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ゲートシティ7
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リンディの肩に白い小鳥が留まっている。
丸っこい身体に小さな目。
その愛らしい姿が何となく、シマエナガに似ているとリリスは感じた。
思わずほっこりしてしまったのは、シーナの術中に嵌ってしまったのかも知れない。
リリスに指摘されてリンディも小鳥に気が付いた。
気配を完全に消していたので、リンディ自身も気が付かなかったようだ。
「シーナさん。どうしてついて来たのよ?」
リリスの問い掛けに白い小鳥は顔を向けた。
「私が来てあげた方が話が早いわよ。」
うん?
意味が分からないわね。
首を傾げるリリスに小鳥はそっと呟いた。
「ほら! アイツが来たわよ。」
その言葉と同時にリリスとリンディの頭上に赤い龍がふっと現われた。
こちらも気配を完全に消している。
そもそもこの存在も、気配を消さなければ大変な事になるのは明白なのだが・・・。
「ロキ様!」
リリスの声に龍はその身体をぶるっと震わせた。
「リリス、リンディ。これは一体どう言う事なのだ? 説明をしてもらおうか!」
若干怒りの籠った口調である。
何から説明して良いものかと案じていると、リンディが先ず口を開いた。
「私が眠っている間に空間魔法を発動させてしまったらしいんです。」
「何? 意味が良く分からんな。とりあえずリンディからその記憶を精査してみよう。」
龍はそう言うとリンディの頭上でくるくると回転し始めた。
それと同時に龍の身体から魔力の波動が流れ出し、リンディの脳にくまなく撃ち込まれていく。
程なく龍はふんふんと頷き始めた。
「そうか。どうやら儂がリンディの持つスキルに手を加え、一時的に極限まで上げたのが引き金になったようだな。」
龍の言葉に白い小鳥が口を開いた。
「あんたが甘かったのよね。この娘のスキルを元のレベルに戻した際に、期限付きのロックを掛けなかったのが原因だわ。」
「眠っている間にも脳内でのスキルの操作を繰り返してしまったのは、幾つものスキルの操作履歴が脳内の休眠細胞に残っていたからだと思うわよ。」
小鳥の声に龍はハッとして声をあげた。
「お前は・・・シーナではないか! どうしてここに居るのだ?」
「さっきから居たのに気が付かないかしらね。この子達だけじゃ話の要領が掴めないだろうと思って、この世界に送り出すついでに使い魔の姿でついて来ただけよ。」
そう言うと、小鳥は世界樹の世界での出来事を簡略に説明し始めた。
それを聞きながら龍はふんふんと頷いた。
「そうか。たまたま転移した世界がお前の居る世界だったのだな。」
「たまたまだったか否かは分からないわ。リリスが意識のレベルでこちらに訪れていたからルートが繋がってしまったのかも知れないし、アギレラがこちらの世界に紛れ込んでしまった時点でルートが確定していたのかも知れない。いずれにしても世界樹が関わっていた可能性はあるわね。」
小鳥の話を聞いて龍はう~んと唸って黙り込んだ。
その様子を見ながら、リリスは小鳥に向かって言葉を掛けた。
「それって世界樹が私を呼び求めていたって事なの?」
リリスの言葉に小鳥は軽く頷いた。
「可能性としてはあるって事よ。今回の事で一番助かったのは世界樹だからね。世界樹が画策したとまでは言わないけど、そう言う波動を送っていたとしたら、転移ルートが開き易くなっていたとも考えられるわ。」
確かに世界樹はリリスに助けを求めていたのかも知れない。
これまでも色々と関わって来た事で、それなりに魔力の繋がりは出来ていたからだ。
「まあ、そう言う事もあるのかも知れないな。それでリリスのスキルの事だが・・・」
龍はそう言うとおもむろにリリスの身体を精査し始めた。
「産土神体現スキルは機能停止させていたのだが、シーナによって活性化されてしまったようだな。」
「それはこちらの事情でそうさせて貰ったわ。でもこの世界では機能しない筈よね。」
小鳥の言葉に龍は首を横に振った。
「普通ならそうなのだが、このリリスは厄介なスキルを持っているのだ。お前が産土神体現スキルを権能にまで格上げした履歴をもとに、スキルとしての再構築を画策した奴が居る。最適化スキルと言う名の特殊なスキルだ。」
「ええっ! そうなの? どれどれ・・・」
小鳥は龍の傍に近付き、リリスの頭上からリリスの身体を精査し始めた。
あんた達二人で何を調べているのよ!
