眉を上げた。
「元の状態に戻すためだよ。君も知っていると思うが、この世界も今君のいる世界のように、魔素と魔力で構成されていた時期があった。君の知る時間軸で言うと200万年ほど前の事だ。」
「だがその後管理者の意向で世界が再構成され、魔素も魔力も働かない世界となった。その世界が君の生きていた時代にまで繋がっているんだ。」
そこまではリリスも以前に聞かされた話だ。
「でも、このままこの世界は繁栄し続けると思うかい?」
マスターの問い掛けにリリスは『さあ?』と言いながら首を傾げた。
「そうだよね。未来の事は誰にも分からない。君が今居る世界では定期的に火の亜神が地上を焼き尽くしてしまうそうだが、こちらの世界では人間がその武器で地上を焼き尽くしてしまうかも知れないからね。」
それって核兵器の事?
「それで無くても状況によって、再び魔素と魔力で構成される世界に戻す必要があったとしたら、その時には復元ポイントが有効になってくるんだ。勿論そんなものが無くても管理者は世界の構成を再構築する事は可能だよ。だがそれを一から始めるとなると膨大な時間とエネルギーが必要となる。」
そこまで話してマスターはニヤリと笑った。
「復元ポイントを活用すると、時間もエネルギーも百分の一で済むそうだよ。」
そんな大事なものを私に託していたの?
信じられないわ。
「君には信じられない話かも知れないが、それが事実なら君に管理者が異常なほどに執着するのも理解出来るだろう?」
う~ん。
そうなのかしらねえ。
そう思って考え込んでいると、床がゆらゆらと揺れ、店内の様子が若干ぼやけて来た。
「この時空の歪を維持するのも、そろそろ限界だね。君の事だ。また会える日も遠くないだろうよ。」
マスターの少し寂しな表情に釣られて、隣に座っていた少女も寂しそうな表情を見せた。
「前回のように君がここから戻ると、時空の歪の存在を感じるだろう。とは言え、君のステージがかなり上がっているので、誤差範囲の変化で済むと思うよ。」
そう言ってマスターは少女に目配せをした。
少女はうんと頷いて、リリスの手を再び握った。
「お姉ちゃん。また会えると良いね。」
「お姉ちゃんの好みに合わせてアンティーク調の喫茶店を用意したけど、今度は飲茶の店も用意しておくね。お姉ちゃんってOLの時は、飲茶の店が好きだったでしょ?」
うっ!
あんたって何者なの?
リリスの戸惑う表情をスルーして、少女はスッと席を立ち、カウンターを擦り抜けるように移動してマスターの隣に立った。
既に言葉が聞こえない。
笑顔で手を振るマスターと少女の輪郭が徐々にぼやけてくる。
それに連れて店内の様子も次第にぼやけて来た。
程なく真っ白になってしまって、もはや何も見えないままに、リリスは再び深い眠りに陥っていったのだった。
その後、早朝にリリスは目が覚めた。
まだ日の出直前で、窓から見える空は仄かに明るくなっている。
隣のベッドで眠っているサラの静かな寝息を聞きながら、リリスは解析スキルを発動させた。
私ってまたこの世界から消失していたの?
『そうですね。今回は20分間でしたね。』
そう。
それなら特に不具合は無さそうね。
20分間の加齢・・・・・まあ、誤差範囲だろう。
リリスは一安心して再び眠りに就いた。
それから約一か月後。
魔法学院の新年度が始まった。
リリスは最上級生に進級し、当然の流れとして生徒会の会長となっていた。
副会長はエリスである。
魔法学院には新たに16名の新入生が入学してきた。
勿論その中にはサリナも含まれている。
入学式当日のリリスはまさに災難であった。
新入生を迎えて生徒会会長としての挨拶を壇上で行なった時、異世界通行手形が急に発動しそうになったからだ。
サリナの入学式に合わせて、サリナの二人の兄とサリナの両親まで駆けつけて来たのである。
異世界からの転移者の子孫が5人も目の前に並んでいるのだ。
それによって増大してしまった刺激はリリスの魔力に強く干渉し、スキルの発動を嫌でも加速させてしまう。
それを抑え込むために必死で魔力の流れを抑え込んだリリスは、壇上から降りた際には冷や汗を流していた。
私ってレイブン諸島に行ったら、何が起きるんだろう?