若干不機嫌になったリリスにリンディが言葉を掛けた。
「先輩ってロキ様やシーナさんからも興味深く見られているんですね。」
「それってリンディも同じよ。」
そう答えたリリスの頭上で小鳥が声をあげた。
「ええっ! こんな事ってあるの? 産土神体現スキルが権能になって、世界樹の加護に組み込まれちゃっているわ!」
「これって世界樹の加護そのものが権能にまで格上げされたって事?」
小鳥の言葉に龍は頷いた。
「そう言う事だ。その為に産土神体現スキル自体が世界樹の加護の機能の一部となっている。これでは制限を掛けるにも限界があってふとした拍子に発動しかねない。これではまるでリリスが世界樹を取り込んでしまったような状態だな。」
「ふうん。リリスって器用な娘なのね。」
「器用ってレベルじゃないぞ。そんな呑気な事を言わないでくれ。ああ、頭が痛い。」
龍はそう言うとその小さな前足で頭を抱え込んでしまった。
「悩んでも今更仕方が無いわよ。とりあえずは多少の制限を掛けておいて、この世界での活用方法を案じた方が良いと思うわよ。」
小鳥の言葉に龍は神妙な表情で頷いた。
龍の姿なのでその表情は良く分からないが、幾分神妙に感じられたと言うレベルの事である。
「そうだな。お前の言う通りかも知れん。ある種族を個別に修正進化させるのは、この世界では今まで考慮されなかった概念だ。」
「それはそれで一つの試みとして捉えた方が良さそうだな。」
龍はそう言うとリリスの頭上でくるくると回転し始めた。
「リリス。今から若干の制限を掛けさせてもらうぞ。だがそれでも万全ではないので、儂の管理下以外での世界樹の加護の発動は禁止だ。わかったな?」
龍の言葉にリリスは無言で頷いた。
龍はその様子を見てその全身から魔力を放ち、リリスの身体に流し込んだ。
リリスの脳内がその波動で揺り動かされ、若干の眩暈がリリスを襲う。
龍はその場からリンディの頭上に移動し、そこでまた身体を回転し始めた。
「リンディ。お前の空間魔法の幾つかのスキルにロックを掛けさせてもらうぞ。期間限定のロックで、お前の空間魔法のレベルがある程度まで向上したら、自然に解除される仕組みだ。良いな?」
龍の言葉にリンディは神妙な表情で頷いた。
その様子を見た龍はその魔力をリンディに流し込み、空間魔法のスキルのロックを施した。
龍はその向きを変え、小鳥に顔を向けた。
「それでお前の事だが・・・」
「ああ、分かっているわよ。早く帰れって事よね。あまりここに長居すると、時空の歪を生じかねないのは私にも分かるわよ。」
「うむ。わざわざ説明に来て貰って申し訳ないのだが、そうしてくれるか?」
龍の言葉に小鳥は頷き、リリスとリンディの頭上を回り始めた。
「じゃあね。リリス、リンディ。また会いましょうね。」
そう言うと小鳥はふっと消えてしまった。
使い魔の召喚を解除したのだろう。
龍はそれを見届け、リリスとリンディに言葉を掛けた。
「お前達も日常生活に戻れ。今回の事は忘れた方が良いのかも知れん。」
龍はその言葉を残し、ふっと姿を消した。
残されたリリスとリンディは若干気分が優れぬままに個々のベッドに入ると、疲れもあって直ぐに眠りに就いてしまった。
その夜。
リリスはふと起こされた。
周囲は真っ白な空間だ。
自分の身体が宙に浮かんでおり、眼下に白い大きなテーブルと幾人もの白い衣装の老人達が見えている。
また呼び起こされたのね。
やれやれと思いながらリリスは白いテーブルに座る面々を見た。
何時もの賢者達やキングドレイク、シューサックに混じって、見知らぬ緑色の女性が座っている。
良く見るとドライアドだ。
あれってもしかして世界樹の対人接触用の端末?
そう思って聞き耳を立てると、座長の声が聞こえて来た。
「みんなに紹介せねばならん。この緑色の女性は世界樹の加護が可視化したものだ。既に加護と言うよりはリリスの権能となってしまったのだがな。」
座長の声に一同はほうっ!と驚きの声をあげた。
「世界樹などと言うものがあるのだな。だが儂らの世界では機能しない筈では無かったのか?」
シューサックの疑問に座長が口を開いた。
「それがどう言う訳だか取り込んでしまったのだよ。儂にも良く分からん。ただ、この世界樹は苗木の状態の時にリリスの魔力で育て上げた経緯がある。それがためにリリスと親和性が高いのも、世界樹の加護を権能として取り込めた一因だと思う。」
座長の言葉にシューサックはふうんと答えた。
「リリスが育て上げたのなら、リリスにとって飼い犬や飼い猫の扱いじゃ無いのか?」
シューサックの言葉にドライアドは何かを話した。
だがその言葉は聞き取れない。
「何と言っておるのだ?」
シューサックが尋ねると、傍に居たキングドレイクが口を開いた。
「自分はリリスの娘だと言っておるぞ。リリスは育ての母だと。」
「育ての母? リリスはまだ小娘ではないか。飼い猫や飼い犬のレベルで良いと思うぞ。」
そう言ってドライアドを揶揄するシューサックを、ドライアドはジッと見つめた。
口が再び動いている。
シューサックの傍に居たキングドレイクが再びそれを翻訳した。
「失礼な事を言うと修正進化させると言っておるぞ。」
その言葉を聞いた賢者ドルネアが苦笑いを浮かべて口を開いた。
「修正進化か。鍛冶職人のシューサックが修正進化したら何になるんだ? 剣聖にでもなるのか? そうだったら魔剣にでも封じ込めてやれば本人も望むところだろうに。」
「悪い冗談は止めてくれ。儂はそんなものにはならんぞ。」
息巻くシューサックに座長が笑いながら声を掛けた。
「鼻息の荒い奴だな。まあ落ち着け。」
「リリスと世界樹との繋がりは儂等が思っているよりも強そうだ。それに今は機能制限を掛けられているが、そのうちにそれも解除される機会があるかも知れん。修正進化の機能には権利者も関心を持っているようなのでな。」
そう言いながら座長はドライアドに笑顔を向けた。
「まあ、今回は世界樹の加護のお披露目と言うところだな。儂等がリリスに与えている様々な加護やスキルと関連して機能する事もあるのだろうよ。」
賢者ドルネアの言葉に座長も頷いた。
「そう言う事だ。加護と言うにはその存在と影響力がかなり大きい。それ故にリリスを振り回す事の無いように、儂等が監視する必要もあるだろう。ここに居る全員がそれを承知していただきたい。良いな?」
座長の言葉に参席者全員が強く頷いた。
座長の合図で会議の場は解散となり、全員が退席していく。
その中でドライアドが立ち上がり、リリスの俯瞰する方向に目を向け、フッと笑みを漏らして消えていった。
私が見ているのが分かるのね。
そう思ってリリスもふふふと笑った。
そのリリスの傍に三毛猫がじゃれついて来る。
色々な異世界の存在に関わってしまって、これで良いのだろうか?