千人単位の転移者の子孫から受ける影響を思うと、暗澹たる気持ちになってしまうリリスであった。
数日間のオリエンテーリングの後、新入生達の授業が始まった。
その初日の放課後に生徒会の部屋を訪れたのは、やはりサリナであった。
「サリナ・パール・クロードです。よろしくお願いします。」
真新しい学生服に身を包み、明るくハキハキと挨拶するサリナである。
ちなみに新入生の担任教師は召喚術担当のバルザック先生だと言う。
クラス委員に立候補する生徒が他に居なかったと言う事だが、その性格を考えると適任だとリリスも感じた。
その場で生徒会のメンバーと挨拶を交わし、色々と情報交換をしていく中、サリナがふと部屋のドアの方に目を向けた瞬間があった。
その視線に若干の鋭さを感じたリリスだが、それを察したのかサリナは直ぐに笑顔を見せた。
「どうしたの?」
小声でサリナに尋ねたリリスの耳元に、サリナはその顔を近付けた。
「いま、ドアの外に人の気配を感じたんです。巧妙に気配を消しながら中を探るような・・・。」
うんうん。
それって多分ニーナだと思うよ。
巧妙に気配を隠すと聞いて、ニーナを即座に連想したリリスである。
多分、生徒会の部屋の近くまで来て、入室を躊躇ったのだろう。
だがそれを察知するサリナも何者だろうか?
リリスですら気付いていなかったのである。
そう言えばサリナのステータスって覗き見していなかったわね。
リリスはそう思いながら、こっそりとサリナを鑑定してみた。
**************
サリナ・パール・クロード
種族:人族 レベル13
年齢:13
体力:1300+
魔力:1000+
属性:火・水
魔法:ファイヤーボール レベル1
ウォータースプラッシュ レベル1
ウォーターカッター レベル1
スキル:探知 レベル3+
隠形 レベル2
罠解除 レベル2
暗視 レベル2
魔力吸引 レベル2
毒耐性 レベル2
精神誘導 レベル2
投擲スキル レベル2
身体強化 レベル2
加速 レベル2
武具習熟 レベル2
秘匿領域
スキル
抜刀術 レベル3
魅了 レベル2
毒解析 レベル2
白蛇降臨 (総合レベル未達により発動不可)
隠形七変化 (総合レベル未達により発動不可)
乾坤一擲 (総合レベル未達により発動不可)
称号
初級女忍資格所有者
**************
うっ!
これって13歳の少女のステータスなの?
ニーナ並みのスキルを持っているわね。
対人戦闘に特化しているじゃないの!
それにこの秘匿領域にある、中二病を刺激するようなネーミングのスキルや称号は何なの?
呆れて言葉を失ってしまったリリスである。
その呆然としたリリスの内心を知る事も無く、エリスがサリナに何げなく問い掛けた。
「サリナの他にはクラス委員の立候補者は本当に居なかったの? 新入生の中に、一昨年卒業したロナルド先輩の弟も居たと思うんだけど。」
「ええ、それが・・・」
サリナは一瞬、言い淀んだ。
「実は最初にバルザック先生から指名されたんです。私にクラス委員を任せるようにと、王族から指示があったと聞いています。」
「王族から? それならサリナを押し退けて立候補する者なんて居ないわよねえ。」
二人の会話にアンソニーが加わる。
「僕も聞きましたが珍しい事例ですよね。今までそんな事があったんですか? リリス先輩はご存知ですか?」
「いいえ、私の知る範囲では無いわよ。王族って多分・・・・・メリンダ王女ね。サリナの学内見学の時に、使い魔の姿で会っているからだと思うわ。」
「それだけの事で?」
間の抜けたような声で不思議がるアンソニーに、リリスは諭すように返答をした。
「あの王女様は直感的なところがあるからね。サリナと会話して、この子が適任だと感じたんだと思うわ。」
そう答えながら、内心ではメリンダ王女の腹を探りたいと思ったリリスである。
メルったら、何を画策しているのかしら?