そんな疑問を抱きながらも、三毛猫の姿と感触に癒されながら、リリスは再び眠りに陥っていった。
丸っこい身体に小さな目。
その愛らしい姿が何となく、シマエナガに似ているとリリスは感じた。
思わずほっこりしてしまったのは、シーナの術中に嵌ってしまったのかも知れない。
リリスに指摘されてリンディも小鳥に気が付いた。
気配を完全に消していたので、リンディ自身も気が付かなかったようだ。
「シーナさん。どうしてついて来たのよ?」
リリスの問い掛けに白い小鳥は顔を向けた。
「私が来てあげた方が話が早いわよ。」
うん?
意味が分からないわね。
首を傾げるリリスに小鳥はそっと呟いた。
「ほら! アイツが来たわよ。」
その言葉と同時にリリスとリンディの頭上に赤い龍がふっと現われた。
こちらも気配を完全に消している。
そもそもこの存在も、気配を消さなければ大変な事になるのは明白なのだが・・・。
「ロキ様!」
リリスの声に龍はその身体をぶるっと震わせた。
「リリス、リンディ。これは一体どう言う事なのだ? 説明をしてもらおうか!」
若干怒りの籠った口調である。
何から説明して良いものかと案じていると、リンディが先ず口を開いた。
「私が眠っている間に空間魔法を発動させてしまったらしいんです。」
「何? 意味が良く分からんな。とりあえずリンディからその記憶を精査してみよう。」
龍はそう言うとリンディの頭上でくるくると回転し始めた。
それと同時に龍の身体から魔力の波動が流れ出し、リンディの脳にくまなく撃ち込まれていく。
程なく龍はふんふんと頷き始めた。
「そうか。どうやら儂がリンディの持つスキルに手を加え、一時的に極限まで上げたのが引き金になったようだな。」
龍の言葉に白い小鳥が口を開いた。
「あんたが甘かったのよね。この娘のスキルを元のレベルに戻した際に、期限付きのロックを掛けなかったのが原因だわ。」
「眠っている間にも脳内でのスキルの操作を繰り返してしまったのは、幾つものスキルの操作履歴が脳内の休眠細胞に残っていたからだと思うわよ。」
小鳥の声に龍はハッとして声をあげた。
「お前は・・・シーナではないか! どうしてここに居るのだ?」
「さっきから居たのに気が付かないかしらね。この子達だけじゃ話の要領が掴めないだろうと思って、この世界に送り出すついでに使い魔の姿でついて来ただけよ。」
そう言うと、小鳥は世界樹の世界での出来事を簡略に説明し始めた。
それを聞きながら龍はふんふんと頷いた。
「そうか。たまたま転移した世界がお前の居る世界だったのだな。」
「たまたまだったか否かは分からないわ。リリスが意識のレベルでこちらに訪れていたからルートが繋がってしまったのかも知れないし、アギレラがこちらの世界に紛れ込んでしまった時点でルートが確定していたのかも知れない。いずれにしても世界樹が関わっていた可能性はあるわね。」
小鳥の話を聞いて龍はう~んと唸って黙り込んだ。
その様子を見ながら、リリスは小鳥に向かって言葉を掛けた。
「それって世界樹が私を呼び求めていたって事なの?」
リリスの言葉に小鳥は軽く頷いた。
「可能性としてはあるって事よ。今回の事で一番助かったのは世界樹だからね。世界樹が画策したとまでは言わないけど、そう言う波動を送っていたとしたら、転移ルートが開き易くなっていたとも考えられるわ。」
確かに世界樹はリリスに助けを求めていたのかも知れない。
これまでも色々と関わって来た事で、それなりに魔力の繋がりは出来ていたからだ。
「まあ、そう言う事もあるのかも知れないな。それでリリスのスキルの事だが・・・」
龍はそう言うとおもむろにリリスの身体を精査し始めた。
「産土神体現スキルは機能停止させていたのだが、シーナによって活性化されてしまったようだな。」
「それはこちらの事情でそうさせて貰ったわ。でもこの世界では機能しない筈よね。」
小鳥の言葉に龍は首を横に振った。
「普通ならそうなのだが、このリリスは厄介なスキルを持っているのだ。お前が産土神体現スキルを権能にまで格上げした履歴をもとに、スキルとしての再構築を画策した奴が居る。最適化スキルと言う名の特殊なスキルだ。」
「ええっ! そうなの? どれどれ・・・」
小鳥は龍の傍に近付き、リリスの頭上からリリスの身体を精査し始めた。
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「先輩ってロキ様やシーナさんからも興味深く見られているんですね。」
「それってリンディも同じよ。」
そう答えたリリスの頭上で小鳥が声をあげた。
「ええっ! こんな事ってあるの? 産土神体現スキルが権能になって、世界樹の加護に組み込まれちゃっているわ!」
「これって世界樹の加護そのものが権能にまで格上げされたって事?」
小鳥の言葉に龍は頷いた。
「そう言う事だ。その為に産土神体現スキル自体が世界樹の加護の機能の一部となっている。これでは制限を掛けるにも限界があってふとした拍子に発動しかねない。これではまるでリリスが世界樹を取り込んでしまったような状態だな。」
「ふうん。リリスって器用な娘なのね。」
「器用ってレベルじゃないぞ。そんな呑気な事を言わないでくれ。ああ、頭が痛い。」
龍はそう言うとその小さな前足で頭を抱え込んでしまった。
「悩んでも今更仕方が無いわよ。とりあえずは多少の制限を掛けておいて、この世界での活用方法を案じた方が良いと思うわよ。」
小鳥の言葉に龍は神妙な表情で頷いた。
龍の姿なのでその表情は良く分からないが、幾分神妙に感じられたと言うレベルの事である。
「そうだな。お前の言う通りかも知れん。ある種族を個別に修正進化させるのは、この世界では今まで考慮されなかった概念だ。」
「それはそれで一つの試みとして捉えた方が良さそうだな。」
龍はそう言うとリリスの頭上でくるくると回転し始めた。
「リリス。今から若干の制限を掛けさせてもらうぞ。だがそれでも万全ではないので、儂の管理下以外での世界樹の加護の発動は禁止だ。わかったな?」
龍の言葉にリリスは無言で頷いた。
龍はその様子を見てその全身から魔力を放ち、リリスの身体に流し込んだ。
リリスの脳内がその波動で揺り動かされ、若干の眩暈がリリスを襲う。
龍はその場からリンディの頭上に移動し、そこでまた身体を回転し始めた。
「リンディ。お前の空間魔法の幾つかのスキルにロックを掛けさせてもらうぞ。期間限定のロックで、お前の空間魔法のレベルがある程度まで向上したら、自然に解除される仕組みだ。良いな?」
龍の言葉にリンディは神妙な表情で頷いた。
その様子を見た龍はその魔力をリンディに流し込み、空間魔法のスキルのロックを施した。
龍はその向きを変え、小鳥に顔を向けた。
「それでお前の事だが・・・」
「ああ、分かっているわよ。早く帰れって事よね。あまりここに長居すると、時空の歪を生じかねないのは私にも分かるわよ。」
「うむ。わざわざ説明に来て貰って申し訳ないのだが、そうしてくれるか?」
龍の言葉に小鳥は頷き、リリスとリンディの頭上を回り始めた。
「じゃあね。リリス、リンディ。また会いましょうね。」
そう言うと小鳥はふっと消えてしまった。
使い魔の召喚を解除したのだろう。
龍はそれを見届け、リリスとリンディに言葉を掛けた。
「お前達も日常生活に戻れ。今回の事は忘れた方が良いのかも知れん。」
龍はその言葉を残し、ふっと姿を消した。
残されたリリスとリンディは若干気分が優れぬままに個々のベッドに入ると、疲れもあって直ぐに眠りに就いてしまった。
その夜。
リリスはふと起こされた。
周囲は真っ白な空間だ。
自分の身体が宙に浮かんでおり、眼下に白い大きなテーブルと幾人もの白い衣装の老人達が見えている。
また呼び起こされたのね。
やれやれと思いながらリリスは白いテーブルに座る面々を見た。
何時もの賢者達やキングドレイク、シューサックに混じって、見知らぬ緑色の女性が座っている。
良く見るとドライアドだ。
あれってもしかして世界樹の対人接触用の端末?