リリスは少し考え込んだ。
その間にアンソニーがサリナに話し掛けた。
「僕が直接聞いた話だけど、ロナルド先輩の弟のルイも、最初はクラス委員に立候補するつもりだったらしいよ。でも王族からの指示でサリナに決まっちゃったので、仕方が無く諦めたって言っていたね。」
「それでも無念な気持ちがあって、何処かで見返してやろうと思ったそうだ。だけど新入生のオリエンテーリングで、訓練場でのサリナの戦闘スタイルを見て、こいつには勝てないと心底思ったって言っていたね。」
アンソニーの話にサリナはえへへと照れ笑いをした。
「訓練場で何をしたの? 標的を倒すだけなら剣術でも魔法でもそれなりに結果を出せると思うんだけど・・・」
エリスの問い掛けにサリナは照れ笑いをして答えず、アンソニーが代わりに口を開いた。
「ルイは見た事も無い剣技を見せられたって言っていたよ。剣を抜いた動作も見えず、高速で擦り抜けざまに3体の標的を一瞬で寸断していたそうだ。」
まあ、サリナったら、入学直後のテンションで張り切っちゃったのね。
でもこのステータスならそれも理解出来るわ。
「今度機会があったら、是非とも僕とお手合わせ願いたい。」
アンソニーの言葉にサリナは笑いながら手を何度も横に振った。
「いえいえ、とんでもないです。私ごときが先輩とお手合わせなんて・・・」
この時のサリナの仕草や遠慮気味な断り方に、何気無く日本人的な感性を感じてしまうのはリリスだけである。
「とりあえず細かい作業はウィンディが教えてあげてね。」
リリスの指示にウィンディはハイと答えてサリナに微笑みかけた。
サリナはペコリと頭を下げ、ウィンディに挨拶をした。
「ウィンディ先輩って風魔法の達人なんですよね。エリス先輩は水魔法の達人で、リリス先輩は火魔法の達人で、アンソニー先輩は剣技の達人って聞いています。生徒会って達人揃いですよね。」
「サリナ。それって誰に聞いたの?」
ウィンディの問い掛けにサリナはバルザック先生だと答えた。
バルザック先生ったら、そんな事をサリナに教えたの?
でも達人レベルの生徒なら他にも居るわよ。
業火の化身のリリアだとか、シーフマスターのニーナだとか、空間魔法の術者のリンディだとか・・・。
でもみんな生徒会の部屋に出入りしているわね、まるで部活の部屋みたいに。
ここって何なのかしら?
達人の溜まり場?
あれこれと思い巡らせているリリスを他所に、サリナはウィンディから生徒会の作業内容のレクチャーを受け始めた。
そこにエリスが同席し、その様子をリリスはにこやかに見守っていた。
その日の夜。
リリスはメリンダ王女に呼び出された。
学生寮の最上階で何時ものようにメイド長のセラのチェックを受け、メリンダ王女の部屋に案内されると、部屋の中ではこれまた何時ものようにフィリップ王子とメリンダ王女が寛いでいた。
挨拶を交わしソファに座ったリリスの目の前に、紅茶と共に小皿に乗ったドーラが供された。
ドーラ、すなわちどら焼きである。
「メル。これってどうしたの?」
「ああ、それは行商人のキリルから取り寄せたのよ。彼は今、イオニアに足を運んでいるわ。」
メリンダ王女の言葉にリリスは驚いた。
キリルの行動範囲の広さは尋常では無いからだ。
「そう言えば、サリナをクラス委員に推薦したのはメルなの?」
ドーラを頬張りながらリリスはメリンダ王女に問い掛けた。
メリンダ王女はまあねと言いながら紅茶を啜る。
その仕草が何となく怪しい。
「メル。何か企んでいるの?」
「そんな事は無いわよ。サリナって適任だと感じただけよ。」
メリンダ王女はさらっと躱し、別な話題に切り替えた。
その様子にリリスは納得していないが、何も言わない以上聞いても無駄だと思った。
「それでね。今度の休日を利用して、イオニア経由でリゾルタに行く事にしたのよ。用件は前に話したようにアイリスお姉様のご懐妊祝い。あんたも呼ばれているから準備しておいてね。」
「それと別枠でサリナも連れて行くからね。」
えっ!
どうして?
メリンダ王女の言葉にリリスは驚き、啜っていた紅茶を誤飲しそうになった。
「まあ、驚くのも無理は無いわね。でもリゾルタの王家からの要請なのよ。どう言う経緯なのかは私にも分からないわ。」
「ノイマンの話では、リゾルタの王家のバトルメイドの指南役をしている人物が絡んでいるらしいのよ。でもそれ以上の事は私にも分からない。多分、サリナ自身にも分からないと思うけどね。」
メリンダ王女の言葉にリリスは腑に落ちないまま、ドーラの残りを口に頬張っていたのだった。
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