そう思って聞き耳を立てると、座長の声が聞こえて来た。
「みんなに紹介せねばならん。この緑色の女性は世界樹の加護が可視化したものだ。既に加護と言うよりはリリスの権能となってしまったのだがな。」
座長の声に一同はほうっ!と驚きの声をあげた。
「世界樹などと言うものがあるのだな。だが儂らの世界では機能しない筈では無かったのか?」
シューサックの疑問に座長が口を開いた。
「それがどう言う訳だか取り込んでしまったのだよ。儂にも良く分からん。ただ、この世界樹は苗木の状態の時にリリスの魔力で育て上げた経緯がある。それがためにリリスと親和性が高いのも、世界樹の加護を権能として取り込めた一因だと思う。」
座長の言葉にシューサックはふうんと答えた。
「リリスが育て上げたのなら、リリスにとって飼い犬や飼い猫の扱いじゃ無いのか?」
シューサックの言葉にドライアドは何かを話した。
だがその言葉は聞き取れない。
「何と言っておるのだ?」
シューサックが尋ねると、傍に居たキングドレイクが口を開いた。
「自分はリリスの娘だと言っておるぞ。リリスは育ての母だと。」
「育ての母? リリスはまだ小娘ではないか。飼い猫や飼い犬のレベルで良いと思うぞ。」
そう言ってドライアドを揶揄するシューサックを、ドライアドはジッと見つめた。
口が再び動いている。
シューサックの傍に居たキングドレイクが再びそれを翻訳した。
「失礼な事を言うと修正進化させると言っておるぞ。」
その言葉を聞いた賢者ドルネアが苦笑いを浮かべて口を開いた。
「修正進化か。鍛冶職人のシューサックが修正進化したら何になるんだ? 剣聖にでもなるのか? そうだったら魔剣にでも封じ込めてやれば本人も望むところだろうに。」
「悪い冗談は止めてくれ。儂はそんなものにはならんぞ。」
息巻くシューサックに座長が笑いながら声を掛けた。
「鼻息の荒い奴だな。まあ落ち着け。」
「リリスと世界樹との繋がりは儂等が思っているよりも強そうだ。それに今は機能制限を掛けられているが、そのうちにそれも解除される機会があるかも知れん。修正進化の機能には権利者も関心を持っているようなのでな。」
そう言いながら座長はドライアドに笑顔を向けた。
「まあ、今回は世界樹の加護のお披露目と言うところだな。儂等がリリスに与えている様々な加護やスキルと関連して機能する事もあるのだろうよ。」
賢者ドルネアの言葉に座長も頷いた。
「そう言う事だ。加護と言うにはその存在と影響力がかなり大きい。それ故にリリスを振り回す事の無いように、儂等が監視する必要もあるだろう。ここに居る全員がそれを承知していただきたい。良いな?」
座長の言葉に参席者全員が強く頷いた。
座長の合図で会議の場は解散となり、全員が退席していく。
その中でドライアドが立ち上がり、リリスの俯瞰する方向に目を向け、フッと笑みを漏らして消えていった。
私が見ているのが分かるのね。
そう思ってリリスもふふふと笑った。
そのリリスの傍に三毛猫がじゃれついて来る。
色々な異世界の存在に関わってしまって、これで良いのだろうか?
そんな疑問を抱きながらも、三毛猫の姿と感触に癒されながら、リリスは再び眠りに陥っていった。
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